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やはり夢だったのか

 桜の刺繍がはいった白いワンピースを着たリラは、涼しい森林の中を優雅に歩く。

 湖や草原、静かな森林に囲まれた美しき幻想空間が俺達をいざなう。

 森の近くにはたくさんのコテージがあり、小川や湖の近くではバーベキューやキャンプファイヤーなどが行われている様が見える。

 朝には鳥の囀りが、夜の小川には蛍の舞い、その隣にはいつも最愛の女性が隣で手を繋ぎ一緒に歩いていた。


 何だろう。夢を見ているのだろうか?

 まるでこれでは恋人同士がデートをしているようではないか。


 マリンレーサーズカップ以降、記憶がかなり薄ぼんやりしていた。レースのスパンが短すぎて、限界を迎えているような気がする。だが、それでもレースは行われる。


 気付けば、次の瞬間には空を飛んで森の中を駆けまわって対戦相手と銃撃戦を繰り広げる。

 相手の攻撃をかわし、木々にぶつからないように蛇行(シザーズ)して、相手を追い詰めて攻撃をしかける。

 中々、攻撃が当たらない。射撃の狙いと集中がかみ合ってない感じだ。


「あれ?」


 さっきまで銃撃戦をしていた筈なのに、目を覚ませば俺はリラの膝の上で寝ていた。


 ひ、膝枕である。


 川辺にある大きな岩畳の上に座るリラの膝の上に俺は頭を置いて寝ている。天使のような優しさで俺の頭を撫でてほほ笑む。


 こんな人生があったのだろうか?

 ああ、でもこれは夢かも知れない。


 だが、そんな夢は簡単に消える。気付けば再び空を飛んでいた。湖の上を襲い掛かって来る飛行士(レーサー)を相手に飛行でかわして射撃を放つ。それでも相手は俺に迫って来る。

 一瞬の判断をミスして、ぶん殴られると思った瞬間、また次のシーンへと移る。


 目を覚ますと今度は遊園地だった。

 俺とリラは二人で観覧車に乗って夜景を眺める。

「綺麗ね」

「凄い所まで来たなぁ。そして結構怖いです」

「知ってる。チョイス間違えたね」

「エールダンジェ着てればよかった」

「遊園地でエールダンジェ着るの?」

「怖くないし」

「レン、らしいわね」

 穏やかで優しい時間が流れる。


 と思えば、いきなり俺は目を覚ませば空を飛んでいた。相手が誰とか考える暇もなく、観覧車の隙間を縫って飛び、相手を追いかけて銃撃を炸裂させる。

 相手はそこから一気に急降下してコーヒーカップが回る場所を通り抜けメリーゴーランドの馬と馬車の間を通り抜ける。俺は更に加速して、対戦相手に追従し射撃を放つ。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああっ」


