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ジェラール・ディオール

 ついに決勝戦が始まろうとする。

 カウントダウンは100秒を切り、俺達の乗る控室兼入出場口を兼ねる飛行車がレース場となる直径500メートルの斥力場で覆われているスフィアの両端に配置される。

 俺はレース場の出入場口に出て500メートル先にある、もう一方のレース場に辿り着いている飛行車の入出場口に立つ男を見る。


 身長2メートル体重90キロ、余分な脂肪を一切持たず、分厚い肉体を誇る飛行士が黒いエールダンジェを身につけて立っていた。


 ジェラール・ディオール


 現在、20歳になる飛行士(レーサー)で、一昨年度のU20の最高峰『新人王』大会で優勝した若手筆頭格。3つ年上に『黒い稲妻(ブラックライトニング)』オーガスティン・マキンワ、2つ年上に『青き星光(ブルーノヴァ)』フランコ・ドス・サントスと『軍師(ストラテジスト)』アンドレア・マルダ、そして同期に『木星の王子プリンス・オブ・ジュピター』ヨーン・クロルドルップという世界王者経験者がいる為に、出遅れていると言われている。しかし、逆を言えば、遅れて出て来る選手だという意味でもある。


『さあ、決勝戦が開始されます!超新星レナード・アスターと無冠の帝王ジェラール・ディオール。早くからその名を現しながらもこれまで頭角をあらわせなかったレナード。近い世代が早くデビューして戴冠している中で遅れて出てきた為に未だ無冠のジェラール。飛行を売りにしているレナードと戦闘を売りにしているジェラール。凡庸な才能を独自の努力で埋めたレナードと圧倒的な才能を大御所の指導により更に高めたジェラール。まさに対照的な二人の決戦となります』

『オッズはジェラール優位ですが、レナードの飛行はもはやジェラールをも上回ると思われますし、主導権を握れば何が起こるか分かりません。恐らく息をも継がせない激戦になる事が予想されます』

『この大会でレナードはその名前を一気に高めましたね』

『ですが、彼は運良く勝ったのではなく実力で制圧してますからね。ハッキリ言ってとんでもない能力を秘めていたと言わざるを得ません。例えば3年後のグレードS(グランドスラム)の決勝戦カードがこの組み合わせでも、恐らく驚かないでしょうね』

『戦闘能力に重きを置く地球に対して、飛行能力に重きを置く月としても象徴的な2人ですね』


 放送が滑らかに俺を誉めてくれるのだが、正直こそばゆい。

 そもそも俺が飛べるのはリラがいたからだ。恐らく、シルベストル氏やロドリゴさん達はリラの実力を認めているのだろう。だが、一般的な指標からするとリラは眼中にないというレベルのようだ。理由は俺が飛行技師(メカニック)の技術的寄与をあまり受けない飛行士(レーサー)だからだろう。飛行技師(メカニック)の腕の見せ所というのは一般的に曲芸や戦闘技能に使う中指から小指までの左右6本の握り方のバランスを飛行士(レーサー)の感覚に従ってコントロールする点にある。だが、俺の場合ほぼほぼ握りっ放しで飛行コントロールはボディバランスに任せている部分が大きい。


 故に、この手の放送でリラの名前が出たことはなかった。

 だから、俺が結果で示していくしかない。


 カウントダウンが10を切り、俺はレースに集中する。

 恐らくリラとのコンビは今年で解散だ。ジェネラルウイングに入れば特定の2人がコンビでやるという事は出来ない。リラは一度飛行技師(メカニック)の下っ端に落ちるので、俺がプロとして入れば、彼女が俺の担当に着くことは困難だろう。

 彼女がジェネラルウイングでプロの担当を持てる権利を得て、俺が自身の担当を自由に選べるほどの実力者にならなければならない。

 かなり長い道のりだ。


 だから、これから今年いっぱいの戦いは彼女にどれだけのたくさんの勝利(プレゼント)を渡せるかになって来る。

 俺は最高の勝利(プレゼント)を用意すべく勝ち続ける必要があるのだ。

 |グランドチャンピオンシップ《グラチャン》制覇、恐らく俺がリラと取れる最初で最後のチャンスだと思われる。だからこそ、あと8か月、死に物狂いで頂点を手に入れに行かねばならない。だから、


