21 勇敢なる令嬢
そこは、廃坑だった。
いや、元廃坑で、現在は革命軍のアジトであると言うのが正しいだろう。
廃坑でも、魔術の力を用いた光る石があちこちに置かれて、それなりに明るかった。
位置は、金剛グリーンが予測したエリアの中であり、廃坑の中で湧水もあった。
部屋は、壁と天井は岩石であるが、床は木の板が張られ、大きな円卓が中央に置かれていた。
円卓には、簡素なドレスを身にまとった件の令嬢、その横には反乱軍のリーダーだという老人が座り、その周りには多くの兵士が金剛グリーンを警戒していた。
「では、何故、あなたは私を探していたのですか?」
ミリアリア・フォン・リベリオン令嬢が口を開く。
その様子を見る限り、どう見ても、誘拐されたようには見えなかった。
「酔い冷ましの運動を兼ねて、色々と実情を知りたくてね」
「革命軍に参加する意志は?」
「色々と見てからだ。ついでに、伯爵に何があったのか……」
「……」
令嬢はだまり、そして何か見定めるように金剛グリーンに視線を送る。
山での戦闘の後で、金剛グリーンはここに案内された。
いや、正確に言えば、案内させたであろうか。
そして、案内させた割には、報酬や革命、権威といったものはどうでも良かった。
ただ、自分自身の正義が何に味方するべきかを問いかけたいだけである。
もっとも、今回の令嬢誘拐に関しては気になる点はいくつかあった。その最たる点は、根源と言ってもいい伯爵の圧政にある。
昔は、適切な政治を行っていた伯爵が突如として、圧政を始めた。
その点に、何か引っかかるものがあった。
「説明する必要があると?」
「説明次第なら、力になれるかもしれない」
「……では、説明しましょうか。父の様子がおかしくなったのは、数年魔にさかのぼります。それまでは、善人……いえ、正直言えば、ぱっとしない無難な人でした。それが、ある日を境に、まるで別人に……」
「別人ね」
何故別人のようになったのか、それともまさに別人が伯爵になったのでは無いかという考えがよぎる。
魔術で変装の類いはできるのだろうか思うが、まずは話を聞くことにする。
「ええ、姿形はまさに父でしたが、言動がまるで別人でした。いくら何でも問題だと思い悩んでいたのですが……。ただ、このままでは大海さんが処刑されると思うといてもたってもいられなくなり」
「大海だと?」
思わず、意表を突く名前が出てきて、金剛グリーンは立ち上がった。
その名前には覚えがある。それどころか、よく知っている人物と同じ名前だ。
星空大海。
センカンジャーの大和レッドの本名だ。
「……ご存じですか? そういえば、貴方の服装も大海さんと似た様子ですが」
「……この男か?」
金剛グリーンが、姿絵を見せると、令嬢が深く頷いた。
「はい。間違いなく大海さんですが」
「俺の仲間だ! 教えてくれ、奴は今、どこにいる!?」
「落ち着いてください」
「……すまん」
本当は、落ち着いてなどいられなかった。
探していた仲間が、こんな形で見つかるなんて思っていなかった。
さて、令嬢の説明は以下の通りだった。
令嬢は、領主の城ではほぼ軟禁状態にあったらしいのだが、ある日、革命軍とともに変わった格好の男が領主に直談判に来たという。
その男こそ、大海もとい大和レッドである。
大和レッドは真っ赤な鎧に身を包んで、正面から兵士を倒して領主の元にまで辿り着いたという。
しかし、詳しくは分からないが、領主と戦い信じられない話であるが、敗北したという。だが、大和レッドは領主を食い止めて、革命軍を逃がしたという。
そして、令嬢も牢屋に入れられた大和レッドに会ったらしい。
不思議なことに、何を言っているのか分からなかったそうであるが、彼女としてはあれほどの戦闘能力を持ち、正面から堂々と戦う正義の使者をこのままにしてはおけなかったという。
それが、結果として、誘拐を装っての革命軍との合流につながったという。彼女としても、これ以上の領主の圧政を許すことはできず、革命軍とともに、抵抗するつもりだったという。その第一歩として、大和レッドの救出作戦を練っていたという。
「人相手に、負けるとは信じがたいな……」
「戦っているところは、あまり見ていないそうです。ですが、大海さんは訓練を受けてきた兵士を一人も死なずに父の元にまで辿り着きました。革命軍の方々の話を聞く限りでも、相当の強さだと思いますが」
「当然だ」
そして、変身しながら太刀打ちできなかったということを聞く限り、最悪の可能性に思い当たる。
領主は怪人とつながっているのではないか。もしくは、怪人が領主に化けているのでは無いかと。
怪人なら、どんな能力を有しているか分かった物では無い。
そう、あり得る。
だが、そうだとすれば、余計に残された時間が少ないように思える。
「今は無事なんだな?」
「一週間前に一度会いましたが、無事ではありました」
「いつ処刑される?」
「わかりません。ですが、助け出すにしても、まともに取れそうな手が出せず……」
「俺も協力する。いったん、城下町まで向かって、現状の情報を集めるべきだ」
「……わかりました。私も彼らも一緒に」
「ああ」
何が起きるか分からない物だと思いつつ、大和レッドのことを思う。
彼は、人一倍正義感に溢れた男だ。
それ故に、圧政に苦しむ人々の姿を見て、無視できなかったのだろう。
そのためなら、センカンジャーの力を使うことも抵抗はなかったはず。
そういった点が、金剛グリーンとの差である。
しかし、今、彼の正義は通じなかったとしたら、怪人がいるとしたら、不安だけがわき上がり、渦巻いていた