 だが、驚くべきことに俺は何故か敵を倒したと思った瞬間に場面が飛んで、ジェットコースターに乗っていた。安全ベルトを必死に握りしめて悲鳴を上げていた。


 まるで何もかもが切り取られたように次から次へとシーンが飛ぶ。


 森でリラとデートして、森で敵と戦って、リラと一緒にデートして、遊園地で敵と戦って、遊園地で遊んで、まるで走馬燈のように思い出が切り取られるように進む。


 夢なのか現実なのか、俺の中でも曖昧だった。


 ビーッ

『2対0勝者レナード・アスター』

 電子音声が響く。


 俺は空を飛んで、中世ヨーロッパのお城のような場所に到着してそのままぶっ倒れる。

 ああ、何かよく分からない。一体、現実なのか夢なのか、今自分はどこにいるのか。コロニーツアーの途中だった筈なのに、俺は何故か現実感の無い世界でふわふわとしていた。


 意識が消えそうになる俺に優しい声が耳元でささやかれる。


「レン。よく頑張ったね。これはご褒美。私の初めてなんだからね」


 チュッという音と、柔らかい感触が俺の頬を伝う。



***



「はっ!」


 俺が目を覚ましたら、そこは宇宙船だった。

 駆動音と何かが流れるような流動音が小さく響き、外部モニターはきらめく速度で宇宙の星々が流れている。


「あ、レン、やっと起きたか?」

 俺がムクリと起きると、近くにいたジェロムが声を掛けてくる。

「よう。………あれ、リラは?」

 周りを見渡すがジェロムが近くの寝台で転がっているだけだった。

「そりゃ、居る訳ないだろ。女子は女子用のカプセルで寝てる」

 なるほど、男女別々か。そりゃ、そうだ。男女でモソモソ何かやってたらさすがに宇宙船じゃまずいだろ。

 っていうか、何で宇宙船にいるんだっけ?そこで俺の頭に掛かったもやもやが晴れていくような感じがして、一瞬にして覚醒する。


「む?はっ!い、今、いつだ!?そうだ、俺……あれ、何でここに?」

「お前、それ何度目だよ」

「いや、だって。ほら。レース!レースに出なきゃ」

 立ち上がって走ろうとするが、そもそもどこへ行けばいいんだ?

「いや、だから終わったって」

「……………お、終わった?」

「おう。終わった。コロニーツアー60戦終了おめでとう」


 ジェロムの言葉に俺はフリーズする。


 60戦終了?意味が分からない。


 ちょっと待て。俺は確か高橋と戦おうとして、島の上に立っていた筈だ。世界最強の近接戦闘能力者との戦いは目前だった。

 だが、そのレース結果を覚えていない。


 俺に何が起こったというのか?まさかレース中に倒れて、そのまま寝てたのか?しかも2週間くらい?


 やばいやばいやばい!


 これはリラに殺されるパターンだ。一気に冷たい汗が体中に噴き出す。


「大丈夫か、レン?」

「え、あー。うん。大丈夫?的な?」

「大丈夫そうに見えないが。ほら、お前の相棒ミハイロワさん、心配してたぜ」

「し、心配?……殺そうとしてたんじゃなくて?」

「お前らの関係ってどうなってんだ?」

 ジェロムはものすごく引きつった顔で俺に尋ねる。どうと問われても困るのだが。


「負けたら棄権させるって言ってたけど、お前がフラフラしながらも負けなかったからさ。結局60戦きっちり戦って、暫くは寝かせようって感じだったし」

「60戦?俺、戦ったの!?めちゃくちゃ覚えてねえよ!」

「まあな。というかマリンレーサーズカップが終わってから、お前寝てはレースして、ミハイロワさんと息抜きの散歩してはレースして、どうにかリフレッシュさせようとしてたけど、ずーっと心ここにあらずで飯もまともに食えずにいたからな。食事中に顔面から卵焼きにダイブした時はさすがに笑ったけど」

「覚えがなさすぎる。いや、待てよ。俺が覚えてないだけでジェロムが俺を貶めようと事実を捏造………」

 嘘をほざいて、俺を変な事をした過去を植え付けようとしているに違いない。きっとそうだ。

 俺はそんな事を考えていると、ジェロムは指輪型モバイル端末を操作して空中にウインドウパネルを映し出す。

 そしてそこに映し出される写真は


 歩いていて柱に頭をぶつけて倒れるレナード・アスター。

 顔面からオムレツにダイブしているレナード・アスター。

 ジュースではなくタバスコを飲もうとしてAIロボに止められているレナード・アスター。

 森の中を歩いて木にぶつかるレナード・アスター。

 遊園地でメリーゴーランドに轢かれるレナード・アスター。


 30枚に渡って俺の奇行を楽しむように写真が撮られていた。ご丁寧にリラとジェロムとロレーナさんがピースして入ってたりする。俺の奇行記念写真とかいらないんだけど。というか、卵焼きではなくケチャップののってる半熟オムレツじゃねえか!もっと最悪だ!


