ウィリアム・パルムグレン
そしてやって来るのはツアーファイナル2回戦。
若手のホープ『ウィリアム・パルムグレン』を相手に戦う事になる。
「空気弾もあるから超音速は危ないって事でしょ?とはいえ最高速領域で振り切れないと近接にはまる。せめて併走戦でなく擦れ違い戦なら……………。でも……相手の能力が読みにくいな」
これまでのウィリアム・パルムグレン単体で考えるなら、実はそこまで手強いとは思ってなかった。ヴェスレイ・尹よりも実力的には劣る筈だ。飛行技師がエリック・シルベスルというだけで、色んな能力が水増しされてしまい、どこまで強くなるのか読めないのだ。
「何ていうか厄介だな。これがエリック・シルベストルという飛行技師をもった飛行士と戦うって事なのか」
「そこまで考える必要はないわよ。基本、飛行能力は勝ってるから、ある意味でいつも通りで良い筈。どちらにしてもいつも通りの戦いをする際に、空気弾やら幻影攻撃をして来るけど、重要なのは今までで一番堅い相手ね」
「メンドクセー」
「レンの得意な事を塞ぎに来るはずだから、無視していつも通り飛びなさい」
「空気弾は超音速飛行の邪魔になるけど」
俺も理屈は分からないのだが、どうにも超音速で発生している衝撃波と空気弾で発生している衝撃波がぶつかると、色々と厄介らしい。よくわからんが。
リラが説明するには、衝撃波は超音速時に発生するものだとか。
客席に衝撃波を飛ばすのは規定外らしいので、俺の場合は飛行で生じる衝撃波を重力制御装置で全て飛行後方へ逃がすようにしているのだそうだ。だが、空気弾は拳を振る際に音より遅くても仮想的に重力制御装置によって空気を圧縮膨張させて、衝撃波を対戦相手へ打ち出すらしい。
つまる所、俺は重力制御装置で外に出さないようにしている為、衝撃波から無防備らしい。通常であればエールダンジェの飛行時には、斥力フィールドで様々な外圧を守るように出来ているのだが、衝撃波のような波動を緩和できにくい調整らしく、もろに食らってしまうそうだ。
「でも、別に威力が大きいだけで、射程範囲が広い訳じゃないから、喰らわなければいいのよ。レンは経験あるでしょ。重力光砲を何発も撃てると思えば良いわけ」
重力光砲、盾を飲み込むような攻撃で一度に複数のポイントを奪う武器だ。近年はエネルギー消費が激しすぎて使われないが、昔は使われた時代もあったとか。フィロソフィアカジノ時代は苦労したのは苦い記憶とともにある。
「それ、何気にハードル高いから。いくらその経験は何度かあっても、厳しい事には変わらないから」
「そう?超音速の空気弾は初めての事でパニクったけど、いつも以上に早く飛べるのよ?重力光砲かわすつもりでレースに出ているなら、基本的に問題ない筈じゃない?」
「そ、そう言われると…………だが、しかし。むむむむ。確かに重力光砲最初から避けるつもりでやっているし。でも銃口向けられるわけじゃ、いや、あれよりも有効距離は短いから対処は難しくはない筈。あれ、意外といける?」
「そう。絶対に食らわなければ超音速を諦める必要はないって考えれば良いのよ。弱気になり過ぎたわ。きっとあのレース、勝ったものの向こうさんはかなり追い上げたししてやったりって感じだったかもしれないわね」
「むう」
「二度目の失敗はないわ」
「でも、どうしてヴェスレイの時は超音速禁止にしたの?」
「うぐ」
俺の疑問にリラは思い切り顔を引きつらせる。
「ま、まさか、ミスった訳じゃないよね?」
リラはそそくさと目をそらす。この女、思い切り自分のミスを無かった事にするつもりだ。
「貸し一つだからな」
「くっ……あれは借りた事にならないわよ」
「何故に!?」
「大体、よく考えたら、アンタは私が飛行技師じゃないと勝てないんだから、私がアンタに貸すなんてありえない事よ。最終的には勝ったわけだしね。うん、私は悪くない」
卑怯すぎる。
その内、俺が他の飛行技師と組んで勝てたら、まとめて清算してもらおうじゃないか。
そして俺達は再びツアーファイナルの舞台となるスタジアム『ジャック・インバネス』の2回戦に出場するため、作業用飛行車へ乗る。このスタジアムは飛行車が入出場口なので、そこからでなければならないのだ。
