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エリアス・金

 俺とリラはレースを終えると、荷物を持って控室を出て通路を歩く。リラは大きな飛行技師(メカニック)道具の入っているキャリア付バッグを押し、俺はタオルで自分の右目を抑えながら歩く。


 すると、次のレース予定の飛行士(レーサー)飛行技師(メカニック)達が控室から出てきて擦れ違う。


「おめでとう」

 声を掛けてくれるので、ありがとうございますと返す。

 何となく普通にやり取りをしてしまったが、よくよく見れば火星のヴェリアリーグで活躍している有名飛行士(エアリアル・レーサー)だった。


 やべえ、おれ、今凄い場所で戦ってる。

 試合が終わり、怪我で次のレースは厳しいと言うのに、今、初めてその実感がわいてきた。




 俺達が通路を通り、多くの選手や関係者のいるロビーに出ると、物凄くまぶしい程のフラッシュが焚かれる。

 俺達が出たロビーには待ち構えるようにメディアが集まってカメラを向けていた。

「おめでとう、レナード君」

「素晴らしいレースでした。勝利した感想を」

「右目は大丈夫だった?」

「明日のレースはフィリップ王子殿下との一戦になりますが抱負を」


 さすがメジャーツアー、こんな場所でポヤポヤしてることを許してくれないらしい。選手の集まるロビーはメディアも入れるのを完全に忘れていた。

 そもそも、これまで取材を受けた事がほとんどない。


 俺は、突然現れたメディアの襲撃に戸惑っていると、そこにレース関係者と思しき人達や白衣を着た男性がやって来る。


「すいません、怪我をしているようなので、医務室に送らせてもらいます」

「取材はまた後で」

 黒服の男達が俺達を取り囲み、メディアを遠ざける。俺の横に青い術衣を着た若い医者がやって来る。今にも手術でもしそうな格好で、メディカルキャップにマスクまでしている。

 今の時代なら医療ポッドに入って1時間も経てば治る傷だよね?まさかそんなにやばいの?


 怪我に対しても万全のケアをする。

 これがメジャーツアーなのかと、ちょっと驚いてしまうのだった。


 医療室の方へと向かうのか、医者に指示されて黒服の男達に促されるように先を進まされるのだが、そんな中、俺達の前には一人の男が現れる。

 よく見れば次の対戦相手、フィリップ王子だった。


「ふうん、次の相手は君のようだな。どこかで見たかと思えばメリッサと一緒にいたクソガキじゃないか」

 俺はタオルを右目に当てたままの状態で目の前の男を見る。

 正直、面倒な奴に絡まれたと思う。エールダンジェのパーティで親戚と言えど幼い子供を蹴るような男だ。レースの場以外では会いたくもなかった。

 そして、さすがに黒服の人達も王子には歯向かえないのか、足を止めてしまっていた。

「悪いけど、医療室に向かってるんでちょっと良いですか?」

 俺はさっさとこの場を逃げようと道を避けようとする。


 だが、そんな中、荷物を持つカイトと、ポケットに手を突っ込んだままその隣に並んで歩くエリアスが俺の逃げ道を塞ぐように現れる。


「レナード・アスター」

 エリアスは俺に声を掛けて来る。


「俺?」

「今日のレースはナイスファイトだった。まさか重力光剣(レイブレード)の当たり所が悪く切れるとは驚いたよ。二回戦に進みたかったが残念だ。握手をしてくれないか?」


 俺とフィリップ王子の直ぐ近くにやって来て堂々と話に割り込んで俺に握手を求めるエリアス。この人も意外に図太い人物だ。


 というか、殺す気で来ておいて、何でこんなに和やかにできる。それともあれをまさか不幸な事故で片付ける気なのか?

 あまりの大胆さに俺は驚いていた。


「貴様、俺を無視して勝手に話を進めるとは不敬であろう。俺を誰だと思ってやがる!」

 そして勝手に憤っている王子様が俺の横にいた。

 さらに絡んでくるとは予定外だ。くそ、目元が痛いはずなのに、お腹が痛くなってくる。ここから逃げられないだろうか?


「不敬?いやー、すまないね。火星人じゃないもので、君ごとき凡人に興味はないんだよ」

 ヘラヘラと謝っているようで完全に挑発してくるエリアス。

 俺は握手をしようと、態々タオルを抑えていた右手を左手に持ち替えていたのだが、右手が宙ぶらりんになってしまう。


「貴様!」

 フィリップ王子は強引に周りの護衛を後ろに下げて、喧嘩腰でエリアスへと絡みに行く。一触即発という状況で、俺は思い出す。


 そういえば、エリアスは目の前のフィリップを殺しにここに来ていたのでは?


