49 悲劇の結末
約二千人。
昨日の出来事で、亡くなった人間の数である。およそ、町にいた人間の半数以上が亡くなった勘定になる。呪術の雨で生命力を奪われ死んだ者。不死者に襲われ死んだ者。それらが合わさった死者の数であり、負傷者の方が少ないほどである。
地球にいた頃にも、怪人によって大惨事が起きたことはあるが、これほどまでの桁数の死傷者が出たのは初めての経験であった。
それだけに、未然に防げなかったことは悔しくて仕方なかった。それは、ヴィハンも同様であろうし、魔術の使いすぎで未だに眠っているマリアも同様だろう。
だが、果たして、目の前に座るシオンにその思いはあるのだろうか。
「目的は何ですか?」
ヴィハンが口を開く。穏やかそうな口調でいて、事実上の命令に近い威圧をかけてる。ヴィハンがこのシオンを袖にせず共闘という道を選んだというのは奇跡に近しく感じられた。
場所はギルドの宿屋の一室で、金剛グリーンとヴィハンとシオンが顔を合わせていた。隣の部屋にマリアが寝て、かもめが看病している。
「あの化け物は怪人と言うのですね?」
だが、ヴィハンの威圧も気にする様子も無く、こちらも見た目は穏やかそうに口元を歪ませた。
「あれを殺したい」
背筋が冷たくなるほど、穏やかで狂気と殺意が込められた一言であった。金剛グリーンもヴィハンも、それに、気圧されるほど初心でもないが。
「何のために? 飛沫さんの仇討ちですか?」
「いえ? 何のために?」
シオンがきょとんとした様子で聞き返してくる。まるで、意味が分かっていないような態度だ。
「ただ、ただ、殺したい。あれほど殺し甲斐があり、殺したくなる要求をたきつける存在は他にいません。だから、殺したい」
「……俺たちの目的は平和だ。怪人を倒すことは手段だ。だが、あんたは、殺すことだけが目的で、平和はどうでもいいと?」
金剛グリーンが、厳しい口調で問いかける。
「ええ。そうですね。そうなります。相違ありません」
屈託の無い笑顔でそんな事をのたまう殺人鬼シオンであった。
「また、問題児か……」
「その言い方ですと、僕も問題児と思っているのですか?」
「……自覚が無いのも同じだ」
疲れたように金剛グリーンは、ヴィハンの問いかけに言った。
しかし、歪で独善的ながらも正義は正義として背負っているヴィハンよりも数段問題は上かもしれない。だが、変身したと言うことは、シオンを適格者として賢者の石が認識したと言うことだろう。
果たして、どう考えるべきか、金剛グリーンは頭を悩ませる。
今後のことを考えれば、イエローの後任はどうしても必要になる。かといって、その候補者と言えば、人格と戦闘能力から言って、今のところハンターのクリスティンぐらいしか思いつかないのも事実である。
何よりも、あの急場で呪術の欠点を見抜いて反転の魔術式をマリアに知らせたのもシオンである。制裁者であるマリア以上に呪術や人形術、幻術のエキスパートというのは、怪人に対抗する上で強力な武器になる。
賢者の石が何を基準にして適格者を選んでいるのか、それさえも悩ましいところではある。
「ここでもし、断ると言えば、どうする?」
「僕自身も反対です」
ヴィハンが、糸目のまま強い敵意を向ける。
「勝手についていきますが? だって、そうでしょう? あなたたちについて行けば、怪人に出会える。怪人もこれを狙っているのでしょう?」
シオンがテーブルの上に置かれた黄色いレシーバーを指さす。
「こちらを裏切る可能性はあるだろう? 俺たちも殺したいじゃないのか?」
「前はそうでしたね。でも、今は興味ありません。もう、怪人のことだけで頭も胸もいっぱいです。はやくはやくはやく殺したくて仕方ないです」
もう一度、金剛グリーンはため息をついた。地球だろうと異世界だろうと、存在していることが問題であることがよく分かってしまった。
金剛グリーンはレシーバーを手にとって懐にしまい込む。
「とりあえずこれは預かる。マリアが起きてから、彼女の意見も尊重する。それまではとりあえず待ってくれ」
「構いませんよ。では、私は自分の部屋にいますね」
そう言って、優雅に立ち上がったシオンはそのまま部屋を出て行った。いっそ、敵ならあきらめも付くが、場合によっては味方にもできる分、余計に悩ましい。
「マリアはどう言うと思う?」
ヴィハンに問いかける。
「彼女はなかなか現実主義で、目的のためなら手段を選ばないところがあります。例え反対したとしても、貴方が説得すれば折れますよ」
そう言って、ヴィハンはティーカップを手に取った。
「折る気もないんだがな」
「では?」
「冷静に冷徹に考えたとしても、マジックマスター相手に、シオンがいなければ最悪、町一つ滅んで俺たちも全滅していた可能性はある。生命力奪取を反転させて弱体化させてなければ追い払えなかっただろう」
「それは肯定しましょう。あれは流石に、怪人とは別格でしょう」
「だから、もしイエローを担ってもらうなら、こちらの指示無しでの変身を禁ずるなり、レシーバーは基本的にこちらが預かるなりの条件付きなら、どうだ?」
「悪くは無いですね。良くもありませんが」
そう言って、ヴィハンはお茶を優雅に飲んでいく。
「全くだ」
対する金剛グリーンは、頭の後ろで手を組んで天井を見上げた。




