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30 海賊の襲撃

 ギルド内に、けたたましい鐘の音が響き渡る。

 金剛グリーンが立ち止まって、鐘を見つめる。他のハンター達も談笑を一斉にやめて鐘を見つめた。鐘は幾つもあるのだが、そのうち鳴っているのは二つだけで、鳴っている鐘は点滅していてわかりやすい。どうやら魔術が使われているようだ。

 ギルドの受付嬢が慌ただしい様子で、鐘を見つめる。


「港湾東地区と西地区で異常発生! 動けるハンターは直ちに現場に向かってください!」


 受付嬢が叫ぶと、これまで和やかに談笑していたハンター達が一生立ち上がって、我先にと出口に向かっていく。金剛グリーンは思わず、後ろへと引き、慌ただしく向かって行くハンター達を見送っていった。

 一通り、ハンター達が出て行くと、あちこちのテーブルでジョッキが倒れて中身がこぼれ、乱闘でも起きたような状況になっていた。

 ヴィハンがゆっくりと歩いてくる。


「二部屋とれましたよ」


 とえらくマイペースである。


「そうか。俺たちも向かおう」

「ええ」


 建物の外に出ると、大通りではあちこちへと逃げ惑う人々の姿が目立つ。

 屋台の店主も忙しそうに店を畳み始めていた。

 マリアが、警戒した様子で魔術筒を取り出して構えていた。


「グリーン、ヴィハン、何事ですか?」

「港で緊急事態だそうだ。モンスターか、はたまた海賊か」

「海賊?」

「俺とヴィハンで見てくる。何かあったときのために、こっちを頼む。何かあれば、レシーバーで連絡する」

「わかりました」


 マリアが、険しい表情のまま馬車の近くへと歩いて行く。


「上から行きましょうか」


 金剛グリーンとヴィハンは、人混みをかき分けて、ギルドの向かいにある建物の屋根へと登った。

 そこから、屋根から屋根へと二人は飛んでいく。地上は混乱しているが、流石の屋根から屋根へと移動している人間は、さほどいない。例外的に、身軽そうなハンターが飛んで移動しているぐらいだ。

 しかし、ヴィハンは全身鎧を身につけているというのに、随分と身軽である。


「その格好の割に、素早いな」

「鎧はミスリル製です。レザーアーマーと重量は変わりませんよ」

「なるほど」


 確かに、自身も身につけているミスリル製の胸当ては、見た目より非常に軽い。


「海賊のようですね」


 ヴィハンが、少しばかり背の高い建物の上で立ち止まった。そこからは、港が一望できる。

 帆にドクロが描かれた船が何隻も港へと強引に突っ込んでおり、商船らしき船には火が付けられている。

 すでに、港のあちこちで海賊とハンター、衛兵が戦いを繰り広げている。

 特に激しいのは、恐らく倉庫街と思われる辺りである。何人もの人が倒れ、海賊が物資を運び出している様子が見て取れる。


「まるで戦争だな」


 船の燃える臭いが漂い、戦闘音がここまで響いてくる。

 幸いと言って良いのか分からないが、黄色い船は見当たらない。


「これだけの海賊が港に直接に略奪に来るとは想定外だったのでしょうね」

「しかし、これほどに海賊がいるとは」

「魔王討伐以降、仕事に溢れた傭兵達が大勢居ますからね。各地の戦争とバウンティギルドの仕事だけでは、彼等全てを養えません」

「なんとも世知辛いものだ」


 怪人がいないというのに、結局、人同士は争っている。

 時々、どうしてそんな人のために戦うのか疑問に思えるが、結局、その答えなどないのだろう。


「かといって、魔王討伐後は人間同士の戦争が多発していることも事実ですから」

「何のために魔王を倒したと疑問になることは?」

「ありません。僕の正義をなしただけに過ぎませんので」


 狂犬故に、恐ろしく真っ直ぐである。


「ともあれ、行きましょうか」


 ヴィハンの見定める先は、ひときわ大きなガレオン船である。全長は五十メートルといったところだろうか。それが海賊船の中心にいる。恐らく、あれが指揮官の乗る船だろうと当たりを付ける。


