47 聖なる雨
マリアは変身した姿で、教会の屋根の一番高い場所で構えていた。
ある人物からの助言通りに、浄化の魔術式に改良を加えた新しい魔術式を構築していく。
足下に、光の魔方陣が展開されていき、ランチャーの砲口の先にも四つの魔術式が光で構築されていく。
「邪悪な病を振り払え
邪悪な闇を切り裂け
邪悪な心を消し去れ
不浄なる者に永遠の眠りと安らぎを与えよ
術者に不死者の怒りを向けよ
聖なる雨は安らぎと報復をもたらせ
浄化雨」
マリアの全魔力どころか、町にいる聖職者全員分の魔力が流れてきて、込められる。
対策を編みだし、宗派を超えて教会に協力を求めた結果である。
「発射!」
魔方陣が光り輝き、ランチャーから青い光がレーザーのように撃ち出される。撃ち出された先は、上空千メートルを超える高さにある雲だ。
光が雲を撃ち抜き、雲の内部で魔術式が展開されていく。そして、呪術の魔術式を強制的に上書きしていく。
雲は下から見れば、まるで雲の内部で青い稲妻がおちているように青く光を発している。
「くぅ」
マリアが、さらに魔力を込める。聖職者達の魔力が上乗せされているとは言え、大量の魔力の制御に魔術式を構築し続けることは、過大ともいえる負担だ。それも、試したことも無いほど莫大な魔力と複雑な魔術式である。
少しでも制御を間違えれば、水の泡になる。
絶大とも言える負担に耐えながら、魔術を維持していく。
「もう少し」
最後の最後まで絞り出すように、精神力と体力と魔力こめ続ける。
そして、とうとう雲全体にまで青い光が届く。
ランチャーからでる光が細くなって、とうとう光は消え、周囲に展開していた魔術式もスッと消えていく。
雨は未だに黒い。
だが、祈るような気持ちで黒い雲を見つめ続ける。すでに、立っていることさえも限界であったが、これが通じなければ、町は滅ぶ。その責を背負っての最大級の魔術であった。
ふと、指先に当たった雨が、どこか清浄な気配を感じ取った。
それから、次々に黒い雨は消えて、透明な雨が降り注ぎ始める。
眼下を見ると、不死者になったはずの人々が雨に打たれて苦しみもだえていた、だが、それもつかの間、不死者はただの屍へとなり倒れ込んでいく。
「成功しました……」
思わず、腰が抜けてへたり込んでしまう。
撃った魔術は、不死者を浄化する雨を降らせるものだ。それも、呪術をかけられた雲に
強制的にその魔術に上書きすることで、呪術自体を消し去った。
街中に浄化の雨が降り注ぎ、不死者達が次から次に倒れ込んでいく。
「せめて安らかな眠りを」
ただ、全身に疲労感があるなか、マリアはただひたすら祈る。
「ヴィハン、グリーン、後はお願いします」
そう言うと、マリアの変身は解けて、彼女は意識を失った。
☆
金剛グリーンの目の前で、奇妙な光景が広がっていた。
黒い雨が止み、透明な雨が降り出したかと、軟体動物の怪人は突如として膝を突いて苦しみ始めたのだ。それだけで無く、ヴィハンが一度仕方なく引いて、距離をとったマジックマスターも剣を突いて苦しみ始めたのだ。
「呪術は、魔術に意志で特殊な方向性を与え、対象に作用する。呪術が失敗した場合、方向性が逆転し、術者に返る。因果応報です」
苦しみ怪人を見つめるのは、あの日姿を消したシオンその人物であった。
「怪人と言うらしいですね、特殊な魔術を使うようですが、呪術は呪術。強制的に反転させることも可能というわけです」
「……何故ここに」
全くもって、ここにシオンがいることが理解できない。しかし、シオンこそ、マリアに助言しヴィハンとともにここにかけつけたのだった。
「それよりも、あの人は、殺し甲斐がありそうで溜まらないです」
シオンの目が大きく開かれ、首をかしげ、だらしなく口が開かれる。
「あはっ!」
そして、さらに予想外にも黄色いレシーバーを取り出して胸元に当てた。金属の輪が足下に現れ、シオンの体をセンカンジャーの姿に変えていく。
確か、かもめに渡してあったはずのレシーバーを何故持っているのか、そして、このような人物が賢者の石に選ばれたことも疑問であり、不可解なことだらけである。
「どうして……」
「あはっ」
相変わらず無邪気な子供のように笑い、伊勢イエローに変身を遂げたシオンが駆け抜けていく。
右手には巨大なハサミのような武器、左手には針のように細いとがった小剣が握られている。
苦しむ軟体動物の怪人、それはアメフラシの怪人であったのだが、シオンの左手が投げる蹴られると、細い魔力の糸が怪人の体に巻き付いていき、まるで絞首刑のように宙に浮かばせる。
「あはっ!」
宙に浮かび苦しみ怪人に、ハサミで切り刻んでいく、怪人は二十五分割されて、石畳の上に落ちた。
さらに、シオンは新たな標的としてマジックマスターを視界に捕らえて駆け抜けていく。
その奇妙な動きはまるで、人形のようだった。