「お、お前たちは鬼か」

「まあ、傍目からしたらラブラブカップルになってたけどな、お前ら。ミハイロワさんが、あまりに危なっかしいからずっと手を握って誘導していたし」

「何故、そんなおいしい展開の時の記憶が一切ないのだ!?」

 俺は過去の記憶が全くない事に涙を禁じ得なかった。


「俺から言わせると、そんな怪しげな状況でレースに出続けて無敗ってのがびっくりだけどな。俺は最後のパラダイスパークカップで2位だったけど630点ゲットしたし、かなりおいしい大会になったからな」

「何、お前、2位だったの?全部優勝するかと思ってたけど」

「ふっ………。お前、覚えてないだろ」

「そりゃ、まあ。マリンレーサーズカップ以降の事を全く覚えておらんのだ」

「組み合わせが最悪だったんだよ。最後の最後で、ジェラール・ディオールと当たって、ガチでボコられたからな。ある意味、奴と戦う為に出場したツアーだけどよ、まさかあそこまで差があるとは思わなかったよ」

「ご愁傷様」

 ジェロムにそこまで言わせるとは、さすがはジェラール。若手最強と呼ばれるだけはある。

「リオ・マクレガーとどっちが強かった?」

「比較にもならねえ。マクレガーにも負けたけど、勝てない相手とは思わない。実力は五分五分、向こうの方がキャリアがあってレース展開が巧みだっただけだ。直ぐに抜けると思ったね。だけど、ジェラールは別格だ。何だよあれ。ホンカネンさんも勝てねえって思わせる程の強みがあるけどさ、アイツはアイツで違う意味で別格だ。あんな怪物が未だ世界一になってない業界って時点で驚きだよ」

「そういえば、俺、一度も当たってなかったな。8リーグあるし、当たらない確率の方が高いとは思ってたけど」

「当たらない確率は58.6%くらいで高確率で当たるともいえるが」

「え、そんな確率で当たる可能性があったの?」

「ま、ツアーファイナルで当たって倒せば良いさ。取りあえず寝ておけ。最後のツアー、惑星エロスにあるカジノ居住区(ハビタット)の最大のスタジアム『ジャック・インバネス』まであと5時間だ。疲れはとった方が良い」

「なるほど。……まあ、リラに怒られなくて済んで何より」

「本当に飼い慣らされてるよな、お前」

 ジェロムは呆れるように俺を見る。



***



 宇宙船が辿り着いた場所は星自体が巨大なアミューズメントパーク化している場所だった。小惑星エロスを包み込むように存在する一大居住区(ハビタット)


 カジノハビタット


 宇宙屈指の賭博場、そして世界最大のテロリストの温床とも呼ばれており、莫大な金額がこの都市で流れ、また租税回避地として扱われて大国の国家元首から大企業の社長さえこの地に莫大な資産を隠しているとも言われている。

 フィロソフィアの構造はこの土地を真似たというが、その規模はフィロソフィアのそれではないらしい。何せ小さくても星全てが居住区の治外法権と化しているからだ。

 無論、観光客のパスでは入れる場所は決まっており、そんな危険区画に足を運ぶ事さえ困難であるが。稀に敵対組織同士の戦争が始まって危険らしい。


 だが、一応、俺達が戦う場所は危険な事が一切ない安全区画。

 このジャック・インバネスはアステロイド帯で最も有名な万能スタジアム。エアリアル・レース専用ではなく、時に芝生となってフットボールやラグビー、アメフトなどが行われたり、巨大ロボットBSAバトル・スマート・アーマーの試験戦闘なども行われたりする。


 エールダンジェのレースが行われる際には、直径500メートルの円形スタジアムの上空にスタジアムと同じく直径500メートル高さ250メートルの球形の斥力場で封鎖されたバトルフィールドが展開される。

 両サイドには選手入場の巨大な飛行車が存在しており、そこがそのまま飛行技師(メカニック)の作業場兼飛行士(レーサー)のスタート台となる。


「アステロイド帯最大のレース場で飛ぶ事になるとはなぁ」

「いずれグレードS(グランドスラム)全部のスタジアムでやるんだから、ジャック・インバネス程度でおどおどしない」

「大丈夫だよ。そもそも……グラチャンは海だし、プロクラブ選手権は木星のほぼほぼ宇宙空間なレース場だし、ユニバーサルオープンはグランドタワーだから、もうレース場でおどおどするのってグランドタワー位っしょ」

