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エピローグ2

 俺は高山家を辞すると、第二スカイリンクへと向かう。景色を楽しむように歩く。

 途中でバーミリオン運輸のウエストガーデン支部に寄り、お土産を渡して挨拶をする。久し振りの訪問に嬉しそうに支部長さんが迎えてくれる。

 バーミリオン運輸は俺がプロになると同時にスポンサー契約を切っているが、実は未だにCM契約をしている。

 俺がバーミリオン運輸スポンサーを受けて|グランドチャンピオンシップ《グラチャン》を獲得したから、運送業としては全国展開をしていても中規模だったのだが、知名度だけはかなり急上昇したのだった。



 そして長らく歩いてウエストガーデン第二スカイリンクへとたどり着く。

「懐かしいな」

 俺がスカイリンクの客席を歩いていると、そこで横から声が飛んでくる。

「遅い」

 俺を見て腰に手を当てておかんむりな姿を見せるのは相棒のリラだった。

 最近ではファッショナブルな服装の多かったリラだが、騒ぎを避けて地味な格好をしていた。今日はお互いサングラスをしてこそこそとしている。

 俺はそんな彼女に謝りながら一緒に歩く。


「いや、あいさつ回りしてたら結構引き留められちゃって」

「バーミリオン運輸とか?」

「まあ、そうだね。他にもいろいろ」

 俺とリラは並んで歩きながら、スカイリンクの客席に座る。


「スター到来の大騒ぎにならないで良かったわ」

「お互い忙しいしなぁ。とはいえ、約束の場所に辿り着いてもまだまだ長い道のりだなぁ。今年こそは全部取る!」

「ユニバーサルオープンじゃ準決勝でカルロスさんにしてやられるし、|グランドチャンピオンシップ《グラチャン》以外は決勝で負けるし、悔しい事だらけだもんねぇ」

「ううう。レナード包囲網とか辞めて欲しいっての。まあいいよ。今年は全部食い破ってやるから。ゴスタさんやアメリカの3人組だけじゃなくて、セレスやジェラールも侮れないからね」

「上ばっかりじゃなくて、そろそろ下の世代も気を付けないと駄目よ」

「あ、下の世代といえば、フロン養護施設からステップアップツアーを優勝した中学生飛行士(レーサー)が出て来たって聞いたけど知ってる?」

 俺はふとドミトリ先輩の言っていた事を思い出してリラに訊ねる。


「知らないの?クリストファー・ジュベール。聞いた話じゃ、飛行技師(メカニック)の子にケツ叩かれて一気に強くなったんだってさ。どこかの誰かみたいな話よね」

「おおう、クリストファー君ね。んんん?」

 どこかで聞き覚えがあるのだが誰だっただろう。まあ、ご近所だから名前を聞く事もあったかもしれない。


「ちなみに、タイプで言うと昔のベンジャミンによく似てるかも。ハッキリ言って、現状じゃ話にならない。何せレナード・アスター到来以降、時速1000キロ以上で常時飛べる飛行士(レーサー)じゃないと頂点なんて無理だもの。戦闘するスピード域が200キロ上がったからね。付いてこれない飛行士(レーサー)はガンガン振い落されてるからね」

「地道な基礎飛行練習しないと、時速1000キロはどんな天才でも無理だからなぁ」

「そういう意味じゃ軍用遺伝子保持者(メタリックカラー)に関係なく高い敷居を設けちゃったよね。そこに到達できれば才能が無くても問題なく戦える世界に変えたからね。私達の目標はある意味で全部遂げたわけだけど」

「そうか?まだ色々と差別は残ってるけど」

「そこは感情的なものだからね。あとは自然と変わるしかないわ。世界は何もエールダンジェだけじゃないんだし」


 そう、今のエールダンジェの世界は才能や点の取れる武器の有無だけでは世界一にはなれない。時速1000キロを超える世界で戦闘が出来るようになるには才能以上に弛まぬ高速度の飛行練習を続ける必要がある。そしてその速度域でも戦えなければ勝てないのだ。時速1000キロを越えなくても勝つほどの戦略を使う飛行士(レーサー)を除けば、戦闘技能や射撃技能だけで勝てる頂点に立てなくなった。

