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09 彼女に起きたこと

「ともかく、かもめさんの知人でしたか。ひとまず私は神父様に話をしてきますので」


 シスターマリアは集落の男も連れて部屋から出て行った。


「あんたは?」

「俺?」

「あっちの彼女と話があるんじゃないかい?」


 クリスが、陸奥ピンクを親指で差す。


「……ああ。そうだな」

「外で待ってる」


 そういって、クリスも出て行った。

 部屋にいるのは、センカンジャーの二人だけになる。

 金剛グリーンは、陸奥ピンクの元にまでゆっくりと、ゆっくりと歩み寄る。

 正面から見ても、陸奥ピンクの左腕の肘から先と左足の膝から先は見当たらず、衣服の袖がダラリと垂れ下がってつぶれている。どう見ても、腕と足が無くなっている。

 異世界に着てから、早二週間といったところだが、陸奥ピンクに一体何が起きたのか。


「すまなかった」


 金剛グリーンが、立ち止まって言った。


「かまわない。センカンジャーは、何よりも正義を優先するべきだ」

「助かるよ」

「貴方は無事だったようでなによりだ」


 陸奥ピンクが、目を細めて五体満足な彼を見る。彼女としては、仲間の無事が何よりも大切であったようだ。

 口数が少なく、表情をあまり出さないが、誰よりも仲間を案じる優しい人間であることは長いつきあいでよく分かっていた。


「ああ」

「私はこの通りだ。起き上がれるようになったのが、ここ数日前のことだ」

「……何があった?」


 最も気になっていた質問をぶつける。


「私の行った先に、ウズシオがいた。差し違えるつもりで戦い、この様だ。幸い、通りすがりのマリアさんが応急処置をしてこの教会に連れてきてくれた」


陸奥ピンクが、失った腕を眺めるように見つめる。

 

「無茶を……」

「だが、怪人を放置できないし、奴は倒した。腕と足を失ったが倒した。いや、むしろ、倒してしまったと言った方がいいか……。もしかすると、奴がいなくなったことで地球に戻れなくなった可能性がある」

「……あり得る、か」


 この異世界に来た原因があの怪人ウズシオである。そのウズシオが倒されたとなっては、地球に戻る方法には他に心当たりが無い。

 かといって、あれほど危険な怪人を野放しにしておく訳にもいかない。

 そうはいっても、既に倒してしまったとなれば、他に手を探すだけだろう。


「いや、可能性はある。必ず戻る方法を探しだそう。そのためにも他のセンカンジャーと合流しなくては」

「そうね。希望が無いから何もしないなんて、私たちらしくないか」

「そうだな」


 金剛グリーンが、大きく頷く。まるで、自分に言い聞かせるかのようだ。

 精神的に参っていないと言えば嘘になるだろうか。それでも、センカンジャーの使命が彼を支えていた。


「ところで、通信が通じなかったが」

「すまない」


 陸奥ピンクが一言つぶやき、傍らからピンク色のセンカンジャーレシーバーを取り出した。


「ウズシオとの戦いで、通信だけ壊れたようだ。恐らく、接触不良かなにかだと思うが、この状況だと解体もできなくて」

「そうか。見てみよう」


 陸奥ピンクからレシーバーを受け取り、テーブルの上に置いた。電源を入れて、まずは自分のレシーバーで通信を入れる。


「テストテスト」


 しかし、陸奥ピンクが言うとおりに、彼女のレシーバーからはノイズしか聞こえてこない。ポケットから十徳ナイフを取り出して、ピンク色のレシーバーの裏蓋を外すと、中には基盤と中心部に真っ黒で小さな箱が見える。


 小さな箱であるが、これはセンカンジャーの核心ともいえる重要なパーツである。それも、パワードライブ。希少鉱石インファニティストーンから作り出された半永久機関である。レシーバーの動力源であることは言うまでも無いが、センカンジャースーツどころか彼らの戦艦のメイン動力源でもある。小さいながらも、発電所並みのパワーを誇るという恐るべき最重要要素だ。


 そこに異常が無いことを確認し、通信機能を司るパーツを見ていくと、一つのパーツがとれかかっていた。レシーバーは、戦いのために高い耐久性を誇るが、それでもパーツがとれかかっているのは、ウズシオとの戦いが壮絶だったのだろうと推測させた。

 簡単に応急処置をして再び通信を入れる。


「テストテスト。こちら金剛グリーン。オーバー」


 金剛グリーンの声が、ピンク色のレシーバーからも同時に聞こえてくる。ひとまずは、これで問題無いだろう思い、裏蓋をきっちり閉めた。

 そして、レシーバーを渡そうとすると、陸奥ピンクが右手の平を見せて制する。


「どうした?」

「今の私では使えない。いや、使う能力も資格も無い。もう、無いんだ」

「……ピンク」


 思わず、失った手足を見つめて、視線をそらしそうになる。だが、踏みとどまって、今度は陸奥ピンクの顔を見つめる。

 今まで見たことの無いほどの、真剣なまなざしだった。

 確かに、言うとおりだ。手足を失って、センカンジャーを続けることなどできない。


「もう、陸奥ピンクでもないさ。ただの信濃かもめにすぎない」

「……そうか」

「持って行ってくれ。通信だけならすぐに教えられるだろうし、その程度でもいいから役に立つならそれでいい」

「わかった」


 センカンジャーレシーバーを強く握りしめた。

 本当なら、傷心の彼女を慰めなければならないのに、それができないのは、改めて仲間の力を失ったことに動揺して、余裕が無いからだろうか。


「ただ、実は他の三人とも連絡がつかない。何か心当たりはあるか?」

「そんな三人ともなんて……。私のように壊れただけだと思いたいけど」

「三人ともとなると、偶然が過ぎるだろうな……」


 かもめ自身は、通信ができなかったのでそんな事態を予測していなかったようだ。仲間の無事を祈るかのように、彼女は目を閉じた。


「すまないな」

「いや、なにが」

「あのとき、俺があの三人を止めるべきだった。そうすれば、異世界に来ることも無く、お前が手足を失うことも無かった」


 ウズシオの渦潮に飛び込んだときのことだ。

 あのとき、冷静であったはずの自分が飛び込もうとする三人を強引にでも止めるべきだったという後悔があった。それは、心に茨のように絡まり痛みを与え続けてきた。


「グリーン。きっと、私たちは来るべくして来たと思う。現に、この世界でも怪人が暴れているんだ。奴らを止めるのは、グリーン、貴方にしかできないんだ」


 彼女は、真っ直ぐに金剛グリーンを向いて言う。


「ピンク……いや、かもめ」


 その言葉は、かすかに、ほんのかすかにだが、彼の心にまとわりつく茨を解きほぐした。

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