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俺が有名じゃないのはきっとそいつのせいに違いない

 俺は酸素マスクで息をしつつ、リラの機体調整を待つ。リラは俺の機体を外してエネルギ補給をしつつ、新しいプログラムを組み込んでいるようだった。


 どうにか息を整えて俺はリラを見る。

「ごめん。しくじった。ウィリアムさんが予想をはるかに超えて速かった。あれが飛行技師(メカニック)の力なの?」

「それもあるけど、実はあの速度、ウィリアムさんはあれが限界で、恐らく飛ぶだけなんだと思うよ」

「え?」

「レオンさんやレンみたいにあの速度域で射撃をするなんて無理なのよ。ただ上手く飛行でショートカットして回り込んで、あたかもレンとマトモに飛びあえるって印象を見せていただけなのよ。戦ってる時は普通のスピードで、とにかく飛んでレンを惑わせてたのよ」

「マジか?」


 すると、リラは向かいの選手控室の方を指さす。

 そこには酸素マスクを口にしたままぐったり倒れているウィリアムさんの姿があった。


「見てみなさい。向こうは限界一杯一杯の速度域で飛んでたから、レン以上に疲れてる。でも、飛行技師(メカニック)はあのエリック・シルベストルだから、レースの場ではしっかりリカバリーしてくるわよ」

「警戒しすぎたって事か。くそ」

 俺は悔しくなってタオルを地面に投げつける。


「元々、ウィリアムさんの父親は元世界王者で叔母は元女子王者、幼い頃より二人とレースをしているし、色んな駆け引きを知ってるから、頭を使わせると、レンじゃ勝つのは厳しいわよ。そして、レンは見事に向こうの術中に嵌ったって訳」

「スピードで勝てて、自分でレースをコントロール出来て戦うのが楽になっても、色んな手を使って抑え込んでくるなぁ」

「そりゃそうよ。レオンさんだって、歴代世界最速でも歴代世界最強だった訳じゃないでしょ?」

「ぬう。あと、もう一つ。途中で機体がおかしな事になった理由を教えて欲しい」

「衝撃波よ」

 俺の問いにリラは一言で答える。

「衝撃波?」

「ええ。空気弾(エアバレット)や超音速で出て来るアレ」

「何で?いつ、攻撃されたの?」

「これは私も不覚だったわ。誰も攻撃してないのよ。エールダンジェにおいて超音速で飛ぶ際に衝撃波を客席に飛ばせないために、重力制御装置によって後方に空気振動を外に広がらないように残すのよ。結果として、レンの飛んだ背後には空気弾(エアバレット)と同じような効果が起こるの。元々、空気弾(エアバレット)は超音速飛行時に残した衝撃波が由来だって聞いた事があるわ」

 リラの説明で俺は首を傾げて、そこで初めて気づく。

「つまり、俺は自分の出した衝撃波で、一周して自分が食らっていたって事?そんな事があり得るの?」

「過去に何度か事例があるっぽい。そもそも自分の出した衝撃波の減衰しきってない振動を、自分が食らうなんて発想しないわよ」

「レオンさんと戦ってた時は……いや、レオンさんは結構コースを外して……」

「恐らく、レオンさんは知ってるから自分が食らわないように飛んだせいで、レンは知らずに避けていたんだよ。これまでそれに気付かずにこの舞台に立ってしまったから…」


 俺はこの重力制御装置を使って行われる様々な現象を未だによく把握していない。超音速で飛ぶという事は過去の事例が少ないから、本来ならばもっと自分で把握してどういうリスクがあるのかも分かっているべきなのだ。だが…

「狙われたのか、俺は。経験値のなさを」


「その入れ知恵は恐らくだけど、その経験値が高い飛行技師(メカニック)でしょうね。その経験値のなさは私も一緒だからね」

「くっ」

「まあ、攻略法を教えたというよりは、ウィリアムさんは重力制御装置によって衝撃波を残留振動として後方に飛ばす事実を教わっていて、それを利用しようって思ったんでしょうね。駆け引きの上手さ、頭の回転、全部レンにないものだわ」

「すいません」

 どうせ頭がありませんよ。


「まあ、良い。6年も付き合ってる身としては、もう諦めてるから。レンは飛行で相手をねじ伏せる以外に何もできないのよ。だったら、それが出来るように分析して機体に入れるしかないんだから」

