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02 ハンティング

 草原が広がっていた。

 丈の短い草が多い茂っているが、細い石畳の道が曲がりくねりながら続いている。

 草原は森に囲まれており、森の中には住んだ泉があって水鳥たちが羽を休めている。さらにそのさきには高い山が空を覆うようにそびえ立っていた。

 道は、あちこちで石がずれたり欠損したりして、あまり状態は良くないが、およそ百年前に作られたという街道であり、旅人達が頻繁に行き交っている道である。


 しかし、今はとある事情があって、旅人の姿はほとんどいない。

 時刻は昼を過ぎていて、雲の少ない空高くには太陽が出ていた。

 一人の男が、石畳の道で仁王立ちしていた。

 中折れ帽子を深く被り、トレンチコートを羽織り、その下はスーツだがネクタイはしていない。髪と瞳は黒く、帽子の下のやや長めの髪はオールバックにそろえ、短い無精ひげが口周りに伸びていた。


 この地球では無い異世界において、その格好は珍しいのだが、今は珍しがる異世界の住人はいなかった。

 そう、ここは地球とは異なる剣と魔法のファンタジーが漂う異世界であった。

 男は口笛を吹いている。

 どこかもの悲しげなメロディであるが、男の十八番の曲である。

 見つめる先は草原である。その草原の上に何か、動くものが見えた。

 イノシシによく似ているが、その大きさは熊ほどに巨大で、口から伸びる牙は赤茶けていて、目は血走って殺気をあたりに振りまいている。

 そんなモンスターが十数体群れをなして走ってくる。


「来たか」


 男が、口笛をやめてつぶやいた。

 ブラッディブルと呼ばれるイノシシ型のモンスターだ。

 気性は荒いが雑食性。

 ただし、人の味を覚えると積極的に人を襲って食べるという厄介なモンスターだ。

 今まさに男に迫ってくるブラッディブルも旅人の肉の味を覚えてしまった群れである。


 だが、男は慌てることは無い。

 モンスターの群れを確認すると、両足を肩幅に開いてから、内ポケットから無線機のようなものを取りだした。色が緑色で、ボタンがやや大きい以外はさほど変哲の無い代物である。

