22 鉄血の狂犬
リベリオン伯爵の城下町は、ニケの街よりも大きく、囲っている城壁もより分厚くしっかりとしていた。
街の中心にはひときわ背の高い真っ黒な城がそびえ立っていて、それがリベリオン伯爵の城であった。
しかし、人通りは少なく、静まりかえっている。
人混みに紛れ込めればと思っていたが、そうもいかないらしく、あまり目立った行動はとれそうになかった。
金剛グリーンとミリアリア令嬢、さらに革命軍の兵士が三人の計五人で城下町へと潜入していた。城門の兵士は、革命軍とつながっているらしく、しっかりと調べてくることも無かった。それでも、目立つわけには行かないために必要最小限の人数での潜入であった。
金剛グリーンも、普段の服から現地で着られているような布の服に着替えて、麻のマントを羽織っていた。これだけで、珍しい東方の人間程度に見られる程度にはなった。
ひとまず、五人は粗末な宿を取り、一室に集まっていた。
「とりあえずですが、大海さんの処刑はまだのようです」
ミリアリアが、ほっと一安心したようにそのことを伝える。
彼女のまた、目立たないように着替えて、特徴的な縦ロールの髪もフードで隠していた。
「それなら良かった……街が静かだが、いつもこんなものか?」
「ええ。圧政が始まってからは、旅人も少なくなり、移住できる者は移住して、多くの民が処刑されてしまいましたので……人が集まっているだけで、反乱の予備集団と見なされ尋問を受ける始末ですし」
「なるほど」
思った以上に、状況は酷いらしい。
この状況が続けば、領地自体が保たないのでは無いかと思える。
「さて、とりあえず、情報を集めるだけ集めたと思うが、大和レッド……大海を助ける算段は?」
「それは……まず、城に潜入する必要がありますが、どう潜入するべきか……。一度、直談判に来たことで、警戒がかなり上がっていますので」
「警備は?」
「以前以上ですね。城に潜り込んでいる革命軍の者は女中だけですので、情報程度を流して貰うぐらいしか……」
「潜入の手引きは厳しいか……。何か秘密の通路だとか、そういった物や信用できる者は?」
「通路はあると思いますが、私は知らないので……。信用できる者も、私付きのメイドぐらいですが、今、忍び込んでいる女中経由で連絡していますが、彼女もどうしていることか……」
この状況である。
誘拐されて一週間も動けなかったのは、どのみち手段が無かったというのが大きい。
「処刑は公開処刑か?」
「恐らく。ですが、絶対にそうするとも言い切れません。獄中で死んだ場合は、死体を城下に晒していましたので……」
「なんとも難しいな……」
金剛グリーンは、さらに悩み混む。
大海を助けるためなら、この際、センカンジャーに変身することも辞さない。
自身の力の上限と正義とを知ろうと思ってのことだが、すでに状況は変わってしまった。
いっそのこと、戦艦を呼び出して、攻め込んでみるべきだろうかと思ったが、やはりそれは死人がでる可能性が高く、そこまではやり過ぎだろう。
「いっそのこと、お嬢様が戻って、内部から手引きするのはどうです?」
革命軍の兵士、金剛グリーンに剣を折られた男、名前をピーターと言うが、彼が提案してくる。
「私は以前から軟禁状態でしたので、とても動けるかどうかは……。ですが、最悪は一度戻って、私自身が動く必要があるかもしれませんね……」
「危険ではあるな」
「危険は承知ですし、多少の危険程度は、領地と領民のためなら仕方ないことです」
「……」
ここで、金剛グリーンは、ひとつ問題解決のためのアプローチの角度を変えてみることにする。
こちらの目的は、二つ。
大海の救出と、領主を止めること。
今の優先順位は、タイムリミットのある大海の救出である。
しかし、領主さえ止めて、もしくはまるで別人のようになった原因を解決すれば、処刑を回避することもできる。
ならば、いっそのこと、領主を力尽くでも止めてみるべきだろうか。
大海が負けたとなった以上、恐らく、怪人がこの件に絡んでいるのは間違いないだろう。
その怪人の正体を暴いて、倒す。
ある意味、下手に潜入するよりもわかりやすいだろう。
問題は、大海一人では敗北したという怪人の強さだが、そんな相手に自分一人で立ち向かえるだろうか。
いや、立ち向かうのが、センカンジャーとしての正義だ。
それだけは間違いの無い事実。
「もしもだ」
誰も意見を言わず、静かになっている部屋で、口を開く。