「ヴィハン、分かっていると思うが」

「ええ、人間相手にセンカンジャーにはなりません」

「助かるよ」


 原則的に、センカンジャーの力は怪人とモンスターにしか使わないということで、彼等は約束を交わしていた。

 センカンジャーの力は、あくまでも人を守るためのあるという金剛グリーンの考えに沿ってのことだ。マリアもヴィハンもそれについては、同意をしてくれた。二人とも、センカンジャーの力の大きさを身にしみて理解している。


 ヴィハンが槍を構え、金剛グリーンは刀を引き抜いた。

 屋根から飛び降りて、着地するやいなや近くを通りかかった海賊に不意打ちの当て身を食らわせる。ヴィハンの槍など、振り回すだけで数人が吹き飛んでいき、倒れ伏した。

 だが、強者の乱入に、辺りの海賊が集まってきて、彼等二人を取り囲む。

人間、エルフ、ドワーフ、リザードマンと種族はバラバラだが、どれも汚れた服を着て、各々得物を持っている。一番多いのは湾曲したカットラスと呼ばれる刀剣だろうか。


「てめぇ、このやろう!」


 血走った目で、海賊がカットラスを向けてくる。


「数頼みですか」


 ヴィハンが左手にランスを持ち替えて、右手の平を向ける。

 次の瞬間、銀色の小手が赤く光り出し、炎の嵐を巻き起こして、海賊達を燃やしながら吹き飛ばした。

 右手の小手の内側に魔方陣が刻まれており、彼は魔力を込めるだけで炎の嵐の魔術を発動できる。

 そのひるんだ隙に、金剛グリーンが海賊達の間を駆け抜けていく。

 カットラスを切断し、刀の峰で気絶させ、片手で胸元を掴んで石畳の地面に叩き付ける。

 ヴィハンも、相手の顔面を殴りつけて、腰のミスリル製の剣を引き抜いて海賊達を切り刻んでいく。

 海賊達もまさか、片や魔王討伐に成功した勇者、片や地球でも最高レベルの身体能力を持つ超人であったなど夢にも思っていなかっただろう。

 二人は次から次へと海賊達を倒していく。

 傭兵崩れが多いとは言えど、その実力は大したことは無いようだ。


「ガレオン船を潰しましょうか」

「できるか?」


 二人が背を合わせて合流した、周囲には倒された海賊が地面に伏していて、残りも二人の強さに恐怖して逃げていったのだった。


「ええ。少々疲れますけどね。離れてください」


 ヴィハンが剣を収めて、右手にランスを持ち直す。

 腰を落として構え、全身から魔力を絞り出すようにして、ランスへと込めていく。

 伝説とまで賞されるほどの希少金属オリハルコンを大量に使った馬上槍は、彼が魔王討伐軍に参加する際に教会から与えられたものだ。現在では、オリハルコンを鍛えることが出来る鍛冶屋は公にはいないとされ、世界でも唯一無二の最強の槍である。


 かつて聖人であり勇者でもあったとある人物が使っていた曰く付きであり、当然のように槍には、とある魔術式と魔方陣が刻まれている。

 魔力を込めていくと、銀色の槍が根元から徐々に赤くなっていく。

 そして、全身が真っ赤になると、槍の周りに魔方陣が浮かび上がる。


「幾多の戦場経て傷つかず

 最後まで勝利を与えし槍よ

 今一度その力を見せよ

 邪を幾多もの光の槍で貫け

 グングニルランス!」


 詠唱修了とともに、ランスから大量の細く赤い光が飛び出して、前方へと飛んでいく。

 光は途中で絡み混ざり合って、一本の巨大な槍になりガレオン船に高速で接近していく。

 光は、そのままガレオン船の側面を貫いた。

 比較的穏やかだった湾が揺れ、ガレオン船が揺れ、そして、船は真っ二つにへし折れた。


「恐ろしいな……」


金剛グリーンが呟く。

 変身せずともこれほどの破壊力を出すとは信じられない光景である。

 ヴィハンは反動で、十メートル以上も元いた位置から後ずさりしていた。石畳の上に、こらえた跡まで残っている。

 ランスはまた元の色に戻っていたが、全体から湯気が立ち上っている。


「嫌な視線を感じますね」


 ヴィハンが、槍を持ち直し、眼鏡を付け直す。その視線の先は、沈みゆくガレオン船を向いている。


「視線?」


 金剛グリーンもそこに視線をやると、不可解な光景が見えた。

 海の上を、人が歩いていたのだ。

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