 今日も負けるつもりはない。


 カウントがゼロになった瞬間、互いにスタートをする。ジェラールは私とは逆に、セオリーと逆の時計回りで一気に私の飛ぶ方へと飛んで回って来る。

 当然と言えば当然で、彼は二丁拳銃スタイル。重力光盾(ライトシールド)を持っていないのだから、そもそも左肩を守る為に盾を持つ左手側を庇うようにして飛ぶ必要がないのだ。

 だが、何となくこっち側から来るだろう事は感じていた。


 ジェラールはさっそく俺のに対して擦れ違い戦(ジョスト)を狙って両手に持つ重力光拳銃(ライトハンドガン)をこちらに向けて迫って来る。

 俺は極限まで集中する。


 ジェラールは手首を柔らかくして、重力光拳銃(ライトハンドガン)の銃口を引き金を引くぎりぎりまでこちらに向けないようにして、射線をヘッドギアについているグラス越しに把握されないようにする。

 ジェロムやレオンさん、シャルル王子もそうだったが、射撃の得意な連中は当然のようにやって来る。これが恐らく世界王者クラスの射撃技能なのだろう。

 だが、今向いている銃口の向きから俺へと向けられる銃口の向きのどこでも撃てるという部分は確かにあるので、動いた瞬間射線から退避するというのは変わらない。


 さあ、来い!


 ジェラールが近づいた瞬間、高速連射が俺へと向けられる。


 右手で返しながら俺の頭へ、左手を返しながら俺の右肩を、さらに右手で撃つと同時に手首を捻って俺の胸へ、左手に握る重力光拳銃(ライトハンドガン)は腰へ向けられる。こちらが一瞬でも気を持てばそれに呼応して逆の手で想定の違う場所を狙ってくる。左右で滅多撃ちにしているのではなく、両手拳銃のコンビネーション射撃を連続で行っているのだ。

 こんな無茶苦茶な速度で、精密射撃をされたら落ちても仕方ない。ヴェスレイ、高橋、ジェロム、いずれも落ちる筈だ。

 だが、レオンさんほど手首のキレが良い訳じゃない。1つ1つをきっちり把握すれば基礎飛行で前もって動いて逃げられない訳じゃないと判断する。


 俺は擦れ違い戦(ジョスト)で右側にジェラールを避けながらも右手に持つ重力光拳銃(ライトハンドガン)で擦れ違い様に射撃する。


 ビーッ


 俺の放った光弾がジェラールの左肩に当たって、俺に得点が入る。

 まずは先制だ。


 だが、ジェラールは直に切り返して、俺を追いかけようとする。楽しげに舌なめずりをして後ろを狙ってくるようだが、俺は一気に加速してジェラールを突き放そうとする。

 だが、この男、予想以上に速い。

 いや、時速1000キロを超えてくるのは知っていたので、そう簡単に突き離せないとは予測していた。そして、後ろから射撃をしてくるので、簡単に加速しにくい状況にあり、蛇行(シザーズ)で避ける必要が生じる。

 本格的に、突き放すのが難しい。


 向こうの攻撃を飛行でかわせば、こちらの飛行を攻撃で封じて来る。互いに得意分野を潰し合うあたり、俺達の間にある能力差はほとんど存在していない事が分かる。


 だが、相手の射撃を避けながら徐々に距離が広がっていく。命中率が下がる射程圏外へと逃れると、俺は一気に加速してポジションを奪いに行く。

 無論、ジェラールは後ろを取られまいと何度も急旋回(ブレイク)をして俺の追跡を逃れようとする。

 そこでジェラールは俺の追跡が近づいた瞬間を狙って、切り返して俺の方へ向かってくる。


 敵ながら『上手い』とうなりそうな近接への誘いだ。この速度でここまで戦略的に飛べた相手を見た事が無かった。ジェラールとの2度目の擦れ違い戦(ジョスト)が発生する。

 こういう頭の使い方というのはまだまだ自分には無いものだ。さすが次代の世界王者と謳われるだけはあると感心する。


 だが、ここは集中だ!

