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6話 戦闘《バトル》

 一行は塔の頂点から塔の内部を下っていく。塔の構造はシンプルだ。外周に築かれた螺旋状の廊下と塔の中心側に設けられた部屋。どこまでも同じ色の同じ材質で構築されており、等間隔に燭台が配置されている。


「魔術師ってみんなあんななのか?」


「いや、あれはあれがああなだけっす」


 薫の問いに猫は身も蓋もない答えを返す。


「松明でも貰っておくんだった」


 先頭を歩く貴騎は目の前の視界の悪さに愚痴をこぼす。


「水と風で明かりをつけるイメージが浮かばないよね……」


 薫が少し申し訳なさそうに、背後から愚痴に続いた。そして、猫に先ほどの疑問を投げかける。


「そういえば、融合した後の愚者フールってどんな感じになるんだ?そもそも倒せるものなのか?」


「あの魔術師が言ってることは正しいっす。融合しても見た目は道化のままっす。融合といっても見た目まで一つになるわけではないっす。魔術的に繋がっている状態、簡単に表現すると愚者フールが融合したアルカナの操り人形になる感じっす。ニコイチだから魔力は2倍、でも愚者フール自身は強力にならないっすから見つけたらアタシたちで倒すことは可能っす」


 猫が質問に答えると、春風が状況を補足する。


「現在、夕陽丘ジュリアと愚者フールで塔の支配権を奪い合っている状態だと考えられます。つまり、塔を巡った支配権争いにリソースを割かれているために、今回の戦いは我々が有利に進められるものと考えます」


 使い魔たちの言葉を聞いて安心する一行。しかし、その楽観思考を直ぐに後悔することになる。


「……ッッ!?」


 塔を下り始めてまだ間もない、ビルにしてニ、三階程度下った頃、部屋に入ろうとしたときに先頭を歩く貴騎は突如金属音と共に胸に衝撃を受ける。次の瞬間、風読みとしての直感だけで剣を振り抜くと何かを切る手応えを感じた。


「下がれ!」


 貴騎は叫ぶ。鎧の胸当てにはトランプに似たカードが刺さっていた。幸い胸当てだけで留まり、身体を傷つけるには至らなかったようだ。貴騎は剣を正眼に構え、先ほど雲を断った風の刃を編む。


『阻むものを薙ぎ払え、草薙剣ハイドラ・スレイ!』


 呪文と共に部屋に向けて剣を横に薙ぎ払った。部屋全体に風の刃が走る。そして、ふざけた大振りの跳躍でそれを避ける道化の姿が燭台の明かりに照らされる。次の瞬間、部屋の燭台の明かりが全て風によって吹き消えてしまった。


『しまった』


 貴騎はそう思った。しかし、この部屋の出入り口から退いてしまえば、道化に薫たちへの攻撃を許すことになる。貴騎は前衛として、この場所を退くことができなかった。


「キキキキキ……」


 黒板を引っ掻いたような不気味な笑い声が暗闇の中に響く。次の瞬間、貴騎に向けて無数のカードが飛来する。貴騎は武装アーマメントと直感を信じて目を瞑っていた。


 一枚目、先ほどと同じ胸元に飛来するそれを剣の腹で弾く。

 二枚目と三枚目、首元目掛けて飛来するそれを剣の角度を変えて受ける。

 四枚目から七枚目、四枚同時の飛来に剣を縦に構えて首と胸を護り、二枚受ける。更に体を斜に構え、一枚を脇腹の板金プレートで受け流す。そして、最後の一枚は兜に当たる。刺さることまではなかったが、頭に衝撃が走り、貴騎は防御姿勢のまま硬直することになった。

 一拍の後に今度は八枚同時に飛来する。硬直した防御姿勢のまま貴騎はなんとか耐え凌ぐ。運良くどれも鎧に刺さることもなく。弾かれて行った。

 次の瞬間、間合いに大きな気配を感じる。まるで人一人が踏み込んで来たような感覚に、貴騎は咄嗟に剣を左手から右へ薙いだ。しかし得られた手応えは骨肉のそれではなく、集まったカードの塊だった。次の瞬間、剣を薙いだことにより開いた身体目掛けてカードが飛来する。それは的確に右肘の内側を狙われ、板金プレートの無い部分に刺さった。突然の痛みに貴騎は苦悶の声を上げる。


「……っぐ!!」


 続いてまたしても人一人分の気配を感じる。しかし、カードが刺さり腱を傷めたのか剣を握る右腕が動かない。貴騎は咄嗟に左腕を前に構え、左脇と股間の板金の無い部分を庇う。そして、その人型の気配は左腕の肘を狙って蹴りを放つ。相当の勢いがついていたのだろう。重い音を響かせながら、貴騎は大きくよろめきながら後ろに数歩退いて倒れた。


