表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

せめて気高く

「セレーネを、俺の婚約者を傷付けるものは許さん!

二度とこの国に立ち入ることもだ!」


その一言で私の中の何かが、壊れるような音がした。


貴方の婚約者は、私なのに。彼女より、私の方が貴方と長い時間を、 過ごしたというのに。


それなのに、貴方は、 その子を信じるというのですね。


普段では考えないような思考。

自分のものだけど、どこか他人のもののような、ドロドロした負の感情が溢れて、吐きそうになる。


でも、絶対に涙は流さない。最後はせめて気高く。


何故かその思いだけは、自分の中の確固たる意思として、芽生えた。


被告人を座らせるにしては豪奢な造りの椅子から、ゆっくりと立ち上がる。


そして、彼へ頭を垂れ、ドレスの裾を軽く持ち上げ、優雅に礼をしてみせた。


「この国を照らす太陽である、貴方様がそう仰るのであれば、私に異論はございません。

私の荷物も、煮るなり焼くなり、どうぞご随意になさって。私はこのまま、この国を去らせていただきます。」


ドレスから手を離し、顔を上げると、彼の驚いたような顔が見え、少し可笑しいななんて思った。


彼の隣に立っていた、セレーネの表情が悔しげに歪んだのは、私が泣き叫んだり暴れたりするなどの醜態を晒さなかったのが、 気に食わなかったからだろう。


貴族らしくドレスを翻し、堂々とした歩みで出口に向かう。


その最中、 傍聴席から騒がしく野次が飛ぼうが、 何を投げつけられようが、 今の私にはどうでもいい。


出口の前に立ち、くるりと振り向くと、野次が止んでしんと静まり返った。


「ツェリオ様、お慕いしておりました。」


広い室内に、その声はよく響いた。


嗚呼、なんだかんだ言いつつ、(ローザメリー)は、彼を慕っていたのだ。


しかし、それが恋なのかを知るには、あまりに時が短すぎた。



名残惜しさを感じつつも、カツン、カツン、と規則的にヒールの音を響かせながら、私はこの国から出て行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