 絶対に当たるわけにはいかない。一撃当たれば一部が吹き飛ばされて、擦れ違いが終わる一瞬までに大量の銃弾を叩きこまれる羽目になる。KOはないだろうが、数ポイント落ちる可能性は高い。


 ジェラールの連射が炸裂する。


 10発以上も飛んできた光弾を全て避けて、擦れ違って逃げ切る。だが、ジェラールの攻撃はこれで終わる雰囲気が無かった。俺は背後を見て重力光盾(ライトシールド)を構える。


 ギギイイイン


 後ろから飛んできた2発の光弾を、重力光盾(ライトシールド)で受けて左肩と頭を防御する。危なかった。


 だが、このまま攻撃されっぱなしは悔しすぎる。俺は直にジェラールの背後を取りに再び加速する。

 擦れ違い戦(ジョスト)へ持って行く切り返しには気を付けなければ。あれは多くの飛行士(レーサー)を屠って来たやり方だ。


 俺とジェラールの一進一退の攻防は中々ポイントを動かさない。最初に俺が奪ってから、互いに一切の点が取れていない。こちらのカウンターも読まれてしまえばジェラールは対処できる。


 面白い!

 俺はレオンさんとの戦いとはまた別の楽しみを感じさせる。レオンさんとは高速バトルだったが、ジェラールはかなりスリルのある攻撃を自分の飛行で避けていく必要があり、こういう異なる面白さがある事を考えた事もなかった。

 そしてジェラールもまた俺とのレースが面白いのだろう。口元に笑みを浮かべて攻撃を狙ってくる。


 ブーッ


 ハーフタイム突入のブザーが響き渡るのだった。


 俺が夢中になって飛んでいた為、時間があっという間に過ぎており、その事実に気付いていなかった。




 俺はリラのいる控場へと戻って機体調整をしてもらう。

「良かったよ。前半は多少のビハインドは覚悟してたけど、まさか勝って折り返してくるとは思わなかったわ」

 リラはそう言いながらも俺に酸素マスクを渡してくれるので、俺は酸素マスクを口に当てながら、左手の親指を上げて応える。

 リラは俺の着ているエールダンジェの外部装甲(アウターパネル)をスパナで外して、電力供給装置(エネルギーパック)にエネルギー充填をする。

 そして充填をしながらチラリとジェラール陣営の方を眺める。

 俺もそれに従ってジェラール陣営の方を見ると、ジェラールは倒れて酸素マスクを口に当てて四つん這いになって苦しそうにしていた。


「ジェラールは圧倒的火力で自分のペースを作るから、飛行能力は高くても、1点を争うような展開に慣れてないのよ。恐らく、レンはあの射撃がレオンさんやディアナさんの発展版として経験があるでしょうけど、ジェラールは多分、レン程の飛行技能を持つ相手と戦ったことがない」

 リラはきっぱりと言い切る。


 俺も長らくこういう展開が多かったので、流石に息も整ってきたので、マスクを外してリラを見る。


「そういえば、ウィリアムさんもジェロムも疲弊が激しかったね」

 ここ2戦とも、2人はぐったりして控場で倒れ込んでいた。

「レンだって、自分よりも遥かに早い相手と戦った時、ハーフタイムじゃきつかったでしょ?随分昔だけど、シャルル殿下との戦いは忘れてないでしょ?」

「ああ。なるほど。確かに………。まさか自分が向こう側になるとは」

「調整変更は必要なし。このまま続ければ、向こうが先に切れて終わる。その切れるまで、どれだけ攻撃を避け続けられるかがポイントだったのよ」

「な、なるほど」

「但し、絶対に油断はしない事。一瞬の隙で全部奪ってくるような相手だって事を忘れない。ジェラールの高速射撃は嵌れば全部奪ってくるからね」

「分かってるよ。嫌というほど見てきたからね」

「まあね」


 それにエールダンジェのウェブ雑誌などでも、近接攻撃能力トップ10だとか、曲芸飛行能力トップ10だとか評論家がし評したり、ゲームで能力がついていたりするけど、ジェラールの高速射撃の攻撃力に関しては最高評価がされている。中短距離での射撃精度と速射力は恐らくこのレースの世界ではトップだ。


