何で負けたら俺が脱ぐの
俺がタンコブをこさえながら、リラと共に選手控え室から関係者のあつまるロビーに出る。
「酷いよぉ」
「酷いレースした報いよ」
「相手が強かったんだってば」
「自分のレースをすれば余裕で勝てる相手なのに、ちんたらしやがって」
「ううう、DV反対」
俺は痛む頭をさすりながら恨めしい視線をリラへ向けるが、リラはどこ吹く風だった。あのスパナ、最近ではエールダンジェ専用ではなくレナード君の頭専用なのではないかと思う位に叩かれてる気がする。3年半の付き合いで、間違いなく300回くらい叩かれてる。パンチドランカーならぬスパナドランカーになったらどうするんだ。
とはいえ、この話題を続けても分が悪いので、レースの話を避けるように違う話を持ち出そう。
「あ、そういえばチェリーさんってこっちに顔出さないね。関係者ならこっちに顔出すでしょ」
「さすがに自重してるでしょ。一応、元有名人だから」
「へー、有名人だったんだ。俺も知ってる選手なのかなぁ」
………
「本当に記憶の彼方に飛ばしたのね」
「?」
「ごめん、私のせいかもって最近思うわ」
「???」
リラは何故か俺へ申し訳ないような哀れむような視線を向ける。
何だろう?チェリーさんの正体を知らない事が何か問題なのだろうか?
そも、俺の記憶の中に、あんな女装のオッサン飛行士は見たことがない。まさか若い頃は美少年で女装が似合ったのだろうか?
いや、ないな。
するとロビーにいた桜さんがヒラヒラと手を振り、しっとりとした長い黒髪を揺らしてオレとリラの前にやってくる。
「さすがですね。少し危なかったようですけど。最後の重力光剣はリラの策ですか?」
「ここ暫くは近接訓練してたのよ。知り合いの『剣武』競技者と重力光剣で戦う方法を習ってたみたい」
「なるほど。苦し紛れでしたけど、ギリギリでしたね。とはいえ、2戦連続KO勝利するとはさすがとしか言えません」
「桜はそろそろね。次勝てば私達との戦いだからね。楽しみにしてるわ」
リラは楽しげに笑って桜さんに発破をかける。
そういえばそうだった。3回戦は桜さんのいるトーナメントだ。
「今回のツアーは若手を多く招待したお陰で、私でも1勝出来たのは幸運でした。次も勝ちたい所ですが……後期中学に入ってから一度も勝った事のない相手ですからね。………必ず次で、とは約束出来ませんが、全力を尽くしましょう」
桜さんはチラリと人だかりを見る。
相変わらずマスコミや多くの取り巻きに囲まれている男がいた。スラリと背の高いイケメン中学生。長い金髪を真ん中分けにしており、端正な顔立ちだがどこか不良っぽい生意気そうな雰囲気がある。見た感じ、とても人気の高い飛行士のようだ。
「ジェネラルウイング、セレネー、アーセファ重工、ベジェッサ電機、月の4大クラブのスカウトに加えて、インナースーツの専属契約しているティアスターの営業も遠巻きにいるし、まだ後期中学生なのに、ほとんどプロですから。同じ学生飛行士でも私とは格が違い過ぎますけど」
桜さんは半ば他人事のようにぼやく。
「すげー。あれがプロのオーラか」
「いや、今回でプロツアー初出場よ。一応予選勝ち抜け最有力とは言われてるけど。むしろアンタがプロだから」
「何だろう、俺にはスカウトなんて禄に来ないと言うのに、向こうはプロツアー初でこれか。やはり中学王者は違うのか…」
ガックリと肩を落とす。俺も中学の大会で活躍したら人気出るのかな?リラとプロに挑戦しているけど、そもそも普通は学生大会のステップを踏んで、その中でプロの育成にスカウトされて、プロになるのだ。俺みたいに、全てのプロセスをぶっ飛ばして零細プロをしているというのは変なのかもしれない。
「デビュー戦でバカ丸出しして、誰も見なくなったというのが正しいのだけれど」
死体に蹴りを入れるかのように、リラが自分の肩でゴスゴスとオレの肩を叩きながらジト目で見てくる。ちょっといつもより小突き方が強い。
仕草は可愛いんだけど、思い出してかなりイラついているよね?
