43 迷宮の探索
遺跡に入り、丸一日が経過していた。
非常に入り組んでいて、降りては昇って、途中で石のモンスターが襲ってくることもあったが、貫かれ、撃ち払われ、切り刻まれ、優秀な三人によって三者三様の破壊をされつくしていた。襲ってくるモンスターとしてはこの石像だけだった。あとは、トラップも幾つかあったのだが、大抵はヴィハンによって強引に貫かれ破壊されていた。隠し扉を破壊し、吊り天井を破壊し、転がってくる巨石を貫いて木っ端微塵にした時など、仕掛けた側の想像力の外側をいく強引ぶりであろう。
その三人は、四方向に通路がある小部屋にとどまっていて、部屋の中央で金剛グリーンが作成した地図を眺めていた。辺りはヴィハンの出した灯火が照らし出している。
「こっちの通路は駄目と」
金剛グリーンが、細かく作成してきた地図に×印を書き記す。地図は金剛グリーンが歩測で描いてきたので、ある程度の精度はしっかりしているし、トラップやモンスターの位置などもメモされている。
「参ったな。どの通路を通っても戻ってくるか……」
そう言いながら、ジッと地図を眺める。恐らくは隠し通路か何かがあったのではないかと推測し、不自然な箇所が無いか目をこらしていく。
一つの通路からこの小部屋にやってきたが、三つの通路のどれに進んでも、再び同じ小部屋に戻ってきてしまっていた。
ヴィハンとマリアともに、魔力で隠された部屋や仕掛けは無いと言い切ったため、恐らくは物理的な仕掛けがあると思えるが、こうなってくるとどこもかしこも不自然な作りになっているように思えてくる。
「やはり、見落としがあったのでは? 魔術による仕掛けが妥当かと」
マリアが、控えめに言う。魔力の感知力に関しては彼女が最も優れていて、二人とも信用している。そのマリアに感知されないのは不自然であろう。
「貴方が感知できない魔術とは、現実的に考えにくいでしょう。別の見落としかと」
ヴィハンがそう言って、やはり地図を眺める。ここに来るまで、彼の経験と直感と突撃によってトラップは見破られあるいは破壊され尽くしている。足音の反響からあっさりと隠し通路を見破る観察力と仕掛けを無視して壁を破壊する強引さは非常に頼もしかった。
これが、この世界のスタンダードなダンジョン攻略だとは到底思ってはいないが。
「見落としか……」
金剛グリーンは、そこで一つ気になっていた事があった。
「見落とし」
もう一度呟き、しゃがみ込んでこれまで描いてきた地図を床に置き、上下関係を合わせて置いていく。
「なにか?」
マリアもしゃがみ込んで地図を眺めていく。
十二枚の地図が並べられ、それらは丁度時計の文字盤のような位置になる。フロアとフロアが段違いのように配置されて、螺旋階段を降りるように地下へと降りてきたことになる。金剛グリーンが気になっていたのはこのことだが、ここまで綺麗に並ぶとは思ってもいなかった。
「これは?」
「この法則に従って進んでいくとなると、やはりこの部屋に行き着くな」
「確かに……もう一度、この部屋を調べてみましょう」
ヴィハンが灯火を展開させ、部屋をくまなく照らし出していく。
床は石畳で、壁や天井は長方形の石が組まれて出来ている。
ヴィハンはあちこちの壁を叩いて反響を調べ、マリアは天井に灯火を飛ばしてにらみ付けていく。金剛グリーンもしゃがみ込んだまま、床を眺めていき、あちこちを叩いたり、石の隙間を覗いてみるが、やはり不自然な点は見当たらない。
「厳しいな」
思わず呟き、元来た通路に目をやったとき、その不自然さに気がつく。
部屋に丁度入る位置の石が不自然に数センチ程度であるが浮いている。始めから浮いていれば、入ってくるときに気がついたであろう。
「二人とも」
ヴィハンとマリアがやってきて、その浮いた石にすぐさまに気がつく。
「いつの間に……他の通路を進んでいる間に何か関知したのでしょうか」
ヴィハンが用心深そうに浮いた石を見つめる。
「だが、これしか無いようだ。いいな?」
金剛グリーンが確認すると二人とも頷く。
そっと石に振れて、持ち上げようとしても動かない。そこで、そっと押し込むと、石は元来たときと同じように沈み込んでしまった。
変化は、数秒後に起きた。
小部屋が震え、石の隙間から埃や砂が墜ちてくる。
「通路が閉じていく?」
マリアが四方向の通路が下から壁がせり上がって行くように見えて呟く。
「いえ、部屋が下がってますね」
ヴィハンが冷静に呟いた。
もしこれが、トラップなら万事休すとも言える。部屋は下がっていき、四方が壁となってしまった。
胸中に不安はあるが、その不安は約一分後に解消される。
小部屋が止まり、一つの通路が姿を現す。
ヴィハンから通路に進んでいくと、そこには都市が見えた。
通路から真っ直ぐに石畳の道が続き、左右には石レンガで出来た四角い建物が並んでいる。都市のあちこちに小さな水路が走り、透明な水が絶え間なく流れている。
都市はどうやら四方を壁に囲まれているようであるが、その壁にも窓のようなものが見え、それらも建物になっているようだ。
通路の先には、長い階段が続いて、その先に神殿とも祭壇にも見える一際大きな構造物がそびえ立っている。灯火の魔術を使わずとも、天井はまばゆいぐらいに光り、否、空が見えた。一日ぶりに見える青空である。
「外?」
あれだけ地下に潜っていながら、このような古き遺跡都市に辿り着くとは思ってもおらず、金剛グリーンはまぶしそうに空を眺める。
「巨石の中がくりぬかれたような状態になり、つながっているのかも知れませんね」
ヴィハンも空を見て、まぶしそうに穏やかな目を細めた。
「この先にでしょうか?」
マリアの言葉に、ひとまず三人は真っ直ぐに進んでいく。目指す先は長い階段の上だ。どうやら、その建物自体は都市の中心に位置している様子だった。
そして、長い階段を上った先に、待ち人がたたずんでいた。