空の上ではすでに2回戦第1試合が行われていた。
2回戦第1試合は第2シードのジェロム・クレベルソンが登場している。
だが、対戦相手はそれ以上に前評判の高い神明通信の若手飛行士だ。ヴェスレイ・尹やジェロム・クレベルソン同様に今シーズンの秋の団体戦に出場して優勝している。神明通信はヴェスレイの所属する五星とライバルクラブで、地球の三大リーグと呼ばれるアジア・リーグの優勝クラブだ。ちなみに五星は2位だったのでかなり高いポイントが手に入っている。
ジェロムは火星の王者ゴスタ・ホンカネンの所属するワイルドアームズの団体戦に出て優勝しており、実のところプロランキングがすんごい事になっている。
「何が若手の登竜門だ。プロリーグ出ている奴は出て来るな」
「上位は大体そんな感じよね。そもそもポイント的においしいのよ、ここ。レース間隔がハードだけど、たった2節分の日程に出場して、全部勝てば1240点もプロランキングが入るのよ。これ、同時期に行われる月の最大の個人リーグ『ムーン・エールダンジェ・リーグ』で5位に入るより点数高いから」
「言われてみれば」
「ツアーファイナルに出られれば、大体、メジャーツアーに出場可能なランキングまで上がるのよ。だから登竜門な訳、OK?」
なるほど。
だが、登竜門にする必要もなく、団体リーグで優勝して、その目標ポイントを稼いでいる奴らが出ているのだが。
既に登ってる奴らがここに出るのはずるいと思う。
そんな事を思いながらも俺はレースを観戦していた。
ジェロムはかなり苦戦をしているようだった。
相手は近接系でぐいぐいと攻め込んでくる。基礎飛行能力が高く、ジェロムとの距離を簡単に詰めて攻撃を仕掛けて来るのだ。さすがは名門クラブの団体レギュラー。だが、ジェロムも同じ名門の団体レギュラーだ。
ジェロムは遠距離に逃げようとするが、相手は好位置をつけて追い回す。
ジェロムはついに追いつかれて、逃げ切れないような危機に瀕する。
ジェロムは切り返して擦れ違い戦で対戦相手の背後に逃げようとする。無論、近接戦闘は免れない。ジェロムは俺よりも近接は得意だが、レースの中では上手い部類ではない。対戦相手はそも近接が得意なのでジェロムにとっては最悪のシチュエーションだろう。
対戦相手の体が大きくぶれる。
幻影攻撃だ。
ジェロムがついに捕まるかと思った瞬間だった。
ジェロムの放った三連射した光の弾丸がぶれている相手を吹き飛ばす。
「!」
俺とリラも思い切り乗り出してしまう。
対戦相手の幻影攻撃を弾丸によって中断させたジェロムは、さらにバランスを崩した相手に光の弾丸を叩きこむ。1対3でビハインドしていた状況が、相手が追い込んだと思った瞬間、逆にジェロムが相手を追い詰める。4発の光弾が的確に当たり5対3に逆転する。
さらにジェロムは相手がバランスを崩している隙をついて距離を開けると重力光拳銃から重力光狙撃銃へと切り替える。
相手の方を向いた状態で飛行しながら銃口を対戦相手に狙いを付ける。
対戦相手は距離を詰めて攻撃に転じようとするのだが、ジェロムは指を掛けず、銃口をユラユラと揺らして相手に照準を読ませない。
とはいえ、対戦相手は残ったポイントは二つだけ。右肩と頭の2ポイントだ。
一つの盾できっちりと守りながら一気にジェロムへと迫ろうと速度を速める。
ドドドンッ
ジェロムが3度引き金を続けざまに引く。
ビビーッ
『7対3 ジェロム・クレベルソン選手のKO勝利です』
電子音声によりジェロムの勝利が告げられる。
リラは思い切り引きつった顔をしていた。
俺も同じような顔をしているだろう。以前戦った時以上に高速飛行時の射撃技能が上がっている。よく考えれば、以前戦った時は飛行技師がいなかったが、今回は名門クラブの飛行技師だ。
そりゃ、変わってきて当然だ。
「最後、分かった?」
リラは俺に尋ねて来る。
「鳥肌が立った。ジェロムが狙ったのは左肘だ」
俺の言葉にリラは目を細める。慌ててモバイル端末で状況を確認しようと、レース動画のリプレイをしようと巻き戻していた。