「お嬢様を救出したと言うことにすれば、俺は領主に会うことができるか? 一応はハンターでもあるし、ギルドに来ている依頼を達成したことになる。会って、領主を止めるわけには行かないか?」
「……可能性はありますが、ハンター程度では警戒されるでしょう……。いえ、でも、可能性はありますね」
自身の父を討つと言われたというのに、ミリアリアはあまり動じた様子は無い。
恐らく、覚悟が決まっているのだろう。
殺してでも止めなくてはならないと覚悟している強い眼をしている。
その覚悟があったからこそ、どのような扱いを受けるか分からないにもかかわらず、意図的に誘拐されて、反乱軍に接触したのだから。
「だが、城には騎士団もいるし、領主自身、どうもきな臭いぞ。あんたの腕が立つことは分っているが、無茶すぎる」
ピーターが諭すように言う。彼は、一度大海とともに城に入り込んで、戦っているという。
「俺も、大海と同じく異形の姿になれる」
「……!? あの姿に? あんた、あの強さを持っているのか!?」
「色こそ違うが、大海に簡単に負けるほどじゃない。勝因はあることはある」
できれば、マリアも呼び寄せることができれば、より確実ではあるのだが。今から連絡をとって、来て貰うには時間が惜しい。
「他にとれる手が無い以上、やってみないか?」
金剛グリーンの言葉に、他に何かを言う者はいなかった。
これで決まりだろう。
可能性は低いかもしれないが、立ち向かうほか無い。
☆
五人は、城門にまで近づいて、その様子をうかがう。
相変わらず、街は不気味なほど静かである。
城は城で、高い城壁に囲まれていて、巡回の兵士も大勢いる。
兵士はあくまでも命令に従っているだけだろうと考えると、とても殺したり怪我をさせるわけにはいかないのが、金剛グリーンの正義ではある。
「誰かいるな」
「傭兵かハンターでしょうか?」
金剛グリーンの言葉にミリアリアが応える。
城門の前に一人の男が立っていた。
銀色の全身鎧に真っ白なマントと、やけに目立つ格好をしている。金髪のおかっぱ頭に銀縁の眼鏡をしていて、やせていて中背で一見すると優男にしか見えない。傭兵やハンターよりも神官といった方が納得できるような優しそうな雰囲気の持ち主だ。
だが、ひときわ目を引くのは片手に持っているものだ。全長は二メートルを超え、長さの半分は柄で、その半分は円錐状の金属の塊になっている。
所謂馬上槍と呼ばれるランスである。
本来なら、馬に乗って扱う巨大な片手武器であるはずなのだが、どういうわけか馬に乗っている訳でも無い。
その奇妙な男が、城門の兵士と何かを話している。
「客人?」
「いえ、あのような方は見たことが……え?」
それは突然のことだった。
優男が、突如として警備の兵士を殴り、吹き飛ばした。
兵士は、水のある堀へと落ちていき、大きな水しぶきを上げた。
そして、優男はランスを構える。さほど助走距離も無いが、走って行きランスを突き出す。
行き先をふさいでいた鋼鉄の扉にランスが突き刺さり、強引に吹き飛ばしてしまった。
「なんだありゃ……かちこみ?」
優男は、何事も無かったかのように悠然と城の中へと入っていくが、周囲の兵士達は大騒ぎで慌ただしく動き始める。
しばらくは怒濤と金属音が聞こえていたが、いつの間にかその音も聞こえなくなった。
城門へと駆け寄っていくと、兵士が何人も倒れ込んでいた。恐らく、優男に倒されたのだろう。
「まさに鉄砲玉にしか見えないな」
「……な、何者でしょうか?」
あきれよりも恐れというか、腕も立つがそれ以上に頭がどうかしているのでは無いかと思えて仕方ない。
一体、何者か分からないが……ここで、ピーターが口を開いた。
「思い出した」
「何?」
「鉄血の狂犬のヴィハンだ。ヴィハン・ボールドウィン!」
ピーターが慌てた様子でしゃべる。
「何者だ?」
「三年前に魔王を討伐した勇者です」
「まさか。血塗られた勇者!?」
ミリアリアも合点がいった様子で驚く。
未だに金剛グリーンは、何事か分からないが、そもそもとして、今はチャンスでは無いかと思える。
何者か知らないが、この隙に忍び込んで大海を助け出すべきでは無いかと思えた。
「……とにかく、行こう。予想外の事態だが、チャンスだ」
「……分かりました。案内します」
金剛グリーンの言葉に、ミリアリアが頷く。ピーターが連れて生きている兵士の一人に向かって、街の外で待機している革命軍に連絡するように指示を出している。
一人の兵士は街の外に向かい、残った四人は城に入っていったのだった。