 単純に、飛ぶのが余程好きじゃないと勝てない世界になった訳だ。

 曲芸飛行テクニックなんて時速1000キロでやれる飛行士(レーサー)は一人しかおらず、その領域に辿り着くには才能と飛行時間がどうしても必要になる。

 ジェネラルウイングにいた曲芸を得意とする飛行士(レーサー)達は速度の壁にぶつかって、世界一とは遠い場所にいる。同じタイプとすると、クリストファー君はかなり厳しい道程だろう。

 団体戦の1部でやる分には問題ないのだが、世界一を目指すならば、もはや曲芸飛行は流行ではない。一人だけそれを可能にしている天才セレスティノ・マリンがいるが、それだけだ。



 俺とリラはスカイリンクで練習する子供を眺める。別にクリストファー君がいる訳でもないが、やはり曲芸飛行は格好良いようなのでその練習をしているようだが、彼らのフォームはどこかで見たことあるようなフォームをしていた。


「レンの真似よね、あのフォーム」

「俺のフォームって言っても、俺のフォームは俺の体形だから作られてるし、彼らは曲芸飛行をしている訳で、俺は曲芸飛行は一切できないからね。真似しても良い事無いけど」

「それでも憧れるのよ。何でこんなちんけな男に憧れるかね」

「そのちんけな相棒を受け持っている飛行技師(メカニック)にだけには言われたくない。でも、飛びたくなってきたから機体付けて」

「人のいない場所で飛びなさいよ。ばれたら大変なんだから」

「ういっす」


 俺は背中にエールダンジェを背負っていると

「ふふ。あの子達、可愛いわね」

 リラは俺の機体調整をしながら、スカイリンクの方へ視線を向けてほほ笑んでいた。何かと思えば、スカイリンクの中央で機体を付けてる少年少女がいた。

 可愛いと指摘したのは恐らく前期中学か基礎学校か、年齢の低い2人の子供を指していたのだろう。小柄な少年の背には、ガラクタのような様々なメーカーの部品の継ぎ接ぎのように付いたエールダンジェが装着されていた。そして少女はその機体を装着すべくスパナで締めている。少年は飛行士(レーサー)志望で、少女は飛行技師(メカニック)志望だろうか?


 少年は興奮気味にピョコピョコとジャンプして喜んでおり、まるで初めてエールダンジェを乗るような雰囲気だった。


「きっと、あれ、ファーストフライトよ」

「だろうね。俺も父さんや母さんとここに来た時、あんな感じだったから」

「あのつぎはぎの機体、ゴミ山で拾ったのかな?よくもまあ、飛べるように作ったモノね。まあ、飛べるのかは分からないけど」

「カイトとは作れなかったからなぁ、ゴミ山で拾ったパーツで組み合わせた機体」

「私も無理だったわねぇ」

 俺達はそんな事をぼやきながら少年少女のファーストフライトを眺める。ゴミ山で機体を作ろうと頑張ったモノの途中で終わってしまったのは俺もリラも一緒だった。機体の破損部品を探しに何度か入ったが、0から作る事は結局できなかった。


 だが、少年は少女の教えに従って、ゆっくりと手袋型操縦器(コントローラ)を握って、機体の出力を上げると、少年は(そら)へと飛び立つ。

 凄く喜んではしゃいでいるのだが、そのせいで変な所に飛んで行ってしまう。

 そんな様子に、俺もまた『ああ、昔やったなぁ』と思い出す。その時は父さんが慌てて飛んで俺を助けてくれたのだ。


 少年は楽しそうに空を飛んでいた。何をする事もなく、ただただ空を飛ぶだけだ。だが、俺も同じで、それがただ楽しかったのだ。


 彼らを見ていて初心を思い出す。今は勝つ為に戦っているが、楽しいからこそこの世界に飛び込んだのだ。それをどこか忘れていたような気がする。

 いや、そもそも、それを再確認する為にウエストガーデン市民大会に参加しようと思ったのだ。



 そんな中、空を飛んでいる少年は、腰に差している重力光剣(レイブレード)を取り出して振ってみると、バランスを崩してくるくる回って地面に落ちてしまう。

 あれは小さい頃に俺もやった奴だ。カルロスさんに憧れて、振り回してみて失敗したのだ。飛行技師(メカニック)の調整が無いと、重力光剣(レイブレード)を使うのは非常に難しい。

