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35 一騎打ち

 金剛グリーンと伊勢イエローの両者が同時に変身する。

 金剛グリーンが銃剣付きハンドガンを両手に構え、伊勢イエローは専用装備のセンカンジャーガントレットを手に取った。しかしその形状は地球で見た物とは異なり、一回り大きくなって全体に鋭いスパイクが着いている。彼もまた、この異世界で新たなアイテムを手に入れ、センカンジャーの装備と融合を果たしているのだろう。


「へへ、あんたも新しい装備を手に入れていたか」

「……」


 金剛グリーンは無言でハンドガンを撃つ。

 光の弾が向かって行くが、伊勢イエローの両手に装備されたガントレットはそれをあっさりと防ぎきる。


「撃たせるかよ!」


 イエローが恐るべき加速で迫ってくる、素の身体能力と格闘能力だけなら、センカンジャーでもトップを誇るパンチが迫り、銃剣で受け止める。受け止めた瞬間に、恐ろしいほどの衝撃と火花が散る。


「まだまだ!」


 次から次に、鋭く重いパンチが繰り出され、それを銃剣で次から次に受け止めていく。

 両者の間で、凄まじいほどの火花が散り、周囲の人間は固唾を飲んで見守っている。

 否、センカンジャースーツを着た人間同士の戦いになど、あまりに激しすぎて見るしか出来ないが正しいだろう。


「おらおらおらおらおら!」


 さらにイエローの嵐のような猛攻が勢いを増し、金剛グリーンは防戦一方のままになる。


「グリーン……」


 マリアが心配そうに、呟く。


「問題ありません」


 ヴィハンがいつものように微笑みながら呟く。


「え?」

「彼は、変身してから一歩も動いていません」

「そういえば……」


 恐らくこの場にいる中でも、ヴィハンだけが気がついていただろう。

 金剛グリーンは、未だに本気を出していない。

 恐らく、未だに躊躇いを持っている。

 ヴィハンからすれば、甘い。

 甘すぎる。

 例え、センカンジャーであろと正義に仇をなすのならば全力で駆逐するべきだと考える。

 感傷など不要である。

 最もそれは、彼が狂気に満ちた正義の持ち主故に言えることであるが。


「どうしたー!? あぁ? どうしてお前みたいな奴がセンカンジャーになった!? あぁ? どうしてお前みたいな奴に指図されなきゃならない! 俺の方が強いだろうが! 俺の方が上だろうが!」

「……」


 金剛グリーンが一歩だけ前に進んだ、肘でイエローの肘を捕らえて、猛攻を一瞬だけ止める。

 一瞬で十分だった。ハンドガンの銃口がイエローの顔面を捕らえて、一撃でイエローはあっけなく吹き飛ばされた。

 仰向けに倒れ込んだところに、金剛グリーンが飛んできて、彼の両腕に着地して、腕を封じ込む。


「な! やめ!」


 二つの銃口はイエローに向けられた。

 あとはひたすらに撃つ。

 撃つ。

 撃つ。

 撃つ。

 撃つ。

 撃つ。

 撃つ。

 光の弾を、次から次へとイエローに至近距離で浴びせる。

 食らう度に、大きな衝撃がイエローの体を貫いていく。

 正に容赦の無い一方的な攻撃であった。

 最後に、チャージショットを至近距離で打ち込まれ、イエローはぐったりする。

金剛グリーンがチャージショットの衝撃を受け流すように飛んで着地する。


「レシーバーを渡せ」


 イエローがこれまで聞いたことが無いほど冷たい声だった。

 そして、実力の差を思い知る。

 総合格闘技は戦いではあるが、殺しあいではない。

 一方、金剛グリーンは、かつては傭兵部隊に所属し、戦争という実戦を経験してきている。

 身体能力では無く、圧倒的なまでの実戦経験の差が、両者の差として現れた結果だ。


「いやなこった」


 イエローがヨロヨロと立ち上がる。今の銃撃で相当のダメージはあるはずだが、立ち上がるあたり、タフネスは相当のものである。


「俺はKOされたことなんて無い無敵のチャンピオンだ! 欲しけりゃ奪ってみろよ!」

「……」


 両者の激突が始まった。

 さらに鋭さと重さの増したパンチが繰り出され、金剛グリーンは防ぎ、さばきながら、銃剣で斬りつける。ケリが繰り出されれば、ケリで受け止め、ガントレットと銃剣が火花を散らしながらぶつかり合う。

 イエローが金剛グリーンの腕を掴んで、甲板へと叩き付けるも、叩き付けた瞬間に銃剣で斬られて宙に浮き、そこにさらに光の弾を撃ち込まれていく。

 イエローが甲板へと落下した。

 冷たい足音が迫り、体を起こすが無体瞬間に無慈悲にもチャージショットを撃たれ、吹き飛んでいく。

 甲板すれすれで止まったところで、とうとうイエローは力が尽きたのか、センカンジャースーツがスッと消えていった。

 体中にあざを作り、口からは血が流れ出て、骨の幾つかも折れていた。


「KO、される、とは」


 辛うじてイエローが呟くように言い、空を見上げる。

 ひたすらに青い空が広がって、なんとも穏やかな天気だった。

 恵まれた体格と身体能力で無敵とも言えるチャンピオンに上り詰めて、人間相手に敵はいなくなった。

 怪人と戦うことは、より自分の腕自慢のためだった。

 だというのに、他のセンカンジャー達は自分以上に優秀な人間ばかりだった。

 普段は、おちゃらけポジティブに振る舞っていたが、劣等感に悩まされていた。

 誰も彼の悩みなどに気がつきもしなかった。

 彼は、いつしか、自分の居場所を見失っていた。

 そんなとき、異世界に来てしまった。

 現代日本とは違い、法よりも力で融通が利くことを知る。

 力さえあれば、のし上がれる。

 彼に向けられる羨望のまなざしと尊敬が気持ちよかった。

 荒くれ者達をまとめあげ、再び王者に返り咲いたように思っていた。

 いつしかは、荒くれ者達とともに村を作り、町にして、国を作り上げることを夢見た。

 センカンジャーの力と戦艦があれば、この世界で敵などいないとと確信した。

 その国王になって、全てを自身の支配下に置きたいと願った。

 金は要らない。

 名誉は要らない。

 名声は要らない。

 ただ、力と仲間が欲しかった。

 そうして、彼は次から次へと道を間違えていく。

 力に飲まれ、正義など失った彼の行く末である。


「みんな……すまねぇな」


 そのみんなに、センカンジャーの彼等が含まれているのかどうか、それは彼にもわからなかった。

 変身を解いた金剛グリーンが彼の胸に置かれたレシーバーを手に取った。


「……」


 一瞥して、彼は何も言わなかった。

 そのまま背を向けた。

 その背を見つめる。

 イエローは、否、今はただの飛沫は金剛グリーンが好きでは無かった。

 年長者故に副リーダーのようなポジションにつき、怪人を無事に倒しても問題点を指摘して説教くさい彼が嫌いだった。

 会得した格闘技を用いても、軍隊格闘術で圧倒してくる彼が嫌いだった。

 正義を背負って戦う彼が嫌いだった。

 何もかも分かっているような彼の態度が嫌いだった。

 そして、説得することすら無く、ただ、すでに資格が無いと戦いを挑んできた彼が嫌いだった。


「なんでこうなった……」


 全身の痛みと、疲労から、彼は目を閉じた。

 その瞬間、船が大きく揺れた。

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