お金がない
とにかく、依頼は達成したので、ミラと一緒にスポルコ商会に行く。
「払ったお金が無駄になったのではないかと心配していたが、杞憂に終わって良かった」とか言うスポルコにむかついて棍棒を叩きつけて返して、屋敷の権利書をもらいさっさと出た。
ちなみに、ミラに取り憑くことによって、ランクアップしてキングレイスになったようだ。グレーターなら他の冒険者でも討伐できたらしいが、キングは無理だったみたいだ。俺が追われる原因を作った張本人と呼べるかもしれない。別に恨んではないが、後でなにかやるか。
これからどうするかについては、商会までの道中に話し合った結果――冒険者ギルドに行ってお金を下ろすことにした。というか、それ以外に選択肢がなかった。
なぜなら、二人そろって所持金ゼロだからだ。ミラはグレーターレイスとの戦闘前は財布を持っていたらしいが、今はどこかに落としたのかない。というわけで、冒険者ギルドに向かっている。
この街、ケイオスの冒険者ギルドはとても大きい。それは、ケイオスにしかダンジョンがないためだ。ダンジョンに眠る財宝を求めてたくさんの冒険者が集まっているそうだ。
レイジたちは酒場になっている一階を突っ切り、奥にある受付に行く。
誰か絡んでくるかと思ったが、こっちを見ても目を逸らす人が多い。中には俺に同情するような視線を向けてくる人もいる。ミラの不幸体質は周知の事実みたいだ。だから、関わらないようにしているのか。
「すいません。お金を下ろしたいのですが……」
ミラが受付の女性に冒険者カードを提示して言う。
「はい、確認しますので少々お待ちください」
眼鏡を掛けた受付の女性が冒険者カードを受け取り、四角い台の上に置く。
ギルドの受付って、美人じゃないといけないとか決まりがあるのかな? 他の受付も美人揃いだし。今対応している眼鏡の人はまるで機械みたいに表情が動かないし、冷たい印象を与えるが、美人なのは変わりはない。
あまり見過ぎないように見ていたら、ビーと台から音がした。
なんかエラーみたいな音がしたが、大丈夫か?
「申し訳ありませんが、有効期限が切れていますので、お金を下ろすことはできません」
受付の女性はあくまで事務的な声で告げてくる。
「え、え……? あの、なにかの間違いじゃ……?」
信じられないといった顔をしたミラが尋ねるが、
「いえ、今日でクエスト未達成一ヶ月ですので、冒険者登録は剥奪されます」
「そ、そんな……」
取り付く島もなく、バッサリと切り捨てられ、項垂れるミラ。
「なあ、一日ぐらいどうにかならないのか? せめて、お金を下ろすことくらいできないのか?」
落ち込むミラがかわいそうなのもあり、俺は説得にかかる。
「冒険者の方のみ利用できるサービスなのでできません」
……冒険者登録さえ剥奪されなければ、いけるんだよな。なら、まだ手はある。
「彼女はグレーターレイス討伐のクエストを受けていて、昨日達成したんだ。報告が遅れたが、それなら大丈夫なんじゃないか?」
実際に討伐したのは俺だが、その現場を誰かに見られたわけでもないし、いくらでも嘘はつける。
「例えそれが事実であったとしても、クエストの達成期限を過ぎていますので、規則通り、冒険者登録剥奪は変わりません」
くっ、駄目か。こうなったら情に訴えかけるしかない。
「お金を全く持ってないんだ……。宿にも泊まれず、まともに食事もできない。このままじゃあ、路頭に迷ってしまうかもしれない……。規則が大事なのはわかる。わかるが、だからといって人を蔑ろにするのは間違っているんじゃないか? ……俺はどんな辛い目にあってもかまわない! だが、彼女にだけは辛い思いをさせたくないんだ! 幸せに生きてほしんだ! だからこの通りだ、頼むッ!」
カウンターに両手をついて頭を下げて頼み込む。カウンターの上にはぽつ、ぽつと滴が落ちる。
「あなたの話は、よくわかりました」
「そ、それじゃあ――」
俺は希望に満ちた表情をし、顔を上げるが……
「規則ですので、できません。後ろがつかえていますのでお引取りください」
「…………」
「レイジ、もういいよ。今日会ったばかりの私のために、ここまでしてくれて本当に嬉しい。それだけで私は満足だから」
後ろに並んでいる人に押される形でカウンターから離れることに。
項垂れて落ち込む俺を励ましてくれているが、ほとんど聞いていなかった。
やべー、どうすりゃいいんだ。俺がせっかく迫真の演技を披露してやったというのに駄目とは……。
異世界で泊まるところはあるけど、所持金ゼロ。冒険者になろうにも、登録費も払えない。そんな状況で偶然救ったミラ。これはもうお金をたかるしかないと思ったわけだったんだが、まさかミラもお金がないとは……。マジで使えないな、こいつ。お金なし二人でどうしろと? とりあえず、ミラとは別行動をするか。俺一人なら、たぶんなんとかなると思うし。




