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44 荒野の魔女

 階段を上った先に、円柱状の柱が立ち、その上に石がアーチ状に並べられた屋根がついた神殿があった。

 神殿の中央に、それはいた。もしくはあったと言うべきか。

 三人はそれにゆっくりと近づいていく。

 その人影が、振り返った。マントとローブを身につけ、体中に古代文字が刻まれた包帯に体を包まれていて、顔は見えない。


「あなたが、魔女か?」


 金剛グリーンが問いかける。

目の前に居ながらにして、どこか石像のように生気が感じられない、だが、かといって邪悪な気配も無い。


「そう呼ばれることもあります」


 恐らくその人物が喋ったようだったが、不思議と耳からでは無く頭の中に響く。明瞭でゆったりとして、どこか荘厳な声に思える。


「念話でしょうか?」


ヴィハンにも聞こえたようで、頭を手で押さえる。


「古い魔術です」


 マリアはどこか警戒した様子のまま、魔女を見つめる。


「私は、誰であるかは意味をなさないでしょう。ただ、私は賢者の石を持った異邦人を待っていました」


 ヴィハンとマリアの視線が金剛グリーンに向けられる。


「さて、賢者の石はともかく、異邦人に見えるかい?」

「賢者の石はそもそも、異界に存在していました。それを持っている以上、貴方は異邦人でしょう」

「……どういうことだ? 確かに地球から来たが、貴方はどこまで何を知っている?」


 魔女が手をかざすと、空中にホログラフのようなものが現れる。描かれているのは、なにやら地図のようだ。それも、高精度のように金剛グリーンには見えた。文明のレベルからして、これほどまでの精度は難しいというのがこの世界の地図を見てきた意見である。なぜ、そのような地図が現れたのか疑問に思えた。


「遙か昔、現在よりも魔術文明は栄えていました。この都市もかつては栄華を誇った魔術都市の一つです。ですが、あるとき、空から災いが海へと墜ちました」


 地図の横に、海の風景が映し出され、燃える火の玉が海に墜ちていき、巨大な水柱を上げる光景が映し出される。


「津波による被害はありましたが、それは後からの災厄を考えれば、微々たるものでした。暫くしてから、各地で海産物が取れなくなりました。あの火の玉がの所為だと騒がれ、調査が始まったとき、それは始めて私たちの前に姿を現しました」


 こんどは、浜辺が映し出された。一見すれば穏やかな海が広がっている。しかし、海の中から幾つもの異形が徐々に姿を現した。それらは魚に人間の胴体の生えた不可解な生物。

 否、何度も戦ってきた怪人そのものだ。


「なんだと……」


 金剛グリーンが思わず呟く。


「その異形の生物は、圧倒的強さで地上を襲ってきました。幾つもの都市が滅び、一族が途絶え、さらには我らの魔術を学び使ってくるようにもなりました。これもあの火の玉が原因とされ、人々は恐怖に震えながらも一致団結して抵抗するほかありませんでした」


 宙に浮かぶ光景が変わり、剣や槍を持った鎧姿の戦士が怪人達と戦い、魔術を撃ち合っている。だが、怪人にはろくに通用しないようで、見るからに劣勢であった。


「戦況は不利でした。しかし、大陸中の賢者が集まり、一つの対抗手段を作り出しました。太古に空から振ってきた未知の鉱物に莫大な魔力と人類の英知の全てを込め、あらゆる魔術の使用を可能にする賢者の石を作り上げたのです。そう、あなたたちが持っているものです」


 三人は自然とレシーバーを取り出す。遙か古代に作られた賢者の石が、ここにある。だが、しかし、何故それが地球にあったのか。疑問はやはり深まるばかりだ。


「賢者の石は、使用者の願望さえも叶えるとまで言われ、さらに最も有効な手段を作り出しました。破壊不能の鎧にあらゆる生物を分解する刃です」


 シーンが変わり、何百という戦士が並んでいた。その戦士達の後方で光輝いたと思ったら、戦士達も光に包まれて、全身を銀色の鎧に包まれていた。彼等は、向かってくる怪人に対して勇敢に戦っていく。


