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アンデッド進軍

「全く酷い目にあった」


 レイジは全身についたゴミを叩き落としながら愚痴る。

 レイジたちが落ちた先に幸運にもゴミの山のようなものがあった。それがクッションになって落下の衝撃を緩和したことでなんとか助かった。

 助かったのは良かったが、ゴミの山に埋もれたので臭い。とにかく臭い。


「う~、臭いよ~。早くお風呂入りたいよ~」


 ゴミを払い終えたミラがげんなりとしている。

 エクレはロボットらしく嗅覚を遮断しているので、平気そうだ。

 他の冒険者たちといた時は結構明るかったが、今は三人の腰に吊るした照明器具しか光源がないため数メートル先までしか見えない。光が届かない先は完全に闇で、次の瞬間にアンデッドが襲ってきてもおかしくない。


 落ちてきたここも廃墟なところをみるに、まだ中層にいる。もし深層まで落ちていたら、落下距離的に絶対死んでいた。

 上を見上げてみるが、落ちてきた穴は見えず闇がどこまでも広がっているだけだ。

さっき冒険者たちに襲撃をかけたアンデッドは数があまり多くなさそうだったのでおそらく先遣隊だろう。

 レイジたちの今の状況を一言で言うと、非常にやばい。


他の冒険者たちがどこまで進んでいるかはわからないが、間違いなく落とし穴に落ちたレイジたちが深層に一番近い。つまり、不死王の軍勢の本隊に一番近いということだ。

でも、例え死んだとしても教会にさえ連れて行ってもらえば生き返れる。問題としては誰にも発見されなかった場合だ。

……いや、待てよ。落ちる前にミラが気になることを言っていたな。


「なあ、さっきの本当に死ぬってどういう意味だ?」


「それは、ここで死んだら蘇生はできない。いくら身体が傷ついても蘇生できるから、勘違いしている人が多いけど、蘇生できない場合もあるの。<不死王の墳墓>で死んだら不死王の呪いによってアンデッドになるんだけど、その時に魂が傷つくらしくて、魂が無事じゃないと蘇生ができない」


 ……ちょっと、初耳なんだけど!? 何度でもコンティニューできる緩い世界じゃなかったのかよ!? その話知ってたらこんなとこ来なかったのに……。


さっきまでの気楽なピクニック気分は完全に消え失せていた。嘆いたところで状況は好転しないが、まだ希望はある。冒険者たちがここまで下りてくるまで生き残れば助かる。だからといって、ただ待っているだけより上り階段を見つけるために行動したほうが生存率は上がる。


決めたのなら行動するのみだが、その前に一つ確認しておきたいことがある。出発前に自分も戦えるとついてきたエクレだが、武器を持っているように見えない。


「エクレ、武器はどうした? まさか忘れたとか言わないよな、この状況じゃ笑えないからな」


「大丈夫です。ちゃんと用意していますよ」


 エクレは腰のポーチから見覚えのある、しかしこの世界にないものを取り出した。


「……なんで銃が?」


「私が作りました。本当なら光学兵器を作りたかったのですが、色々と足りないものがあり断念しました」


 残念そうに言うエクレだが、十分にすごい。

 エクレが持っているポーチは魔道具で、見た目の何十倍もの容量がある優れものだ。拳銃に大量の銃弾が入っており弾切れの心配はないだろう。

 正直戦力に数えてなかったが、光明が見えたかもしれない。


 レイジを先頭に後ろをエクレ、真ん中にミラという形で進む。

視界の効かない暗闇の中を頼りない光だけ、聞こえるのはレイジたちの息遣いと足音しかしない中、ただ歩くだけでも精神に負担がかかる。


レイジでも緊張から口数が少なくなり、刀の柄を握る手に知らず知らずのうちに力が入っている。

まして、この中で精神が一番弱そうなミラは、先程からレイジのコートを振るえる手で掴み、背中にくっつくように歩いている。


動きにくいが、不安そうに揺れる瞳を見たら何も言えない。

エクレはアンドロイドなので精神面の心配は一切していない。暗視機能があり昼と同様に見えるらしいので、行き先はエクレが決めている。


「十時の方向より敵が来ました」


 抜刀しそちらを見るが、何もいない。あるのは壁だけで敵の姿はない。


「――上です!」


 闇から飛び出してきたスケルトンの剣を刀で受ける。力任せに押しやりバランスが崩れたところに一撃加えるが、鎧のせいで両断するには至らなかった。

 闇の中から生まれるように次々と出てくるスケルトンは剣と盾、鎧で完全武装している。結構硬く鎧の上から一撃で倒すのは難しそうだ。


 銃声が響くと一体のスケルトンの眉間に穴が空き、倒れて動かなくなる。

 エクレが両手に持つ二丁拳銃が火を噴く度に、スケルトンがばたばたと倒れていく。弾が切れると流れるような手捌きで弾倉を交換し撃ち続ける。全ての弾丸が吸い込まれるようにスケルトンの眉間を撃ち抜いていく。

 ものの十数秒でスケルトンの集団を一人で掃討してしまった。


「す、すごい武器だね……」


 ミラの頬が若干引きつっている。

引き金を引くだけで、魔法の詠唱より早く魔術師として危機感を覚えるからだろう。それにしても予想以上に役に立つな。これなら意外と楽勝なんじゃね?

まあ、そんなうまくいくわけもなく。


「……これは、先程の戦闘の音を聞きつけ、こちらに敵が近づいてきます。推定一千体です」


「……千!? や、やばいじゃないか!? というかお前が銃撃ちまくったからじゃないのか!?」


「ど、どうするの!?」


「遅かれ早かれ気づかれていたことです。逃げましょう」


 レイジたちは素早くその場を後にする。

遥か後方からは鎧をガチャガチャ鳴らして存在を隠す気のないアンデッドの軍団が進軍してくる。


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