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閑話~カイト・アルベック~⑧

カイト視点で進行します。

前話における、カイトとレンの別れのシーンから始まります。

「レン、師匠に伝えておいてくれないか?『師匠の言いつけを守れなくてごめんなさい』と。あと……『罪を償ったら必ず直接謝りに行く。火星の保護観察下で一から学んで、今度は間違えないように、更生プログラムを受けながらやり直すから』って」

「うん。そう伝えておくよ」

 俺はレンから伝えられた師匠の言葉を噛み締めて、未来へと目を向ける。


 こうして、俺の無軌道な死の鍛冶師ブラックスミス・オブ・デスとしての活動は終わりを告げた。




 俺はレンの病室を出ると、一気に血の気が引いて膝をつく。そんな俺を分かっていたかのように肩を貸してくれたのはシャルル王子だった。

「無茶をするな。いくら完全な処置をしても、まだ大丈夫とは言い切れない状況なんだからな。私は君が経てないと思ってたから放置したんだが」

「すまない」


 とはいえ、このままではレンに二度と会わずに別れる事になる事が考えられた。それだけは避けたかったが。

「全く。折角、カイトが寝ている時にもう死んでます的な感じでご対面させようと思ってたのに」

「趣味が悪いな、オイ!」

 シシシシと笑うシャルル王子に、俺は思い切り呆れてしまう。そう言えばこいつはそういう奴だった。


 そしてシャルル王子が何やらボタンを押すと、廊下の角から看護ロボがやって来て俺を捕縛する。どうやら、そのままベッドまで運んでくれるようだった。



***



 俺はベッドに寝かされて、横の椅子に座るシャルル王子を見る。

「それにしても、どうして俺を助けた?」

「1つはレナードとの契約があったからだ」

「レンとの?」

「お前を捕らえるとな」

「………なるほど。アイツは俺がエリアスを使って人を殺すことを止める為に来てたのか」

「まあ、そうなるな」

 結局、俺はこの王子の掌の上に転がされていたのだ。レンを使って止められるというおまけつきだ。情けない事この上なかった。

「あともう1つは責任を取りに来たという所かな」

「あ?」

「私が国王陛下に進言して作らせた戦争奴隷から解放された連中を更生させるプログラム。あれをどこかのバカに悪用されて、投降してくれるはずの少年少女たちから未来を奪った事、これは大失態だった」

 シャルル王子は大きくため息をつく。フィリップが青き地球(ブループラネット)の連中を殺戮したことに関してだろう。

 シャルル王子がこの件で介入してきた時点で、あれはフィリップの独断だったというのが予想はついていたが。


「お陰様で私は非常に忙しい身分になった訳だ。向こうから来てくれる予定だった連中が、こっちから積極的に回収しないといけなくなったんだ。しかも、そのせいで投降予定の少年が殺人教唆に手を染めようとしていた訳だ。止めなければなるまい。全く、忌々しい従兄殿だ」

 シャルル王子はギリギリとどこかにぶつけたい怒りをかみ殺しながらぼやく。


「やはり、あれはフィリップの独断だったのか?」

「更生プログラムの計画は私と国王陛下の肝要りのプロジェクトだ。何故、それを使ってテロリスト討伐なんかする必要がある。そんなもの、必要なく私はテロリストの一つや二つ潰すのに苦労はしない」

「………」


 これじゃあ、本当にレックス達は報われない。


「まあ、何でもできる、何でも知ってるとは言っても、私も人間だという事だ。さもしい男の嫉妬で、大事な計画を後退させられたんだからな。普通、軍用遺伝子保持者(メタリックカラー)の守護者たる王族が、軍用遺伝子保持者(メタリックカラー)保護団体に攻撃なんてしないだろう。しかも王を目指している奴が。あり得ない事を嫉妬に駆られて実行し、正当化しやがった。予想外にもほどがある」

「そりゃ、確かにあり得ないが」

「そういう訳で、1年くらいはアステロイド帯の戦地に行って、戦争奴隷解放のお仕事だよ。戦場で武器の調整してもらうから」

「……って、俺に、それをやらせるのか?」

 人殺しの道具を作る犯罪者を更生させるのに、何でそんな事をやらせるのか?