思い出し怒りとか辞めて欲しいんだけど。
俺達が見ているのを気付いたのか、ベンジャミン選手はニヤリと笑みを浮かべる。まるで弱者を嘲笑うかのように口元をゆがめていた。
「では、先ほど聞かれたようにマスコミの皆さんに対して今日の試合の目標を語ろうじゃないか」
高らかに大きい声を張り上げる。マスコミも喜んでカメラを向けてカシャカシャとシャッターを切る。どうやら、わざとこちらに聞こえるように言っているのだろう。今日戦う桜さんに聞こえるように、である。
ベンジャミンはそこで指を一本高々と上げ、
「俺が一瞬でKO勝利をしてしまっては集まったお客さんに申し訳ない。故に、前半は様子を見て0-0で折り返し、後半5分以内にKO勝利をして見せよう。前半は攻撃を一切しない。だが、後半戦に圧倒的大差をつけてKO勝利だ」
大胆な宣言をぶち上げ、周りを大きく盛り上げさせる。
「まあ、ああいう所があるからマスコミも取り上げるし、商業人気が高いから多くのクラブも注目してるんだけどね」
半ば呆れる様にリラがぼやく。確かにそれは俺達には無い所だ。目の前の事で手一杯でそんな大胆不敵な事を言う暇も無い。
というよりも、対戦相手が年上過ぎて、そんな事を言うよりは本当に胸を借りるといった状況が多すぎた。
桜さんは悔しげに相手を睨みつけていた。
後期中学の大会では完敗していた。ベンジャミン君は対戦経験があるし、実際にそのくらいの事をやれる差があるという自信があるのだろうか?1年半前まで、桜さんに悲惨なほどに負け続けた身としては、どれほどのレベルなのか分かりやすい相手でもあった。でも、1年半前までは桜さんが前期中学王者なのだから、多分そのころは負けてたんだろうなぁ。
かつての報復か?
***
そして、俺達は次の対戦相手である桜さんとベンジャミンのレースを観戦する事になる。
桜さんとベンジャミンのスタートはセオリー通りの反時計回り。
左手に盾を持つから盾側が相手サイドに来るように動くのは通常の事なのだが、それはそもそも左手に防御障壁を発生する重力光盾を持つ事を前提としているからだ。
だが、ベンジャミンは恐るべき事に重力光盾を持たないでスタートをしたのだ。しかもよく見れば腰のホルスターには重力光盾だけでなく、武器を一切所持していなかった。
それに気付いたのか観客は盛り上がるように声が上がる。
「まさか、アイツ。本当に前半は何もしないなのか?」
俺はあまりの事に驚くというよりも呆れてしまっていた。
リラは殺意でも抱くかのような視線でレースを見ながら頷く。
「そうよ。あの舐めた戦い方で中学王者になってるから注目を集めてスターとして振舞われているのよ」
「エールダンジェ舐めやがって…」
「それでも勝つからチヤホヤされているのよ」
桜さんは積極的に攻める。
だが、ベンジャミンは華麗な飛行でヒラリヒラリと攻撃をかわす。近付こうとすれば宙返りだけでなくエールダンジェ特有の華麗な飛行テクニックでマタドールのようにかわし、遠距離から撃たれても蛇行を入れながら軽く避ける。
飛行を見ただけで『あ、上手い飛行士だ』と思わせる飛び方をする男だった。プロのレースを見ているかのようである。
「さすがベンジャミン、格が違うな」
「ふっ、彼はウチが貰いますよ」
「いやいや、ウチが」
有名クラブのスカウト達は彼に熱視線を向けていた。
互いにライバルクラブであるが、スカウトは同じ場所に出没するので顔見知りなのだろう。こっちはこっちで勝手に盛り上がっていた。
「リア充死すべし」
「気持ちは分かるけど落ち着きなさい」
イケメンな上に強い飛行士に呪いの波動を送る。たが、届く様子は無かった。無論、科学万能の時代に呪いなんて存在がないのはとっくに証明されているので届きようもないのだが。
「桜がもう少し追い詰めてくれると相手のクセみたいなものも見えてくると思うんだけどね」
「桜さん相手に武器を持たないで余裕で逃げれるって時点で人間なのか怪しいんだけど」
確かにレースを舐めているとしか思えない飛行をしているが、それでも圧倒的に強いのだ。
