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柔らかくてボリューミーだったとか思ってない

 赤みの差したブラウンの髪が、風になびく。

 白い肌をした天使を思わせる美貌を持った女性が白い砂浜をゆっくりと歩いてやって来る。豊満な胸、くびれた腰、ボリュームのある尻にかけての絶妙な曲線を桃色のビキニが包み込み、自然な美しさを演出する。


 彼女こそが世紀の美女、俺の相棒、リラ・ミハイロワである。


 その美貌は、ナンパ目的の男達でさえ声を掛ける事に躊躇わせる程で、彼女連れの男だろうが、彼氏連れの女でさえも振り向いてしまっていた。

 10人男がいたら15人は振り向く。男だけでなく女でさえも振り向くのだ。最高の美を作る為に遺伝子を弄って子供を生み出すこともあるが、目の前の天使は一切の遺伝子の変更もない天然素材である。神の不在が証明された現代でさえ、神が生み出した造形物としか思えない美の化身がそこに存在していた。


「お待たせ。待った?」

 そんな天使が俺に優しく声を掛けて来る。

「く、くううううううう。これが最終回打ち切りでも良いです」

「何の話をしているのよ」

「神はいたんだ、やっぱり」

「神の不在を証明したから西暦が終わったのに、新暦を覆すような発言はしない」

「今ならホンカネンだろうが、カルロスさんだろうが怖くない」

「今のアンタの精神パルスは明らかにおかしいから絶対に勝てないからね?一度叩いて正常に直した方が良いか?」

 目の前の天使は水着の胸の谷間から大きなスパナを取り出す。

 とんでもない場所に仕込んでやがった。俺もスパナになりたいわ!

「え?スパナに殴られたい?」

「そんなこと言ってないよ!?」

 危ない。うっかり肯定しそうだった。スパナになりたいのであってスパナに殴られたいわけじゃない。


「ああ、リラのいる場所は分かり易くて良いですね」

 そこにやって来たのは桜さん。

 長い黒髪を後ろでまとめており、東洋系の顔立ちをした美女である。濃いピンク色で縁どられている白いビキニで、パレオで腰元を隠されているが、そこから覗かれる脚線美が艶めかしい。胸もたおやかに実っており、モデルをしていると紹介されても違和感ない美貌を振りまいていた。


「何で私の場所が分かりやすいのよ」

「妙に男性の視線が向いている方向があったから。そして、レン君への怨嗟の視線が」

「ふっ、羨むがいいこの有象無象共が。これが俺の相棒なんだぜ」

「皆さん、死に物狂いで叩き潰しに行くのでしょうね」

「面倒な」

 リラは呆れるようにぼやく。それは俺が嫉妬されてとか自分の美貌が、とかでなく、きっと勝つのが難しくなるのが面倒といったのだろう。

 ウチの相方はそんな奴だ。


 すると、更に一組の男女がやって来る。

 陽に当たるとうっすらと茶色く輝く黒髪の白人女性、ロレーナ・カルバリョさん。

 スレンダーさを際立たせるようなブルーのワンピースに程よく実った胸元、長い足を見せつけるようなハイレグ水着は男を誘っているとしか思えない程だった。

 隣にいる褐色の肌を持つスキンヘッドのひょろ長い大男(ジェロム)に関しては割愛する。


「リラ、やっぱり貴女だったのね。もう近隣男性の視線が凄いんだけど」

「さすがに慣れた」

「凄いわね。っていうか、ジェロム、見とれてない?」

 ロレーナさんはジトと隣の茶坊主を睨む。

「いや、分かっていたけどすげーなって思って。殿下のハーレムと同行することが多かったから、流石に美人には慣れた積もりだったけど、それでもここまでの美人とかいなかったじゃん」

「本当かなぁ」

 ロレーナさんはジェロムの腕を両手で抱きかかえてジト目で睨む。

 谷間に挟まれているジェロムの腕に嫉妬を禁じえず、ジェロムもまんざらでもなさそうにわざと回答を焦らして胸の感触を堪能しているようだった。


 リア充は爆ぜればいいのに!



