42 迷宮の入り口
その場所は遊牧民のキャンプから一日半程度、馬で進んだ場所にあった。
近くに古い井戸のある彼等の係留地があって、巨大な岩と岩に挟まれた箇所にそれはあった。
岩の影に隠れ、風化も酷いが明らかに人工物と分かる石の門があり、それが遺跡の入り口であった。入り口の地面には砂が貯まり、特に何かが出入りしている様子も無い。
案内してきた遊牧民の青年は、危険なら無理をするなと、これでもかと言うほど念を押して帰って行った。
金剛グリーン、ヴィハン、マリアがそれぞれ、食料と水の入った荷物を背中に担いでから、入り口から中をうかがう。
どこかひんやりとして、不思議と無臭の空気が漂ってくる。今のところ、何かの気配は感じられない。遊牧民の話であると、荒野の遺跡の多くは住居であり墓場であるという。その昔、魔術の扱いに長けた民族が住んで、岩を削り、地下水脈を引き、住んでいたという。かつては、貴重なアイテムや財宝が眠っていたと言われるが、それもあらかた盗掘され尽くしたという。今更になって、誰かが訪れることなど無いような場所であることは確かである。
「かもめ、一人で待っていてくれ」
「ええ」
金剛グリーンの言葉に、馬車に乗っているかもめはクロスボウを抱くように持って頷いた。腕と脚が不自由で、移動も遅い彼女は一緒に行くわけにはいかない。
「馬車の周りに、魔物避けの魔術をかけましたので、しばらくは問題ないと思いますが」
そうは言っても、マリアはやや不安そうに気に掛けた様子である。
「何かあったらレシーバーで連絡だ。地下深くだと通じない可能性もあるが……」
「ええ。わかっている」
そういうことで、かもめにはイエローのレシーバーを手渡してあった。
「タイムリミットを決めておきましょう。僕たちの食料と水なら、一週間は保ちます。連絡が途絶えて、一週間経ったら、町に引き返して下さい。その頃には、マリアさんの術も切れてしまいますしね」
「……」
ヴィハンの現実的な提案に、かもめは無言で頷く。
「とは言っても、そこまで広いとも思えませんし、このメンバーならそうそう問題があるとも思えませんので、あくまで念を入れているだけです」
「わかっている」
あとのことを決めて、三人は灯火の魔術で光の玉を出して、遺跡へと入っていく。
ヴィハンが先頭、やや離れて金剛グリーン、そしてマリアという順だ。見た目は優男であるが、このメンバー中、一番攻撃力と防御力があり、ダンジョン攻略に慣れている彼が先頭に立つことに異論は出なかった。
入っていき、しばらくは通路が真っ直ぐに続いていた。壁は白い巨石を組み合わせて出来ており、幅は人二人が十分にすれ違える程度にはあるが、天井は低く、窮屈な印象である。
「外敵対策に作られているのでしょうね」
先頭を歩くヴィハンが呟く。
「馬で入れず、なおかつ敵が多くても、一度に二人までしか相手に出来ない。大きなモンスターも入ってこられませんしね」
「外敵がいたのか」
埃まみれの床を歩き、照明が宙に舞った埃を照らしだし、前方を全身鎧の優男が淡々と歩いて行く。
「それぞれの遺跡に住む同士が争っていた可能性もあります。こんな何も無い荒野で何を争っていたのか知りませんが」
今のところ、やはり何かの気配は感じられず、暫く進むとヴィハンが立ち止まり、左手で待てとハンドサインを出す。どうやら、何か開けた空間に出くわしたようだ。
「何かありますね、警戒して下さい」
そう言われ、金剛グリーンは刀を引き抜く。後ろでも布のこすれる音がしたが、恐らくマリアが魔術筒を構えたのだろう。
慎重に出て行くと、随分と広い空間が広がっていた。広さは体育館二つ分はあるだろうか。天井もそのぐらい高い。
ただ、広さよりもその空間には、悪魔を模したような石像が何体も置かれ、まるで侵入者を見張っているかのようだった。
「トラップの可能性があるので、足下に気をつけて下さい」
そう言うヴィハンについて真っ直ぐに進んでいき、部屋の真ん中辺りで立ち止まる。灯火を高い位置に飛ばして、強い光で照らし出す。左右の壁にはこれといった物は無く、そのまま真っ直ぐ進んだところに大きな門らしきものが見える。
「……石像に魔力の痕跡があります」
マリアが、石像に手をかざして言う。
「トラップかも知れませんね」
「というと?」
「襲いかかってくる可能性です」
そう言った瞬間に、近くの石像が埃を落としながら震え、動き出し……一瞬でヴィハンのランスに貫かれて、石が飛散していく。
「大した相手ではありませんね」
しかし、続々と石像が動き出し、まるで生き物のように三人に迫り来る。
だが、ランスで貫かれ、刀で切り落とされ、魔術で吹き飛ばされ、三人には敵にすらなる様子では無い。
一通り、襲ってくる相手を破壊して、ヴィハンがさらに灯火の数を増やして部屋を照らし出す。
「あたりかもしれませんね」
周囲を見渡して、ヴィハンが呟く。
「そうか? 随分と紳士的な歓迎だとは思うが」
金剛グリーンが。飛び散った石の破片を落とす。
「いえ、とりあえず死体らしきものは見当たりません。件の人物がここに来て、奥に進んだというのなら、石像はその人物には攻撃をしなかったことになります。その人物が魔術で誤魔化した可能性もありますが、ダンジョンマスターの可能性もあります」
「そうか、そういうことか」
「確かに、偽装して乗り切ったよりも、ダンジョンの仕掛けを把握しているダンジョンマスターのほうが自然ですね」
マリアも、どうやらヴィハンに同意のようだ。
「まぁ、進めば分かることです。行きましょう」
そうして、門の前にまで進むと、石の扉が固く閉ざされている。
扉には渦を巻くように文字のようなものが描かれていた。
「古代文字ですね。解錠の呪文かと思いますが」
「お任せを」
マリアが進み出て、なにやらブツブツと唱えると、石の扉はゴゴゴッとゆっくりと上にスライドしていく。
その先には、今度は広い通路となっており、ひたすらに奥にまで続いているようだ。
「行くか」
金剛グリーンが言い、三人は淡々と歩いて行く。




