閑話~カイト・アルベック~③
血の5月テロ事件から2年半が過ぎ、俺は飛行技師として1年以上のキャリアを積んでいた。もしもまだウエストガーデンにいたなら後期中学1年生になっている頃だろうか。
俺はエリアス・金という飛行士とコンビを組み、10月に行われたギャンブルオープンと、11月に行われたコンバットオープンの二つのチャレンジツアートーナメントに出場し優勝した。
レギュレーションはコンバットクラスではあるが、グレードC相当に値するチャレンジツアーに2連勝した事で、エリアスさんの世界ランキングも大きく上がった。
もしもウエストガーデンにいるままなら、後期中学校の1年生、俺はプロの舞台に立つこともなく生きていたのだろう。
エリアスは暴走癖のある面倒くさい男だが、強さだけで言えば圧倒的だった。俺は負ける気がしなかった。
「あのバカ、またやられてやがる。全く、何やってんだ」
連戦連勝街道にも拘らずこんな事を俺はボヤいてしまう。
別にエリアスの結果についてぼやいていた訳では無い。遠く離れた場所で飛んでいるかつての親友のレースを見ていた。
ここ最近、レンのレースはずっとこんなだ。
レンのレースは基本的に常に自分のペース。ある意味で常に主導権を手にする。対戦相手はどんな飛行テクを見せても、直ぐに後ろに付かれてしまうのでかなり嫌だろう。
基礎技能がステップアップツアーの予選レベルでは圧倒的に高いのだ。
だが、飛行で苦しくなると、対戦相手は必ず組み付くくらいの特攻を仕掛ける。そして、戦闘センスのないレンは体当たりを食らうとそのまま相手に追い込まれてKO負けを喫する。
こんなレースが何度も何度も見せられる。
あまりにも戦いのセンスが無さすぎて、これではプロのスカウトも手を出さないだろう。案の定、その手のニュースは存在しなかった。
「レンの飛行技師の技術が低すぎる。あれじゃ機体をもっと速くする事も出来ない。俺だったらプロランキングポイントを取らせるくらい難しくないのに。確か、ミハイル養護施設の機械弄りばっかりしてた引き篭り女だったよな。リラとか言ったか。あんなクソみたいな調整でよく勝てる。三流も良い所だ」
レン自身の才能は低い。だが、基礎技能は高い。
俺ならプロで食っていける程度の実績を残させてやる事は出来るだろう。
だが、今のままでは話にならない。
飛行技師の腕が悪すぎるからだ。スポーツ仕様でも、もっと速度を出せるようにチューニングすれば、いかようにもなる。元よりレンは射撃や盾みたいな武装に出力を掛けるタイプじゃないから余剰エネルギーが無いわけじゃない。何故、大量の余剰エネルギーを無駄な場所に持て余しているか、理解が出来なかった。
俺は自分とは関係ない飛行士と組んだことを考えて色んな事を頭に過らせる。
だが、それはあり得ない事。
血にまみれたこの手で、かつての親友と仲良くやろうなんて出来る筈がない。
いや、そもそもレンが俺を許してくれるはずもない。俺の作った重力光剣がレンの親父さんを斬り殺したのだから。
何を今更……。
テレビ映像の中ではレンとリラ・ミハイロワの2人がレース場を去る姿が見える。本来、あの女の立っている場所にいるのは俺の筈なのに。
そう思わずにはいられなかった。悔しいし情けなかった。
***
年が明けて最初のレース、ソードマスターズという重力光剣以外の武装を禁止されたレースに出場していた。
レース場の中央では、無重力空間である宇宙ステージに置いて、大量の血が舞っていた。
エリアスの振った刃が、対戦相手ルチアーノ・デ・ルカスの首を見事に引き裂いたのだった。
反則負けにはならず棄権勝利となった。レギュレーション内での出来事。俺達に全くの問題はないと判断された結果だ。
「くそっ」
俺は握りしめていたスパナを地面にたたきつけ悪態を吐く。
