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毒舌美少女アンドロイドが仲間になった

 転がってきたほうを見ると、ほのかに光る西洋の鎧とドレスを合わせたような不思議な格好の少女の身体が立っている。だが、首はない。


 この時点でなんとなくわかった。こいつが例のデュラハンだ。

 なんで頭が取れて平然としているか不思議だが、死人も生き返るのだ。異世界だからという理由で、不可思議なもの全て解決でいいんじゃないかと思う。

 それで、クエストの件だが、こいつを連れていくのが一番いいだろう。


「ひっ……」


 今さら戻ってきたミラが転がっている生首を拾っている首なし少女を見て悲鳴を上げている。


「ど、ど、ど……!?」


「俺に任せて静かにしてろ」


 混乱してうまく言葉が出ないミラを黙らせて少女に向き直る。

 近づいたことによって首の断面がよく見えるようになったが、これは――


「ロボット……?」


 金属の光沢に、千切れた配線のようなものが見えている。


「はい、正確にはアンドロイドです。私は戦略級人形兵器、タケミカヅチtype-γ、エクレールです」


 戦略級? 兵器? なんか凄く物騒な単語が出てきたが冗談だろうか。頭の取れたマヌケな姿からは想像できないんだが。

 変なロボットの発言に戸惑っていると、エクレールはレイジの身体をぺたぺたと何かを調べるように触ってくる。


「……なるほど。あなたを保護対象区分Dと認定。現在確認される唯一の保護対象と認め、その保護を実行します」


 エクレールは機械っぽく無機質にただ事実を述べる。

 言っている意味はなんとなくわかるが、意味がわからない。


「結局、なんなの?」


「失礼しました。頭の弱そうなあなたにもわかりやすく説明できる自信はありませんが。私はこことは違う世界から来ました。自国への帰還は現状では非常に困難と判断し、一先ず異世界で発見した自国民の保護を優先することにしました。それがどうしようもない変態畜生だとしても私はプログラムに従わなくてはいけません。可哀想ですね、私」


 アンドロイドのくせに、やけに人間みたいに嫌そうな表情をする。


 あー、うん、なんとなくわかった。でもさ、こんな人間と見分けのつかないロボットを作れるような技術力あるわけないじゃん。こんなのSFの世界だよ。……あとさ、謂れのない中傷挟んでくるのやめてくれない? マジでなんなのこいつ。頭取れてるし、修理に出したほうがいい。頭の中身絶対壊れてる。


「ところで、私からも一つ質問がありますが、よろしいでしょうか?」


「ああ、答えられることならな」


「では、ここにはアストラルがありませんが、どこか存在する場所をご存知でしょうか?」


「……アストラル? ……ゲームで聞いたことのあるな。星辰……だっけ?」


「ああ、もういいです。誰でも知っている生活に不可欠なエネルギーの名も知らないとは、稀代の馬鹿か、違う時代の人間か。私としては前者だと思いますが」


 なあ、切れていい? こいつまじで殴りたい。


「好きにしろ」


「わかりました。人類史に残る馬鹿と登録しました。……痛っ」


 つい殴ってしまった俺は悪くない。

 





 帰りの道中、ポンコツの話を聞いてわかったのは、この世界にはアストラルがないらしく、つまりエネルギー源がない。それでも空気中にあるものを取り込んでなんとか動いているらしい。色々壊れていることと、エネルギー不足の問題で本来の性能の一%も出せないそうだ。戦略級兵器とか言っていたが、ただのポンコツだ。


 この世界に来た経緯は、なんか発電施設みたいのが暴走して大爆発したのに巻き込まれて、気づいたらここにいたらしい。首が取れているのは、他の壊れた箇所を優先した結果ということだ。俺が思うに、人格プログラムが修復不可能なほど致命的に壊れたんだろう。じゃないと口の悪さを説明できない。