 俺の心の叫びは置いておいて、女性陣は砂浜にあるデッキチェアーに寝そべり南国を満喫している様子だった。

 俺とジェロムは彼女たちの寝そべるデッキチェアーの横にある白いテーブルでジュースを飲んでいた。レースの事に関して情報交換をするって感じだった。


 無論、隣の女性陣達も、女3人寄れば姦しくもなるのだが、そこに思わぬ人物が現れる。

「あ、あれ、レナード君!」

 声を掛けて来るのは一人の少女だった。俺も一瞬誰だろうと思ったのだが、よくよく見れば、というか、胸元を見れば誰かがすぐにわかった。


 茶色い髪をツーテールにまとめた童顔の美少女。小柄であるが決して太っている訳では無い。だが、その圧倒的な質量のある胸の大きさは、オレンジ色の紐ビキニによって更に強調されていた。


 そう、彼女こそスバルカップの予選決勝で戦った対戦相手、牛系美女ことマルグリット・王だった。

 というか、あの胸は何カップなのだろう?ウォーターメロンとか普通に入りそうな水着なのだけれど。リラより大きいおっぱいを持つ同年代女子って未だに彼女以外に見た事が無い。


 するとさらにマルグリットさんは俺の腕に抱き着いてくる。

 何だろうと目を白黒させていると、

「す、すいません。わ、私、連れがいるので」

 と言い出す。よく見ると彼女の後ろにはナンパ男っぽい連中が10人位いた。


 マジか!?


 さすが魔性のおっぱい。男を吸い寄せるらしい。そして今、俺の腕まで吸い寄せられていた。一生このままでも…良いかもしれない。


 俺はそこでデッキチェアーで寝ている女性陣からの冷たい視線、というかリラの冷たい視線を感じて、一気に冷や水を浴びせられたような気分で、気まずさに心の中で激しく焦る。


 でもそこで振り切ったりはしない。

「ちっ、男持ちかよ」

「しかもあんな美女ばっかり」

「リア充が爆ぜちまえ」

 とか俺が文句を言われる始末だが、幸運なことに男達は全員去って行く。まさか、俺が言われる側になるとは思いもしなかったが。


 ともあれ、男がいなくなったので、俺はマルグリットさんの胸の谷間から腕をやんわりと、さりげなく抜き取る。決して胸の谷間の感触を堪能してから離すのではなく、彼女の目的を果たさせてからにしただけだ。

 堪能はしてないよ。柔らかくてボリューミーだったとか思ってない。挟まれて窒息死するなら本望だとかも思ってない。ホントダヨ。


 何故かマルグリットさんは少し寂しげだが、気のせいだろう。すると彼女は思い切り頭を下げる。

「あ、ありがとうございました。さっきからしつこくて。叔父さん、今回のツアーについて来てくれなかったから、一人で大変だったんです」

 顔を上げたマルグリットさんは俺に熱い視線を向けて来る。


「この程度で大変だったなんて、そんなんじゃ今年のガールズリーグも無理なのかもしれませんね」

 そんな中、俺の横に現れた桜さんが、マルグリットさんに皮肉を口にする。


「むむっ……さ、桜さん。何でここに?」

「レン君がいるからかしら」

 マルグリットさんが驚くと、桜さんは俺の横に立って、何故か俺の手を恋人繋ぎで握ってきて、腕には張りがある柔らかな双丘が俺の腕を挟み込んでくる。

 マジですか!?やっぱり今回が最終回?俺、鼻血とかで出血多量で死んじゃう系ですか?ついに俺にも春が来たのか?でも、今は春じゃないよ。いや、3月だから季節的には春だけど、気象的には南国ビーチっぽい。

 って、俺は何を考えているんだ!?


「お、お二人はどんな、ご、ごきゃ、ご関係で?」

「そうですね。フィロソフィアでは何度も熱い時を過ごして、一緒にウエストガーデンに移り住んだ仲とでも言いましょうか」

 何だか凄い誤解の招きそうな言い回しだが、確かに何度も熱い(戦いの)時を過ごして、一緒(の時期)にウエストガーデンに移り住んではいる。


「そ、そんな……」

 だが、何故か愕然とするマルグリットさん。もしかしたら、同年代の男女がいかがわしい事をやっていると思ってショックだったのかもしれない。

 俺もジェロムとロレーナさんが大人の関係になっている事を知ったらショックで立ち直れないと思う。

 レースで勝っても、男として負けたみたいな気分になるだろう。いや、レースでも勝った事ないけどさ。取り敢えず椅子に座って他人事のように俺を眺めているジェロムが、俺と同じ童貞である事を祈るばかりだ。