「そういえばそうだった。くっ、レン如きに突っ込まれるとは」

「ウチの相方、俺を下に見すぎじゃないだろうか?」

 偶に本当に舐められているような気がして仕方がない。


「じゃあ、レース場見学も済んだしさ、レセプションパーティの準備をしますか」

「レセプションパーティ?」

「コロニーツアーはチャレンジツアーだけど、ツアーファイナルはメジャーツアーのグレードB指定よ。始まる前にレセプションパーティがあるに決まってるでしょ?」

「あ、あーあー。だから持ち物に制服が入ってたのか」

「私は毎度の如くチェリーさんのドレスだけど」

「しまった。また色紙を持って来るのを忘れてた」

 きっと有名な飛行士(レーサー)飛行技師(メカニック)がやって来ているのだろう。このツアー、若手の登竜門として多くのクラブが注目している。G16でファイナル出場した飛行士(レーサー)には一発芸をやらせるのが恒例だったと聞く。


「ん?そういえばコロニーツアーのレセプションパーティって、G16の連中は一発芸をやる恒例があったんだっけ?よく考えたらジェロムってG16のワイルドアームズだから芸をするのか?」

「するらしいわよ。いきなりやれと言われても、ネタなんてないから曲撃ちでも披露するかってぼやいてたけど」

 リラはジェロムが何の芸をするか早々に聞いてたらしい。

「まー、レンがマリンレーサーズカップの時にジェロムに聞いてたんだけどね。アンタ、それまで忘れてるでしょ」

「何だか2週間くらい夢でも見てたくらいの勢いだよ。どこまでが夢でどこまでが現実だったか…。そう、リラにキスしてもらったような覚えが」

「妄想が酷いわね」

「やはり夢だったのか!」

 愕然とする俺。デスヨネー。

 リラはプイッとそっぽ向いて

「パーティの準備をするから、さっさとレンも自分の部屋に戻りなさい。アンタはまだメンタルが完全に戻ってないし、できるだけ休む必要はあるんだから」

「はーい」

 いつものように俺に指示を下す。


 そしてもう一つ問題が発覚する。

 パーティドレスなリラに対して、学校制服の俺ってどうなのさ。


 ちなみに、桜さんはインターハイがあるので途中で帰ったらしい。どうも彼女はスノウクラシカルカップから参加していたようで、そこでファイナル進出できる成績なら残ったそうだが、スノウクラシカルカップで勝利が少なく、マリンレーサーズカップ後に諦めて帰ったとか。俺は見送ってたらしいがぶっちゃけ覚えてない。桜さんも26勝20KO4分けという、かなりいい成績だが、本大会に残れなかったというのだから侮れない。

 ちなみにコロニーツアーで総合優勝したジェラール・ディオールは57勝3分け55KOで2ツアー優勝という結果を残した。どうも3ツアー目のユグドラシルカップで多くの飛行士(レーサー)が勝利を重ねられず引き分けが多かったらしい。確かに森の中でのレースはかなり厳しそうだ。


<優勝者内訳>

スノウクラシカルカップ:レナード・アスター15勝8KO

マリンレーサーズカップ:ジェラール・ディオール15勝15KO

ユグドラシルカップ:ジェロム・クレベルソン15勝10KO

パラダイスパークカップ:ジェラール・ディオール15勝15KO


 実は森林の中でレースをするようなユグドラシルカップは15勝がジェロムしかおらず、次点の成績が13勝2分け11KOのジェラールだというのだから、かなり難しいステージだったことが分かる。