桜さんの攻撃を悉くかわし、しかもわざと相手の後ろを取って指で拳銃の形を作っていつでもポイントを取れるというのをアピールさえする。
あの温厚な桜さんさえ屈辱に顔を歪めて必死に攻撃を仕掛ける。しかし、その攻撃は全てかわされる。
それ程、ベンジャミンは強かった。
結局、宣言通り、何も無く前半が終わってしまう。
桜さんはたった一人で、自分の機体のエネルギー補給をしつつ、プログラムを書き換えていた。
「飛行技師兼飛行士はレース中に仕事が出来ないのが弱点なのよね。飛行士に設定変更の説明をする時間は必要ないけど、作業時間がどうしても削れるから」
「どっちも出来るなんて凄いなぁとは思うけど」
「まあ、プロになれば私達がやってる事は全部回りがやってくれるから、飛行士は練習に集中できるんだけどね」
「…つまり営業活動とか、バイトとか、ビデオ調査とか、技術調査とか、そういうのはしなくても良いと?」
「トッププロは監督がいて、メカニックチームがあって、当然だけどスカウティングチームもあるのよ。チームは最新技術動向の調査したり、技能を教えてくれるコーチもいて、担当飛行技師が戦術と戦略、それに必要な機体の概要を説明すれば、その飛行技師チームが各ユニットに別れて調整をする。飛行士も次のレースに向けてやりたい事を説明すればコーチが練習スケジュールや栄養調整、全て整えてくれる。プロと私達とじゃ、環境が全く違うのよ」
「……なるほど。なんだか古代の王様みたいだね。言ったら、何もかも整えてくれるのか」
「そうね。下っ端の内は下っ端作業をするのよ。上に立てなければ結局下っ端として働くわけだし」
「まあ、エールダンジェの名門学校だと、そういう階層が既に出来ているから、王様慣れしているんでしょうね、あの下衆は」
「ここは桜さんに頑張ってもらうしかない!」
俺達は桜さんの応援に専念するのだが
だが、ベンジャミンは強かった。
後半戦、ついに攻勢に出てくる。桜さんの攻撃を悉くかわし、重力光拳銃でピンポイントに攻撃して桜さんからポイントを奪う。
通常、射程に相手が入ったら撃てるだけ撃つのが基本だ。外れても良いように無駄弾だろうと多少は多く撃つのだ。
だが、ベンジャミンは無駄な射撃を一切しない。
桜さんの攻撃をひらりとかわし、カウンターと言わんばかりに相手の後ろを取って攻撃をあてる。
あまりにも華麗で、あまりにも無駄が無く、観客はその美技に酔いしれ、スカウト達でさえもほぅと溜息を吐く。
「これがプロレベルかよ」
俺も過去に戦った誰よりも技巧に優れた飛行士の姿に悔しさの滲んだ声が漏れてしまう。リラも悔しげに親指の爪を嚙みながら、その様子を見ていた。
「チッ、何やってんのよ、桜。あの程度のクズ相手に…」
でも、俺の相棒はあの天才レーサーさえも、あの程度のクズ扱いするのであった。気持ちは分かるが落ち着け。
ビーッ
『7対0 勝者ベンジャミン・李』
放送が流れ大きく盛り上がる。
結果を見ればベンジャミンの圧勝だった。明日の対戦相手はこの男だが、全く勝てる気がしなかった。
暫くすると、肩を落として1人でロビーに戻ってくる桜さんの姿があった。
声を掛けるか迷うほどに桜さんは意気消沈した様子だった。
それも当然だ。相手の宣言通り、しかも前半は武器も持たれずに、後半だけで完封KO負けである。ここまでおちょくられて負ける事はそうそうないだろう。
するとその背後から多くのスカウトやマスコミ、スポンサーたちを引き連れてゾロゾロと歩いてくる男がいる。
ベンジャミン・李だ。彼は多くの人が見える壇上へと向かい。記者会見を受けようとしていた。
「今日のレースはどうでした?」
インタビュアーと思しき男がマイクを向けてレースの感想を聞く。
「そうですね。楽勝でした」
歯に衣を着せない言葉を堂々と吐く。しかも負けた相手が目の前にいるのに、とんでもない男だ。
その言葉を耳にしたのだろう、桜さんが歯を食いしばり、爪が食い込むほど拳を強く握るのが見える。だが振り返ろうとはしない。屈辱に打ち震えるだけだった。いつも落ち着いたお姉さん然とした桜さんが、ここまで感情的になっている姿を見るのは初めてのような気がする。
