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到着

「当館館長の虐殺人形より、乗客の皆様にお知らせします」

 いきなり壁から館長と書かれたシルクハットをかぶった虐殺人形が出てきた。

「出口行き急行屋敷にお乗りくださりありがとうございます。当館はまもなく終点、出口に到着します。一刻も早く着きたいというお客様の願いを叶えるため、スピード上げ上げでかっ飛ばしていきます。それでは乗客の皆様最後までお付き合いください」

 館長虐殺人形が言い終えると同時に屋敷が加速してさらに振動が激しくなる。踏ん張る俺たちの後ろから椅子が飛び出しきて、椅子と一緒に出てきた虐殺人形に強制的に座らせられる。虐殺人形は素早い動きで俺たちの両手、両足を椅子に固定した。

「おい! 何するんだ!?」

「運転中に席を立つのは駄目ですよ、お客様。安心してください、最後までお付き合いしますから。……くくっ、そう最後までなッ!」

「くくくくっ。そういうことだー! ……あれ、もしかして僕たちも巻き込まれない?」

「当然! みんな運命を共にしようじゃないかっ!」

「うざけるなー! 横暴だー!」

 虐殺人形が言い争いに夢中になっている隙に、拘束具を身体能力に物を言わせて壊し、ミラとエクレのも壊して解放する。虐殺人形は殴り合いにまで発展していて全然俺たちに気付いていない。

 終点に着いたら、この屋敷は木っ端微塵に砕け散るだろう。当然、中にいたらただではすまない。ミラとエクレを抱え元来た道を辿ってさっさと屋敷を脱出する。

 屋敷から飛び出した直後、墜落した屋敷の衝撃波に巻き込まれ木の葉のようにくるくると空を舞う。

「ん……? 地面がない……ッ!?」

 重力に引かれて落下している最中、下を見たが何もない。

「そんな……。私たちここで死ぬの……」

「……もしかしたら、底まで落ちたら戻れるのかも?」

「何を馬鹿なことを言っているのですか。もう少しで地面です、着地に備えてください」

 この状況でエクレが冗談を言うわけない。風に煽られる中、足から着地できるように姿勢を変える。

「ぐ……っ!」

 膝を曲げて衝撃に耐える。足元を見ると、なにもないように見えるが、着地の衝撃で透明な破片が散らばっている……?

 足下を蹴ってみると、硬い感触が伝わってくる。本当になにかあるみたいだ。

「とても透明度の高い物質でできていますね」

 大丈夫みたいなのでミラとエクレを下ろす。

「わっ、わわっ……」

「ちゃんと地面はあるから落ち着け」

 よろめいて転びそうになったミラを受け止めて立たせる。ミラの気持ちもわからなくない、まるで空中に浮いているように見えるのだから仕方ないだろう。

「出口って言っていたが、どこにあるんだ?」

改めて周囲を見回してみる。墜落した屋敷は原型を留めないほどに破壊され尽くしている。残骸の向こうに大きな扉がある。あれが出口なのか。

 扉を目指して歩いていく途中で気がついたが、屋敷が墜落してできたクレーターは一つじゃない。見える範囲で六つはある。つまり、俺たちが乗ってきたような屋敷が前にもいくつかあったってことだろう。屋敷の残骸がそこら中に散らばる歩きにくい道を越えても、扉はまだ遠い。扉が大きくなっているってことは近づいているんだろう。

さらに進んでいくと、扉の下に大勢の人がいるのに気付いた。ちらほらと見たことがある人がいるところをみるに、俺たちと同様にここへ強制転移させられた人たちみたいだ。出口に一番に辿り着けたとか自惚れたことは思っていなかったけど、優に千人は超えている。まあ、冒険者だけで一万人越えていたはずだし、十分に早いほうだろう。

で、その千人程が扉の前で何をしているかというと、列を作って並んでいる。

一番扉に近い列に行ってなんで並んでるか聞いてみようとして、

「あら、レイジさん……、でしたか? お久さしぶりですね」

「ん……? ああ、そうだな」

 声を掛けてきたのは教会の女神官マリアだった。ちょうどいいので聞いてみる。

 マリアの話でみんなが並んでいる理由がわかった。

 ケイオスに帰るには最後の試練を突破する必要があるみたいだ。この巨大な扉の先で待ち構えている魔王ルストのペット、邪龍アジ・ダハーカの分体を倒さないといけないらしい。本体だと強すぎて、この場の全員で戦って勝てるかどうかというレベルらしい。

一度に参加できるのは六人まで。分体の力は、挑戦する人の力と数で決まるらしい。いきなり他の人とパーティーを組んでも連携などできるわけもなく、かえって戦力低下になる。だから、強い人に一緒に参加してもらって楽に突破という手は使えない。頑張って自分たちだけの力でアジ・ダハーカを倒さないといけないということだ。まあ、俺たちの実力に合わせた強さだから倒せないことはないだろうけど。

参加するために列に並びたいが、どこが最後尾だ?

「最後尾はあっちだよー」

 スタッフと書かれたシルクハットをかぶった虐殺人形が指し示す方向に進んでいくと、最後尾と書かれた看板が人の行列の向こうに見えた。

 足りない身長を補うために虐殺人形が五体積み重なって看板を掲げている。

「ただ今の待ち時間は、約二時間になるよー」

 何時間だろうが並ぶのには変わりないし、ちょうどいいので休憩にすることにした。

「私が並んでおきますので、休憩してきていいですよ」

 エクレの言葉に甘えて、ミラと列を離れる。

 誰かを残して列を離れている人も結構いるというか、商魂たくましいことに店を開いている人もいる。食べ物の屋台や武具屋、雑貨屋、金貸しなどいろいろある。こんなところで、いやこんなところだからこそか。値段は通常の五倍以上だが、武具やお金、食料などを準備もできずにここに強制転移させられた人も多くいるのですごく売れている。

最悪な人に至っては、己の身一つだけで転移させられたんだろう腰に布を巻いただけの男がいる。というかよく真っ裸でここまで辿り着けたよな。マッチョだからだろうか半裸の姿でも堂々と食べ物の屋台に並んでいる。いや、食べ物より先に服どうにかしろよって思うけど。ミラなんて顔をそらして前を向けてないじゃないか。


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