「左肘に当てて、一瞬空いた頭を狙撃、頭を撃ちぬかれた事でバランスを崩したのか、左肩を空けた瞬間をさらに狙撃。威力の強い重力光拳銃で相手のバランスを崩すのは見た事があるけど、あの重力光狙撃銃はさして威力は無かった。本当にピンポイントに体をずらす為だけに左ひじを撃ち抜いたんだ」
「狙撃の為だけに生み出された遺伝子って聞いてたけど、改めてあれは脅威ね」
リラは額の汗をぬぐいながらぼやく。
「どこからでも点数を狙えるから一瞬の油断が命取り。ぶっちゃけ、一番疲れる相手なんだよなぁ」
「なのよね。ジェロムは特に集中力が少しでも欠いたら厄介な相手だしね。多分、100%集中力を切らせない状況のレンなら勝てる相手だと思うけど。一瞬でも集中力が欠くような事があれば勝てない相手よね。レースの舞台では一番厄介よ」
「息継ぎを覚えろとは言われたものの、ジェロムに関してはこの息を抜くタイミングが全くないからな。400メートル離れてても、ほとんどよそ見をしていても的確に当てて来るし。見ての通り左肩だけが残っても、そこを狙撃でこじ開けてくるし」
決勝の最右翼はジェラール・ディオール、準決勝はジェロムが決めてきて、ベスト8ではこれからパルムグレン二世と戦う。
しかもパルムグレンに至っては飛行技師が飛行技師王というおまけつきだ。
「これ、普通にコロニーツアーで疲れを抱えて勝ち上がらなくてもやばすぎね?」
俺はチラリとリラを見る。
「何でやばいって言ってるのに楽しげな顔しているのよ」
「は?」
たのしげ?
いったい何のことだろう?
「…アンタって結構、そういうところあるよね。やばい時の方が楽しそうにしてる。ロドリゴさんやレオンさん、ディアナさんも言ってたけど……レンの才能って、頭で厄介だと思っていても、本能はその厄介ごとを楽しんでる部分よね。対戦相手が強い程、楽しそうだもの」
「んー、あんまり自覚無いんだよなぁ」
俺は自分の顔を触ってみるが、よく分からない。にやけてたのだろうか?
「とはいえ、向こうさんはリラと戦う為に、俺達の居る舞台にまで下りてきたんだろう?未来の世界一としてビシッと良い所を見せようぜ」
俺は反対側の巨大な飛行技師作業所のある飛行車の中でたくさんいる飛行技師達に指示を出しているエリック・シルベストルを見る。
「そうね。私はあの人に勝ちたい」
リラはあの大物にさえにも認められたのだ。
俺は技術とか飛行技師の事はよく分からない。でも、あのエリック・シルベストルやロドリゴ・ペレイラといった世界でもトップ5に入る飛行技師から見ると、リラのやり方は独特で、彼らの理屈と異なる視点でありながら、彼らに比肩しうる何かがあるのだろう。
故にこそ彼らはリラを認めていた。
俺達はもうここまで来たんだ。俺は誰よりも速く飛べるようになったし、リラは天上の住人たちに一目を置かれるほどになった。
「あとは最強の座を手に入れるだけなんだよな」
「うん。私達はもう夢を語るだけじゃなくて、夢を現実にできる可能性がある舞台にまで来てるんだ。やってやろう」
俺とリラは互いに並びながら拳をぶつけ合い、次のレースへと向かう。
***
『さあ、本日、ツアーファイナル準々決勝第2試合目のカードはこちら!バーミリオン運輸からスポンサードを受けている飛行士レナード・アスターと飛行技師リラ・ミハイロワの登場です!対するはエリック・シルベストル・エールダンジェ学園から支援を受けて出場した飛行士ウィリアム・パルムグレン!飛行技師はなんと学長自らが登場しましたエリック・シルベストル御大です!』
すさまじい盛り上がりを見せる。
『オッズはほぼ互角です。注目すべきはレナード・アスター。最年少プロだった頃はパッとした成績を残せないでいましたが、今年に入ってからの躍進はもはやマグレとは言わせないだけの説得力を見せています。飛行スタイルは機体同様にかつての天才レオン・シーフォを彷彿させる姿は正にレオンの若き頃の二つ名『超音速の王3世』の次なる後継者と言えるでしょう!』