「見事な調整だったな」
「見事だと!?」
俺に声を掛けるのは雇い主であるDKだった。多くの部下を引き連れて現れる。
「想定通り、さすがは死の鍛冶師の異名を引き継いだだけはある」
「俺は殺すつもりはなかった。そもそもあんな重力光剣を持たせたつもりはない!」
俺の言葉に、DKはニヤリと笑う。
「勝利は勝利だ。レギュレーション規定内のな」
「なっ……。……あの重力光剣はアンタの差し金か」
「当然だろう。エリアスはエリアスで仕事があったからな。おれは頼まれたものを渡しただけだ」
「仕事?」
「レースばかりで忘れたか、キース。我らがそういう世界の住人達にサポートされてここに居るという事を」
DKの言葉に俺は反論することが出来なかった。
エアリアルレースに集中しすぎていて、自分が何様だったのかを忘れていたのは否めない。
「最初から殺すつもりだったのかよ。ふざけるな!」
「ああ。お前とて対戦相手のルチアーノは殺したい程に憎んでいた筈だ。奴ら親子は軍用遺伝子保持者排除派閥の旗持ちだった筈。忘れたのか?」
「確かにあの男は正義面した悪党だ。でも、レースで殺すなんて……」
俺はDKにつかみかかろうとする。
しかし、その前に近くにいた男たちが前に出て、俺を乱暴に押さえつけ、地面にたたきつけられる。
「勝利する為に、レギュレーションの範囲でいかなる手段を使うのは当然の事。戦いである以上、死ぬのが怖い、殺すのが嫌だなど論外。貴様は精神的に未熟すぎるな」
「くっ」
多くの男たちに押さえつけられた俺に対して、可哀そうな子供を見るように憐れむような視線を向けて来るDK。だが、俺は歯をきしませてDKを睨む返す。
「暫く独房で頭を冷やしてこい」
DKの言葉によって、俺は男たちに無理やり引き摺られて独房へと放り込まれることになるのだった。
丁度、新暦319年1月の頃だった。
***
それから2か月経った頃だろうか、俺がコバチェビッチラボの奥深くにある牢獄から出たのは。
牢屋から出て、応接室に連れ出されてやって来たのはケビンさんだった。
ケビンさんは重たい空気も全く読まず、ジャンクフードを持ってきて、俺の前に広げて、フライドポテトを食べていた。
「お前も食べる?」
「いらねーし」
別に牢屋にいても飯を食ってなかったわけではない。
何で出てきて早々にジャンクフードを食わねばならないのかと突っ込みたい所だ。
ケビンさんは右腕でポテトを持って勧めて来る。だが、そこで気付くのは彼に右腕がある事。血の5月テロ事件以来、腕を失っていた筈だ。
「腕は治ったんですか?それとも義手?」
「ああ、DKのラボで作らせた。前の腕と遜色ない動きだ。メンテナンスが必要なのが面倒だがな」
「……俺を牢獄から出したのはアンタって訳か」
「ああ。ちょっと仕事を受け持って貰いたいんだ。お前の腕が必要だ。月で仕事をするにも、俺は月に入れないからな」
「そりゃ、俺も同じだろう」
お互い、あの事件の犯行に深く関わっていた。警察に逮捕されるのは当然と言う状況にあった。
基本的に月の人間が住む居住領域は全て居住区として銀盤に覆われている。
犯罪歴があったり、カジノ居住区の住人とてちゃんと国際登録されていないと、月みたいな入国に対して厳重な居住区に入るのは困難だ。
「ん?いや、お前は未成年だと言うのもあったのだろう、重要参考人扱いにはなっていたが、俺みたいに遺伝子チェックに引っ掛かるような状況にはなってなかった。普通に素通りできるだろう。無論、偽名を使って入る必要はあるが」
「え」
予想外にも、俺の遺伝子が月への入出チェックから弾かれないという事実に驚く。
俺がテロリストに武器を仕立てていたのは師匠やレンに知られている。あんな事件をやらかした連中とつながっていて、どうして容疑者にもなっていないんだ?