「おう。まあ、今までの難易度とは訳が違うがな。何せ殺し合いの起こる戦場の中で、私は軍用遺伝子保持者(メタリックカラー)の保護者として、誰一人殺してはいけないと言う不文律を持っている。いかに殺さず相手を無力化できるか、それをやってもらわなければならない。殺すだけより難しいと思うけど?」


 シャルル王子はあり得ない事を口にする。

「戦場で殺さない…だと?」

 無茶すぎるし、無謀すぎる。


「ダメでしょ?王子が人殺しなんて。あーあ、こういう人助けってのはさ、私みたいな偽善者じゃなくて、青き地球(ブルー・プラネット)みたいな偽悪者がやるべきなんだよ」


 確かに、俺から見ると、彼らを評価するには偽悪者というのが、一番しっくりくるのだろう。

 だが、実際には偽悪ではなく悪であることには変わりない。少なくともレックスは自分の犯している所業が悪党のそれと同じだと自覚していた。

 ただ彼らは自分と同じ境遇にある子供を真っ当な世界に戻したいという願いがあっただけ。戦争奴隷として生涯を終える子供を生かしたいために、それ以外を犠牲にする事を厭わないからだ。そして、残念ながら、彼らには平和的に何かできるような頭脳もなかった。


青き地球(ブルー・プラネット)の連中を知ってたんだな?」

「知っていたも何も、国王陛下が裏で彼らを支援している団体に、私用財産を融資していたんだ。元々、フィロソフィアに行ったのは、国王陛下に、我が国の軍務系大臣が黒鳥網(カラスネット)と会談をしようとしている事が耳に入って、陛下が動けないから俺に行かせたんだ。青き地球(ブルー・プラネット)の連中は知らなかったろうが、彼らは陛下と俺によって戦争奴隷解放運動の資金を、見えないように回してもらってたんだよ。彼らの小さい仕事ながらも知名度があったのも、実はそういう解放運動があるって事を私が世に知らしめる為にメディア工作したからだ」

「なっ」

 じゃあ、青き地球(ブルー・プラネット)の連中は知らずルヴェリア連邦の支援を受けていたって事か?


「だから、彼らがいなくなったから、私はその穴埋めをする必要がある。そして君には存分に腕を振るってもらう。彼らの想いを継ぐ人間が現れるまで我々は戦う必要がある。良いな?」

「…くそう、本当に…あいつらが報われねえよ……。でも……やってやるさ。そうだ、それは……」

 かつて一度だけ共に戦っただけの仲間だ。

 だが、恐らく無機質に物を作るだけじゃない、人と人との繋がりを持ったのはこっちの世界に来て彼らだけだった。そして彼らはテロリストだったが、熱い心を持った男達だ。公然と困っている自分達のような子供を助けたいなんて夢を語る男達だった。

 俺はそんな彼らの姿が、まるでエールダンジェに夢を見ていた少年時代を思い出させられて、自己嫌悪にさせられるから嫌っていた。だが、その熱い姿は、本当は大好きだった。


 奴らの報いを晴らす為にフィリップ殺害に加担したが失敗に終わった。


 だが、本当の意味で報いを晴らすというのならば、彼らのやろうとしていた事を引き継ぐことこそが本当の意味で報いる事になるような気がする。

 その為に武器を作る。しかも王子が人を殺さずに相手を無力化するというかなり無理難題な武器を作るのだ。過去にやった事のない難しい課題だ。


 だが、まさに今の俺が本当にすべきことなのではないかと感じる。


「1つ聞いて良いか?」

「?」

「フィリップを野放しにしていいのかよ?」

 俺はそれだけが不思議に感じる。

 シャルル王子にとってもフィリップは邪魔者以外の何物でもないだろう。

「暗殺未遂にあって暫くは大人しくしてるだろう。基本的にビビリだからね」

「そりゃ、そうだろうが」

 だが、復活すれば再びろくでもない事をしでかす可能性は高い。同じことをされるわけにもいかないのだ。


「というか、あの男はただの飾りだ。国王陛下の意思を実現するには、王位継承者に私が立つ事は足枷なんだ。アイツはその為の次々期国王という立場を一時的にあてがわれ、私を身軽にする為だけに存在しているんだ」