「くっ…ま、負けません!あなたのような発育不全な人には!」

 確かにマルグリットさんとて桜さん(ライバル)にレースだけでなく女としても負けたくないだろう。だが、それは全て誤解だ。

「私は普通よりも十分に発育してますよ。あらあら、牛みたいな胸になったからって他人を貶めちゃだめよ」

「貧乳さんは黙っていてください」

「ひ、ひんにゅ?」

 桜さんはピシッと亀裂が入ったように凍り付く。

「っていうか、最初に出会った頃は同じくらいでしたけど、その頃から成長してないですよね?もう成長終わったおばさんですか?」

 ジトとマルグリットさんは桜さんの胸元に視線を向けて、そしてハッと鼻で笑う。

 言われてみれば、桜さんはあった当時からナイスバディだったが、当時と胸の成長は変わって無いように感じる。

 無論、標準と比べれば十分巨乳と言えるのだが。フィロソフィアにいた頃はリラと同じくらいだったが、今はリラの方がすんごい事になってる。まあ、目の前のマルグリットさんはもっとすんごい事になってるけど。


 だが、温厚な桜さんは珍しく背後に炎を燃やして怒りに震えていた。

「ふ、ふふふふふふ、良いでしょう。私のいないガールズリーグでしか優勝できない牛女。今度は私の出るレディースリーグに出て来るならば、泣いて許しを請うまで徹底的にいたぶってあげましょう」

「ふんだ。負けないもん。自分の星の中学生大会で優勝した事もない女なんかに」

「火星みたいな低レベルでやって優勝して喜んでるのとは違いますからね。大体、そこにいるクレベルソンの出てない大会じゃないですか」

「うにゃっ……ぜ、絶対に負けないもん。腹黒狐女!」

 マルグリットさんは大きいおっぱいをバインバイン揺らしながら走って去って行く。

「白熊と馬と牛に…プフッ…狐。何、ガールズリーグって動物園だったの?」

 リラが面白そうにプルプル肩を震わせて笑っていた。

 なるほど、桜さんは狐系だったのか。確かに普段は温厚で優しいお姉さんなのだが、レースの中だと陰険な狐って感じだ。


「あの小娘は明後日も痛い目に会わせてあげます。誰が狐ですか」

 いつも優しくニコニコしている桜さんが珍しく感情的に怒っていて、ちょっとかわいいと思ってしまう。やはりライバルが相手だと大人にはなれないのかもしれない。


「それにしてもマルグリットさんも出てたんだ」

「レンが第4リーグで優勝してたけど、実は彼女、ジェラール・ディオールと同じリーグで、引き分けて優勝を阻止してたのよ」

 リラは体を起こしてジュースを飲んでから、俺にマルグリットさんの状況を教えてくれる。

「マジで!?」

「あのジェラール相手に引き分け!?」

 俺とジェロムは同時に反応する。

 そりゃそうだ。昨年度の新人王覇者。今季はグレードS(グランドスラム)に出場している、既にトップクラスの若手だ。俺達と同じ若手とは一線を画している。


「しょっぱなから森林戦闘に突入して、大柄なジェラールが、狭い場所を器用に動き回る彼女を追えず、2対2の引き分け。前半はとにかく森の中を子リスのように逃げ続けて点を奪ってもしかしてそのまま勝つかと思ったら、後半になってジェラールは威力重視の重力光砲(ライトバズーカ)に切り替えて、林の枝を軽く吹き飛ばしてドカンドカンドカンって追い立てて引き分けまで持って行くという荒業で。しかも1撃掠らせて、吹き飛んだマルグリットさんが木に頭を打ち付けてポイントが落ちたからね」

「ジェラールって偶に頭悪い事するよね」


 ジェラールは若手最強と呼ばれていて、大舞台に出る事も多いのでチェックしているが、やる事がかなり大雑把なのだ。めちゃくちゃ強いのは強いんだけど。


「体積的に軽く倍はありそうな組み合わせよね」

「「確かに」」

 俺とジェロムはジェラールを思い出して溜息を吐く。


 直接会ったことは無いが、ジェラールはこの業界で有名人だ。

 カルロスさんが衰え、レオンさんが引退してから、エアリアル・レース業界は群雄割拠を迎えている。かつてないペースでグレードS(グランドスラム)優勝者が現れている。つまり飛びぬけて強い選手がいないから、世界王者がコロコロ変わるという事だ。