「申し訳ない」

「そしてそういう機体にしたわ。だからねじ伏せてきなさい」

 リラはコツンと俺の胸の位置を拳で軽く叩く。

 俺は試合状況の映し出されているレース場中央の空を見る。そこにはウィリアム・パルムグレンが6点、レナード・アスターが0点という結果のみが記されていた。


「こんな受け入れがたい結果、ねじ伏せに行くに決まってるじゃないか」


 このレースは俺とウィリアムさんのレースというだけではない。いわばエリック・シルベストルとリラ・ミハイロワの代理戦争だ。

 前者ならばともかく、後者であらば、絶対に引っ繰り返してやる。



 後半開始のカウントダウンが10秒を切る。

 俺はスタート台に足を掛けてカウントが小さくなっていくのを待つ。


 カウントゼロと同時に俺はフルスロットルで一気に空へと飛び出す。

 ウィリアムさんは連射するように俺の左腿のポイントを狙ってくる。俺はそれを飛行だけでかわして一気に加速して後ろへとつく。

 そこから一方的に攻撃を仕掛けようとするが、即座にウィリアムさんは速度を落として俺に並びに来る。判断も早いし、攻撃も正確。粗がほとんどない。


 だが、俺はそこで思い出すのは桜さんとのレースだ。

 桜さんは彼ほど武器が多い訳じゃないが、頭の良さと仕掛けの上手さ策略的な部分はよく似ている。


 攻撃をしながら一気に加速してウィリアムさんを振り切る。ウィリアムさんも付いて来ようとするので、そこに更に背面へと攻撃を向ける。

 想定外だったのか俺の攻撃は初めて相手の右肩を掠める。

 ブザーの音が鳴り、ポイントが入った事を示していた。


 俺は前傾姿勢のままウィリアムさんを背に抜いて行く事は左足への攻撃を受けやすい事実も存在するが、自分のペースは絶対に守ると決めて、飛行でウィリアムさんを振り切るように戦う。


 だが、リラが言うように高速飛行時には攻撃を仕掛けてこない。

 ならばと俺はさらに速く飛んで振り回しに行く。ウィリアムさんはショートカットをしながら急旋回(ブレイク)を仕掛け、俺の前を塞ぐように飛んでくる。だが、俺はそこで速度を緩めず重力光拳銃(ライトハンドガン)を握り射撃する。

 ウィリアムさんは重力光盾(ライトシールド)を使って守りに入るが、守り方が中途半端で、俺の放った射撃は左腿に当たる。そして綺麗に当たったために飛行が不安定になる。


 なるほど、いくら飛行技師(メカニック)が変わっても飛行士(レーサー)が強くなる訳じゃない。背伸びが可能になったとしてもリスクがあるという事だ。

 これで一気に俺は飛行の主導権を握れた。


 となると、相手の取れる行動は分かっている。近接狙いの特攻だ。


 だが、昔の俺と今の俺は違う。俺の速度に追いつける飛行士(レーサー)がいない以上、簡単に詰められたりはしない。


 ついては離れて射撃をして、相手が近づこうと思えば距離を取ってから一気に加速て相手の裏側の嫌なポジションを奪いに行き、こちらから近付けば中距離に入って射撃で攻撃をする。

 イン、アウトの連続で相手を翻弄する。

 もはやこうなると俺の独壇場だった。




 ビーッ


『7-6 勝者レナード・アスター!』


 俺が最後のポイントを奪って終了のブザー音と電子音声が響き渡る。大きい歓声が下の方から響き渡る。


「リラ」

「やれば出来るじゃない」

 俺は相棒とハイタッチをしてレース場を後にする。



***



 スタート台や飛行技師(メカニック)の作業場も兼ねていた飛行車が地上に降りて選手や関係者が集まるロビーへと戻る。


 俺とリラが並んでロビーを歩いていると、そこにウィリアムさんとエリック・シルベストル、そして同じ飛行技師(メカニック)服を着た学生が100人近くいて数人の大人がそれを取り仕切っている。遠足の引率に来ている先生みたいだ。


 俺がそんな事を考えているとウィリアムさんは近づいてきて握手を求めて来る。俺はそれに応えるように右手を差し出して握手をする。

「いやはや、勝てると思ったんだけどね」

 ウィリアムさんは苦笑する。

 その横でシルベストル氏もまた苦笑を見せる。

「俺が若い頃の、ただ飛行が強い奴が主導権を握ってねじ込むように勝つスタイルを今の時代でやるんだから嫌になるぜ」

「いえ、レンはそれしかできないので」

 リラは首を横に振る。


 っていうか、俺のスタイルって60年前位のスタイルなんですか?