「遺伝子チェックで素通りである以上、キース・アダムスとして出入りは可能だ」
「ま、待ってくれ。だったら、月に帰らせてくれたって……ケビンさんの事は口外しないって約束するから…」
「無茶を言うなよ、カイト。お前、俺の下でどれだけの武器を作っていたと思うんだ?今更、お前にそんな自由があるとでも?」
「あっ」
確かにテロの騒ぎの時は、意図してあの事件を起こす為に武器を作っていた訳では無い。だが、その後の話は別だ。
一体、どの面下げて月に帰って師匠やレンと顔を合わせろと言うのか。養護施設の仲間に何と言われるか……。
ケビンさんが言うように、今更な話だ。
「キース・アダムスとして働いてもらう。確かに現場に出てもらう事になるが、危ないマネをさせる予定はない。信用できる奴が率いている組織だ」
ケビンさんは俺の肩を叩いて快活に笑う。
俺はこの時、初めて気づいた。ケビンさんはウエストガーデンにいた頃からこんな顔で笑っていた。人助けをしようと、仲間の為に表立って盾になっても、人を殺そうとも。この人はどんな時でも一切変わらない。
幼い頃は強い人だと憧れたが、今となってはどうにも精神がおかしいとしか思えなかった。
それとも、これが本物の軍用遺伝子保持者なのかもしれない。
***
ケビンさんの指示で向かった場所はカジノハビタットの治外法権区画のスラムにある酒場だった。
そこにやって来た連中は『青き地球というテロ組織だった。
「俺はレックス、このテロ組織のボスだ。よろしくな!かつてケビンさんと戦場を駆け抜けたという、あの伝説の死の鍛冶師が味方をしてくれるなんて心強い限りだぜ」
嬉しそうに若い男は俺の肩をバシバシ叩く。
多分、その伝説の某は俺じゃないと思う。見て気付いてくれよ。その伝説って10年くらい前だよね?というか、師匠も1年ちょっとの活動で勝手に伝説にされて困惑してたんだけどね。
おれはうんざり気味に、フレンドリーに接してくる男を眺める。
だが、思ったより若い男だ。大体、テロ組織ってのはトップが年寄りで、言葉を巧みに使って若い連中を利用し、利益だけを得てドロンと消えるようなタイプが多い。
それに、近年頭角を現した青き地球の活動はかなり有名だ。もしかしてこのレックスというリーダーは頭が切れるのかもしれない。
「ところで、この組織は何をする組織なんだ?」
「ん?何って……正義の組織に決まってんだろ!?」
前言撤回、ただのバカだった。
「まあ、結構成り行きの行き当たりばったりで兄貴の下に辿り着いたからな」
「兄貴?」
「ケビンさんだよ。あの人は俺達、宇宙中で蔑まれている軍用遺伝子保持者の誇りさ。安息の地を与えてくれた。まさに救世主さ」
「…救世主ね…」
俺からするとテロの片棒担がされた人って印象が大きいんだが。
「何せ、ケレスの奴隷商人の軍艦に囲まれている中、単身戦場に駆けつけて、ケレスの連中をエアリアルアームズを装備した状態だけで、敵艦隊を半壊させて俺達を救ってくれたんだ」
レックスは目をキラキラ輝かせて語る。
「あの人は、相変わらず無茶苦茶な」
俺がエリアスと組んで飛行技師をやっていたころ、その噂は耳にした。
過去に個人戦力でもって艦隊を駆逐し、『個人艦隊』などという物騒な異名を持っていたりする化物が歴史の中にも存在するのだが、まさかご当人様が身近にいたとは驚きだった。
「俺達は宇宙中にある違法遺伝子組織をぶち壊したいんだよ。お前だってその目をして生まれたからには軍用遺伝子保持者だってバカにされてきたんじゃないのか?アステロイド帯にはバカにされるだけじゃなくて、戦争奴隷として使われてる連中が腐るほどいる」
「戦争奴隷?今は戦争なんてないだろ?」
「アステロイド帯では結構な頻度で内戦がある。大体、上層部が一般人や官僚で、前線で戦うのが俺達軍用遺伝子保持者同士だ」
「そう、なのか?」
「ケレスの大統領なんざ、自分の周りの護衛は、軍用遺伝子保持者の頭いじくりまわして隷属させた連中で、奴らが軍用遺伝子保持者を弾圧している理由は、俺達を道具に貶めたいだけだ」