 少年は重力光剣(レイブレード)を少女に押し付けて再び空を飛ぶ。本当に空を飛ぶのが楽しそうだった。


 そう、飛ぶだけで楽しいのだ。俺はそのまま空を飛ぶのが大好きなまま大人になってしまった。そのまま世界一になってしまったのだから、よほど飛行士(レーサー)として幸運だったのだろう。



 初心者の邪魔をするのも悪いので、飛ぶのを遠慮して、リラと世間話をしていた。リラもまたこっちに来てからあった事を報告しあっていた。

 そんな中、何やら騒ぎの声が聞こえて来る。リラはうざそうにそちらの方へ視線を向ける。

「何やってんのよ、あの子達。あんな子供を虐めて」


 俺も何だろうと目を細めると、少年の使っていた継ぎ接ぎだらけのエールダンジェを足蹴にする赤いエールダンジェを装着している少年たちがいた。


「オーティの育成じゃないかな?ワインレッドの機体だし」

「あんな子供に大人げない。しかも1部クラブの育成なんてエリートだろうに」


 オーティの育成と思しき少年たちは恐らくは後期中学生だろう。背丈が大きいので高校生かとも思ったが、オーティの育成はウエストガーデンにU16までしかないからだ。

 オーティの少年たちは見下すように少年たちを嘲笑い、少女は涙目で継ぎ接ぎだらけの機体を取り返して大事そうに抱えていた。初心者のおんぼろ機体を笑う、エリートという構図だろうか。あまり見ていて面白いものではない。


 だが、大人しそうに見えた小柄な少年はオーティの育成の少年たちに噛みつくように文句を言っているようだ。きっと大事なエールダンジェを馬鹿にされて怒っているのだろう。



***



 少年達は、何故か決闘みたいになっていた。止めに入ろうかと思っていたのだが、彼らはレースをしようとしていた。オーティの育成と思しき、一番背の高い少年と、継ぎ接ぎだらけの機体を付けた小柄な少年の2人が戦うようで、簡易的なレースシステムが動き出し、二人の少年の名前が出る。


 赤い機体を付けたオーティの育成飛行士(レーサー)と思しきは『アルゴス』少年で、もう一人の継ぎ接ぎだらけの機体を付けているのは『ハーリー』少年だった。

 リラは「無茶な事を…」とぼやいて眺めているのだが、俺としては子供同士の喧嘩にハラハラしてみていた。


 レースが始まるのだが、当然のようにアルゴス少年が一方的に攻撃をする。


 そりゃそうだ。エリートと素人では圧倒的実力差が存在する。

 だが、俺はそこで気付くのは継ぎ接ぎエールダンジェを付けたハーリー少年の動きだった。彼は頭に飛んできた重力光拳銃(ライトハンドガン)の光弾に反応して頭をずらしてかわすのだが、頭をずらした拍子にバランスを崩してグルグル回転してしまっていた。

 とっさに体を動かすので、意外にもハーリー少年はポイントをいくつも取られずに逃げ続けていた。むしろ、飛行失敗による斥力場に自分の体をぶつけてポイントが落ちていた。

 このハーリー少年、飛ぶのは素人だが、どうも戦闘技術があるようだ。

 何故そう思えるかといえば、少年はグラス付きヘッドギアを付けていないので、目だけで飛んでくる光弾をかわしているのだ。こんな芸当はホンカネンさんやジェロムのような本物の戦場を知っている連中だけだ。何であんな子供が、とも思うが。

 さらにハーリー少年は重力光剣(レイブレード)を取り出して、アルゴス少年が撃って来る重力光拳銃(ライトハンドガン)の光弾を弾こうとする。


 いやいや、それはさすがに無理だろう。


 俺は思ったのだが、ハーリー少年の重力光剣(レイブレード)は光弾を弾く。だが、機体がぶれて弾いた光弾が自分にぶつかってしまう。


「すっご。見た、今の」

 リラは驚いたように二人の少年の戦いを指さす。

「弾いたな」

「ノイズをもっと殺せていれば、自分に当たらなかった。でも、あの継ぎ接ぎだらけの機体であそこまでノイズを殺す事自体が神業なんだけどね。良い腕してる、あの飛行技師(メカニック)の子。ロドリゴ部長以外にあんな技巧、見た事無いわ」

