曇り時々虐殺人形
改めて周囲を見回して思うが、全方位ずっと同じような光景が広がっていてどこを目指して進めばいいかわからない。ミラとエクレと合流したいが、どこにいるのか皆目見当もつかない。とりあえず、あちこちから聞こえる爆発と戦闘音の鳴るところを確認していくしかないか。
虐殺人形を蹴散らしながら走っていると、遠くからキィーンと甲高い音が聞こえた。剣と剣とぶつかる時の音に似ているが、これは違う。これってスタングレネードの爆発音じゃないのか。ということはエクレの仕業か。
音が幾重にも反射して音源の特定は難しいが、ある程度の方向はわかる。合流できそうで良かった。
だけど、そう簡単に合流もできない。時間が経つほどに虐殺人形の数が増えて、今は虐殺人形が小雨程度に降り続いている。言っている意味がわからないと思うだろうが、本当に雨のように虐殺人形が落ちてくるのだ。もう数に限りなどないというように無尽蔵にだ。
それに、冒険者たちの戦闘の余波で建築物の残骸や屋敷丸々一つが落ちてくることもある。常に頭上に注意していなければ爆殺か圧殺される。頭上だけに注意していればいいということもなく、壁や床、物陰から虐殺人形が湧いてくる。
剣の性能のおかげで衝撃波を放てるようになったので、吹き飛ばして進んでいたが、たまに姿形は同じなのにやたらと強い個体が混じっていることがある。まじであの魔王性格悪いなと思う。最初遭遇したときは、斬撃をひらりと避けられ危うく喉元に刃を突き立てられるところだった。そいつが返り血で真っ赤に染まっていなければ前の奴の二の舞になっていただろう。
注意しなければいけない点が多くてまさに休む暇もない。動きを止めれば圧倒的な物量に押し潰されるだけだ。
定期的に響くスタングレネードの音を頼りに向かっていたら、やっとエクレの姿を見つけた。屋敷の屋根の上に立ち、両手に持ったマシンガン二丁をフルオートで撃ちまくって弾幕を形成し、虐殺人形を近づかせていない。
いやー、すごいな。ある程度以上強い相手には効かないけど、雑魚相手には無双と言っても差し支えないだろう。考えて撃ってるんだろうけど、俺のすぐ傍を銃弾が掠めていくんだけどどういうこと? どうせ当たっていないなら問題ないですよね、とかその程度も捌けないほど弱いとは思わず、配慮が足りなくてすみませんとか思っているんだろうな。まあ、実際こんな豆鉄砲くらうほど弱くないし、普通に剣で弾くぐらいできますけど? いまさら言っても仕方ないのはわかっているけどさ。
「危なーい」
振るった剣の軌跡をなぞって衝撃波が放たれる。真っ直ぐ飛ぶ衝撃波はエクレが右に一歩移動することで外れ……、後ろに迫っていた(といってもエクレが十分に対応可能なほどに離れていたが)虐殺人形に当たり吹き飛ばした。
「……って、おい!」
銃口が俺の方を向いて火を噴いた。大半は遥か後方の虐殺人形を撃ち落としたが、二発だけ直撃コースだった。危なげなく弾いたけど。こいつ仲間に対して発砲するとか喧嘩売ってんのか? いいぞ、買ってやる。
自分の事を棚に上げて剣を振り上げる。
「ちっ……」
振り上げた剣で虐殺人形の刃を受ける。火花を散らしながら刃が押し込まれてきて鍔迫り合いの状態になる。この小さい体のどこにそんな力があるのか不思議だが、これで終わらりじゃなかった。
「油断大敵ー」
赤く汚れた虐殺人形が口をパカリと開くと、口いっぱいに蓄えられた刃が現れ一斉に放たれる。
上体を目一杯反らしてなんとか躱すが、そのせいで拮抗が崩れて刃が押し込まれる。あ、やばっ。
刃が首に突き立てられ、皮膚を裂いて血が……。
「ひゃっはー、おわ……」
虐殺人形の頭部が破裂して、綿やらなんやらをぶちまけて落ちた。
「遊ぶのも程々にしておかないと本当に死にますよ」
「はっ、何を言ってるんだ? あの程度でこの俺が死ぬわけないだろ?」
首からちょっと血が出ている状態で冗談めかして言えるぐらいには余裕だったぜ。実際、やばかったとは思うが死ぬほどではなかったと思う。たぶんどうにかやって切り抜けてたと思うし感謝はしないぞ。
「狙い通り音に釣られたレイジさんと無事合流できたので、次はミラですね」
「は? 今お前なんて?」
まるで俺がお前の掌の上で踊ったように聞こえるんだけど? 気のせいだよな?
「初めは発信機の反応を確認できていたのですが、つい先程反応がロストしました。壊れたわけではなく、ここに来たときと同じようにどこかへ連れて行かれたんでしょう」
当然のごとく俺の疑問をエクレは無視する。断続的に響く爆発音と冒険者たちの悲鳴がうるさくて、聞こえないというわけではない。
というか発信機なんかいつの間に付けてんの? ……俺がどこにいるかわかってたみたいだったけど、まさか俺にも付いてんのか!? ここを出た後に問い詰めないといけないな。
「とりあえず、ミラがいたところに行ってみるか」
「そうでよね。なにか手がかりがあるかもしれませんし」