「自分たちが殴り合うなりすれば良いってのに、俺らだけを殺し合わせて勝敗を決めるシステムに文句があるってのは分かるぜ」
多くの権力者は安全なところで好き放題わめき、争いごとも作る。だが、殺しあうのは軍用遺伝子保持者同士で、そんな軍用遺伝子保持者がいるから戦争が起こっているという口ぶりで世間は俺たちを蔑む。
ケレスの大統領だけに始まった話じゃない。ウエストガーデンの市長もそういう部分があった。火星の王太子夫妻などは自分たちとて軍用遺伝子保持者である癖に、軍用遺伝子保持者を裏で売り物にしていたという。
「俺らはそこから逃げてきた口だけどよ、だからって、俺らだけ幸せになるつもりはねえ。その為に戦ってるって訳よ」
このレックスという男のノリをどこかで感じたと思ったが、同じ養護施設にいたアンリによく似ているんだ。
あのバカも大体こんな感じ、別に関係ない人間に対しても感情移入して首を突っ込んだりするのだ。
気の良い奴でリーダーシップを持っているんだが、どうにも面倒くさい奴といった感じだ。
論理的な俺と、感情的なアイツとでは基本的にソリが合わなかった。互いに子供の頃からの付き合いで、互いに適切な距離感を取っていたから、喧嘩になるようなことは無かったが。
事実、俺は目の前のレックスのノリについていけてない。
「ま、まあ、それは良いんだけどさ。仕事の話をしようぜ」
「おっと、忘れてた」
本当に忘れないでくれ。
***
仕事の内容は簡単だった。いや、やる事はかなり難しいのだが、言ってしまえば爆弾の組み立て作業だ。
俺は青き地球の連中と一緒に月へと渡ってやるのは、どうやらテロに用いる爆弾の組み立て作業と、作戦のサポートだそうだ。
「爆弾ねぇ」
「ああ。部品は全てフィロソフィアに送り込んでいる。後は組み立てればいいのだが、それが出来る人間がいない。知っての通り、ウチの連中は全員戦闘馬鹿だからな」
そんな事実は知らないが、この酒場において脳筋っぽいバカしかいないし、その日暮らしの傭兵ばかりに見えたが、どうやら印象そのものが正しかったらしい。
「普通、軍用遺伝子保持者って、頭脳派の方が比率が高いはずなのに…」
青き地球は呆れるほどに脳筋集団だった。
「まあ、任せておけって。お前は爆弾組み立ててくれれば良いだけだからよ」
「簡単に言わないでくれよ」
そりゃ、純粋な知能派な軍用遺伝子保持者の俺にとって、爆弾を組み立てるなど簡単な作業だ。その為の知能が備わっている。問題は現場で組み立てるものがどれだけ繊細かが分からないとどうしようもない。
「そこは信じてるしな。ケビンさんは自分の知る技術者の中でも3本の指に入るって誉めてたぜ」
「あの人の知る人間もお前らみたいのが多いんだよ」
DKのラボは知能派が多いけど、ソフトや遺伝子みたいな特定な技術に特化していてメカや電気、力学制御は非常に不向きな連中だ。師匠とDK以外で俺より上の技師を見た事が無い。なるほど、ケビンさんが言う3本の指が俺にも即座にわかってしまった。
飛行技師ならば腐るほど知ってるけどなぁ。
「でも、何で月でテロ活動を?」
血の五月テロ事件の当事者であるが故に、あの悲劇を思い出すからこそ、関わり合いたくないという想いが大きい。
「フィロソフィアカジノで、大きいイベントが行われるらしく、それを隠れ蓑にルヴェリア連邦軍参謀長官がフィロソフィアにいる『黒鳥網』の幹部が会談する予定になっているようだ。俺達はそれを阻止したい」
「何でルヴェリア連邦軍と黒鳥網が?むしろ犬猿の仲だろう?」
そもそもルヴェリア連邦王国は軍用遺伝子保持者が王となって建国した王国だ。軍用遺伝子保持者達の保護者のような存在でもある。
対する『黒鳥網』は軍用遺伝子保持者を弾圧する組織だ。彼らは主に一般人を煽って自分の手を汚さずに軍用遺伝子保持者を民衆に殺害させるなど社会的な扇動を得意とする組織だ。
ルヴェリア連邦軍と黒鳥網は、いわば天敵同志の筈だ。
そんな連中が何故、会談をする必要がある?