 昨年度、ゴスタ・ホンカネンという絶対王者が現れて、今季はホンカネン包囲網によって世界一を阻止しているが、ホンカネンの登場は群雄割拠に終わりを告げたと言われていた。

 実のところ、ジェラールはスタートが遅かった為、同年代の飛行士(レーサー)達が早々とプロで活躍し、世界一になっている。故にこその群雄割拠たる所以だが、出遅れた彼が実は最も有望視されていた。

 先に活躍して世界一になった同年代の世界王者達は、ホンカネン登場と共に、『運が良ければホンカネンから優勝を掠め取る事も可能』というなんとも情けない評価を得ているが、未だ世界一の経験のないジェラールは『実力でホンカネンを下せる可能性がある唯一の存在』と高い評価を受けている。


 俺達からしても戦う可能性のある怪物という印象が強い。

「まあ、俺もジェラールと戦ってみたかったから、きついの承知でこっちのレースに参戦したんだよ。ホンカネンさんもここで修行したっていうしさ」

 ジェロムがポツンとぼやく。

「あれ、戦った事無かった?」

 ジェロムは新人王にも出てたし、去年からメジャーツアーや大きい大会にも参入している。当たった事がありそうな印象だが。

「無い。ホンカネンさんが一度やっておくと良いって言ってたけど」

 恐らくだが、俺も含めて、彼の出場目当てでツアーコロニーに流れてきた若手飛行士(レーサー)は多い筈だ。一度当たっておきたいという理由だ。


「スーパースターズカップでホンカネンはジェラールに1回戦で当たったせいで、その後のレースが惨憺たる結果だったからね。それでもセミファイナルに行く時点で化物としか言えないけどさ」

「新人王に出ていたせいで、ホンカネンさんの状況を見てなかったけど、かなりやばかったらしいな。ベスト16で棄権するか悩んだってレベルだったとか。その後、余力でセミファイナルまで行くホンカネンさんが化物すぎるけど。そもそもそこまであの人を消耗させる奴が俺らと同じ若手って時点で考えられん」

「まあ、確かにあの大会で優勝したサントスも強いけど、完全におこぼれ優勝だったのは否めないし」

「ジェラールに大物飛行技師(メカニック)がついて、世界ランキングが上がってシードになれば、ホンカネンとの二強時代到来って感じになるわ」

 リラの言葉に俺とジェロムはゴクリと息を呑む。



***



 やがてレースが始まる。

 俺達の元に移動用飛行車がやって来て、俺とリラはその飛行車でレース場へと移動する。


 俺達が辿り着いた場所は事前見学をしていた島の高台。

 ポニーテールにしたリラは水着の上にジャケットを着こんで作業をし、俺は水着の上にインナースーツを着て、エールダンジェと装着して準備を始める。


 一回戦の相手は、奥の方の島に立っていた。普通の小父さんに見えるのだが、隣にいるのは飛行技師(メカニック)ではなく小母さんとお子さんだった。

 そういえば、この大会はプロも出てるレースだけど、元飛行士(レーサー)の家族連れとかもいるんだった。

「スノウクラシカルカップと違って、こっちは隠れる場所が無いから15勝決着になるわ。KOを目指すのよ。良いわね」

「分かってるよ」

 家族連れという事は、このツアーだけのピンポイント出場の可能性が高い。俺が前ツアーの優勝者とは把握していないだろう。勝てるチャンスだ。


 大きい観光できる島を中心に8カ所の海の空が、カウントダウンを開始する。島中がそのカウントダウンを読み上げ大きく盛り上がる。

 なるほど、このレースは一種のお祭りなのだろうと理解する。


 さあ、レース開始だ!

 レナード視点なのであまり触れてなかったのですが、基本的にレナードはもてます。

 藤宮桜曰く、ベジェッサでレンの事を聞かれた際に端的に答えたのは『鈍感系残念美少年』なのであるが、きっとレンがそれを知る事はないでしょう。鈍感であり、思春期を向かえた色ボケ少年でもあるがそれ以上に一図だからである。

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