34 海戦
金剛が全速前進で接近していくと、伊勢から何の警告も無く、砲撃が始まった。
光の砲弾と魚雷が次から次へと迫り来るが、金剛からもそれらを打ち落とすために砲撃が始まる。光の砲弾と魚雷が打ち落とされる度に、虚空で大きな爆発が引き起こされる。
「接近しきれますか?」
大きく揺れる司令所だというのに、ヴィハンは平然と立っていた。
「戦艦同士に大きな性能差は基本的に無いが、僅かに金剛のほうが速度は上だ。それに、伊勢からの攻撃は精度が甘い。十分行ける」
絶妙に舵を取りながら、金剛グリーンが言う。
時折、戦艦に着弾し大きく揺れるが、今のところ、大きなダメージは無いようだ。
「あまり無理しすぎて、海賊に被害を出さないで」
左足と左手の踏ん張りがきかないかもめは、座り込んで周囲の手すりにつかまっていた。
「元より承知」
海賊の船にも大砲程度はあるようだが、射程距離も威力も全く足らないことは分かって、戦力にもならないことを把握しているのか、伊勢と金剛の射線上からは退避し始めていた。
それはこちらにとっても好都合とばかりに、僅かに面舵をきる。少しずつでも進行方向を切り替えていくことで、より狙いをずらすのだ。
思惑通りに、さらに狙いがそれて、金剛へのダメージは軽減されていく。
元から伊勢イエローは、格闘能力は高いが反面、射撃が得意では無く戦艦の扱いも得意な方では無い。そして、狙撃ならかもめがかつての戦隊でもトップの実力者であったが、射撃に関しては金剛グリーンがトップである。その射撃能力を生かしての砲撃は、正確無比なものであった。
得意分野と地力の差が徐々に距離を詰めていく。
「潜る」
十分に距離を近づけたところで、金剛グリーンが手短に言う。ヴィハンとマリアが、まさかと顔を見合わせる。
何かを言う前に、金剛は海へと潜ってしまった。ディスプレイには、海中の様子が映し出される。
「説明は受けていますが……本当に浮上できるのですよね?」
マリアが若干不安そうに呟く。
彼等にとって、船が空を飛ぶことも常識外であったが、船が水の中に戻ることも常識外であり、それは沈没なのでは無いかという疑問を持っている。
「まともな戦艦ではあり得ないが、センカンジャーの戦艦だからこそだ。地球の船が全てそういうわけじゃない」
「それを聞いて安心して良いのか悪いのか」
ヴィハンが、物珍しげに海中の様子を見る。
海中を進む中も、伊勢からの魚雷が迫ってくるが、海中機銃と魚雷によって全て迎撃していく。海中では、魚雷は光り輝きながら大量の気泡を噴出し、金剛はをそれらを切り裂くように進撃していく。
そして、ついに伊勢の船底を捕らえた。
「浮上!」
金剛グリーンが、備えるようにと言うつもりで言ったが、ヴィハンとマリアに取っては予想外の角度で浮上していく。約四十五度という急角度であり、流石のヴィハンも平然とはしておられずに、手すりを慌てて掴む。
急角度で海面に向かって上昇していく。まるで、鯨の浮上のようだ。
潜水艦の緊急浮上同様に海上へと浮き上がって巨大な水柱を立てた、一度船体が海に沈んでから再度浮上していく。
そうすると、狙い道理に丁度伊勢の真横に取り付くことに成功していた。
「行くぞ。かもめは、ここを頼む」
「ええ」
かもめ一人を残して、三人は甲板へと飛び出る。そして、伊勢の甲板には海賊達とシオン、そして伊勢イエローが既に待ち構えていた。
「イエロー!」
金剛グリーンが叫ぶが、伊勢イエローは、険しい表情をしたままだ。
三人は走りながら飛び伊勢の甲板へと着地する。
砲台があり決して広くは無い甲板で、三人は五十人以上の海賊達に取り囲まれる。
逃げなかったのは勝因あってのことなのだろうか、取り囲む海賊達も、ラシャの町で襲ってきた連中よりも格段に腕が良いことは身のこなしや雰囲気から察する。
「案外、すぐに再会できましたね」
シオンが穏やかに言うが、既に尋常では無い殺気が漏れ出している。今度はマリアの作ったアミュレットを身につけているので、幻術や催眠術には抵抗できるはずだが、何をしてくるか分からないという底の知れない脅威である。
「貴様がイエローを操っているのか? イエロー、操られているのか?」
金剛グリーンが叫ぶ。
だが、どうしたことだろうか、シオンとイエローは不思議そうに顔を見合わせて、それから彼等を見て笑い顔を見せた。
「おや、何か勘違いされているようですね?」
「本当にな。バカじゃねぇのか? 正義正義って頭が凝り固まっているだろ?」
シオンがどこか呆れた様子で、イエローはどこか見下してくる様子だ。
「俺は操られも命令もされてねぇよ。俺の意志で海賊をしているんだよ。俺がこの海賊団の船長だ」
「何?」
予想だにしなかった答えに、金剛グリーンは自然と身構える。
「最初はなんでこんな世界になんて思ったさ、でもな、これだけ力さえあれば何でも出来る世界なんて滅多に無い。力さえあれば、金も女も名声も幾らでも手に入る。欲しい物は奪えば良い。罪に問われようと倒せば良い。なぁ? そうだろう?」
イエローが饒舌に、粗野な笑い顔を見せながら語る。
「怪人も正義もどうでも良い。俺は力を持っているんだ。そう、この世界じゃ絶対的な力だ! それを俺が俺のために使って何が悪い?」
「言いたいことはそれだけか?」
金剛グリーンの冷たい声と鋭い視線が、イエローを貫く。
「魔術の気配はありません。恐らく、……本当に操られていません」
マリアが、言いにくそうであった。かもめと金剛グリーン、大海という勇気ある異世界の人間を見てきた以上、伊勢イエローへはかつて無いほどの落胆がある。
金剛グリーンも、イエローの様子を見て、操られていない本心であることは悟っていた。
「力に振り回された駄犬ですね。貫きますか?」
ヴィハンが、明確にイエローを自らの正義に仇なす敵と認識し、ランスを構える。
「手を出すな。俺がケリを付ける」
そう言って、金剛グリーンは数歩前に出た。周囲の海賊達が身構えるが、イエローが手を上げて、彼等を抑える。
「レシーバーと戦艦を渡せ。貴様にセンカンジャーの資格はとうに無い」
「はっ渡すかよ」
「もう一度言う、レシーバーと戦艦を渡せ」
「欲しけりゃ、奪って見ろよ!? あぁ!?」
イエローが黄色いセンカンジャーレシーバーを取り出し、金剛グリーンもそれに続く。
「変身!」
「変身」
両者がレシーバーを胸元に当てると、足下にリングが現れた。