「火星に手を出さない代わりに自分たちに不干渉を貫けという話らしい」
「連邦がそれを呑むとは思えないが」
「火星ではアンチ黒鳥網の民衆が多く、かの組織を潰すためには戦争も辞さず、という世論も上がっているらしい。その為、一度、不可侵関係になろうと言う思惑があるそうだ。だが、それをされると、被害を受けるのは他の国の軍用遺伝子保持者だ」
レックスは歯噛みするように口にする。
「それを阻止したいって事か。まあ、確かに今まで通り、ルヴェリアという後ろ盾があった方がアンタらもやり易いだろうが」
ルヴェリア連邦王国は軍用遺伝子保持者の保護活動にも熱心だ。亡命先にもよく使われている。
「今回、このフィロソフィアカジノで行われるイベントで、シャルル王子が出て来るらしい。『黒鳥網』は護衛に手先を忍ばせて、最悪彼を誘拐して人質にしようって考えているとか」
「そりゃ、無理だろ。シャルル王子はガキで、公にされてないが単独でテロリストの組織を壊滅させたり、俺らの世界じゃ敵に回したらやばい奴だろ。ネットでどれだけ武勇伝が広まっていると思ってる」
そう、このシャルル王子というのは遺伝子弄りの大好きな悪徳王子の下で生まれただけあって、恐ろしい才能を持っている。100年前の英雄スバルの再来だとか、あるいは建国王の生き写しだとか言われているような一種の化物だ。
「……ああ。だから、俺達がシャルル王子をあわよくば確保し、『黒鳥網』の幹部を殺害する」
「お前らも無理だろ」
「………無理かな?」
「むしろ一緒くたに確保されねえか?」
「だよなー」
レックスは引きつってうんうんと頷く。
「何言ってんだ、アニキ!俺らならやれるぜ!」
「弱気になっちゃ駄目だぜ!」
「やってやろうじゃないですか!」
脳筋集団は酔っぱらっているのか、ぐいぐいと来る。だが、あの王子様は噂だけでなく本当にヤバイのだ。そもそも火星王太子夫妻の遺伝子弄りの最高傑作と裏社会だけでなく、表社会でもある程度知られているほどの化物だ。
だが、そういう訳でシャルル相手にするのは正直、辞めたい。見た目は女みたいな少年だが、中身はケビンさんのような怪物と同レベルだとも聞いていた。その時点で手を出すのは間違いだと断言できる。
「ケビンさんは『アイツはやばいから手を出すな』って俺は言われてたけど」
「「「よし、やめよう」」」
「会ったら逃げるぞ」
「「「らじゃー」」」
お前ら、本当にケビンさんには従順なのな!
このポンコツテロリスト共の頭であるレックスがケビンさんをアニキと呼ぶだけはあるようだ。
だが、危ない方向に行かなくて俺もホッとする。
そもそも一国の王子を拉致とかシャレにならない。しかも王子の方が俺達を拉致できる可能性があるとか勘弁してほしい。
「でも爆弾をぶっ放すってシャレにならねえんじゃねえの?」
「いや、テロするのにシャレで済まないだろ?」
おっと、脳筋に突っ込まれてしまった。あまりにも呑気なテロリストだったからうっかりしてた。
「俺らとて、無用な死者を出すつもりはない。テロリストなんて言われてはいるけど、別にテロを働いているつもりはない。結果的に他人に被害が出てしまう事もあるが、カジノに一般人が集まるどさくさしか侵入が困難だから、その機に乗じて貴賓席を爆破し、あわよくば黒鳥網の幹部を葬りたいんだよ」
爆弾は貴賓席に設置しても、爆発するのは貴賓席だけじゃないだろう。カジノには多くの一般人が集まっているんだろ?これに加わる必要性があるのか?
俺の顔色に気付いたのかレックスは苦々しく笑い、俺の肩をバシバシと強く叩く。
「お前はこっちの世界に向いてないのかもしれないけど……。アステロイドには俺達とおなじように戦争奴隷として生きる奴らが数百万といるんだ。そいつらを救う為なら、俺はどんな悪名も受け止める覚悟だ。正義なんて言ったけど、そりゃ俺達だけの正義なのは分かってる。お前は爆弾だけ組み立ててくれればいい。それを使うのは俺達の責任だ。知らん振りして脱出しろ」
「あ、当たり前だろ。俺は技術者であって、テロリストじゃねえ。ケビンさんに頼まれたから仕方なくやるだけだ」
レックスは本当に嫌な奴だ。
どうやら、俺の考えが丸わかりだったようだ。そんなに分かりやすかっただろうか。だが、共犯者である事実は変わらない。その事実から目を背けているだけだ。
今更、俺が日の当たる場所に戻れるはずがない。いや、戻っていいなんてありえないだろう。
そんな事、ずっと前から分かっていた筈だ。