 逆に15勝が取りやすい障害物の少ないレース場ではジェラールが圧倒的だった。

 そして、優勝者は優先して第一シードがジェラール、第二シードがジェロム、第三シードが俺という事になった。この時、初めて世界が俺の名前を見た事だろう。

 グレードBのメジャーツアーで第3シードというのはそれ位インパクトがある事だった。



***



 俺達はレセプションパーティへとやって来ていた。

 パーティ会場はカジノ居住区(ハビタット)の一角にある巨大なタワーホテルの大宴会場。結婚式や大きな表彰などが行われるような大きい会場だった。


 俺は紺色の学生制服でほとんど学校では着る事のないものだ。対して隣にいるのは桃色のワンピースドレスを着たリラ。胸元に作られる深い谷間が艶めかしかった。どうみても体のラインが15歳じゃないと思う。


 パーティのアジェンダだが、開会の挨拶が行なわれると、即座に立食形式のパーティになるのだが、最初はG16所属の飛行士(レーサー)達が一発芸を披露する催しが行われる。この大会では毎年お馴染みの催しらしい。


 そこには昨年まで高校生で個人団体の全月大会9連覇を果たした、月で最も強い学生だったパウルス・クラウゼ選手がいた。ジェネラルウイングの6番手としてプロ契約をしていて、大スターとして常にメディアに囲まれている。

 彼が一発芸として行なったのは何とサーカス。空中ブランコをやって見せたのだった。どうやって機材を持ってきたのかは謎だ。

 無論、高いのが苦手な俺には死んでもできない芸当だ。


 ジェロムは曲撃ちをやったのだが、これがまた大受けだった狙撃と曲撃ちは別物だが、拳銃を放り投げてお手玉のように持っては撃ち撃っては投げるを繰り返して並んでいる空き缶を片っ端から当てていく様は圧巻である。

 ヴェスレイはテコンドーを見せており、拳でコンクリートブロックを叩き割ってやがった。

 アイツ、あの拳を俺に向けたのか?それはさすがに死ぬぞ?



 そんな感じで、多くのG16と呼ばれるクラブの飛行士(レーサー)達は芸をやらされていた。

 そもそも、このG16という奴はエアリアル・レースの中心になっている名門クラブの集まりで、同時にエールダンジェメーカーでもある。大体、世界王者になる大半の選手がこのG16に所属している。稀にG16以外でも優勝するケースはあるが、非常に例は少ない。


 そういう意味では今大会の優勝候補ジェラール・ディオールはG16に所属していない選手だ。彼はフランス生まれで、地元パリにあるノワール航空に所属している。地球にあるエールダンジェスーパーリーグの二部に相当する西欧リーグのクラブだ。

 彼はG16じゃないのでリラックスして楽しげに一発芸をする若手飛行士(レーサー)に拍手を送って笑っていた。


 ふと思ったが、桜さんもツアーファイナルに残れたらここで芸をしたのだろうか。彼女もG16の一角『ベジェッサ電工』の選手だった。


「桜の奴、本当は芸をやりたくないから逃げたのでは?」

 リラのボヤキにまさかと俺は否定しておく。

「桜さんなら何か芸の一つでも持ってそうだけど」

「ストリップショー?」

「それは見てみたいけど、ダメじゃね?G16というよりR18でしょ、それ」

 リラは意外と辛辣だった。

 リラの桜さんに対する態度は俗にいうツンデレだ。デレを俺にくれても良いと思うのだが、奴は俺に対してだけはクールなのである。

 いじめか?


 とはいえ、意外と戦って俺に負けた飛行士(レーサー)が幾人かおり、彼らもまたG16の若手でツアーファイナル進出者というのだから驚きだった。

 逆に言えば上の世代の先輩って言ってもそこまで差がないんだなって感じだ。



***



 一発芸が終わると、抽選が始まる。会場も一気に緊張が高まっていく。

 俺、ジェラール、ジェロムの3人は抽選に出ずに、抽選の状況を眺めていた。

 普通なら勝手に組み合わせが決まるのだが、リーグ勝ち抜きとして最後の最後まで組み合わせの決められないツアーファイナルはこのレセプションパーティの最初の方に組み合わせを決める。そして、4つのコロニーツアーで総合優勝した俺達はシードとして決まっているらしい。優勝成績の良い順でシードが決まっているから、俺が第3シードという事になる。