「それを勝たせるようにレナードの攻撃を仕掛けるリズムやタイミングをしっかり把握して、確実に勝てる条件を揃えてきやがったお前の手腕はやっぱり大したものだよ。従来勝利条件は飛行士(レーサー)が揃えて、飛行技師(メカニック)はそこに合わせこむものだった。だが、お前はそれを機体に組み込んでしまって、飛行士(レーサー)は勝つしかできなくなっている。今日は楽しい会話だった」

「こちらこそ楽しかったです。まさか自分の出した制御装置で生み出した残留衝撃波に接触するなんて思いもしなくて。それに自己最高速度を200キロも更新して飛んでくるなんて想定外で」

「残留衝撃波はレオンが昔それで負けてたからな。一瞥して気付くとは思わなかったが。あれで決まったかと思ったが、さすがにそうはいかなかった。それに、ウィリアムに余裕が少なかったな。こればかりは仕方ない。勝つ為にどんな策を練るかと思えば力でねじ伏せる方向で来るとは思わなかったぜ」

「あははは…」

 シルベストル氏は飛行技師(メカニック)として語り合おうって言ったのに、そういえばリラは語り合うも何も横っ面をぶん殴るようなやり方をしたような気がする。


「だけど、それで良い。実はわざと頭を使わせようと誘っていたんだ。こっちの舞台に降りて来るようにな。だが、お前は一番勝つ可能性の高いやり方をしっかり選んだ。飛行技師(メカニック)として語ろう……って言ったからそっちに転べば面白いと思ったんだがな。引っ掛からなかったか」

「「引っ掛けだったんですか!?」」

 俺とリラは同時に呻く。ウィリアムさんも自分の所の学長を引きつりながら横目で見る。


「レナードは基本的に自分のペースでさえ飛べれば勝てる飛行士(レーサー)だ。しかもそのレベルが今じゃ世界トップクラス。つまりどれだけ自分を貫けるかが今後の課題になるだろう。そして他の飛行士(エアリアル・レーサー)はすべからくそのペースを崩しに来る」

「自分のペースかぁ」

 それが一番難しいのだ。そもそもフィロソフィア時代から、相手に付き合うなとリラによく言われて来た事だ。


「それが上手くいかなかったからレオンには色んな武器を仕込んだが、レナードは色んな武器を身に付けるセンスがなさそうだからな。飛行技師(メカニック)が支えてやれ」

「はい」

 シルベストル氏は俺の肩を叩きそしてリラを見る。リラは彼の言葉に首を縦に振る。


「良いか。レナードのスタイルってのは古来からある王道中の王道だ。小細工を必要とせず飛行だけで相手に勝利を奪うやり方。それを超える為に俺は様々な技術を生み出して勝利してきた。……確かにレナードのスタイルは時代遅れかも知れない。俺はそれを超える為に技術を作ったんだからな。だが逆にいえば、古典時代より最強の能力であり王道中の王道なのがレナードのスタイルだ。それを極めれば最強というのは今も昔も変わって無いからな」

「あぁ」

 言われてみれば古くからある基本を突き詰めたスタイルというのは、古臭いという反面で王道という事だ。それしかできなかったからというのもあるが、逆に言えばエアリアル・レースの本質をしっかり身に付けていたともいえる。


「恐らく、今の時代の真っ当な指導者や飛行技師(メカニック)と組んでたら、今のような形にはならなかっただろう。そして………俺が求めてやまなかった、組みたくても組むことのできなかった本物の王道(エアリアル・レーサー)だ。早く上に伸しあがれ。俺達に勝った実力を世界に示しに行けよ」

