魔王祭
魔王ルストが一方的に告げ終えると映像が消える。
「「「祭りじゃああああああああーーっ!」」」
ギルド内から叫び上がると同時、扉を吹き飛ばす勢いで冒険者たちが大挙して騒動の下へと駆けて行く。
「レイジ、私たちも行こう!」
「は? 俺たち冒険者じゃないじゃん。今日の食い扶持を稼がないといけないんだ。俺たちに余計なことをしている暇なんてない」
「魔王祭は冒険者じゃなくても、いつもより高い報酬がもらえるんだよ。しかも、竜人は高く売れる」
「なにしているんだ。獲物がなくなる前に早く行くぞ!」
さっきと言っていることが全く逆なんてことは気にしない。
「ま、待ってよ」
大通りは避難してくる人で溢れているため、ミラの案内で裏道を通って現場へと向かう。
「そこの角を曲がればあとは一直線だよ」
「よし、行くぞ。……っ、すまん」
俺は角から誰かが出てきてぶつかってしまう。とりあえず、謝ってそのまま角を曲がって行こうとしたが――
「――どわっ! 危ないな!」
ぶつかった人が剣で斬りかかってきたところを間一髪躱す。
「なあ、謝ったじゃんか。そんな怒るなって」
斬りかかってきた人というか、シュー、シュー言っている二足歩行の蜥蜴をなだめる。異世界だし、亜人とかいるのだろうけど、種族的な特徴なのか、こいつ個人の特徴かは知らないが、ちょっとぶつかった程度で殺そうとしてくるのは短期すぎじゃないか!?
「れ、レイジ、そいつが竜人だよ!」
「え? マジで? 竜じゃなくて蜥蜴じゃん!?」
蜥蜴、もとい竜人は剣と鞘を持っているだけで他に身に着けている物はない。魔王が竜人の精鋭とか言っていたけど、装備が剣だけって……、鎧とかなかったわけ? 大隊ってことは、部隊から離れて一体でいる今はチャンスだな。よし、ここで仕留めるか。
「ミラ、こいつを倒すぞ!」
「う、うん!」
そういえば、ミラは武器らしき物を持っていないが、なにで戦うんだ?
重要なことだが、敵を目の前にして考えることではなかった。
「…………っ」
竜人の斬撃を折れた大剣、もとい短剣で受け止める。予想外に強い衝撃に剣を落としかけた。両手で持ってなかったら武器を無くすところだった。
仮にも竜と名が付くだけあって、細い身体に反してとんでもなく力が強い。竜人は片手だというのに、剣が押し込まれる。眼前に迫りくる刃が鈍い光を放っているのがよく見える。このままでは頭をかち割られるが、大丈夫だ。
異世界に行くなら、ある程度戦えないといけないから、中学の時にちょっとばかし修行をしていた時期があった。高校に入ってから面倒くさくてやめてしまったが、一度身についた技術は忘れないというし、どうにかなるだろう。
腕を上げ、刃の上を滑らして竜人の剣を落とし、流れる様に竜人の頭に斬撃を叩き込む。
「げっ……」
金属でも叩いたような音をさせて、刃が弾かれた。竜人の硬い鱗に阻まれて斬撃が通っていない。それでも、頭を強打したことで怯ませることはできた。
「レイジ下がって!」
ミラの言う通りに後ろに跳ぶ。
「閃け雷撃、瞬く間に駆け抜け、我が敵を撃ち倒せ!《ライトニング》!」
ミラの掲げた右手から空気が爆ぜる音ともに雷撃が飛び、レイジの側を通り過ぎ、竜人を強かに撃ち据える。
竜人の身体からは肉の焼けた匂いと煙が立ち上り、だらりと力なく腕をぶら下げ、そのまま前のめりに倒れた。
「おぉーっ! これが魔法か! すごいなっ!」
「そ、そうかな? これくらい大したことないよ?」
照れているところ悪いが、初めて見る魔法をすごいと言っただけで、ミラのことではない。まあ、わざわざ水を指す必要もないのでいいか。
「ミラは魔術師なのか?」
「うん。これでも魔術師としてはすごいほうなんだよ」
「へぇー。でも、キング……、じゃなくてグレーターレイスに負けてたよな?」
「えーと、それは最初の一撃で倒せなくて……、一人だったから……」
なるほど。ぼっちじゃ無理だったということか。そもそも後衛職が一人で挑むのが間違っている。
「で、この竜人の死体はどうすればいいんだ? 放置もできないし、ギルドまで運ぶのか?」
「それなら大丈夫。こういう時のために運び屋がいるから」
話をしていたら、どこからともなく全身を黒い服で覆った人物が現れた。全く肌が露出していない、見るからに怪しい人物に対して短剣を構えるが、ミラに制止された。
「この人が運び屋だよ。……この竜人をギルドまで運んでくれる?」
運び屋はわずかに頭を縦に振ると、板をミラに渡すと竜人を軽々と担いで走り去った。
運び屋はその装いと仕事から黒子みたいだなあ。
「それは?」
運び屋がミラに渡した板を指して聞く。
「引き換え券だよ。これをギルドに渡せば荷物を受け取れるの。お金は、運んだものの一割を払えば大丈夫だよ。さあ行こう」
ちなみに竜人が持っていた剣は落ちていたので使うことにした。どうせなら、鞘もおいていってほしかったが、もう遅い。
裏道をまっすぐ進んでいくと、だんだんと戦闘音が大きくなってきた。薄暗い裏道を抜け、視界が開けると、そこは――戦場だった。