剣呑な気配を出すのは桜さんではなく、俺の横にいる相棒であった。
「まあ、女なんてこのエールダンジェの世界じゃ生きていけないんだから相手にするのもあほらしいけどな。女なんて俺の上で腰振ってりゃ良いんだよ。ギャハハハハ」
物凄い口の悪い中学王者である。そして近くにいるマスコミの男は嬉々としてノートパッドに音声を入力させて記事にあげていた。
今の時代、この程度の傲慢で世間は厳しく非難したりはしない。寛容性のある社会といえるのかもしれないけど、正直こちらは腹が立つ。敵を作ろうがそれ以上の実績があれば許される実力の世界だから、スポーツの世界ほどこういう王様気質の選手が多くいるし許されている。
それにしても目の前の15歳児は既にそんなに大人なのか?俺も2年後にはスター選手になれたらそんなおいしい思いにありつけるのでしょうか?
弟子入りさせてもらえないかな。
「明日は最年少プロ飛行士のレナード君ですけど、対策は練ってますか?」
「対策~?そんなの練る訳無いでしょ。どっちが出てこようと眼中なんて無いし。レースを一目見て、どっちもザコで話にならないのは分かったからな。まあ、明日も今日と同じ展開になるって事だな。ほら、俺が本気出しちゃうと、折角見に来てくれた人達が1分で終わっちゃうから可愛そうでしょ。せめてハーフタイムくらい見せてあげないとさぁ。うちが学校から連れてきた飛行技師が暇で寝ちゃうって」
ベンジャミンは物凄い調子に乗っていた。ゲラゲラと笑いながらわざとらしく見下すようにこちらを見る。どうやら明日の対戦相手であるレーナド君がここに居るのを分かっていて口にしているのだ。
そこで俺はふと気付く。これはヤバイと。隣にいる相方がぶちきれるのでは無いかと思って、リラがスパナで殴りかからないように、慌てて右手を掴んで抑えこむ。
間一髪、リラが右手を振り上げようとする手を掴んで押さえ込めた!
俺、偉い!
自分で自分を誉めてみたが、リラに物凄い殺気の篭った瞳で睨まれて、腰が引けしまう。恐怖で手を離してしまう。あの殺意に籠った目は相方に向ける目では無いだろう。
「まあ、向こうの飛行技師の女は良い体してるから、一発やらせてくれれば1点くらい恵んでやってもいいけどな」
さらに、相手のベンジャミンはそうと知ってか知らずか、完全にこちらを挑発している。
もう辞めてください。戦うの俺なんですけど。対戦相手が相棒の怒りに涙目になってるんで勘弁してください。
「はっ……今から負ける言い訳かしら?ソウ●ウ臭い顔した男はこれだから嫌よね。アンタみたいなクソなんて100億U$積まれても指一本触れられたくないっての。まさか、たかだか中学生王者風情が私の相手をしてもらえるとか勘違いしちゃってんの?嫌ねー、ホント。自分の早さとか自慢しちゃうソウ●ウって」
「んだと、テメエ!」
「アレ?聞こえちゃった?品性は無くても耳は良いのね」
めっちゃ大声で挑発してたやん、リラさん。
俺は隣の女に腰が引けてしまう。そもそもスラング抜きで放送禁止用語を口にする事が怖い。昔だったらもっと口汚くののしっていただろう。
桜さんもかなり引き攣っていた。
「明日、無様に負けるクサレマ●コが、調子こいてんじゃねえぞ?ああ?」
「その言葉、そっくりそのまま返すわ。ああ、女のメカニックなんかについているライダーに負けちゃう哀れな上級生がかわいそうね。今日と同じ展開?ああ、そうね、良かったわね。明日は武器を持たないでレースに出て、無様に武器を持つ事無く前半戦で負けちゃうんだから。メカニックいらずで羨ましいわね」
「いいだろう。……宣言してやる。明日は前半0-0でおちょくっておちょくっておちょくり倒したら、後半1分でKO勝利だ。もう飛行士が2度と飛べなくなるくらいにプライドを根こそぎへし折ってやる」
「そんな事があったら、全裸で帰ってやるわ」
いや、だから、ベンジャミン選手もリラとにらみ合ってるけど、戦うの俺だからね?