「そういう扱いだからグレたんじゃねえのか?」

「そういう奴だから、そういう扱いになったんだよ」

 鶏が先か、卵が先かという話である。

 なるほど、どうもルヴェリア連邦王国は、国王はシャルル王子を使って軍用遺伝子保持者(メタリックカラー)の守護者としての責務をしていたという事か。


「最終的には私が継ぐのだろうな。私は王になる前に、軍用遺伝子保持者(メタリックカラー)を保護し、軍用遺伝子保持者(メタリックカラー)の人権を認めない勢力に人権を認めさせ、世界中にはびこる遺伝子差別を鎮静化させなければならない。出来なければ近い将来、第四次太陽系大戦になる。それは避けたい」

「第四次太陽系大戦か」


 偶に聞く話だが、実際に起こりえるのか?


 テロリスト側にいた俺からしても、彼らにそんなパワーがあるとは思えない。無論、俺が最初にケビンさんの下っ端として所属していた、世界最大のテロ組織『ノアの方舟』は侮れない存在だ。カジノ居住区(ハビタット)を背景に莫大な資金力を持っているのも、世界の脅威になりえるだろう。

 だが、ルヴェリア連邦一つを相手に取るのも無理なのは分かっている。


「でも、戦争奴隷も何も、彼らは遺伝子弄りが可能な研究所で勝手に隠れて生み出される。それを全部潰すのは不可能に近い。彼らを救うのは確かにアンタらの活動は大きいだろうけど、広大な宇宙で全てを救うのは不可能だ」

「そうだな。だが、彼らの逃げ場を作れば救えるだろう。その為の更生プログラムだ。そして我らは彼らを救う姿を見せなければならない。それこそ命がけでね」

「でも、差別は絶対になくならないぜ。誰もが優秀な人間をねたみ、そしてねたむ材料を持って生まれるんだからな。俺達が生まれる前だって、白人は有色人種を差別していたし、思想や民族、宗教の違いで人と人はいがみ合う。差異があればなんだって差別につながる。」

「差別ってのは大衆の想いだ。我々が法律で縛っても、差別は起こる。だが、緩和することは出来る」

「緩和ねぇ」


 ウエストガーデンは安定した都市で、誰もが平和に暮らせる半面で、経済格差の低い場所だった。故にこそ、能力が圧倒的に高く、経済格差の上へ行ける人間を妬む。そして軍用遺伝子保持者(メタリックカラー)という分かりやすく瞳に烙印を押された子供は、あの都市では露骨な差別を受けていた。

 大なり小なりどこでも存在する。むしろ、軍用遺伝子保持者(メタリックカラー)の保護国であるルヴェリア連邦や遺伝子実験の本場だった旧イオ帝国が珍しいのだ。


「例えば、規格外スペックを扱うエールダンジェというスポーツは軍用遺伝子保持者(メタリックカラー)達の輝く世界で、彼らという存在は良くも悪くも差別緩和に役立っている」

「まあ、そうだな」

 あの世界は差別されにくいと感じていた。多くのスターが軍用遺伝子保持者(メタリックカラー)だからだ。

「だが、一般人はこの世界を快く思わない存在も多い。何せ我らが多くの金銭を獲得できて、一般人は上に立つことが出来ない世界でもあるからだ」

 この数十年以上、軍用遺伝子保持者(メタリックカラー)以外の世界王者は現れた事が無い。一般人でメジャーツアーを優勝したら、それだけで大ニュースだ。


「私はね、期待してるんだよ。多分、世界中の誰よりも」

「は?」

「レナード・アスターとリラ・ミハイロワは私に出来ない、軍用遺伝子を持たない一般人として、そういった業界に切り込んでくれる存在になると。実は彼らを今回の件で巻き込みたくなかった。彼らは私の希望であり未来だから、こんな血なまぐさい世界に引き込みたくなかった。だけど、きっとレナードはそこに踏み込むだろう。君がそこにいたからね」

