41 荒野をさまよう
赤土と赤い岩石が広がり、やせ細った雑草が生え、巨大な岩があちこちにそびえ立っている。
まるで、地球で言うところの西部劇の舞台になるような荒野が広がっていた。
乾燥して冷たい空気は砂と埃をはらみ、いるだけで体中が汚れていく。
二頭の馬と馬車は街道沿いに進んでいた。
「こっちの世界にこんな土地があるとは思わなかった」
そう言いながら、金剛グリーンは水筒を取り出した。
「地球にもあるのですか?」
隣を歩くヴィハンが問いかける。
「アメリカという名前の国があって、そこの西海岸にこんな土地がある。西部劇でお馴染みの風景だ」
「西部劇というのは?」
「そうだな、説明が難しいが、銃を持った開拓者が戦う物語さ」
そう言って、水筒に口を付ける。ぬるい水が喉を潤していく。
「銃というと、マスケットですか?」
「いや、俺の持っているハンドガンやライフルに近いな。鉛の弾を撃ち出すのは同じだが」
「ほう。地球では、銃が剣にとってかわっているということですか?」
「そうなる。それどころか、鉄の戦車や戦闘機……空を飛ぶ羽のある船とでも言えば良いか、そんなものまである」
「そんなものまであるとしたら、戦争の様子は違っているのでしょうね」
彼が、どこまで想像できているのか分からないが、彼なりに思うことがあるようだ。
「そうだな……。怪人が出現している以上、人間同士で争っている場合では無いと思うが」
そもそも、怪人がどうして出現し、人々を襲っていたのかも不明である。それは、この世界でも不明だ。
ただ、怪人の目撃例は世界中にあるが、極端に日本での出現が多かった。それも不明な点の一つであったが、今思えば、レシーバーに使われているインファニティストーンを狙って、おびき寄せられていたのでは無いかという疑惑がある。リベリオン領でのイカの怪人も、サメの怪人もインファニティストーンに対して強い関心を抱いていた。
確かに悪用されれば、甚大な被害をもたらすことは間違いない。
それでいて、これについては機密事項が多く、センカンジャーと言えど、詳しいことは伝えられていない。
魔女に会い、それらがハッキリすれば良いが、果たしてそもそも魔女は本当にいるのだろうか。
「見えてきましたね。遊牧民です」
ヴィハンが、街道から外れた巨石の麓にいる人と家畜の影を指さす。
「今の時期は街道近くにいて、助かったな」
「彼等も全くのランダムに移動しているわけではなくて助かりましたね。古い井戸から井戸へと移動しているようですし」
そこから、街道を外れて遊牧民のキャンプに向かう。遊牧民は皆、ゆったりとした白いローブを羽織っていて、牛や山羊の家畜に目を開かせている。
聞きたい話があると言って訪ね、町の商人に言われたとおりに、塩と砂糖を土産として差し出すと、喜んだ様子で移動式のテントに案内された。
テントは、天幕に近いものだ。これはこれで、町などで購入したものかもしれない。
目の前にいる人物は、どうやら遊牧民の長らしき人物で、初老のやせた男だった。
歓迎はされているようで、ミルクティーが差し出される。飲んでみると、牛乳の臭いが強く、塩気もあって、甘ったるい。やや癖のある飲み物だが、疲れが取れていくように感じられる。
「客人なんて珍しいよ。それで、話って言うのは?」
長が、香草を詰めたパイプに火を付ける。独特の臭いがあるが、たばこのようなものだろうか。
「俺たちは、荒野にいるという魔女を探している。心当たりは?」
金剛グリーンが、ミルクティーのカップを置きながら問いかける。
「魔女? いや、悪いが儂たち以外に、こんな荒野に住んでいる物好きは聞いたことが無い」
「そうか」
ここまでは、町での情報収集の成果と同じである。
「では、町で聞いたが、何年か前に遺跡に入っていった人間がいると聞いたが、わかるか?」
「ちょっとまてよ」
そう言って長はパイプをゆっくりと吸った。
「ああ、思い出した。旅人には見えない奴だな」
「分かるか?」
「この辺りの遺跡は大半がもう盗掘されて、すっからかんなんでな。場所によってはモンスターの巣になっている。そんな場所にわざわざ入っていく奴なんて珍しいから覚えているよ」
「場所を教えて貰えるか?」
「それは構わんが、死体すら見つからんかもしれんぞ?」
「……今は、それだけが手がかりなんだ」
長は、四人をジッと見つめる。シスターに騎士風の男に東方出身らしき二人と、なにやら妙な組み合わせだとでも思っているのだろうか。
「……なにか訳ありのようだな。だが、いい土産も貰ったし、案内に人を出そう」
「助かる」
「ただ、その遺跡は特に大きくてモンスターの巣になっている。無理はするなよ?」
「心得ている」
こうして、遊牧民の案内もあって、彼等は遺跡へと辿り着いた。
進む先にいるのは、モンスターだけなのか、それとも魔女がいるのか、それはまだ分からない。