 保護するとか言っておきながら、ゴブリンに襲われた時、人の背中に隠れて全く戦おうとしなかった。見た目通り美少女並みの身体能力しかないらしい。マジでお荷物だ。


「用が終わったら、質屋にでも売っていいか? 正直いらないんで」


「やることやったら売り飛ばすとは鬼畜ですね。その時は、機密保持のために自爆します」


「はいはい、勝手にしやがれ」


 相手をするのも面倒で適当にあしらう。

自爆でもなんでも好きにしたらいい。どうせ、俺には関係ないし。


「私には最新鋭の技術が詰め込まれているため、欠片一つとして他国へ渡すわけにはいきません。そのため、私が自爆すれば、半径十キロ圏内のもの全てを跡形もなく消し飛ばします」


 アンドロイドらしく無表情で恐ろしいことをしれっと言いやがった。

 自爆したら俺も巻きこれじゃないか。売ることも、捨てることもできないとか、呪いのアイテムかよ。いや、いっそ呪いのアイテムの方がよかった。呪い効かないし。


 このポンコツ――エクレールとかいう名のアンドロイドについて、大雑把にミラに説明したがいまいち理解していないようだった。

 街に着く頃には、エクレールの首も中身は壊れたままだが、見た目にはなんとかつながった。さすがに首を抱えたまま街に出るわけにはいかないからだ。


 ギルドでの報告は本当のことを言っても頭のおかしいやつ認定されそうなので、適当にもっともらしい事を言って、なんとかクエストクリアとなった。

 妙に冒険者たちの注目をエクレールが集めているが、変な格好しているからかね。


「いえ、私が人類の叡智によって作り出された至高の美少女だからです」


「自然に人の思考読むのやめてくれないか。まあ、確かに外面だけはいいけどな」


 本当に外見だけは美少女だ。これで口を開かなければ完璧かもしれない。


「おいおい、両手に花とは羨ましい限りだなあ? こんな貧弱そうな男じゃなくて俺と組まないか」


 レイジたちがギルドから出るところで、赤ら顔の大男が絡んできた。

 レイジのことを貧弱呼ばわりするだけあって、見上げんばかりの巨体だ。

 酒が入っているだろうジョッキ片手に凄んできている。


 こっちのポンコツなら喜んで差し上げます。と言いたいところだが、また自爆するとか物騒なこと言うに決まってる。さて、どうしたものかね。

 レイジがどうやって酔っぱらいをあしらうか考えていると、


「あの、あまり私に関わらないほうが……」


 前に出たミラがおずおずと言った。


「あん? なんで……うおっ」


 一歩踏出したところで酔っぱらいの男がなにもないところで、派手に転んだ。その弾みで、手に持っていたジョッキが飛んでいき、自慢げに剣を仲間に見せびらかしている男の頭に酒をぶちまける。驚いた男は剣を放り出してしまい、宙を舞う剣は倒れている男の鼻先を掠めて床に突き刺さった。


「ひっ……。ま、まさか、凶星の……」


 酔っぱらいの男は赤い顔を一瞬で青白くして逃げてしまった。

 忘れていたけど、ミラには不幸が訪れるとかいう設定があったなあ。なんかさっき凶星とか呼ばれてたし。

 こっちに来てから、運が良いような悪いような目にあってきたが、強運の持ち主の俺なら今頃一発当てて大金持ちになって悠々自適に暮らしていてもおかしくない。

 これはミラの不幸と俺の強運が相殺し合っている結果なのかね。

 今日の仕事を終えたレイジたちは屋敷に戻ってきていた。


「部屋が有り余っているからな特別に使っていいぞ。お前ら俺に感謝しろよ」


 レイジは偉そうにふんぞり返って、恩着せがましく言う。

 ミラは素直に感謝していたが、エクレールはロボットらしい感情のこもらない平坦な声で感謝の台詞を述べていた。

 もちろん、タダでとはいかない。屋敷の掃除など家事全般をすることを条件にしている。宿代を払わなくてもいいのだから、これぐらいいいだろう。

 玄関に一番近い部屋をミラたちに掃除させると、そこを俺の部屋と決めて寝た。


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