瞬殺
敵を前にしてなにしてんだという感じだが、アジ・ダハーカは空気が読めるやつだった。歩みを止めてまるで彫像のように微動だにしていなかった。もし空気を読まず攻撃してきたら、俺の中のアジ・ダハーカの株が暴落するとこだった。
「それじゃあ、い……うおっ」
ドォンという腹に響く音がし、アジ・ダハーカの頭の一部が吹き飛ぶ。
エクレが長大なライフルを腰だめにして持っている。
「……なにしてんの?」
「見てわからないのですか? 対戦車ライフルを撃っています。敵の装甲は想定より硬くないですね」
エクレは答えながら、次弾を装填してまた撃つ。
せっかく空気読んで待っててくれたのに、普通いきなり撃つか。まあ、あいつが勝手に待ってただけだし、敵だしいいか。
「あれ見て!」
ミラが指差した地面には傷口から落ちた黒い血が波打って動いていた。いやあれ血じゃなくて蛇じゃん。アジ・ダハーカの足下にも及ばない小ささだが、それでも人を丸呑みにできる大きさだ。なんて面倒な能力を持っているんだ。ダメージを与えても傷口から蛇が出てきて、しかも欠けた頭が元通りに再生している。
「無限に再生するわけないだろうし、とにかく削って削って削りまくるぞっ!」
「待ってください」
やるぞと気合いを入れて駆け出したタイミングでエクレに水を差され、足を止める。
「なんだよ、まさか怖気づいたのか?」
「そんなわけありません。……敵は再生能力が高く、大量の質量を有しています。このまま戦えば長期戦になることは避けられません。長期戦となれば、体力、精神力、魔力を消耗し続け、時間が経つほど余計なリスクを背負うことになります」
「そりゃ、そうだけどさ。それ以外であれを倒す方法があるのか?」
あったらありがたいが、どうせないんだろ。
「ありますよ」
「ほら、ないじゃ……、あるのかよ!?」
「私本来の性能を発揮すればあの程度焼き尽くすのに一秒もかかりません」
「でも、あの時エネルギー使い切ったんだろ?」
「お金はありますので、ケイオスでも最強と名高い勇者パーティーに依頼して冥府に行きました。現在保有限界までアストラルを蓄えています」
はぁー、とため息を吐きながら説明するエクレ。
「ねぇ、何の話をしているの?」
「ん? ああ、そういえばあの時ミラは気絶してたから知らないのか。……なんて言えばいいか……」
ミラは未だにエクレがアンドロイドってこと信じてなくて普通の人間だと思っている。だから、ちゃんと説明したところでわからないだろう。
「俺も詳しくはよくわからないけど、エクレは何か特殊な力が使えるんだよ」
「ふーん……? エクレってすごいんだね!」
たぶん詳しく説明したとしても、よくわからないって顔して同じ事を言っている気がする。
「じゃあ、エクレ頼んだぞ。……今回は楽できていいな!」
「はい。十分感謝してください」
のんびり話していたが、もう戦いは始まっている。蛇の群れが大挙して迫ってきているし、アジ・ダハーカは三頭の口端から炎が漏れ出していて今にもブレスを放ちそうだ。
エクレの手に機械仕掛けの剣が現れる。横薙ぎに振るうと剣の軌跡を描いて雷が走り抜ける。蛇の群れを両断し、斬撃の範囲外の蛇も疾走る雷に焼き尽くされる。
アジ・ダハーカの三頭の口が開かれ、炎が解き放たれる。視界を覆い尽くしほどの炎が間近にまで迫った時、エクレが剣を盾にするように構える。すると、炎は目に見えない壁に阻またように左右に逸れて散っていく。
アジ・ダハーカが怯んだように一歩下がる。エクレは機械仕掛けの剣を天に向けると、引き金を引く。剣の切っ先から一条の雷閃が天に駆け上がり消える。
直後、天から雷柱が降ってきてアジ・ダハーカの体を飲み込んだ。一瞬で消えた雷柱の跡には赤々と燃え盛る炎の地面だけがある。アジ・ダハーカは悲鳴をあげる暇さえなく一瞬で焼き尽くされたみたいだ。
「…………」
ミラはあまりの出来事に絶句している。




