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36 栄光無き勝利

海は非常に穏やかであったが、伊勢が突如として、大きく揺れた。

 甲板が斜めに傾き、海賊達は慌てふためき、何人かが叫びながら甲板から滑り落ちていく。

 ヴィハンとマリア、金剛グリーンはしゃがみ込んで耐えるが、揺れた拍子に飛沫が甲板から投げ出される。


「飛沫さん!」


 シオンが自身も宙に浮かんだまま、指先から何かを投げる動作をすると、宙に投げ出されたはずの飛沫の体が宙で止まる。

 マリアは、恐らく見えないほど細い魔力の糸を出したのだろうと推測する。

 しかし、再び突如として海から大きな水柱が上がった。

 水柱から何か大きなものが飛び出してきて、飛沫の体を噛みついた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 何かの歯が深々と飛沫の体に食い込み、飛沫は白目になりながら絶叫する。

 その何かは、ジンベイザメに人間の体が生えたような不可解なものだった。人間の体の部分は真っ黒な服を着て、非常に大柄なサイズだ。

 だが、センカンジャーの三人は瞬時にしてそれが怪人だと悟る。

 何故、このような場所に急に現れたのかは分からないが、明確な敵だ。


「飛沫!」


 思わず、金剛グリーンが叫ぶが、その叫びもむなしく、怪人は飛沫の体を食いちぎり、脚と胸から上だけが、海へとこぼれ落ちていった。

 水面が赤く染まっていく。


「思わず食っちまった。まぁいいか」


 まるで、なんてことの無いように怪人が呟く。口の周りには飛沫の血が溢れんばかりに垂れていた。

 たった、一瞬のことだった。

 一瞬にして、飛沫は怪人食われ、命まで落とした。

 センカンジャーの三人とシオンまでもが、あまりの急展開に絶句していたが、怪人を見た海賊達は海へと飛び込んで逃げるもの、カットラスを引き抜いて怪人をにらみ付ける者、ただ呆然とする者など、反応は様々であった。


「てめぇ、お頭を!」


 何人かの海賊達が、勇ましく飛びかかっていく。


「待て!」


 金剛グリーンが止めるが、彼等は止まらなかった。

 カットラスが、怪人の体を捕らえたと思えたが、まるで岩石か何かのようにカットラスが弾かれる。信じられないような顔をした海賊達が、大きな口を開けた怪人にまとめて食われ、その場には、頭の無い体だけが残った。

 切断面から血が噴水のように噴き出して、骸がバタリと倒れていった。残った海賊達が我先にと逃げていく。

 だが、狭い甲板に逃げ場が無いと気がつくと、海へと飛び込んでいった。


「うわぁぁぁ!」


 しかし、海に飛び込んだ者が叫び出す。その体に海藻が巻き付いて、海へと引き込んでいき、その海賊は二度と浮かんでこなかった。


「アヴェンジャー!?」

「完全に怪人ですね。殺されに来たのなら丁度良いでしょう」


 マリアが、海賊を引きずり込んだのがアヴェンジャーと気がつき、ヴィハンはそんなことなど関係ないとばかりに勇ましく立ち上がる。

 だが、水面から次々に水柱が上がったかと思えば、巨大なサメたちが甲板に着地して、滑るように残りの海賊達を食べて、噛みついて、海へとさらっていく。海賊達はあまりの状況にパニックに陥り、ただ助けを求めたり、言葉にならぬ叫び声を上げていく。


「逃げ場はないだろうに」


 怪人が、馬鹿馬鹿しそうに死んでいく海賊達を見下ろす。


「変身」


 金剛グリーンが、変身すると、それに合わせて残りの二人も変身していく。マリアはすぐさまに何かの詠唱を始め、魔力をランチャーに込めていく。


「おっ? お前らか。センカンジャーっていうのは? 妙な船があるっていうから見に来たら、丁度良い、賢者の石を渡せ」

「何者だ」


 金剛グリーンが、怪人に向かって銃口を向けた。


「下等な人間に名乗る名など無いが、シャークキングとでも名乗っておこうか」

「何故、賢者の石のことを知っている?」

「なぜだろうな?」

「Mとやらの指示か?」

「……ほう?」


 シャークキングが口元の血を手でぬぐったそのとき。


「発射!」


 マリアのランチャーから上空に向かって光の弾が発射される。白い光の弾は、上空で制止して、光の矢が豪雨のように降り注いでいく。


「なんだ!?」


シャークキングが、警戒し身構える。

 光の矢は、的確にアヴェンジャーを捉え、その不浄な魂を浄化していく。

 制裁者の奥義とも言える浄化魔術である。


「こしゃくな」


 その時、巨大なサメが再び海中から現れ、瞬時にして炎の巨大な弾丸が胴体を焼き貫いた。胴体に巨大な穴の開いたサメの死骸が甲板へと叩き付けられるように落ちる。

 炎をまとったヴィハンが貫いたのだった。ヴィハンは着地して、炎をまとったランスをシャークキングへと向ける。


「貴方も貫き殺します」

「やってみるがいい!」

「援護する」


 金剛グリーンのハンドガンが撃たれる。弾丸は正確無比にシャークキングの胴体を捕らえるが、少しばかり体勢を崩すだけに終わる。

 しかし、その隙はヴィハンにとって十分すぎた。

 再度、足下とランスから炎を噴出し、砲弾のように突撃していく。


「ぐぅ!」


 シャークキングが手をかざすと、渦を巻いた水が現れ、ヴィハンが突撃とぶつかり、凄まじい衝撃が周囲にまき散らされる。

 ヴィハンは、必殺の突きが止められ、渦巻く水に阻まれながらも、炎の噴出を止めることは無い。

 彼には、元より引くという文字は無いのだ。


「たかが人間が、打ち破れると思うな!」

「黙りなさい。貴方は貫き殺す」


 ヴィハンの体からさらに炎が噴出された次の瞬間、渦巻く水とシャークキングの右腕は木っ端微塵に吹き飛んでいた。

 貫いたヴィハンがそのまま海中へと突撃して、巨大な水柱を上げたかと思うと、海中から現れ、炎を噴出することで宙に浮いていた。


「なんだと!」


 シャークキングが左腕で右肩を抑えつつ、信じられない様子でヴィハンに目をやる。

 元より、世界最強の槍で世界最強の突きの業は、センカンジャーになることでさらなる進化を遂げ、恐るべき破壊力となっていた。


「仕舞いだ!」


 金剛グリーンとマリアが、同時に魔法を込めたチャージショットを撃った。炎の矢と稲妻の弾がシャークキングを捕らえ、爆発を引き起こす。

 シャークキングの体中に傷ができ、血が流れ出る。


「話とちがうじゃねーか!」


 そう叫びながらシャークキングは、左手で針の付いた瓶を取り出す。


「巨大化薬か!?」


 かつて戦ったタコの怪人が使っていたものそっくりの瓶に、金剛グリーンが叫ぶ。


「船ごと沈めてやる!」


 自身の腹に薬を打ち込むと海へと飛び込んでいった。


「二人とも、戦艦を呼び出せ!」


 そう言い残し、金剛グリーンは自らの戦艦へと駆けていく。

 戦艦へと乗りこんだ次の瞬間、山のような大きな水柱が上がり、周囲に豪雨のように海水が降り注ぎ、巨大な影が現れた。

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