「「はい」」


 俺達に激励をして、シルベストル氏はウィリアムさんと一緒に去って行く。



***



「それにしても、やっぱり凄いわ、飛行技師王キング・オブ・メカニックは」

「そう?」

「ウィリアムさんがどれだけ能力を底上げされてたと思うの?人間、いきなり200キロ以上もコントロールできるようにならないわよ。レンは練習で時速1000キロクラスを飛び続けていたし、レースでは1200キロ近く出して余裕があったからね。超音速の対処が出来ればいつでも行けると思ってた。でも向こうはレース最速時速900キロもないのにいきなり時速1000キロ超よ?無理して50キロ位なら速く飛ぶ事は出来ても、3桁はないわ。本人は一頑張りの感覚が何倍にも伸びてるのよ」

「駆け引きでどうにかしないとって思ったけど、そうじゃなかったの?」

 俺は首をひねる。


「……いや、レンは基本的にその手の頭は回らないからね。駆け引き勝負は分が悪い。他の誰よりもレースで勝負をしてきて、駆け引きが上達してないんだから、レンはそれが向いてないのよ。でも現役最速のオーガスティン・マキンワやゴスタ・ホンカネン相手さえも、恐らく勝てるわ。もう、これ以外にレンが世界で戦う術はないのよ。それ以外、才能がないのはこの6年で嫌というほど分かったし」

「さいですか」

 最後に才能がないという部分で締めないで欲しい。


「でも、まさかエリック・シルベストルと戦える機会を向こうから作ってくれるとは思わなかったわ」

「リラは良いよねぇ。俺と違ってさ、ロドリゴさんや飛行技師王キング・オブ・メカニックに一目を置かれてるし」

「そう?でも、今の私がジェネラルウイングに入ったら、一番下っ端にさえなれないのよ。だから、ロドリゴさんが言うように、実績を積んで、技術を学んで、天才達と戦うつもりよ」

「シルベストルさんに保護されちゃダメなの?」

 楽な道を作ってくれるというのだからそれに乗ればいいのにと思ってしまう。


「それも一つの方法かもしれないけどさ、誰かに道を作ってみらって歩くのは私の趣味じゃない。自分で道を作るんだ。だって……飛行技師王キング・オブ・メカニックは、誰かに助けられて世界を変えたわけじゃないんだから。だから、私は、それが出来て、きっと初めてあの人に胸を張って、肩を並べられる」

 胸は張らなくても随分出ているじゃないか、なんて思ったけど、それを言ったら殺されかねないので口にはしない。


「俺も、こう、リラみたいに大物とかに認められたいなぁ」

「どんな大物だよ。レオンさんには認められてるでしょ?それともカルロスさんみたいな現役?」

「いや、そもそも眼中にさえ入れてもらえないじゃん。せめて、父さんが中学の頃のレオンさんみたいな存在に、ライバル視されたりしてみたい」

「あー」

 リラは呆れるように俺を見る。酷い奴だ。


「そうね。レンは知らないだろうけど、月の後期中学生に凄い大物がいるわよ」

「マジで?ベンジャミンより上?」

「上よ。前半でKO勝利した事もある大物」

「そんな奴がいたなんて!」

「実績はあったけど、スターダムにのし上がったのは最近ね。若干12歳でプロライセンス取得、13歳でプロランキングを手に入れ、15歳にはメジャーツアー本選で勝利しているわ。今年に入って無敗。アンダー世代の優勝者やファイナリストを悉く下しているのよ」

 リラは真面目な顔で説明をする。


 俺と同年代でそこまで能力のある奴がいたのは初耳だ。どうりで俺が目立たなかった訳だ。悔しすぎ

る!

 何者かは知らないが、呪い殺してやりたい気分だ。俺がちやほやされないのはそいつのせいだ。リア充は爆ぜてしまえ。呪われろー、呪われろー。


「何者…………なの?俺が有名じゃないのはきっとそいつのせいに違いない。呪いをかけてやる。いや、既にもう掛けた」

 リラはスッと指を立てて俺の背後の方を差す。まさか、この大会に参加していたのか?俺は後ろを見るが、そこには誰もいない。


「自分のキャリアを忘れたの?しかも自分を呪っちゃったの?」

「…………はっ、俺?………言われてみれば俺の経歴そのままだ!俺すげえ!」

「気付けよ」

 リラが凄く冷たい視線で俺を見ていた。うん、これは甘んじて受け入れよう。

 結構、俺って凄かったんだ。知らなかった。


「もう近い年代にレンの敵はいないのよ。月最強の若手なんて眼中になかったでしょ?」

「そうだったのかぁ。知らないうちに俺は月最強の若手になっていたのかぁ………」

「レンは気付いてないだろうけど、もう私達の敵はジェラールや若い世界王者達くらいしかいないのよ。レンの憧れのカルロスさんだっけ?もうあと一歩で戦えるところに来てるよ。向こうが引退しなければ、だけどね」