『対するはパルムグレンJr!叔母のマクギーティを彷彿させる軽快な飛行と、父パルムグレンの堅固な守備と巧みな重力光剣捌きを継承するエアリアル・レース界のサラブレッドです!』
『そして、その背後に立つのはパルムグレンJrの通う学園の学長エリック・シルベストルです!数年前にジェラール・ディオールがプロになる前に、一時復帰した事もありますが、本大会ではツアーファイナルから参戦しております!かつてこの世界を震撼させた本物の伝説は衰えを一切見せずに飛行士を最強に仕立てます。未来の世界王者を何度も誕生させてきた飛行士の登竜門に相応しい一戦が、今始まります!』
なんとも仰々しい放送が流れ、多くの観客が盛り上がっていた。
それにしても『超音速の王』の後継者ねぇ。もしも父さんが生きてたら大興奮だな。まさか我が子が、そんな風に呼ばれるような飛行士になるとは夢にも思わなかっただろう。
とはいえ、気に掛かるのはリラの紹介がスルーされている事だ。勿論、この手の放送は飛行技師はスルーされるので、シルベストル氏が特別という事もあるのだが。
俺が気になったようにリラを見ると、リラは肩を竦める。
「別に気にしてないわよ?」
「自分の紹介が無い事に?」
「元より、私は、飛行士を勝たせるだけよ。逆に言えば、勝てない飛行士が勝てるようになり、世間に勝てる飛行士だと思わせる事が私の理想。そういう意味じゃ、こうしてあのサラブレッドと対等の評価を受けるようになってる凡人がいる状況は、私の目指していた理想に限りなく近づいている証拠でもあるのだから」
「そうなの?」
「そうなの」
「じゃあ、俺は世界中から最強だって思われるまで、戦い続けないといけないのかぁ。なんだかハードルがめちゃくちゃ上がってるんですけど」
俺は隣の傲慢な飛行技師の言葉に対して呆れるようにぼやく。
すると大きい歓声の中、リラは小さくボソリと口にする。
「というか、当たり前のようにどこまでも付き合ってくれるアンタに、私が傲慢だのと言われたくもないんだけどね……」
だが俺の耳には歓声が大きくて、リラの言葉が聞こえなかった。
「何か言った?」
「何も。さあ、カウントは30秒を切ったわ。私は下がるから」
「ああ。勝ってくるよ」
対戦相手は手強い。相手は世界王者の子供で、機体は歴史上最高の飛行技師の調整を受けていて、何よりも……俺の事を一切侮っていないのだ。
大体、俺と対戦する相手は、初見は侮っている事が多く、そこでポイントを稼いでそのまま押し切れたのだ。
ジェロムに負け続けていたのも、ジェロムが俺を最大限に警戒していたからに過ぎない。
恐らく目の前の好青年は俺を警戒するだろう。どうやって打開するかがポイントとなる筈。
俺とウィリアムさんの目が合う。彼は楽しげに微笑む。
楽しみにしていたというのは本当なのだろう。ならば、それに応えて見せようじゃないか。
カウントダウンは10を切り、花火のように光が広がって数字がスタジアム上空に描かれる。
3…………2…………1…………
ゼロと同時に俺達は光の翼を広げて宙を舞う。
俺は一気に加速して、光弾を避けながら、ウィリアムさんの後ろにつく。
向こうは急減速をして一気に近接を狙ってくるが、俺はそのままさらに加速して距離を取りながら擦れ違い様に射撃をする。
ウィリアムさんは下半身の攻撃を避けつつ、上半身は重力光盾で巧みに防御する。
さすがにディフェンスは上手い。
俺はそこからさらに加速して振り切ろうとするのだが、そこでウィリアムさんも加速して付いてくる。
「!?」
彼の最高速度は時速900キロにも満たない筈だ。対する俺の最高時速は1400キロに達する。流石に常時その速度で飛ぶのは機体性能上厳しいが、時速1100キロまで加速すれば一瞬で振り切れるという算段だった。
だが、彼はついて来ていた。
しまったと思ったのは直だった。彼は俺に一気に併走して近づいてくる。そこから俺は慌てて加速をやめて急旋回で併走から逃げる。
逃げる俺の頭を叩くように回り込んでくるのはウィリアムさん。さすがに戦術面は高度過ぎる。互いに重力光拳銃の撃ち合いになって擦れ違う。超高速擦れ違い戦だったので、さすがに互いに照準が合わずにポイントのやり取りは無かったが、かなりやばかった。