「あ」

「そして、見事、私の予想をはるかに超えて活躍してくれた。私の見込んだ通り、いや、それ以上だと思っているよ」

「レンにそこまでの力があると?」

「1人じゃ無理だろう。2人だからできる事だ。過去にないコンビだろうね。私は最高の理論を元に、その業界の知識を得る。だからこそ、その業界をぶち壊そうって言う理論の対応が出来ない。彼らはそれを今すでに形にしている。強豪との経験や優秀なブレーン、支援者に恵まれれば一気に来るよ」

「そっか」


 レン達は着実に先へと進んでいるのか。

 俺にレンを羨やむ資格はない。俺はその選択肢を選ばなかったのだから。だが、回り道をしてもアイツらと同じ場所に戻る。その夢があるだけでマシなのかもしれない。


「でも、レンにそこまでの才能があるのか?ガキの頃から運動神経が無くて、喧嘩も弱いし、どうにも才能が感じられないが。かなり飛べるし、すっげー努力してきたのは分かるけど」

「彼はフィロソフィアでの経験からか、何度も死にかけた経験でもあるのか、能力の限界を超えるリミッターが壊れてる。人間が集中力高めてゾーンに入るのだが、彼はレースであれば自在に入れる」

「それは感じていた。というか一般人が俺達に勝つには才能をすべて使いきらないと勝てないからな。生まれつき才能を好きに使える俺達とは違う」

「だから、鍛えれば我らと同等以上に戦える。そして、才能が低いから何度となく窮地を経験している。窮地を経験したことが少ない我々とでは、経験値が違い過ぎる。何でも出来てしまう私では負けそうになる経験が少ないが故に、恐らく一生追いつけない存在になるだろう。あの男こそが、恐らく私の対になる才能無き天才。何もない所から生まれたからこそ、俺はきっとあの男の舞台では勝てない」


 俺の腕にゾクッと鳥肌が立つ。

 シャルル王子は世界最高の天才だ。恐らく本気でエアリアル・レースに取り組めば世界王者ゴスタ・ホンカネンを下せるだけの才能を持っている。だが、その男がエアリアル・レースの舞台でレンに勝てないと口にしたのだ。


「私は彼に期待しているよ。彼らの成し遂げようとしている事は、我らの致命的な弱点を知らしめるかもしれない。だけど、きっと未来を創る」

「そうかよ」


「まー、俺の仕事がなくなって便利でらくちんってのもあるけど」

「そっちが本音だろう?」

「そーだよ」

「大体、分かってきたよ、お前の性格」

「何故だろう、皆、ちょっと付き合うとすぐに私を理解してくれる」


 大体、この男は趣味と実益を兼ねてしまうのだ。

 天才が故に一度に何でもしようとする。恐らくどれもこれも重要な話なのだろうが、それを一緒くたにまとめてこなそうとする。だから、なぜか片手間にやっているように思われてしまうのだろう。

 きっと信用され難いんだろうな、と俺は思う。


 そもそも、コイツの生き方って、ウエストガーデンにいた頃の俺に凄く似ているから。



 こうして、俺は更生プログラムの一環として、レックス達が志半ばに果たせなくなった仕事をする事になったのだった。

 これにてカイトの物語は終了です。

 とはいえ、カイト編で登場していた、レンの父を殺したケビン、リラの義姉レティシャを再起不能にした黒幕DKはいまだ健在で、実は消化不良かとも思われますが。

 本作を多くの人が読んでくれるようになったら、作者が頑張って本編を投稿して、彼らがラスボス的な存在として出てくれるでしょう。DKに関してはレン達ともう一悶着あって、人知れずこの世界に暴力を持ち込むのを守るような話があるのですが、そこまで書くかは思案中です。

 本編を書くのが前提としてあるなら、必要な場所でもあるのですが。

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