 最も、この異世界は例外が色々とある。中世ヨーロッパ程度の文明レベルであるため、無線機という言葉が通じない。

 男は、ボタンを押し、あるチャンネルに合わせた。


「変身」


 男が、そう静かにつぶやき、無線機を左胸に当てた。

 当てた瞬間に、突如として男は光り輝き始め、足下に直径一メートルほどの円が金属のリングが現れる。

 リングがすっと上に上がっていくと、通り過ぎた箇所が一瞬にして衣装が変わっていく。


 まずは、足下から膝下にかけて白いブーツに。

 次は、太ももから胴体にかけて鮮やかな緑色のスーツが覆っていく。

 指先から、肘まではブーツと同じ白いグローブに。

 リングが頭の先まで通り過ぎると、頭以外は緑色と白色の、体にフィットしたスーツとなっていた。

 そこからさらに、腰にはベルトが現れて、続けざまに腰にはライフル、腰の横には二丁のハンドガンが姿を現す。

 さらに、頭部がフルフェイスのヘルメットに包まれて、最後に前進に幾何学模様の黒ク細いラインが刻まれていった。


 刻まれ終わると同時に、頭の上に浮かんでいたリングも姿を消す。

 わずか数秒足らずで、男はいわゆる戦隊ヒーローの格好をしていた。

 ちなみに、無線機は胸元に固定されている。


「超ド級戦隊センカンジャー! 安全航行第一! 金剛グリーン!」


 叫びながら、男は敬礼をした。

 名乗りは本来必要ないが、センカンジャーにとっては一種の願掛けのようなものである。

 このニヒルでシニカルな伊達男はセンカンジャーの一人、金剛グリーンである。

 そして、腰にしていた緑色のライフルを構える。銃身とストックはやや長く、長い銃剣はついていが、スコープはついていない。


 男は、モンスターの群れに向かって走り出した。

 変身、つまりセンカンジャースーツを着用することで、百メートルを三秒フラットで走ることができる。

 銃、正式名称は、センカンジャーライフルを構え、引き金を引いていく。

 銃口から光り輝く弾丸が飛び出していく。弾丸は、モンスターに命中すると弾けて火花を散らして爆発していき、モンスターが衝撃で吹き飛んでいく。


「とう!」


 金剛グリーンは高く飛び上がった。その跳躍力は垂直跳びで十メートルにも達する。

 さらに光り輝く弾丸を撃ち込みながら、一回転して、一体のモンスターの額に銃剣で斬りかかる。

 斬りかかった瞬間に、火花が散り、モンスターが吹き飛んでいく。

 本来は、銃剣は突き刺すものなのだが、センカンジャーライフルの銃剣は斬る、突くの両方で使える優れものである。

 銃剣を長刀のように振り回しながら、次々とモンスターを蹴散らしていく。


「ていやー!」


 そして、ついにおそらく群れのリーダーであろう最も大きな個体を切り裂いた。

 火花が散って吹き飛んでいき、モンスターは崩れ落ち、ズシンと大きな音を立てた。

 騎士団の一個中隊の出動が必要となるほどの脅威を、たった数分で、しかも一人で片付けてしまった。

 それもそのはずである、センカンジャーは地球において最強の五人戦隊の一つなのだから。その戦闘力の高さは、異世界においても群を抜いているのだ。


「殲滅確……何!?」


 これで終わりだと思った矢先、先ほど倒したはずの群れのリーダー格のブラッディブルが禍々しく光り輝いていた。


「この反応、まさか!? だが、何故?」


 これまで幾多もの怪人を倒してきた金剛グリーンには見覚えるのある光景であった。

 怪人というのは、白兵戦で死にそうになると、一矢報いようと寿命の大部分を削って巨大化するのだ。


 その反応そっくりであり、案の定、ブラッディブルは再び立ち上がって、その巨体をさらに巨大にしていき、見る見るうちに丘ほどの大きさにまでなってしまった。

 言葉にならない咆吼をあげながら、ブラッディブルは、仲間の屍を一瞥し、そして、金剛グリーンに目もくれずにある方向に向かっていく。

 その方向は、金剛グリーンがここにやってきた方向、つまり、街がある方向だった。


「こいつ、街を!? 残念だが、そうはさせんぞ!」


 胸元のセンカンジャーレシーバーを手にとって、別チャンネルに合わせる。


「イマージェンシー! 金剛出動!」


 そうすると不思議なことに、何も無い空中に一本の黒い線が走る。

 線は左右に広がっていき、四角くなった。四角の中に見えるのは遠くの景色のはずだが、ただ真っ黒な空間が広がっていた。

 その真っ黒な空間から、船がゆっくりと出てくる。

 緑色で、重厚そうな趣の戦艦だった。

 全長は二百メートルを超える巨大な戦艦である。甲板にはいくつもの射撃兵器が搭載されている。

 ブラッディブルは、突如として飛来してきた戦艦に注視する。


「とう!」


 金剛グリーンが、大きく飛びながら戦艦に乗った。ハッチを開けてコックピットに乗り込む。

 コックピットはまさに艦橋そのものであり、すぐさまに舵を握る。


「俺一人で、どこまでやれるか……いや、やらなくては!」


 そう、本来は、巨大化した怪人に対して五隻の戦艦が合体し、センカンオーという巨大ロボットに変身するのだ。ちなみに金剛は右腕に変形する。だが、今は金剛グリーン一人しかいない。


 それでも、人々と海の安全を守るために、彼は決意した。

 正義の味方は、決して逃げるわけにはいかないのだ。

 主砲の45口径35.6センチ連装砲から光り輝く砲弾が飛んでいく。

 だが、巨大化したブラッディブルも負けじと突撃していく。

 金剛はそれをすれすれでかわし、百八十度の急速旋回をして今度は魚雷を発射した。

 主砲と魚雷が徐々にブラッディブルの体を傷つけ、焼き、削っていく。

 平凡な草原では、巨大なモンスターと巨大な戦艦の世にも希な戦闘が繰り広げられている。


 ブラッディブルが森に突進し、木々をなぎ倒していくかと思えば、そこに魚雷が撃ち込まれ、大爆発を引き起こし、あたりは火の海と化した。

 連装砲を打ち放てば、ブラッディブルは大きく飛び跳ねてよける。

 光の砲弾は山に命中し、山は木っ端微塵に吹き飛んだ。

 ブラッディブルの巨体が泉に落下すれば、傷口からあふれる血が泉を真っ赤に染め上げた。


 街は守られているのだが、地形どころか後に地名まで変わるほどの激しい戦闘である。

 当人達は知らないがこれが後に、謎の天災であると噂される。

 数年前から活動を休止している魔王軍が再び動き出したのだとも、伝説の大魔王の復活の予兆とも噂されることになるのだ。


 戦闘は、約五分ほどで終わった。

 最後には、金剛が真正面からブラッディブルに体当たりしてからの全射撃兵器のフルファイアで幕を閉じた。

 ブラッディブルが大爆発を引き起こして、草原だった平野に巨大なクレーターを作り上げた。

 草原、否、元草原、現地獄絵図の現場を一人の男が歩いて行く。

 金剛グリーンであるが、今は戦隊スーツを脱いで、スーツにトレンチコートの姿に戻っていた。

 男は、口笛を吹いている。

 メロディは、どこかもの悲しいものだった。

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