「!」

 そうか、確かに若い世界王者達は互いに何度も勝ったり負けたりしていて戦国時代真っただ中、そこにホンカネンが現れて一強と強力な選手がたくさんという形を形成したが、その強力な選手がたくさんという場所に参入可能な領域へ足を踏み入れようとしていたのか。


「でも、その前にアンダー世代で勝ち抜かないとね。木星はめぼしい選手がいないけど、地球最強ならヴェスレイ、月ならパウルス・クラウゼ。そいつらには勝ったわ。そして火星最強は…」

「明日のレースだね」


 ワイルドアームズのメンバーを率いて去って行くジェロムを一瞥する。ジェロムもまた歩きながら俺を一瞥する。

 互いの視線が交錯する。もう次のレースは俺とジェロムの勝負だ。前回は負けたが、今回の直接勝負は負ける予定はない。


「体調的には戦えるよ」

 俺はリラに断言する。

「ともあれ、今の所、私達はジェロムに2連敗だからね。しかもワイルドアームズ所属前の、飛行技師(メカニック)不在のジェロムとね。だから、ここで勝利して、アンダー世代最強の肩書を持って、無冠の怪物に挑むわよ」

「ジェロムとは互いに知り尽くしている部分もあるし、絶対に勝つよ」


 俺達が話していると、レースモニター付近がウオオオオオオオオオオオオッと大きく盛り上がる。

 何があったかと見てみると、今日の最終レースが行われていた。ジェラール・ディオールと高橋疾風の一戦だ。


 今の盛り上がりはどうも高橋さんがジェラールの懐まで潜り込んで一撃を決めた盛り上がりらしい。だが、懐に飛び込む前に強烈な光弾の嵐によってかなりダメージを受けているようだ。高橋さんは右足以外全てのポイントを落しており、ジェラールは胸に一撃を食らっただけ、ただしあの弾幕を掻い潜った事は評価できるかもしれない。

 そのまま高橋さんは併走戦(デュエル)となって一気に近接戦闘でポイントを奪いに行こうとするのだが、ジェラールはどうやら近接も得意らしい。

 高橋さんの第二撃をかわし、彼の胸に頭をつけて両手で両脇を抱きかかえる。これによって攻撃を封じてしまったのだ。


「上手い」


 さらにジェラールはカウンターで逆に踏み込んで左膝蹴りを放つ。


 ビーッ


『7-1 ジェラール・ディオールのKO勝利です』

 電子音声が響き渡り、溜息のような歓声が響く。


「年代最強の近接も対処するのか、あの怪物は」

「まあ、俺はあの距離に入る予定は無いけど……。重力光剣(レイブレード)対応にああいう方法があるとは思わなかった。あの態勢だと攻撃食らいにくいよね。ボクシングのクリンチと同じだ」

「そうね。でも、レンは軽いから多分、簡単に振りほどかれて、更にボコボコにされるわよ?」

「おおおお」

「ジェラールは身長2メートルで格闘家みたいな体格だから、基本、馬力の強い機体を使ってるからね」

「うぐ」

「馬力をあげる方向で出力を出すと、ノイズが走って、超音速に行かないからね?レンにはレンのスタイルがあるし、一概に真似すれば良いって訳じゃないから」

「分かってるよ」

「分かってるなら良い」

 グレードBレース(メジャーツアー)ベスト4に辿り着いている。もうグレードS(グランドスラム)出場まであと一歩。俺らのU20の年代では敵はほとんどいない状況だ。これを越えれば世界王者経験者達が射程に入る。

 それにジェラール・ディオールは確かに世界王者に最も近いと呼ばれているとは聞いていたけど……


「それにあまり負ける気はしてないんだ」


 俺の言葉にリラの方が唖然としていた。

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