「こうして、勢いを取り戻した人類は、異形の生物の駆逐に成功します。しかし、幾ら倒しても怪人は海から現れることから、より調べ始めました。そこで、賢者の石で海中を進むことが出来る船を作り出し、海底深くにまで進むと、そこには巨大な魔術が存在していました。それこそが、あの日そらから墜ちてきた災いの正体でした」


 再びシーンが変わり、薄暗いなか、海底らしき場所に赤い光の線の塊がある。


「我々は、調査の結果から、一つの結論を導きました。あれは、別の星から撃たれた征服魔術であると」

「征服魔術……?」


 マリアが呟く。そのような魔術の存在など、聞いたことも無い。


「未知の言語と理論によって作られた魔術は、辿り着いた星の原始的な生物を魔術で強化し従えて、征服していきます。恐らく、星を制圧すると、星の魔力の全てを吸収し、星を滅ぼして再び空の彼方まで飛んでいく。それを永遠に繰り返す存在であると認識しました。そして、例え賢者の石を用いても破壊不可能と結論が出ました」

「……」


 ヴィハンは黙ったまま、神妙な面持ちを崩さない。


「我々は一つの手段を考えついて、それを実行に移しました。その魔術に幻覚魔術をかけて、星を制圧したと誤認させたのです。仮説通りに、あの魔術は空へと飛んでいきました。そして、あらかじめ封印する魔方陣を用意しておき、そこに封印しました。そして、地上に残った異形達を駆逐し、平和が訪れました。最も、人類の被害も大きく、元通りとはいきませんでしたが」

「しかし、今も怪人は現れている。何があった?」


 金剛グリーンが、当然の疑問を口にする。怪人の発生原因がわかったが、その原因が封印されている以上は、再び現れることなどないはずである。


「封印が幾多もの年月を経て、封印が弱まり、そこから魔術が漏れ出して魔術が地上に墜ち、異形のものを作り出し、地上の制圧と封印を解くために動き回っています」

「……封印を解くには。いや、その前に、墜ちてくる?」


 ニケの町の鍛冶屋が言った言葉が蘇る。

 賢者の石と邪悪な月。

 それは、つまり、制圧魔術を封じた場所を示しているのなら。

 三人は、何かに気がつき、柱の間から日中の浮かぶ月を眺める。

 邪悪な月が比喩では無いとしたら、そう、ずっと頭上に存在していたとしたら。


「そうです。征服魔術は月に封印されています。賢者の石によって封印を破壊することが可能です。そして、賢者の石は、当時の使い手が悪用されることを恐れ、賢者の石を用いて異世界に旅立ちました」

「それが、地球か!?」

「そのようですね。そのために怪人達は異世界に現れていたのでしょう。私に出来るのは、あったことを伝えるだけ。異世界から賢者の石を持った異邦人に再び征服魔術を封印して貰うしかできません。月に行くには、遙か沖に空飛ぶ島があります。そこに、かつて作られた船が今も眠っています。それを使いなさい」


 地図の海上が小さく赤く光る。地図上には島が無いが、そこに船は眠っているらしい。


「貴方は、一体……」

「賢者の石を作った一人。賢者の石を全て集めて再封印をしなければこの星は終焉を迎えます。……どうか、賢者の石に選ばれた以上は、使命を果たして欲しい」


 そう言うと、魔女の姿が揺らぎ、宙に浮いた光景も全てが陽炎のように消えていく。


「待て!」


 金剛グリーンの叫びもむなしく、全ては消えてしまった。


「どういう……」

「元から、実態が無かったのかも知れません」


 マリアが、手をかざして魔力の痕跡を感じ取る。


「恐らく、元から幽体だったのかもしれません。ここに入った人影自体もここに導くためのヒントだったのかもしれませんね」

「いずれにしろ、戻りましょうか。やることは変わりませんよ」


 ヴィハンが、どこか神妙な面持ちで呟く。

 三人は、自然と月をもう一度見上げた。

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