 そこに思い当たった瞬間、エリアスは自分に近づいてくるフィリップ王子を見て、口角を押し上げて笑うのが見える。ポケットから右手を出しながら、一気にフィリップへと踏み込む。

 俺はエリアスがフィリップ王子を殺すのを止めに来たのに、自分が原因で最悪の現場を作ってしまったことに気付く。

 後悔先に立たずともいうが、あまりにもぼんやりしすぎていた。


 エリアスから放たれるのは黒い重力光剣(レイブレード)から打ち出された光の刃。その威力はかすっただけで俺のヘッドギアを真っ二つに切り裂いた折り紙付きだった。


 フィリップによって後ろへ回されたボディガード達は慌てだす。気付いた時にはすでに光刃がフィリップの首へと一直線に飛んでいた。

 その刃がフィリップ王子の首が跳ね飛ばされると誰もが想像した。


 だが、その前にフィリップ王子の頭を、何故か俺に付き添っていた医者が回し蹴りを食らわせて、地面に叩き落す。

 エリアスの光の刃が、蹴り飛ばされていなくなったフィリップ王子のいた場所を切り裂く。


 エリアスはまさか医者がフィリップを庇う為に蹴りを入れるなど思いも寄らず、注意を医者の方へ向ける。


 若く小柄な医者だが、まさか、この医者もフィリップ王子のボディガードだったのか?


 エリアスは医者へ向けて刃を振るうのだが、医者は更に前へと踏み込んで重力光剣(レイブレード)をかわし、回し蹴りでエリアスの脇腹を蹴り飛ばす。

 エリアスは大きく吹き飛んで地面に這いつくばる。


 その状況になって初めてボディガードの面々が動く。


「ふっ………レースになってしまえば情報を外から取れないからな。まさかこの私が医者に扮しているとは思うまい」

 若い医者だと思っていた男は、ゆっくりとマスクを取ると、そこにはシャルル王子がいた。


 マジか………


「我が鋼鉄入りのブーツによる回し蹴りであばらがへし折れている筈。大人しく投降しろ。エリアス・金。キース・アダムス。フィリップ王子殺害未遂とその暗殺幇助未遂の現行犯として逮捕する!」


 シャルル王子はビシッとエリアスに指を突き付けて断じる。どこぞの名探偵や名刑事さんも真っ青だ。


 エリアスは左わき腹を抱えたまま周りに銃口を突き付けられて追い詰められていた。

 するとエリアスはチラッと俺の近くへ視線を向ける。何故、と思ったが、よく考えると俺の立っている場所は丁度、彼らと外への出入り口の途中に立っていたのだ。

 カイトと共にエリアスは、俺の背後にある退路の方へ向かって走り出す。

というか、俺の方へと走り出す。


 銃口をエリアスに向けようとするボディガードだが、その方向には俺がいる。

「まて!撃つな!一般人に当たる!」

 慌てるように叫ぶのはシャルル王子。


 俺は慌てて逃げようとするが、足がもたついてその場でたたらを踏んでしまっていた。こういう時、運動神経の悪さが嘆かれる。

 隣にいた筈のリラはちゃっかりシャルル殿下の方へ避難をしており、鈍いのはどうやら俺だけだったらしい。

 慌てて逃げようとするが全く体が動かない。


「どけ!」

 エリアスはレイブレードを放出させて退路で棒立ちする俺を邪魔者とばかりに斬り掛かる。


 俺へと光の刃が閃く。

 俺の首にその刃が飛んでくるのが見える。


 まるで走馬燈のように色んなものが駆け巡り、ゆっくりと光が俺へと襲い掛かる。逃げようと思っても全く体が動かない。

 初めて殺し合いのレースで体感したように。

 だが、ここではエールダンジェはつけていない。エールダンジェを付けていれば指先一つでこのくらいの攻撃はかわすことが出来たかもしれない。だが、今は常時であり、逃げる術を一切持ち合わせていなかった。


 死


 ただ漠然と死だけが俺の目の前に突きつけられる。


「やめろっ!」

 その時、どこかで聞いたことのある声と一緒に、影が飛び込んできて俺を突き飛ばす。

 視界が回転する。


 俺は何かに突き飛ばされて地面に倒れて、間一髪助かったことに気付く。


 俺は尻や背中に痛みを覚えながらもゆっくりと体を起こす。

 だが、そこには、おびただしい血が大量にまき散らされている事に気付く。慌てて自分の首を抑えるが切り落とされてはいないようだった。いや、落とされていたら抑えられるはずもない。

 冷静になって周りを見ると、その場を逃げていくエリアスの背中と、それを追うボディガード達の姿が見える。もしかしたら会場の警備員かもしれない。

 俺はそこで自分の上に倒れている何かを見て言葉を失う。


 俺を突き飛ばし、俺の上に伸しかかって倒れていたのはカイトだった。

 大量の血は俺のものではなく、カイトのものだ。肩口からバッサリと斬られて骨の切断面さえ見える程だ。


「ば……かやろう………。お前は……あいかわらず……オレが……いないと……鈍い……だから……」

 カイトは俺を見て、ホッとした表情を浮かべ、そのまま目を閉じて倒れ伏す。


「カ………カイト?………カイト!カイト!」

 俺は声を掛けるがカイトは一切動くことがなく、俺の上にいるカイトの体温は一気に冷たくなっていく。まるでそれはかつて母が俺を庇って死んだときのように、父が死んだときのように。


 頭がぐちゃぐちゃになり何も考えられなくなる。

「あ、あああ、あ、ああああああああああああああああああああっ!」

 涙が頬を伝い、嗚咽だけが喉から漏れる。


「医療ロボット、担架を速く持って来い!」

 何やらシャルル王子の声が響くが、俺の耳には全く入ってこなかった。あまりの出来事に頭がついていかない。


 何が一体どうなったのか?

 それからの事を、俺は全く覚えていなかった。

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