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調味料

「あ、反応が復活しました。場所は変わっていません」

「あ? なんて言った? もっと大きい声で言ってくれ!」

「ですから! 今向かっている地点にミラの反応があります!」

 ドッカンドッカンとひっきりなしに爆発しまくっている虐殺人形のせいで大声じゃないとまともに会話もできない。

 建築物は結構丈夫にできていて、ある程度爆発にも耐えられるようになっているので、少し頭上にある建築物で雨宿りしながら進んでいる。休まないとこの無駄に広い空間でやっていけないからだ。

「よしっ、じゃあ行くか!」

「荷物みたいな持ち方に不満を申します」

爆音でうるさくて何も聞こえないな。

エクレを小脇に抱えると屋根の上を走る。身体能力の高い俺は移動担当で、弾幕を張れるエクレは迎撃担当と役割分担している。

「ん……、ミラの反応が急速に移動しています!」

「まさか落ちたのか!?」

「落下予想地点に急いで下さい!」

 エクレの指示に従って、今まで斜め上に進んでいたのを横移動多めで駆ける。落下予想地点に辿り着くと、やっぱりミラが落ちているのだとわかった。だが、落ちてきているのはミラだけではない。どちらかというとミラの方がおまけだ。

視界を覆いつかさんばかりに巨大な屋敷が大小様々な建築物を巻き込みながら落下してきている。大きすぎるためわかりにくいがすごい速度で落ちてきているんだろうな。おそらくあの巨大な屋敷の中にいるんだろう。自力で脱出してくれたら助かるんだが、ほとんど移動していないみたいで期待するのはやめたほうがいいだろう。

「空気抵抗があるとはいえあれだけの質量と速度です。ぶつかれば確実に潰れますね。どうしますか?」

「同じ速度で落ちながら飛び移れば大丈夫だろ?」

「できるのならぜひそうしてください。くれぐれも私を落とさないように細心の注意を払ってくださいね」

「言われなくてもわかってるよ」

 巻き込まれないようにその場から離れる。離れてすぐに目の前を轟音を立てながら、屋敷などの障害物を破壊しながら巨大な屋敷が落ちていく。衝撃波が吹き荒れ、コートの裾を激しくはためかせる。落ちていく巨大な屋敷を追って宙に身を躍らせる。向こうの方が落下速度が速いので、壁を砕く勢いで全力で蹴り飛ばして弾丸のように一直線に飛翔する。想像以上の速度で急速に距離を縮めていき、

「これ……、ぶつかりませんか?」

「やべ、力の加減間違えた」

 そんな会話をしている間にも距離は詰まり、衝突した。

「痛てて……」

 天井を突き破ってどこかの部屋に侵入できたみたいだが、頭とか背中が痛い。

「レイジさんがクッションになったので私は無傷です。ありがとうございます」

 エクレはホコリをはたき落としながら悠然と立ち上がる。

 ああ、そうか。それは良かったな。だけどな、

「お前ぶつかる瞬間思いっきり俺を盾にしただろ!?」

「何を言っているのですか? 自らの失態の責任を取るのは当然でしょう?」

「ぐっ……」

 そう言われると文句も言えないが、だからといって人を盾にするのはどうかと思うぞ。

 ガタガタと屋敷全体が揺れ、たまに障害物に当たった衝撃で身体が浮きそうになる。この世界に底が存在しているかわからないが、もし底に叩きつけられるようなことがあれば全員ぺしゃんこだ。一刻も早くミラを救出して脱出したほうがいいだろう。

「方向と距離は?」

「あっちに三百メートルです」

 エクレが指し示す方向の床の前に立つ。剣を振るって四角く床を切り抜く。虐殺人形がいないのを確かめ穴に飛び込む。ミラの元を目指して一直線に突き進む。

 激しく揺れるだけで虐殺人形も出ず、拍子抜けするほど何事もなく辿り着けた。部屋の隅でボロボロになっているミラを見つけた。虚ろな目で膝を抱えぶつぶつと何事かを呟いている。俺に気付いている様子はない。酷い目に合って意気消沈しているようにも見えるが、もしかしたら虐殺人形が化けている可能性も否定できない。安心して駆け寄ったところでブスリと刺されるとかすごくありそう。

「馬鹿みたいに立ったまま何をしているのですか? もしかして偽物ではないかと思っているのですか。その目は飾りですか、本当レイジさんの目は節穴ですね。眼科に行ってはどうですか」

「それは悪かったな! 俺はお前と違ってそんな高性能な目は持ってないんでね!」

「例え私と同じ目をレイジさんが持っていたとしても使いこなせないですよ。宝の持ち腐れというやつです」

 額に青筋が立つのがわかるが、落ち着け。エクレは人格データに致命的なエラーを抱えて生まれてしまった悲しきアンドロイドなんだ。相手は生後数ヶ月のガキだ。ここは年上として寛大な心で許してやるべきだ。深呼吸をして落ち着け。すー、はー、すー、はー。よし、大丈夫だ。

 エクレは放っておいて、放心状態のミラを正気に戻す。

「ミラ! しっかりしろ!」

 肩を掴んで身体を揺さぶるが反応が帰ってこない。

 このまま声を掛け続けて正気に戻るのを待つほどのんびりする気はない。

「エクレ、調味料をくれ」

 渡された小瓶の中には粉砕された赤い香辛料がたっぷり入っている。

 何種類かある中で一番欲しいやつを渡してくれた。わかっているじゃないか。

 小瓶の蓋を取り去ると、ミラの口にねじ込んでやる。中身の半分くらいが口の中に入った。

「…………っ!? か、辛っ!? ああーっ、辛い! 辛いぃ!」

 さっきまでの虚ろな目が嘘のように、輝きを取り戻し、表情豊かになる。

 調味料は偉大だな。死人のような人でも一発で元気を取り戻すんだから。

 残してもあれなので、腕を振り回し暴れるミラに構わず、容赦なく残りも流し込んでやる。空っぽになったので離すと、ミラは床を転げ回ってしばらく悶え苦しんだ。

「にゃにをするにょ!? しにゅかと思ったわ!」

「ぷっ、変な喋り方だな。……話しかけても反応しないんだからしょうがないだろ?」

 辛さで舌が回らないようで、涙目でなんか言ってくる。その様子がおかしくて思わず笑ってしまった。


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