 そんな相手に勝っている状況というのはちょっと驚きだ。

 だが、きっとこれからもずっとこんな毎日を過ごしていくのだろう。


 リラはエネルギー補給終了と同時にスパナで機体を締めて早々に準備を切り上げる。

「勝ってくるよ」

「当然でしょ」

 俺とリラは互いに拳を合わせて、レース場の方を見る。


 ジェラールは未だに酸素マスクを手放さず、息を整えていた。確かにつらいのは分かる。だが、それでもレースに入ってしまえばまったくペースを衰えさせた記憶がない。何より楽しくレースを飛んでいたからだ。

 ジェラールも同じタイプだと思われる。

 きっとその状況でも楽しんで飛べるだろう。油断なんて一切できない。


 ジェラールは息を整え終えたのだろう。マスクを外して、俺の方を見てニヤリと笑う。


 分かってるさ。早くやろうぜ。


 俺も自然と笑みがこぼれてしまう。目の前の男は俺と同類で、一緒にとことんまで突き詰めて遊んでくれる仲間だと感じる。こいつはきっと10年間以上、一緒にレースで遊んでくれる仲間だ。


 そう思った時、マルク・尹が息子に声を掛けた意味を理解する。

 なるほど、確かにこれは敵対意識やライバルという感覚よりは、遊び友達だという認識に近いのかもしれない。


 カウントダウンが1桁に入り、俺はエールダンジェの手袋型操縦器(コントローラ)を握る。


 カウントゼロと同時に飛行を開始する。互いにレース場へと飛びだして、中空へと舞い踊る。



 加速して俺が一気にジェラールの後ろ側にポジションを取りに行く。だが、ジェラールは体を翻して背面飛行をしながら連射してくる。

 俺はさらに加速して通りすがりながらも連射を体の向きを変えながらかわし、擦れ違い様に重力光拳銃(ライトハンドガン)で一撃を入れる。


 ブザーが響きジェラールのポイントが落ちた事が分かる。落ちたのは胸のポイントだ。



 俺が前に行くとジェラールは負けじと追いかけようとする。簡単に突き離せないのはさすがの一言だ。

 ジェラールはショートカットしながら一定距離を保ち射撃してくる。

 俺はその射撃を避けながらさらに加速して急旋回(ブレイク)で振り切って遠ざかる間際に射撃をして4発撃って、1発が右足に当たる。

 これで3点目。


 さらに畳みかけるようにジェラールの背後を取る。するとジェラールはそこで宙返り(ループ)をみせて俺の背後を奪い取る。

 時速1000キロを超える超高速の世界で宙返り(ループ)をするような飛行士(レーサー)は昔を見渡しても初見かもしれない。それ位、小細工の聞き難い速度域で戦っている。しかもジェラールは俺と違って筋肉質で大柄な飛行士(レーサー)だ。この手の小細工は苦手な筈だが見事にこなしていた。