しかも負けたら全裸ってマジッすか?
見たいけど、見せたくないという微妙な男心が。
「はっ、逃げるんじゃねえぞ」
「望むところよ」
ベンジャミンとリラは互いに言葉を吐き合い、ベンジャミンはその場をズカズカと去って行く。
リラは堂々と胸の前で腕を組んで彼の退場を見送る。カシャカシャとマスコミもこちらも一緒に写真を撮って、ベンジャミンと共に去っていくのだが……
「という訳で、負けたら、アンタが全裸だから」
リラは俺の肩を叩いて口にする。
「って、全裸で帰るのって、俺!?俺っすか!?今のって、リラとベンなんとか君の喧嘩だよね!?何で負けたら俺が脱ぐの!?」
「戦うのはあんたでしょ!」
鬼や。オレの相方、メチャクチャ鬼やねん。
桜さんは落ち込んでるのも忘れて、俺に同情するような視線を向けていた。
俺はどうしましょうって悲しげに視線を向けるのだが、桜さんは無言で俺の肩を叩き首を横に振る。そうですね、ウチの相方は強引極まりない恐ろしい人でした。
「桜もよ。情けない負け方して」
「え」
リラは更に不機嫌ついでに負けた桜さんにまで噛み付くように口にする。
やめて、俺はいつもの事だから耐性があるけど、落ち込んでる桜さんに当たるのはやめてあげて!
「かつて組んでた身としては、藤宮桜はそんなだらしないレースをする女じゃなかった筈よ」
「……それは……昔の事よ。スピード制限がなくなってから、多くの男子に負け始めているのは事実だもの」
「違うわね。それはそれよ。アンタ、妹の病気が治ってから、勝利への執念がないもの。昔は何が何でも勝ちに行く飛行士だったわ。今のアンタとは組みたいと思わない、その位、情けなくなったわ。今のアンタならレンの方が100倍マシよ」
リラは呆れるように桜さんに毒を吐きつける。
「あれ、なんで現在進行形で組んでる俺が『マシ』な扱いなんだろう。仕方なく組んでる感が滲んできて悲しくなるんですけど」
俺は悲しげに訴えてみるが、2人は聞いて無かったようだ。
そんな俺のぼやきを無視して、桜さんも思い当たる事があるようで、悔しげに俯く。
確かにリラが言うように、俺もそれは感じていた。
相手にレースをさせないのが桜さんの戦い方だった。相手の良い所を見せないで勝つ。だがそういうレースが全く見えなかった。もっと他の戦い方があったんじゃないかと思うが、素直に戦って素直に負けたというのは確かだ。
リラは文句でもあるのかと言わんばかりに傲慢に踏ん反り返って桜さんを睨んでいた。
桜さんは視線をそらし
「リラには敵いませんね。……そう、なのかもしれませんね。反省させてもらいます」
それだけを口にしてその場を去る。
「さ、行くわよ。明日の対策を練るわよ。相手は手強いわ」
「オレは対戦相手よりも自分の相方が一番怖いです」
明日は俺が脱がなくなる事を祈って戦わなければならない。
どうしてこうなった。