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25 血塗られた道

 彼について特筆するならば、異常とも言える正義感とそれを妄信的に信じていることである。

 彼が幼い頃に、このようなことがあった。

 一人の女の子が数人の男の子達にぬいぐるみを取り上げられていじめられていた。

 ただ、単に止めに入ったなら美談であったであろう。彼は、止めに入るどころでは無かった。


 近くの石を拾い上げ、男の子達を一人ずつ血まみれになり、動けなくなるまで殴打し続けた。返り血を浴びながらも、にこやかな顔をし続ける彼を見て、周りの子供達は全て恐怖のあまりに逃げ去った。

 しかしながら、彼は大人が止めに入るまで、いじめっ子達を一人ずつ襲撃していった。

 何故そんなことをしたのかと問われ、彼はこう言った。


 これが正義だと。これが正しいのだと。弱者を守るために道理をわきまえぬ者には制裁を下すべきなのだと。


 これが続き、彼の周りでは子供達の間でのトラブルは無くなった。圧倒的な暴力と恐怖によって、全てを抑圧したのだった。

 大人達は困り、彼を教会に入れた。

 教会での日々は一見すれば穏やかそうであった。しかし、またしても事件は起きた。若い神父見習いに立場を利用して関係をもった神父がいたのだが、それを知った彼は許さなかった。

 否、被害者のことなど一切考えずに、神父を燭台で何度も突き刺した。

 問題が明るみに出ると、件の神父は秘密裏に処分されたが、彼については扱いに困ったのだった。

 表面上は非常に穏やかで、微笑みを絶やさぬ彼に、周囲は異常者と恐れた。

 だが、それほどまでに暴力に頼るのならばと、聖騎士団に入れられることになる。


 聖騎士団での彼は、瞬く間に腕を磨き、何度も盗賊やモンスターの討伐にかり出され、その度に成果を上げ続けた。

 決して彼は、超人的な怪力の持ち主でも神速の疾さを持っているわけでも無いが、いつの間にか聖騎士団最強の戦士に育っていた。だが、身体能力が特別に優れている訳でも無いのに、最強になれたのかと言えば、彼は迷わなかったからだ。一切の迷いすら無い槍は、小細工が一切通用しなかった。全てをぶれることすら無い迷うことすら無い槍で貫いていった。


 そのあまりにも融通の利かない性格に、周囲は恐れた。

 結局、彼はそのあまりに独善的な正義故に孤立していたのだ。

 周囲は追い出すように、魔王討伐軍に彼を差し向けた。

 そこで彼は退くことを知らぬ勇猛果敢な聖騎士として名を知られることになる。


 魔王軍に対して、全くの慈悲すら無かった。

 白い鎧を戦後には真っ赤に染まるまで戦い続ける彼を、魔王軍はこう呼んだ。


 鮮血の悪魔(レッドデイモン)と。


 魔王軍にさえ悪魔と呼ばれるほどに、畏怖の対象となっていた。

 そして、魔王軍に対して総力戦を仕掛けた際に、彼は三百の命知らずの精鋭とともに、魔王の元にまで辿り着く。一人、また、一人と脱落していこうが、彼は後ろを振り返ることもせず、立ち止まることも無かった。


 魔族以上の魔族であることに目を付けた魔王は、愚かにも誘い込むことを企むが、誘い文句を言う前にこれまで絶対防御を誇っていた魔術障壁もろとも貫かれ、命を落とすことになる。

 結局、その後は、あまりにも危険な存在であると認識され、破門される。教会からは秘密裏に暗殺者を差し向けられていたが、ただの一人も帰ってくることは無かった。

 一体、何が彼にそれほどまでの異常な正義感を持たせることになったのか、それだけは謎のままであった。

 しかし、彼がその独善的な正義を失ったわけでは無かった。

 迷わずの正義を捨てたわけでは無かった。


そして、いまここで、怪人に立ち向かっているのも、正義のためだ。

 彼の足下に、金属のリングが現れる。

 リングが上へと上がっていき、ヴィハンの体を真っ赤なスーツで覆っていく。

 頭の先にまでリングが登り切り、そこに現れたのはセンカンジャー大和レッドである。

 伝説とまで賞される希少金属オリハルコン製の馬上槍が、真っ赤で一回り大きくなり、外側に長方形の盾が生え、彼の左腕には今まで無かった大きな赤いバックラーが付いていた。


「これは……」


 金剛グリーンの視界に入ってきた新たな大和レッドに戸惑いを隠せないでいた。

 そう、変身のためにチャンネルを合わせていないにも関わらず、ヴィハンは変身をしたのだ。

 まるで、そう、レシーバーが人を選んだかのように見えた。

 レシーバーに、否、インファニティストーンに意志でもあるかのように思える。

 だが、変身したとしてもダメージが残っているはずだ。そう易々と立ち上がれる訳が無い。

 いずれにしろ、危機的状況なのは間違いない。


「……全く」


 グリーンが立ち上がれないが、なんとかハンドガンを怪人に向けた。

 ただの射撃で倒せるか、否、倒さなくてはならない。

チャージモードにして、銃口に光が収束して吸い込まれていく。


「清らかに焼け

 真っ直ぐに貫け

 大地へと倒せ

 炎の矢よ」


 肉体の中に炎と矢が満たされるイメージをし、それを外側へと絞り出す。

 ハンドガンに魔術が込められたのが分かった。やろうとしているのはマリアと同じことだ。


「トリガー!」


 引き金を引く。

 真っ赤な火の玉が怪人に向かって飛んでいく。チャージショットに基礎的な攻撃魔術であるファイヤーアローを込めたものだ。恐らく今できる最大の攻撃がこれだ。

 炎の弾が怪人に当たり、一瞬にして怪人を炎に包み込む。


「こしゃくな!」


 だが、両手を振り回して炎はかき消された。


「くっ!」


 今のが最大で最後の攻撃だった。

 これが通じない以上、最早、これまでかと、あきらめかけた。いや、正義と力を背負う以上は、決してあきらめてはいけないと自らを鼓舞し、もう一度撃とうとしたそのとき。


「なっ!」


 隣にいた大和レッドの槍が光り出し、さらに一回り大きくなった。そして、槍の付け根に何故かロケットのような噴出口が追加されている。

 槍の先端が燃える。

 噴出口から光が漏れ出す。

 さらに足まで光で包まれる。


「これは……」


 金剛グリーンが疑問に思ったが、大和レッドは何も言わない。


「むぅ?」


 怪人が不審そうに大和レッドを見つめる。

 そう、決してもう戦える状態では無かったはずだ。

 まともに意識さえもあるかどうかが怪しかった。

 しかし、彼の独善的な正義だけは決して折れていなかった。


 それは一瞬の出来事だった。

 大和レッドは槍と足の裏から炎を噴出しながら爆発的な速度で突撃していた。

 まるで炎に包まれた砲弾である。

 怪人は避けることすら出来なかった。

 床に炎の線を残しながら、恐るべき速度で怪人に向かって行き、そのまま怪人を貫いた。

 あっという間の出来事であったが、気がついたときには、怪人の三分の二以上が焼き削られ、イカの頭部は消失していた。


 怪人の向こうに、槍を突き出した姿勢のままの大和レッドの後ろ姿が見える。怪人の残った体が燃え始め、バタリと床に倒れた。

 怪人が爆発し、部屋中が粉じんで包まれていき、そのままいつの間にか金剛グリーンは意識を失った。

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