死と隣合わせの仕事
「おいおい、完全に眠りこけてるじゃないか。しっかりし……っ!?」
倒れたミラを起こそうとしてようやく異常に気づいた。
力なく投げ出された腕、身体のどこにも力が入っておらず、完全に脱力している。そして、開いたままの青い瞳はなにも映さず、光を失っている。
「…………は、ははっ。……冗談だよな? 囮に使ったのを怒っていたずらをしているんだろう? そうなんだろ……?」
「…………」
「俺が悪かったから、もう許してくれないか」
レイジが声をかけても身体を揺さぶってもミラが反応を返すことはない。
恐る恐る手を伸ばして脈をとるが――
――脈がない……。
「……嘘だろ? なんで……?」
レイジの目にミラの頬に走る一筋の赤い線が映る。
これは、黒い竜人の一撃を完全に躱せていなかったのか。もしかして、短剣にも毒が塗ってあったのか?
「なんなんだよ、なんだよこれは!? これじゃあ……ミラが死んだのは俺のせいじゃないかっ! くそがっ!」
力任せに壁を殴りつける。皮膚が裂けて、血が流れるがそんなことは気にならなかった。
異世界に来れたことで調子に乗っていたのかもしれない。前の世界より死が身近なものだというのを忘れていた。考えないようにしていたが、竜に吹き飛ばされた人の中には身体が変に曲がっていた人もいた。それに吹き矢だからよかったものを弓矢なら俺は死んでいただろう。この結果は俺の油断が招いたものだ。
「――あら? もしかしてそちらの女性は死んでいるのですか?」
レイジが顔を上げると、神官の格好をした女がいた。
「……ああ」
「それなら、教会に運ばないといけませんね。よかったら、手伝いましょうか?」
「……どういうことだ?」
女神官は当然のことのように言うが、理解できない。なんで教会に行くんだ?
「? 蘇生させるのですよね?」
「蘇生!? 生き返らせるのか!?」
「え、ええ。もちろんです」
レイジが身を乗り出して話に食いつくと、予想外の反応だったのか女神官は驚いたようだった。
レイジはミラをおんぶして女神官の後を付いて教会まで行った。
教会には、レイジと同じように死体を運んでいく人や教会から出てくる人で溢れている。
竜人の襲撃はレイジたちがいた場所だけじゃなく、複数箇所で起きていたみたいで死傷者が大勢でているようだ。
レイジたちは教会に入り、正面の礼拝堂に続く扉ではなく、右の扉をくぐり、長い廊下を奥へと進む。奥から戻ってくる人は全員手ぶらだ。死体はこの奥に置いて帰っているみたいだ。
廊下の終端まで辿り着き女神官が扉を開く。そこは、とても広い空間で、人が横たわっている台座が裕に百は並んでいる。奥には三メートルくらいある長い髪の女性の像が背後のステンドガラスから降り注ぐ光で七色に光って見える。
「それでは、こちらに彼女を横たわらせてください」
女神官の言葉に従って、レイジは空いている台座にミラを寝かせた。
「蘇生にあたり献金をお願いしているところですが、初めてのようですし、今回は特別にいいですよ」
「お金を持っていないから、まあ、助かる」
「いえ、いいのですよ。蘇生は女神イーリス様の加護ですから。……蘇生の準備は私の方でしておきます」
「ああ、よろしく」
去っていく女神官を見送って、レイジは台座に背を預けて座る。これでミラが助かると思うと安堵の息が漏れた。
それにしても、ここであのイーリスの名前が出てくるとは。転生させらるのだから、蘇生くらいはできて当然だろう。教会に行ったら生き返るとかゲームかよ。なんか慌てて損した気分だ。
蘇生をしている神だから、やっぱり人気があるのかな。お金の単位に名前が使われているし、この教会も他の建物より頭三つぐらい飛び抜けてでかい。廊下を通ったときに窓から見えた色とりどりの花が咲き乱れる広大な庭。どれだけ教会の敷地が広いかよくわからないが、それだけ信仰を集めているということだろう。
「あら? まだいらしゃったのですか?」
声をかけられたので、そちらを見ると、さっきの女神官がいた。
「ん、ああ。起きるまで待っとこうかなと」
「三時間くらいかかりますが、いいのですか?」
「別にそれくらい大したことない」
「……そうですか。いいですね」
「は? なにが?」
レイジの問いには答えず、ふふっと微笑む。そして、手に持っていた一輪の花を寝ているミラの傍に置く。七色に淡く光る不思議な花だ。
「これは、七曜草といいまして、蘇生のときにイーリス様に捧げる供物です」
レイジが珍しそうに七色の花を見ているので、女神官が説明してくれた。
これで後は待つだけで生き返るみたいだ。女神官は他にやることがあるので立ち去った。
暇になってしまった。
台座の上で眠るミラを見るが、本当に死んでいるようには見えない。ただ寝ているだけといっても納得してしまいそうだが、息をしていない。
「ん? 傷が治っている……?」
頬にあった一筋の傷がいつの間にか消えていた。傷があったところを指でつついてみるが、傷があったことすらわからない。死んでいるはずだが、俺の気も知らずに穏やかな顔をしている。なんかイタズラをしてやりたい気持ちになってくる。なにか書くものをもっていたらラクガキしてやったものを。とりあえず、柔らかい頬を指でつまんでぷにぷにと遊ぶ。
ふと、視線を感じてそちらに視線を向けると、数人の神官がこちらを見てヒソヒソとなにか話していた。
「ごほんっ……」
なにかを誤魔化すように咳払いをして、ミラに背を向けて座り直す。
特に疲れているというほどではないが、暇だから仮眠でもとるか。ミラが起きたら、ギルドに行って、なにかクエストでも受けてみよう。そのためにも体調を万全にしておかないといけない。そういうことだから、寝よう。
瞼を閉じると、睡魔が襲ってきてすぐに眠りに落ちた。
ゲームの方を優先してやっているので、更新が止まっていてすみません。
ゲームクリアしたら、また続き書きます。