俺が逃げたと思っていると、即座にウィリアムさんはついてくる。信じられない思いだった。どうしてそれが出来るのかと尋ねたかった。
今まで超高速飛行出来る事をレースで隠していたとは思えない。
だとすれば…
俺は飛行中に視線の端に一人の男が目に入り畏れを感じる。エリック・シルベストルのマジックが俺に牙をむいたのだ。
俺の速度域に堂々と踏み込んでくるウィリアムさんは、俺に食いついてくる。超音速に入ろうとしてもショートカットして近接戦闘を狙って俺の飛行経路を邪魔し、俺の速度を塞いでくる。
「くっ」
俺の前を塞がれ速度を抑え込んでくる。
この時点で気付いてきたが、この人は飛行合戦の駆け引きが上手いのだ。しかも曲芸飛行抜きで堂々と俺と駆け引きをして上回って来る。
そしてウィリアムさんの重力光拳銃が火を噴く。
息継ぎのタイミングをしくじり、一瞬の隙を穿たれた。俺の前方から右肩のポイントに光弾がかすめる。
「くそっ」
俺は負けじとさらにアクセルを握りこむ。加速してウィリアムさんを追い抜きにかかる。スピードで負けるのは我慢ならない。俺が並ぼうとするとウィリアムさんは併走戦を仕掛けようとするので、重力光拳銃を連射してポイントを奪いに行くが、ウィリアムさんはそこを減速して逃げる。だがこうなれば俺は一気に追い抜いて周回遅れで再び背後を狙うだけだ。
そこからウィリアムさんはさらに加速して俺に追いつこうと張り合いに行く。だが俺はそれを振り切ってさらに加速する。超音速の領域に入るのだが、ウィリアムさんはその斜め後方で追いすがろうとする。
競技場を駆け回り、俺はウィリアムさんを振り切って背後に回り込もうとする。
良いポジションを取れた。
ここからが俺の攻撃だと確信した瞬間だった。
甲高い音と不規則な振動が俺を襲い、一気に落下しそうになる。
ゾワッと背筋を凍らせる。これはやばい奴だと一瞬で青ざめ、体が硬直する。だがそこでいきなり浮遊感が体を包み込み重力落下する感覚から救ってくれる。大量の冷たい汗が体を伝う。
そして俺が原因不明の飛行ミスによるパニックを起こしていた瞬間、ウィリアムさんはそれを狙っていたように攻撃を仕掛けて来る。重力光拳銃で射撃をして俺の右足のポイントを撃ちぬく。
バランスを一瞬崩したのを見計らったかのように、速度を急激に緩めて後ろでバタついた俺に並んでそのまま併走戦へと持って行こうとする。
俺は慌てて逃げようとするのだが、遅かった。
ウィリアムさんは重力光盾で俺に体当たりを仕掛けて俺を壁際の斥力壁に叩きつけたのだ。
ビビビーッ
やばい!これは昔から何度もKOされてきたパターンだ!
壁に叩きつけられた俺は勢いに負けて背中を斥力フィールドに叩きつけられ、頭、胸、腰のポイントを一気に落とす。
ウィリアムさんは更に俺を抑え込んだまま、右手に持つ重力光拳銃をホルスターにしまい、そこから重力光剣に一瞬で切り替えて残りのポイントを奪いに来る。
負けてたまるか!
俺は強く握って無理矢理体を斥力場にこすり付けながら上方へと拭きとっばせる。
ビビーッ
自爆のようにポイントが落ちる音が聞こえたがそこから逃げる方が先だった。
俺は逃亡をしながら自分のポイント状況をヘッドギアで確認する。元々落ちていた右肩、頭、胸、腰だけにとどまらず、右腿と左肩が落ちていた。逃げる時に左肩を斥力フィールドに擦り付けたように感じたが、やはり落としていたようだ。
落ちたポイントはかなり深刻だったが、あのまま抑え込まれたらKOは必至。負けるよりはましと割り切って、俺はウィリアムさんから距離を取る。
そして、逃亡から再び相手の背後を奪いに行く。
そもそも腿のポイントが無防備なのは飛行で背後を取られるから。腿のポイントが残るのは、決して悪い事じゃない。何より左腿はまだ動かせば重力光盾でも守れる位置だ。
ブーッ
何度となくポジション争いを続けたが結局主導権を握り切れないまま前半が終了する。
俺は相棒のいる場所へと戻る。




