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長所を生かして金を稼ぐ

 窓から差し込む日の光。庭の木に止まった小鳥がやかましく囀る。いつもと変わらない穏やかな朝の訪れ。できることならこのまま目を覚ますことなく、布団に包まってダラダラと微睡んでいたい。いっそのこと、昼頃まで惰眠を貪りたい。

 しかし、心地よい眠りを妨げるように、ノックの音が鳴る。


「レイジさん、朝食の用意ができました」


 声が掛かったのと同時にガチャという鍵の開く音。


「……ん?」


 聞き逃がせない事態にレイジはのっそりと上半身を起こす。

 扉を開いて家主の部屋に無断で入ってきたのはメイド服を着た黒髪の美少女――エクレだ。その手には針金が握られており、どうやって鍵を開けたのか問う必要はないだろう。

 ちなみに、エクレというのはエクレールだと長いので呼びやすいようにしたのだ。


 メイド服を着ていることに関しては、別に俺が強制したわけではない。いつまでも変な格好でいさせるわけにいかないので、服代を渡したら自分で作ったのだ。屋敷の家事全般をやるのだから相応しい格好をしただけらしい。


「お前、勝手に人の部屋に入るなよな」


「これは失礼しました。ですが、レイジさんの惰眠より私が作った朝食が冷めてしまうことのほうが問題で

すので仕方ありません」


 うーん、美少女が起こしに来てくれるという羨ましい状況のはずなんだが、なんか嬉しくない。アンドロイドだからか、それとも俺への配慮に欠けているからか。

 目が覚めてしまったので、仕方なく起きることにする。


 朝食は三人分作られている。お前霞を食って生きていける仙人じゃなかったのかと思ったものだが、それだけではエネルギーが足りないらしい。

 エクレは超高性能を自称するだけあって、色々な知識をインストールしている。家事全般の腕は完璧でその点だけは認めなくもない。


「レイジっ、もう五日も仕事行っていないんだけど! 今日こそは行こう」


ミラが朝食の席で訴えてくる。


「え、なんで?」


「このままじゃ、お金がなくなるの!」


「そうか、それは問題だな。……じゃあ、金を稼ぎに行くか」


 レイジがやる気になって、ミラはホッとした顔をする。

 準備をして久しぶりの陽の下に出て歩いていたのだが、


「ねぇ、ギルドはこっちじゃないよ?」


「わかっているが?」


「え? ギルドに行くんじゃないの?」


 何を言っているんだ。


「俺そんなこと言ったか?」


「言っていませんね。ミラが勘違いしただけです」


「む……。それじゃあ、どこに行くつもりなの?」


「着けばわかる」


 ミラは不満そうだが、勝手に勘違いするほうが悪い。




 目がチカチカするほどの色とりどりの光を放つ派手な建物の前にレイジたちはいた。建物の前ではバニーガールの格好をした女性が道行く人を勧誘している。


「なるほど、カジノですか。ここでお金を稼ぐということですか。これは思いつきませんでした。さすがはレイジさん、ロクでなしですね」


「ふっ、あまり褒めるなよ。自分の長所を生かして金を稼ぐのは当然のことだろ。わざわざ危険な冒険をしなくても、楽して稼げるんだ。これこそ、俺の天職だ」


「……私は、こういうのはあまり……」


「わかってる。ほら、この金で好きに遊んでこい」


 気の進まないミラにお金を渡して、離れさせる。

 これで、ミラの不幸体質の影響を受けることもないだろ。

 カジノのゲームは、ルーレット、カードゲーム、スロットがある。

レイジは全財産の一万イリスをチップとスロット用のコインに交換すると、スロットのある区画へと向かうと隅の台に座る。


「くっくっく、自分の幸運さが怖くなるな!」


 レイジにとってはスロットはコインを入れたら、数倍、数十倍のコインを吐き出す機械になってしまう。

荒稼ぎをしていたら、流石に目立ちギャラリーが集まりだしたので立ち去る。ゲームのための資金を確保できたので、カードゲームのテーブルに向かう。


 やるのはポーカーだ。対人ゲームなので、駆け引きがあり運がいいだけで稼げるゲームじゃないところがいい。あまり大勝ちし過ぎたら出禁になってしまうから程々に勝って稼ぎ続ける。