癒しの水を(ヒールウォーター)!』


 薫は状況を完全には理解できていなかったが、突然の出来事に最初に意識したのは自らの役割のことだった。薫は癒しの呪文を唱え、貴騎に水を施す。そして、貴騎がそこに立ち続けた意図を想像し、部屋の出入口を塞ぐことを考える。


『とにかくいっぱいお願い、筋斗雲ステップクラウド!』


 そう呪文を叫んで、足場にする雲をカップから大量に放出し、出入口を厚く塗り固める。そして、薫は貴騎に駆け寄った。


「貴騎、大丈夫!?」


「ありがとう、大丈夫だ。道化ピエロにやられた」


 貴騎はそう言いながら胸の板金に刺さったカードを見る。その絵柄はクラブ侍従ジャックだった。そして、それを引き抜き、床に捨てたとき、絵柄が道化ジョーカーへと変化した。


「すみません、愚者フールの気配を感知できませんでした」


「この距離なのに今でもアタシの鼻も利かないっす!」


 春風と猫の言葉を聞いて特に打開策も思い浮かばない。薫はまずジュリアに向けて電話することにした。


「Hey,Magi!ジュリアに電話!」


「夕陽ケ丘ジュリアに電話します」


 個人亜空間ポケットスペースに格納されているスマホから電話をかける。


「はい。もう見つけたの?意外と早かったわね」


「そう!愚者フールと戦って貴騎がケガした!場所は上から十三番目の部屋!」


 薫は電話越しのジュリアに手短に告げる。そこに貴騎が起き上がりながら言葉を続ける。


「まず、部屋の明かりを強くできないか。愚者フールは影に隠れて攻撃してくる」


「明かりを?お安い御用よ」


 ジュリアがそう言うと、部屋を中心に廊下も含めて燭台の灯火が炎と呼べるほどに大きくなる。辺りは一層明るくなり、影となる場所はかなり少なくなった。


「これで、戦える」


 貴騎は兜の面を開けると左手の親指で眼鏡を持ち上げ、面を閉めた。そして、剣を構えると次々と呪文を唱えていく。


武装再構築リビルド・アーマメント!』


 貴騎を周りを渦巻く風が走ると、傷付いた鎧が新品のように修復される。


風読み(スキャニング・エア)!』


 目に見えるわけではないが、貴騎が纏う空気の色が変わったように感じられる。気配を感じとる直間補助の呪文のようだ。


追い風の加護クローク・オブ・ゼファー


 鎧を覆う外套を撫でるように一陣の風が吹く。運動機能を向上させる追い風の呪文のようだ。

 こうして、貴騎は変身時に発動していたであろう補助呪文を全て掛けなおす。薫は感心した。魔法少女になって初陣である貴騎は既にこれだけの呪文のイメージを確立し、自身の戦う姿を築き上げていたのだ。

 貴騎は部屋の入口に向いて、剣を正眼に構える。静けさの中、ジュリアが電話越しに話しかける。


「残念だけど支援攻撃は無理そうよ。思った以上に愚者はこの塔に溶け込んでるみたい。まるで塔の一部よ。ここからその場所目掛けて攻撃すると貴方たち全員を巻き込むことになるわ。それでいいならばやってあげるけど、どうかしら?」


「結構です!」


 ジュリアの質問に薫はすぐさまそう叫んだ。


「伏せろ!」


 貴騎が突然叫ぶと、次の瞬間薫の横を吹き抜け、剣を振り下ろした。すると足もとに切り裂かれたカードがひらひらと舞い落ちる。そして、貴騎の視線の先、廊下の三十歩程度先に道化の姿があった。それを認めると貴騎はまた廊下を吹き抜け、道化を間合いに納めると、道化の首を目掛けて剣を突き入れる。道化は刺突をしゃがんで躱すと、またしても板金の無い脇の下を目掛けてカードを構える。しかし、貴騎も先の戦闘よりも早く剣を引き戻し、しゃがんだ道化の腹を目掛けて突き入れる。道化は能面のように笑顔の表情を崩さないまま、上に跳躍して刺突を避ける。貴騎はもう一歩踏み込みながら突き入れた剣を手首で翻し、跳躍した道化に向けて斬り上げる。


「キキキキ……」


 道化は両足で剣を挟み、不気味な笑い声を出しながら、後方に宙返りして着地する。貴騎はさらに踏み込み、手首を返しながら頭部を目掛けて右から打ち込む。二股にわかれた道化の帽子が切り落とされはらりと床に落ちた。


「ウヒョーーー!」


 道化は大げさに驚き、怒りに任せたように踏み込みながら兜を殴り上げる。貴騎は右足を退きながら、半身になり、また手首を返しながら道化を左から斬りつけた。


「ヒョウッ……」


 斬りつけられた道化は奇声を上げて、仰向けに倒れた。

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