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16 これから

「マリアがセンカンジャーの後釜にふさわしいと考えて、レシーバーを渡したな?」


 教会に戻った金剛グリーンは、早速元ピンクのかもめと話をしていた。場所は、かもめにあてがわれた修道女の部屋である。この部屋も魔術の光で、照らされていて、ギルドの宿のようには薄暗くなかった。かといって、必要最低限の物が何も無いシンプルな部屋はガランとしていて妙に広く感じられる。


「私はもうだめだったから……もしかしたらって想いはあった。本当に、変身するなんて、そんなのは、万一だろうって思っていた」


 かもめは、遠い目をしながら失われた左腕を掴む。何度見ても、左の肢体を失った様は痛々しく目に映る。


「だが、ふさわしいとは思っていたと?」

「それはそう。あの性格と質実剛健ぶりを見ると、私の知っている範囲では彼女以上はいなかった」

「確かにな。少しばかり融通が利かないかもしれないが、それはそれで、お前の後釜らしいさ」

「……きりが無いから、深くは問いたださない」


 融通が利かないという点については、一言なにか言いたげであったが、彼女はその言葉を飲み込んだようだった。

 ちなみに、戻ってからマリアは神父に報告、クリスは寝室で休んでいる。後日になるであろうが、あのアジトへ人をやり、人々の遺体を回収することになるだろうとだけ聞いている。いかんせん、数が数だけに、準備だけで相応にかかるだろうとも聞いている。


「それより、これからどうするかだ。当然、残りの三人も見つけるが、やぼ用もできた」


 そう言って、金剛グリーンはテーブルに置いてある怪人の日記に目を落とす。


「Mか。そう名乗っているのか、怪人がそう呼称しているのかも分からないが、手がかりとしては厳しいな」

「いや、そうでもないらしい。あのアジトには特殊な機材が多くて、それらを扱う商人をたどれば、Mを特定できる可能性もあるそうだ。最も、これだけ用意周到に事を進めてきた連中が、簡単な足取りなんて残していないだろうが」

「確かに……となると、今できることは、錬金術師にレシピの解読を依頼する程度か」

「そうなる。ひとまずはニケの街で当たってみるさ。マリアもいるんだ、少し動けば情報も手に入るだろう」

「そのことなんだが」

「ん?」


 かもめが、おずおずとした様子で話に切り込む。


「マリアさんは、装備に慣れる必要がある」

「それは確かに」


 金剛グリーンが深く頷く。


「私たちも半年にわたる訓練を受けたんだ。しばらくは、私が教えようと思う」

「ふむ」

「半年も時間をかけるつもりは無いが、その間に、グリーンには仲間捜しと情報収集をしてもらえればと思うが、どうだ?」

「確かにな」


 センカンジャースーツの使い方にすぐになれるだろうが、戦艦に関しては確かに訓練が必要だと思える。


「大丈夫だ、教えるぐらいなら私にもできる」

「分かった。しばらくは任せる」

「任せてくれると助かる。それに、少しでも何かの役に立ちたいんだ」

「そうだな……」


 ふと、かもめの無くなってしまった四肢を眺める。かもめは、隠そうともせず、悠然としている。既に、事実を受け入れているのだろうか。自分の知らない時間に、葛藤や苦悩があったのだろうかと思えるが、そういうときに、仲間として支えることができなかったことが悔やまれる。


「腕と脚だが」

「ああ?」

「魔動義肢と呼ばれる、思い通りに動く義肢があるそうだ」

「そうなのか?」


 それについては、初耳であった。

 確かに、魔法の存在する異世界なのだから、なんだってあるのかもしれないが。


「しばらく時間はかかるが、日常生活を送る程度までなら回復できると」

「そうか。……最近珍しく、いい話を聞いてなかったからほっとしているよ」

「ほっとしたのなら、良かった。……貴方はいつもなんでも背負うから……」


 かもめが、心配そうに金剛グリーンを眺める。


「そんなつもりは無いんだがね」


 口元をわずかにゆがませて、金剛グリーンが言った。


「……分かっていて、分かっていないふりをするのはどうかと思う」

「今更、そのスタンスを崩せないさ」


 どこか、金剛グリーンはシニカルに笑う。


「異世界に来ても、変わらないんだ」

「異世界に来た程度で、変わらないさ。人は変わらない。悪い癖ほど変わらない」


 随分と身にしみたような言葉だった。

 そこで、ノックが簡素な部屋に響き、二人の会話は途切れた。入ってきたのは、マリアだった。


「報告があります。簡潔に言いますと、神父様から許可はいただきました。グリーンさん、怪人を討伐するために同行させていただきます」

「そうか。だが、こちらでも話をしていてね。あんたには、しばらくかもめからセンカンジャースーツと戦艦の扱いについて教わるべきだと思う」

「訓練ですか?」


 意外そうに聞き返してくる。


「そうなる。戦艦の扱いについてはかなり苦労していたようだしな」

「ええ。それは、確かに。船など乗ったことはありますが、操ったことなどありませんでしたし。申し訳ありません」

「謝らなくてもいい。あれが規格外すぎるだけだ、本来、船を一人で扱うなんて聞いたことの無い話だ」

「そうですか。では、グリーンさんはこれからどうするのです?」

「一度、ニケの街に戻る。レシピと他に気になることもあるしな」

「気になること?」


 金剛グリーンが、傍らに置いてあったヒヒイロカネの刀を手にとって掲げる。


「マリアは知らないだろうが。この刀がハンドガンの銃剣になることは知らなかったことだ。当然、あんたの魔術筒が変形したことも、想定外のことだった」

「そうなのですか? そういうものとばかり」


 マリアは、口元にてをやって、これまた驚いた様子だ。


「そう思うだろうな。聞くのもなんだが、なにか心当たりや気がついた点はあるか? この力については有用だが、把握しておく必要がある」

「そうですね……。このレシーバー? からは強い魔力を感じます」

「ほう?」


 自分のレシーバーを手の取ってみるが、特に違和感は無い。これは、魔術を使える物だからこそ感じ取れるのだろうか。

 そもそもインファニティストーンから魔力を感じ取っているというのならば、根本的に自分たちの使っている力は魔力と呼ばれるものになるのだろうか。


「その刀については分かりませんが、魔術筒は魔法金属のミスリルでできていますし、いくつかの魔術が組み込まれています。仮説ですけど、魔力と魔法金属が反応して、あのような変化を起こしたのでは無いでしょうか」

「そういうこともあるか」


 再び、魔法のある異世界故にそういうこともあるのだろうかと推測する。推測だらけで、何も進まないのが歯がゆい気持ちになる。


「これ以上はなんとも」

「いや、十分収穫だ。ところで、その魔術なんだが」

「はい?」

「俺にも扱えるものなのだろうか?」


 一つ試してみようという想いから、そんなことを問いかけたのだった。

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