 勝つ時は大きく賭け、負ける時は小さく賭け、勝ち負けを繰り返しレイジが順調に稼いでいた時、問題が起こった。レイジが何かをやらかしたわけではない。いや、ある意味最初からやらかしていたのかもしれない。


「お客様、すみませんが少しついてきてもらえませんか?」


 支配人を名乗る男に声を掛けられ、逆らうわけにもいかず後ろを付いていくと、爆発したように派手に壊れたスロットマシンがあった。一台だけではなく周囲にある十数台はぶっ壊れている。なんだこれ、頭のおかしい爆発魔でも出たのか? というかなんで俺連れてこられたんだ?


 スロットを壊した犯人と思われる人物は黒スーツの男たちに囲まれていた。黒スーツたちの隙間から白い髪と軍服が見えた時点で全てを理解した。

 金を全部するくらいは当然予想していたが、スロットを壊すほどとはさすがに予想できなかった。高そうだし、弁償する金はない。


 支配人が合図を送ると、黒スーツの壁が割れて顔色を悪くしておろおろしているミラの姿が見えるようになった。

 縮こまって怯えていたミラだったが、レイジの姿を確認すると表情を明るくして駆け寄ってきた。


「ど、どうしよう~、レイジ~」


「すいません。どちら様でしょうか? ……支配人、私は関係ないので失礼します」


 涙目になってレイジに縋り付いて助けを求めてくるミラの手を無慈悲に払う。

 捨てられた子犬みたいな顔をするミラを気の毒とは思うが、お金の問題は非常にデリケートなものだ、これはどうしようもない。


 レイジがミラを見捨てて去ろうとしたが、お金の心配をする必要はないと支配人が言って案内されたのは、大勢のギャラリーが集まっているところだった。

 なんかやばいゲームでもやらせられるのだろうかと、不安になったが違った。そこでやっているゲームはルーレットだった。球が落ちる場所を当てるだけの簡単なゲームだ。

 そのテーブルには最高額のチップが山のように積み上げられていた。


「次も全チップ一点賭けします。そんなに何回も当たるはずありません。外れたら今までの負けを無しにできますよ?」


 涙目になっているディーラーに甘い言葉を囁きながらゲームを催促する悪魔がいた。


「おい、エクレ。お前少しは自重しろよ。というか、どうやってこんなに当てた?」


 呆れと感心の混ぜった声でレイジは、悪魔もとい、エクレールの前に立つ。


「超高性能な私にとって、球の軌道を予測することくらいなんでもありません」


 マジで超高性能じゃないか。たった一、二時間で普通の人が一生働いても稼げない金を手に入れやがった。

 お連れ様を連れて帰ってくれるなら、スロットの件を問わないと支配人に言われたので、素直にミラとエクレと共に帰ることにした。当然のごとく出禁になってしまったが、獲得したチップは換金されて、大きな袋に入った大量の白金貨を受け取った。白金貨一枚は百万イリスだ。


 十キロはあるだろう袋をエクレは持てないからとレイジが持つことになった。自分の金ではないとはいえ、大金が手の中にあるとはいいものだ。うん、いいものなのだが、気まずい。

 原因は、さっきからレイジと全く目を合わせようとしないミラだ。仕方のないこととはいえ、あの場で見捨てたことを根に持っているようだ。


「あれは冗談だって、俺がミラを見捨てるわけないだろ?」


「…………」


「あの場で拘束されたら助ける事ができないだろ? あの後、一発当てて助けるつもりだったんだよ」


「…………本当?」


「当たり前だろ? 俺が自分の身可愛さにそんな酷いことをする人間に見えるのか?」


 正直に言うと、保身に走って見捨てました。


「うん、そうだね。レイジがそんなことするわけないよね。疑ってごめん」


 そんな純粋に謝られると良心が痛む。

 もしかしたら、あの後本当に一発当てて助けたかもしれないのでいいだろう。


「本当にちょろいですね。だからこんなロクでなしに引っかかるのです」


「何か言った、エクレ?」


 小声で呟いたためミラが聞き返す。


「いえ、何も言ってませんよ。……世の中には知らないほうがいいこともあるのです」

 エクレールが何を言っているのかわからないのかミラは首を傾ける。


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