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逃走劇

「……っ、……っ、……っ」


 全速力で走り続けて何分経っただろうか、呼吸は乱れに乱れまくっている。それでも、レイジは駆ける足を緩めることはない。


 後ろから響く足音は数を増やしたり、減らしたりしながら追ってきている。

 普通なら既に追手に捕まっているだろう。


 だって、レイジは現代日本で過ごしてきたただのオタクだ。正直言って体力に自信があるとは言えない。

 それに対して、冒険者として日々戦っている連中。どちらの方の体力が優れているかなど議論するまでもない。


 では何故、未だにレイジが捕まっていないかというと、追手がお互いの足を引っ張り合っているからだ。

 断続的に殴り合う鈍い音や引きずり倒されて鳴る鎧の金属音、魔法の爆発音が響いている。


 脱落者が出て数を減らすが、いつの間にか新たな追手が増えている。

 追手のほとんどは道を走っているが、中には建物の屋根の上を駆けてくる者もいる。


「ひゃっはーー! いただきだぜぇ――ぐべらっ」


 屋根から飛び掛かってきた追手に、後方から飛んできた物体が直撃し、吹き飛ばされて地面を転がっていく。


 レイジは転がった追手を跳び越えてひたすら走る。細い路地に入り、右に曲がり、左に曲がり、道端に置いてあるものを転がしたり、ケイオスの街中を駆け続ける。


 また人が大勢いる大通りに出た。人を隠すなら人混みの中かもしれないが、全ての人がいつレイジを捕らえようとするかわからない敵の中に潜むのは危険だ。


 大体の人は必死の形相で走るレイジを見たら、勝手に道を開けてくれる。でも追手に化ける人もいる。挟み撃ちになったらさすがにまずい。

 だから遠慮も容赦もなくなぎ倒していく。


「邪魔だぁ! 退けっ! くそったれがっ!」


 レイジの進路上で立ち止まる男が状況を把握し、追手に変わり、襲ってこようと身構える前に、走る勢いをのせたラリアットをかまし倒す。


 大通りでは追手が増える。景色が高速で後ろへと流れていく中、路地を見つけて駆け込む。十字路を左に曲がり、すぐ次を右に曲がった時、腕を掴まれた。

 しまったと思ったときには遅く、何かの中に引きずり込まれる。蓋がされて視界が暗くなる。暴れて抜け出そうとしたら――


「大人しくしてくれ」


 外から聞こえた声に一瞬動きを止める。が、知らない人の言うことを素直に聞くつもりはない。蓋を持ち上げようとして――


 響いてきた大勢の足音に止まる。ここまできてしまったなら、今外に出ても捕まってしまう。なら、信じて大人しくするしかない。


「黒髪黒眼の男はどっちに行った!?」


「それなら、あちらに行きましたよ」


「ちっ、逃げ足の速ぇやつだ」


 足音が遠ざかっていく。それから少し待ち完全に追手が去った後に蓋が開いた。


「もう大丈夫だよ」


 優しげな青年が言う。

 周囲を確認してから、レイジは木箱の中から出る。


「……一応、礼は言う」


「礼なんていいよ。それより走り回って喉が渇いているだろう? はい、水だよ」


 確かに喉はカラカラに干上がっている。レイジは青年が差し出してきた水筒をひったくるように取り、喉を潤す。


 うまい。こんなうまい水を飲んだことがないかもしれない。それだけ喉が渇いていたんだろう。

 レイジが水を飲む様を見て、青年は唇の端を上げる。


「くくっ、飲んだな。飲んでしまったな!」


「ん……?」


 青年の雰囲気がガラリと変わる。


「その水には麻痺毒を仕込んでおいた! まんまと引っかかったな! これで賞金は僕のものだ! 

くっはははははははーーっ!」


 ひとしきり高笑いをして満足した青年が、前を見るが、水筒が転がるのみで、そこにレイジの姿はなかった。


「まさか、こんなに早く、全状態異常無効の能力が、役に立つとはな。善人の皮を被ったやつって恐ろしいな。人間不信になりそうだ」


 青年を振り切ってレイジは走る速度を落とす。

 周囲の警戒に気を配っていて、足元の注意が疎かになっていたようだ。角を曲がったところで何かを踏んで転倒する。


「いってぇー。なんなんだよ」


 後ろを見ると、一枚の紙が舞っていた。それがただの紙なら放っておいただろうが、見覚えがあるものが見えて、手に取る。


 じっくり見たいところだが、とりあえずどこか隠れられる場所を探す。二回ほど道を曲がったところで、道の隅に物がうず高く積まれていた。少し物を退かして、なんとか隠れるスペースを作って入り込む。これで、早々見つかることはないだろう。


 息を吐いて、握っていた紙に視線を落とす。

 紙には大きな字でWANTEDと書かれている。手配書だ。


 似顔絵には、取り立てて上げるほどの特徴のない少年の顔。

 似顔絵の下には、


 この少年を●●●●●●●●者には五十万イリスを支払う。

スポルコ商会


 一部汚れて読めないが、こう書かれていた。


 ……この似顔絵、なんか、すごく、俺に似ているんだけど、気のせいだよな? ……うん、やっぱり気のせいだ。だって、ついさっきこの世界に来たばかりだからな。だから他人の空似に違いない。そうに決っている。


 ……でも、たぶんこれのせいで追われているんだろうな。全くもって迷惑千万なことだ。もし、俺に力があれば、今すぐにでもスポルコ商会に殴り込みに行ったのに。本当に残念なことだ。


 さて、どうしようか? この際、本物でも偽物でも関係ない。他人の空似ですって言っても商会に連れて行かれるのは確実だ。この世界について、全くと言っていいほど知らなくて、全状態異常無効以外特になんの力も持たない。しかも、街の住人全員が敵になる可能性がある現状。……これ、なんて無理ゲーだよ!? 活路が全く見えねぇ。そもそもクリアさせる気はないだろ!? 


 捕まったらどうなるんだろうか。読めないところがすごく気になる。まさか賞金首なんてことはないよな? 商会というからには、物を売買するところだよな。なんで、そんなところが人を探しているんだ? 色々と考えるが悪い想像しか浮かばない。今言えることは、捕まった後にろくな目に合わないことだけだ。

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