 背後から射撃が飛んでくるが、俺は一気に加速しながら蛇行(シザーズ)で攻撃をかわしつつ、隙を見ては急旋回(ブレイク)で離脱し再びジェラールの背後を取りに向かう。

 だが、俺の方を見ずに背面へスナップだけで重力光拳銃(ライトハンドガン)を向けて射撃してくる。

 あまりに唐突だったので俺も一瞬反応が遅れる。

 重力光盾(ライトシールド)で防御をしたが、角度が悪く、盾にぶつかった光弾は威力で押し込み俺の右肩を掠める。同時にポイントのおちるブザーが響く。


 簡単には負けないという意思表示だ。


 このどこからでも攻撃してくるという姿はレオンさんには無かったが、あの背面射撃はディアナさんとの練習では経験がある。大丈夫、次は反応して見せる。


 俺は背後からさらに追い立てるように攻撃を仕掛け、ジェラールは今度は回避に集中することになる。

 だが、そこでジェラールは徐々にだが速度を下げて来る。


 俺はそこで気付いて一気に加速して抜き去り際に射撃を決める。さらに俺にポイントが入る。


 恐らく近接や自分のペースに持って行こうとしたのだろう。だが、そんな誘いには乗らない。これはリラのいう俺の『悪い癖』を誘ったのだろう。


 このペースは絶対に譲らない。ついてこいと言わんばかりに一気に加速して再び周回差を付けて背後に回り込む。


 だが、ジェラールはそこで折り返して待っていたとばかりに擦れ違い戦(ジョスト)へと入ろうとする。


 さすがの一言しか言えない。


 だが、俺もそこで逃げるつもりはない。

 ジェラールは連射をしながらも俺にぶつかるように近接を狙ってくる。俺はその連射を真正面から避けて避けて避ける。こっちも避けながらも負けじと応戦する。

 そして、一気にジェラールの正面に切り込み、ジェラールが近接に入る瞬間を見極めてレース場の斥力場ギリギリの方向へと離脱し、避け際に3連射する。


 夢中に応戦していたため、こっちもいくつか攻撃を食らっていたが、向こうにもいくつか攻撃を当てていた。ほとんど本能で射撃していて、どこに何点分当たったとか数えてなかった。


 ビビビビビビーッ


 案の定、ブザー音が大量に響く。

 するとレース場の照明が一気に明るくなりスポットライトのように焚きつけられる。


『7対4 レナード・アスターのKO勝利です!ツアーファイナル優勝者はレナード・アスターです!』


 電子音声が響き渡る。

 そして、同時に物凄い大歓声が観客席のある地面の方から湧き上がる。


 勝った?優勝?俺が?メジャーツアーで?


 紙吹雪が舞い上がり、キラキラと世界が光り輝く。



 俺は飛行を止めて周りを見渡し、自分が勝利した事を理解する。大量の拍手が響き渡り下からは俺の名を呼ぶ声も聞こえて来る。


 俺が目を丸くしているとジェラールが俺の方へとやって来る。

「楽しかった。またやろうぜ」

「え、あ。はい」

 俺達は互いに健闘をたたえ合うように握手をする。

「次は|グランドチャンピオンシップ《グラチャン》予選で会おう。今度は勝たせてもらうからな」

「あ、はい。でも次も負けません」

 互いにニヤリと微笑みながら、互いの入出場口へと向かう。


 俺が戻るとリラはハイタッチで迎えてくれる。

「まったく、もう少し危なげがあってくれないとこっちが調整で悩まなくてつまらないじゃない」

「もっとピンチになれって?あの相手はピンチだと感じた頃には負けてるって。でも、このレベルはそういう世界なんだろうな」

「そうね」

「でも一番強かったけど、一番楽しかった。レオンさんやディアナさんとはまた違ったスリルがあってね」

「知ってる。アンタ、気持ちよく飛んでると負けていても勝っていても、顔がにやけてるからね」

「え、そうなの?……あ、あー。そうかも。ジェラールもそういう顔してた。そういえば現役時代のレオンさんやカルロスさんもライバル同士であるほど楽しそうだった」

 そう、俺はカルロスさんの楽し気な姿を見れ、エアリアル・レースに興味を持ったのだ。


「きっと今日戦った相手はレンの生涯のライバルの1人なんだと思うよ」

「住んでる星が違うから、10年やっても戦えるのはグレードS(グランドスラム)くらいだし、あと40戦くらいやれるか。ワールドトーナメントを考慮すると50戦って所?それは確かに戦って飽きない相手がいてくれるのは良い事だ」

「っと、私達で話していても仕方ない。ほら、下に向けて手を振りなさい。勝利者の義務を果たさないと」

「そっか」

 エアリアル・レースは基本的にレースが終われば次のレースがあるから、終わればすぐに引っ込むのだが、ツアートーナメントの決勝だけは違う。このまま表彰に入るので表彰式の前まで、優勝者は観客へ感謝を示す時間が与えられる。



 俺が初めて優勝したグレードB(メジャーツアー)はツアーファイナルという若手の登竜門と呼ばれるレースだった。

 そしてこの日を境に、俺の世界は一気に変わった。

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