父(おや)と娘(こ)
自室に帰って寝たはずなのに、気づけばいつかの白い部屋に似た雰囲気の場所に立っていた。
部屋にはコタツがあって(※現在冬です)、そこでは人外の美形────龍神ゼクスがみかんを食べていた。
『シオンも入るといい、温いぞ』
「遠慮なく」
これぞ龍神クオリティーだ。前フリが一切ない。ゲーム時代からこれだから変わってない。みかんうまうま。
「こちらの世界に来てからまだ神殿行ってないから会わないと思ってたけど、何で?」
『加護で義娘になってただろう、誼をむすんでいるからほかの神と違って神殿でなくとも夢の中なら意識だけ呼べる。』
「便利になったね。でもなんか用事あった?」
ふむ、と一呼吸置いた
『明日ルイン王国へ行くだろう?その時神殿にもよるつもりだったか?』
「うん。とりあえず寄っとこうかなーって思ってたけど、どうかしたの?」
『今、ルイン王国には我らを祀る神殿と、ミース神聖国が唯一神と騙る女神を祀る神殿の二つがあるんだがな、ルイン王国内での影響力は6対4ぐらいの割合なのだが、決して無視出来んのだ。』
ほえー
「ミース神聖国って女神を崇めてたの?知らなかった」
『そこからか...まあいい。しかしその女神とやらは我ら世界の神とは違うのだ。』
「神様って種類があるの?」
『ある。一つはシオンも会った最高神を始めとした我ら世界神、世界を創った神々だ。
もう一つがミース神聖国が崇める女神のような、新手の神、こちらはちと厄介なのだ。』
厄介とな?
『かの〝女神ミース〟はいつの間にか存在していてな、世界のシステムを調整する我らとは違い、信仰を糧にする神なのだ。我ら世界神は信仰など必要とせん。』
世界神ってエコなんだね
『話の腰をおるでない...ここ最近女神ミースの力が異常に強まっている。その言わば〝ミース教〟自体はシオンがこちらへ来て二百年した頃に滅びた別の宗教国を依り代に国教として流行りだしたものだ。その前の宗教国というのは悠久の森に手を出して滅びた国の一つだが...覚えておらんか?』
うーん?
「勇者がどうたらって奴なら覚えてるよ。象徴的な勇者っていう戦力を突っ込んできたけど死んじゃって、その国も結局なんか滅んじゃったアレでしょ?」
『そのアレで合っている。一見その宗教を立て直したかに見えたが、蓋を開けてみれば教義から何から別物だ。』
ほほう
「例えば?」
『元の国は神を崇めてこそいたが、それはもちろん〝女神ミース〟では無かった。それに〝純人族至上主義〟では無かった。金にはがめつい宗教だったがな。しかし、だからこそ今のミース神聖国のような〝狂信者〟はいなかった。』
「...狂信者がトップなの?」
龍神は重々しく頷いた
『トップが、というよりは〝ミース教徒〟が全体的にその傾向があると言っていい。純人族以外はかの国では入国出来んし、混血児や隔世遺伝で異種族の特徴が出た子供を忌み子として迫害する風潮が末端の村まで行き渡っている。』
異常と言ってもいいほどだ。と龍神は続けた
『だからな、例えルイン王国だとはいえ油断するな。ルークと言ったか?あの紫の目は隠すといい。魔人に共通する特徴と言っていい。』
確かにルークは紫水晶のような澄んだ紫だ。
『銀髪ならば探せば人族にもいるが、紫は魔人族以外持たんし、広く知られている。余計な騒動の火種となるのを厭うなら色を変えておくといい。』
「忠告ありがとう、是非そうしておく。...私の金目は?」
『龍人族の唯一と言っていい特徴だが、そもそも個体数が百を少し超える程度の上、とんでもない引きこもりだから知る者はいない。特徴も伝わっておらん。せいぜい初めて見る色だ、くらいの反応しかないだろう。興奮して瞳孔が変化しない限りは...だが。』
...
「努力します。」
『そうしろ、いざとなったら森に百年程引きこもればいい。』
「いざとかないから。」
相変わらず変なところで斜め上の意見が出る神だ。
『まあ、今回呼んだのも最高神に頼まれたからだ。あいつは過保護だからな、心配だったのだろう。神殿に行ったら適当に一言声をかけてやるといい』
「リョーカイっす、にしても変わったねぇ、ゲーム時代はみんな和気あいあいとしてたのに」
それに龍神は苦笑を返す
『存在を脅かす脅威が無くなったからな。あの時は迫害も、内紛も、する余裕なぞありはしなかったから、皆手を取り合っていた。
森人、獣人、龍人、魔人、人、全てが同じ人だと、手を取り合ったあの頃が懐かしいな。幻獣すらその輪に入れて薪を囲っていたというのに...』
変わった。弱くなった、と思う。体も、一番は心が、あの頃とは違う。
「変わったのは人族だけじゃないね、みんな他人事みたいになったよ。自分の種族の輪の中に閉じこもって、それぞれがそれぞれを見下して。」
一転、冷ややかに嗤う龍神
『そうだな、今のままでは邪神なぞ関係なく滅びてもおかしくはなくなる。種族間で戦争が起きそうな勢いだ。だが、彼らが自ら滅びの道を進むなら止めはしないな。邪神が魂を吸収して魂が減らなければあの時だって我らは関与しなかっただろう。別に人だけで世界が回る訳では無い。〝魂〟は等しくすべてに宿っているのだからな。』
確かにね。
「私も同意見かな、自分で滅びたいなら止める謂れなんかないし。人が死に絶えても魂は次の生では人以外の何かとして生きるでしょうし、1から進化をやり直すだけだし悪い事じゃないよね。」
『そうだろう、長い目で見れば一回滅んだ方がマシかもしれんな、むしろ。』
1人と1柱でしばらく笑った
『───何にせよ、あの時程の異常自体がない限りは神は関与しない。』
「私もその時はひきこもるー。まあ、そんなことにはならないと思うけどね。」
予感があるから。
『ほう?』
「何かねー多分彼らでなんとか出来ると思うよ、そこまでオツムが弱くなった訳では無いみたいだから...全部自力でって訳じゃないだろうけど、少なくとも滅びたりはしないんじゃない?」
『その心は?』
ニヤリと笑いながら問うてくる
それにニヤリと返す
「───友達に頼るでしょう。」
そこまで非情じゃないよ。
■幕間
最高神『...やっぱり似てるよ、この2人...!さらっと滅びろとか言ってる!』
龍神・シオン『「間違ってはいない」だろ』
最高神『...もうヤダこの2人(柱)...』