「へえ、あんなに小さいのに、そんな凄い?」

「そうね」

 楽しげにリラは少女の方を見る。少女はハラハラした様子で、空で戦う少年に申し訳なさそうに眺めていた。


「未来のライバルになりえるかな?」

「さあ、これでも、オルマンドさんやロドリゴ部長、ブリギッテ課長さえ不可能だった、レナード・アスターを勝たせている飛行技師(メカニック)よ。まだまだ子供に負ける程、落ちてないからね」

「うぐ」


 そう、俺の野望、ジェネラルウイングのトップ飛行士(レーサー)となって下にいるリラを引き上げるという野望は失敗に終わっていた。

 入団してから1年以上、俺は次のタイトルを取れなかった。色んな飛行技師(メカニック)がついてもツアー優勝が出来ず、良いレースはするけど勝ち切れない飛行士(レーサー)と言われた。

 スランプ状態が続き、高校最後にプロ契約が切られるという状況で、リラは担当飛行技師(メカニック)の資格をクラブ内で得て、2人で|グランドチャンピオンシップ《グラチャン》予選に出場した。

 そして、そこで再び頂点に立ち、俺は確固たる地位を手にしたのだ。


「俺が格好悪すぎる話は辞めて下さい」

「残念だったわねぇ。格好良い所、私も見たかったんだけど」

 くつくつ笑うリラ。

 俺としては、プロになって格好いい所を見せて、告白したかったのだ。だが、逆に格好いい所を見せられてしまった。

 だから、年間グレードS(グランドスラム)全制覇をして告白すると自分に願を掛けたのだ。



 俺達が雑談をしている中でも、ハーリー少年はバランスを崩して回転しながら地面に落ちてしまう。素人丸出しであった。飛行の才能が無いのがよくわかる。美しい黄金の瞳をしているが、軍用遺伝子保持者(メタリックカラー)としては天賦の才がないのかもしれない。

 ハーリー少年は重力制御輪体付靴(グラビティローラ)も付けてないのに綺麗に着地する。

 だが、それを追うようにアルゴス少年が空からハーリー少年に襲い掛かる。

 アルゴス少年の凶悪な拳が届こうとしていた。今の状態ではちょっとした怪我にもなりかねない状態になる。

 俺はまずいと思って体を乗り出そうとしたがすでに手遅れだ。


 惨劇を見ると思い顔を引きつらせるのだが、その瞬間、光の筋が閃いた。

 アルゴス少年の拳をハーリー少年の重力光剣(レイブレード)が払い、後は俺でも目で追うのが不可能だったが、一つ分かったのはアルゴス少年のポイントに光が走ったのだ。


 7連撃(セブンス・ブレイズ)


 ゲーリー・高山さんが俺に見せてくれた神業だ。俺は再びそれを目にして驚きを息をするのも忘れてしまっていた。


 ビビビビビビビーッ


 7つの点が落ちたブザーが響き渡る。


 俺は目を見開き、リラと顔を見合わせる。腕に鳥肌が立っているのが分かる。

 リラもまた驚いたように言葉を出すことも忘れて凍り付いていた。

 まさか、失われたと思っていた高山さんの技術がこの目で見る事が出来るとは思いもしなかった。


 ああ、思い出した。以前、高山道場に行った時、しょんぼりして道場の廊下で日向ぼっこをしていた少年と少女だ。高山さんのお孫さんと、カイトの師匠の娘。

 何度も血塗れになりながら、ハーリー少年は、高山さんの剣術を身につけて、アンリさえも退ける程になっていたのか。才能が無いとバカにされていたのに。


「凄い」

「ああ」

 リラがあまりの事にポツリと口にする。俺も同意する。

 ハーリー少年は数多の天才達が諦めた高山さんの剣技を再現したのだ。あの少年はしかも才能ではなく、ただ死にかけるような努力を重ねて身に付けたのだ。


 あの年齢で。

 あの小さな体で。

 ただ、お祖父ちゃんを励ましたいがために。


 だが、アルゴス少年の取り巻きがスカイリンクに入って行き、ハーリー少年に因縁を付けて来る。

 ズルをした、卑怯者、そんな声が聞こえてくる。

 ハーリー少年はパタパタと手を振って誤解を解こうとしているが、彼らはそれがズルだと疑わず一切関係ないと言わんばかり暴力を持ち出そうとしていた。


 恐らくだが、あの7連撃(セブンス・ブレイズ)を彼らは見る事が出来なかったのだろう。だが、負けたアルゴス少年は未だに愕然とした表情をしており、あの刹那に全て取られたのを自覚している。