 そんな抽選会の中、女性の取り巻きを引き連れて悠々と抽選をする甘いマスクをしたイケメンがいた。

 月の人間ならばその顔はお馴染みと言えるだろう。

 何せ高校1年生に全月高校生大会個人戦(グランドタワー)を制してから、団体を含めた9つの高校生大会を3年生の卒業まで無敗で優勝し続けたスーパースターだからだ。


 パウルス・クラウゼ選手。


 その近くに、呆れるようなしかめっ面の飛行技師(メカニック)がいる。

 パウルス選手が引いた番号は10番。第3シードである俺と一回戦を戦う場所だった。

「よっしゃ、自動ドアポジション!」

 ガッツポーズをしてパウルス選手は引いた番号カードをメディア全員に見せるように上に掲げる。


 誰が自動ドアか!

「ぶち殺す」

「って、リラさん。怒らない、怒らない。スパナとか取り出そうとしないで」

 自動ドア扱いされて俺よりリラが怒っていた。


 そんな中、どこかで見たことあるような青年が壇上に上がり抽選をしていた。何かを祈るようにして抽選カードを選らんでいた。


「彼、見たことある感じ。誰だろ?デジャヴ?」

 喉元に来ているのに名前が出ない感じだ。


「ああ、彼?元世界王者ニクラス・パルムグレンとその飛行技師(メカニック)ニナ・マクギーティの実子、ウィリアム・パルムグレンよ」

「あー、似てるかも」

 ニクラス・パルムグレンは取り分け美男子で、世界一に立った事もある未だ現役の飛行士(レーサー)だ。要するに親の七光りと言えるだろう。


「欧州の若手では一番人気があるからねぇ。昨年のヤングリーグのセミファイナリスト、新人王にも出てるし。今はESエールダンジェ学園の高等部に通ってこの大会に出場しているわ」

「………ESエールダンジェ学園って確かジェラールと同じ……あの飛行技師王キング・オブ・メカニックの作った学校の生徒って事?」

「そういう事。例にもれず、攻守にバランスのいいオールラウンダーね」

「オールラウンダーかぁ」

 まあ、端的に言えば苦手なタイプだ。まあ、このレベルだと得意な相手がいないというのが正しいけど。まあ、当たらない事を祈ろう。


『ウィリアム・パルムグレン選手。12番です』


 ………レナード君との2回戦での戦い、おめでとうございます。


「やった!!第3シードの所だ!」

 そしてお前まで喜ぶんかい!どうせ自動ドアだよ!


「く、くくくく。良いでしょう。全員返り討ちにして泣きべそにして返してやるわ」

 わお、ウチの相方がいつも以上に燃えている。

 そうだ、ガツンとやってやれ。ガンバレガンバレ、ミハイロワ。負けるな負けるなマイエンジェル・リラたん。

 って、レースするの俺だった!?ガツンとやらなかったら、俺がガツンとやられるパターンだ、これ!


 あと、リラさんや。何か笑い方がクケケケケとかになっているけど、もう、それヒロインがして良い笑い方じゃないからね?

 ほんと、おっかないわー。相棒で良かったよ。敵だったらチビって逃げるね。


 こうして、一通りの組み合わせは決まっていった。

 マルグリットさんはヴェスレイのいるブロックに、高橋はジェラールのいるブロックに入っている。

「第1ブロックはジェラールと高橋、第2ブロックはヴェスレイ、第3ブロックはパウルスとウィリアム、第4ブロックはクレベルソンか。意外と別れたな」

「曲芸の名手パウルスを、ウィリアムがどうやって捉えられるかは見物ですね」

「ああ、今からでも楽しみな組み合わせだ。早く、明後日にならないかな」

 俺達の背後で評論家と思しき男達が心躍らせて語っていた。


 第3シードなのに存在そのものを忘れ去られている!?


 世間の評価は俺達の目に染みるものだった。

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