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27 事後処理

 度重なる圧政に苦しんでいたリベリオン領は、領主がモンスターに操られていたという衝撃的なニュースとともに、圧政から解放されていた。人々は、これまでの生活が嘘のように内面は喜んでいた。外面は、善良な領主が亡くなっていたことに悲しみ暮れていた。


 ヴィハンと金剛グリーンは、城に常駐する医者に使われた治癒魔法の成果もあって、一週間もするとほとんどの傷が癒えていた。

 その二人とミリアリアは今、領主の書斎で片っ端から書類を調べていた。

 二つの壁が書棚となっていて、部屋の中央には重そうな机が置かれ、領主の部屋らしく高そうな絵画や壺と言った調度品も置かれている。


「こちらの棚には何もありませんでした。あちらの棚は?」


 ヴィハンが眼鏡をかけ直しながら問いかけてくる。


「まだ、手つかずだ。そっちを頼む」


 分厚い日記から顔を上げて金剛グリーンが言う。


「わかりました」


 ヴィハンが軽やかな足取りで手つかずの棚に向かって行った。


「……妙ですわ。これだけ探しても、不審な記述が見つからないなんて」


 手紙の関係を調べていたミリアリアが、思わず首をかしげた。

 彼女は次期領主として、本来は事後処理に忙しいのだが、どのみち、書類関係の把握をしなければならないのでここにいた。

 すぐさまに領主になれるわけでは無く、周辺の領主と公王に事情説明や協力の申し入れなどが必要になり、早くても半年はかかるだろうとされている。


「確かに。領主と怪人とで若干筆跡が違うのは分かるが、探している情報が無いな……」


 金剛グリーンが、日記のページをめくるが、またしても諸報告について書かれているだけだ。

 彼等が探している情報は、端的に言えば、怪人につながる情報だ。何時から怪人が領主と入れ替わっていたのか、隷属の秘薬といった闇ルートでもなかなか出回らない代物をどう手に入れたのか、側室として差し出された女性や捕まって収容されていた人間の行き先はどこか、使途不明の大量の資金がどこへ流れていったのか、そういったものである。

 だが、今のところ、そういった記録が一切見つかっていないのである。以前目にしたMという人物の痕跡も無い。


「何の痕跡も残していないとは考えにくいはずなんだが」


 思わず、金剛グリーンは頭を押さえた。むしろこれだけ情報が無いというのはあまりにも不自然すぎる。


「案外に……隠し部屋にあるのでは?」


 二人が、顔を上げると、常に微笑みを崩さない優男が書棚を背にしていた。それでを見ると、とても劇場と狂気ともいえる正義を内に秘めているとはとても思えない好青年である。


「隠し部屋ですか?」

「貴族の家にはそう珍しくもないでしょう? 僕も父の部屋で見たことがあります。財産に家宝、人に知られたくない記録など、貴族は隠し事が多いですからね。こちらを、この書棚だけ、下に僅かばかりに隙間があります」


 二人が立ち上がって、かがむと、確かに僅かばかりであるが隙間があるように見える。


「そして、こちらあたりでしょうか?」


 そう言いながらヴィハンは書棚の隣に架けられた絵に手をかけた。絵は洞窟らしき場所で、たき火をを囲む戦士達という構図だ。

 ヴィハンが調べると、絵は横に開いた。中にはくぼみがあって、見るからに怪しいレバーが付いている。


「そんな、まさか、いえ、ですが」


 ミリアリアが驚いた様子で口元を押さえた。


「魔術ではなく、やけに原始的だな」


 金剛グリーンは意外そうである。魔術のある世界なら、魔術で隠匿していてもおかしくないように思えたのだ。


「魔術では、どうしても魔力の痕跡を完全に隠しきることは難しいですからね。魔術師対策でしょう。引きますね」


 ヴィハンがレバーを引くと、カチャリと小さな音がした。そして、ヴィハンが書棚に手をやると、スッと書棚は壁の向こうへと動いた。書棚一つがまるごと隠し扉になっていて、その先には暗い空間が広がっている。


「灯火」


 ヴィハンが言うと、彼の右手の人差し指の先に光の玉が現れた。

 トラップが無いかどうかを見て、中へと入っていく。

 金剛グリーンは、ミリアリアを手で制した。


「何があるか分からないので、安全を確認してからにしてくれ」

「わかりました」


 そうして金剛グリーンもヴィハンに続く。

 すこし進んだところで、急な螺旋階段が下へと続いていた。

 何も言わずに二人は降りていく。あまり形跡は無いが、それでも時々誇りの上に足跡が見える。領主自身なのか、領主に化けた怪人がつけたのかまでは判断できない。

 領主の書斎は四階にあったのだが、すでに四階分以上降りたところで、ようやく怪談は終わって、一つの木製のドアがある。

 ヴィハンが手をかけると、特に鍵などがかかっている様子も無く、すんなりと開いた。


「灯火」


 ヴィハンがさらに三つの光の玉を出して、それを天井付近に飛ばすと、部屋の全体像が見えてくる。

 バスケットコートの半分程度の広さだろうか、重厚な本棚が二つに中央にはテーブルと椅子、さらに別の棚には細々とした雑貨が置かれている。


「ふむ」


 ヴィハンがテーブルの上にあった革張りの本を広げた、そこには片言のメモのような調子で記録が記されている。数ページめくっていったところで、ヴィハンが手を止めた。


「Mの記載があります。最近の記録ですね、囚人を渡し、銀貨五百枚を渡したと。資金の流れと囚人がいなくなった理由はハッキリしましたね。大海さんの場合は、タイミングが合わなかったのか、レシーバーについての情報を知りたかったから、この城に残されていたのでしょう。こちらに、隷属の秘薬を受け取ったという記載もあります」

「……この人物の足取りを追えるだろうか?」

「どうでしょうね? 調べなければ分かりませんが、どうも、これは最悪見つかってもそこで痕跡が途切れるように工作しているようにも思えます。Mと名前を隠しているのがその証拠です。しかし、どうもこのMが暗躍していることは間違いないでしょうが」


 その後、ミリアリアも加わって捜索が行われたが、結局Mという人物について詳しいことは何一つとして分からないままだった。

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