「ちょっと、あれ、まずくない」

 リラの言葉に俺も我に返って、慌てて彼らの方へと向かう。エールダンジェで空を舞い、一気に彼らの間に入る。

 拳を振り上げるオーティの育成にいる少年たちの拳を抑え込み、ハーリー少年を守るように立つ。


「何をしている」

「何だ、テメエ!」

「邪魔するんじゃ……」

 彼らは俺に文句を言おうとして、途中で俺の事に気付いて言葉を止める。サングラスを外してしまっていたので、恐らく彼らは俺が誰なのか分かってしまったのだろう。


「プロの育成飛行士(レーサー)が、子供相手に負けたからって暴力を振るうとは情けない」

「ちがっ、卑怯な事をされたから、俺達は…」

「そうか?」

 俺はチラリと負けたアルゴス少年の方を見る。アルゴス少年は悔しそうにうつむいたままだ。そしてアルゴス少年の様子を見て、他の少年たちも言葉を継げなくなる。


「キャリアのある飛行士(レーサー)が、素人相手に負け、腹いせに文句を言って卑怯だなんだと責め立てるか!?恥を知れ!」

 俺が一喝すると少年たちはショックを受けた表情をしてうつむいてしまう。

 負けた本人であるアルゴス少年は拳を握り悔しそうにしていた。どうも取り巻きが付くだけあって、この少年は意外にもハーリー少年の剣が見えていたようだ。

 遠くから見ていた俺でさえ何とか見えたレベルだが、食らった本人は気付かなくてもおかしい程の早業だった。それを見えていたとしたらかなり集中力が高い飛行士(レーサー)なのだと思われる。


 アルゴス少年は悔しそうな顔を見せて、俺に背を向けて去って行き、ハーリー少年を殴ろうとしていた取り巻きは慌てて彼に付いて行く。


 それにしても……まさか高山さんの見せてくれた、数多の剣士たちが誰も出来ないと言わしめた七連撃(セブンス・ブレイズ)を再現する子供がエールダンジェの場で現れるとは思わなかった。

 当時、もしも、全ての光弾を重力光剣(レイブレード)で弾けて、一度の接触で全てを奪う剣術を持った飛行士(レーサー)が現れたら無敵だと思った。

 今日、その種がここに芽を出している。


「あ、あの、た、助けてくれてありがとうございます」

 飛行技師(メカニック)の少女がハーリー少年の頭を掴んで下げさせる。ハーリー少年も頭を下げるも、俺を憧れの存在でもあるかのように見上げていた。

 いや、恐らくはそうなのだろう。


 もしも俺と同じ速度域で飛べて、あの剣術をレースの場で再現出来たらどうなのだろう。


「いつか、こっちの世界においで」


 俺から咄嗟に口から出してしまった言葉は、かつてリラに声を掛けたロドリゴさんと同じような言葉だった。


 俺が客席の方へと戻ると、リラが迎えてくれる。

「なーに、格好つけてるのよ」

「そういう積もりは無いけど……。ああ、もう、俺もあっち側にいるんだなぁって思っただけ」

「そうね」

「何となく、ロドリゴさん達の気持ちがわかったよ。あの子が飛べるようになったら面白そうだ」

「将来のライバルを作ったかもしれないわよ」

「どうかな」

 俺達は笑いあってスカイリンクを出る。そして、次のステージを目指して飛ぶ事になる。俺はきっと勝っても負けてもこの世界で戦い続けるのだろう。

 果てしなき空の向こうにある世界を目指して。

 これにて最終話となります。読んでくださった方々、ありがとうございました。

 エピローグは蛇足的な感じなのでやめようかどうか考えたのですが、つけてしまいました。これがエールダンジェ本編プロローグにおけるレナード視点からの物語です。無論、本編においてハーリー少年は祖父とレナードの関係は知らないままなのですが。

 ネタバレとしては、まさにこのシーズンからレナードは無敵になり、世界最強とうたわれるようになります。

 本編を書くかどうかはともかく、このエールダンジェは元より一人ひとりの飛行士や飛行技師を掘り下げていたので、誰もが主役になれると思ってます。まあ、元々書いていた本編は三人称だったので。もしかしたら、後に本編を書くなり、他のサイドストーリーを書くなりするかもしれません。その時は是非また読んでいただけると幸いです。

 それはでまたお会いしましょう。

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