14 巨大怪人
丘が盛り上がって、崩れ、木々がなぎ倒されていく。
小動物や鳥が、異変を感じ取りって、一斉に崩れていく丘から逃げ出していく。
丘の中から現れたのは、タコの怪人であった。
巨大。
あまりにも巨大。
全長二百メートルを超える巨大な存在であった。
人など虫けらにも等しいほどのサイズが桁外れに違った。
「船だと……!?」
タコの怪人が、二艘の空を飛ぶ船を見て、一歩だけ後ろへと下がる。船を見て、何故か怪人は何かを恐れているかのようだった。
しかし、今、それを問い詰める余裕は無い。
「まさか、そんな馬鹿な……まさか」
周囲に巨大化した怪人の巨大な声が響き渡る。
声だけで生身の人間など吹き飛んでしまいそうになるほどだ。
響く空気を切り裂きながら、二艘の戦艦が突き進んでくくる。
亜空間につながるドックから出ると、ドックにつながる扉は自然と閉じて消え去り、元の空間に戻ってしまった。
鮮やかな緑色の戦艦が、宙を航海し始める。本来なら船のスクリューのある箇所は、ポッカリと大きな穴が開いていて、そこから光が爆発するかのように噴出していく。
金剛が荒々しくも、まるで空気の上に浮かんで滑っていくように軽やかに進んでいく。
怪人の横をすり抜けて、急速旋回した。
主砲が、怪人に向けられて、次から次に発射されていく。
「こしゃくな! こしゃくな! そんなわけなどない!」
怪人の両手の指先に水の弾が現れて、まるでマシンガンのように水の弾丸が放たれていく。否、その大きさは大砲に匹敵するサイズだろうか。
縦横無尽に宙を泳いでいく金剛は、軽やかに躱していき、ほとんど当たらない。当たって水が弾けても、重厚な装甲には傷一つ付くことも無い。
そう、圧倒的破壊力と防御力を兼ねそろえたものこそ、戦艦である。
ブリッジで、一人舵を握る金剛グリーンが通信を入れる。その間にも、軽やかに舵を回しつつ砲撃を行っていく。
「陸奥ピンク」
「え!? あ、はい。私ですね」
「主砲の狙いを定めて撃て。イメージすれば、戦艦が動いてくれる」
「やってみます」
金剛に遅れて、陸奥の主砲も怪人に狙いをつけて、発射され出す。
光り輝く砲弾は、原理的にはセンカンジャーライフルと同様に、インファニティストーンのエネルギーを収束して発射する。
しかし、破壊力は絶大である。
使い方次第では、一艘で、都市を火の海にできる破壊力を有しており、センカンジャーの最大戦力であるのだ。
陸奥の形状は、金剛とはやや異なる戦艦の姿をしていた。それでも、多数の砲門を備えた強力な戦艦である。
その全ては、インファニティストーンから供給されるエネルギーをさらに増幅することで、宙に浮き、進み、攻撃できる。
砲弾が、次から次へと怪人に命中する。しかし、怪人も頭の足を縦横無尽に振るって砲弾を弾こうとするが、あまりの勢いに逆に着弾と同時に足が弾かれている様子だ。
「もっと狙いを定めろ。戦艦と一体化するイメージだ」
「……やってみます」
「自分の身体のように考えるんだ。いや、感じ取れ」
「はい!」
初航海で、いきなりの実戦は正直いって厳しいのだろう。陸奥から放たれる砲弾は、やや狙いが甘く、有効打になりにくい。
反面、慣れている金剛は、的確に怪人の頭部を狙っていた。
「こしゃくな!」
怪人の手から巨大な水の柱が放たれるが、金剛が挑発するかのように軽やかに避けていく。
金剛と陸奥の二艘は、怪人から距離を取りつつ、その周りを回りながら砲撃を繰り返していく。
「魚雷も撃て! わかるか?」
「魚雷? やってみます」
「先に撃て、こちらでタイミングを合わせる」
未だにぎこちない陸奥をフォローするように、金剛が的確に砲撃していく。
陸奥から、多数の魚雷が発射される。それに合わせて、金剛からも大量の魚雷が発射される。
「何!?」
魚雷は怪人の足を吹き飛ばしていき、頭部を守る足が無くなったところに、大量の砲弾が命中する。
「ぐわぁぁぁぁ!」
けたたましい悲鳴が鳴り響き、怪人がよろめく。頭部にある両目からは溢れんばかりに血が流れ出していた。
「ど、どこだ!? どこにいる!?」
怪人の手から滅茶苦茶に水の弾が発射される。水の弾は、戦艦には当たらず、あちこちの森に飛んでいった。まるで津波のように木々を押し流していく。
どうやら、多数の砲弾が目を捕らえ、視力を奪ったようだ。
「……頭をつぶすぞ。狙いをもっと定めろ!」
「すみませんが、少々試したいことがあるのですが……」
金剛グリーンからの通信に、陸奥ピンクがやや遠慮がちに試したいことを伝える。
「分かった。やってくれ」
「はい」
金剛が、さらにスピードを上げて怪人に接近する。常に砲撃できるように、タイミングをずらして撃っていく。
一方、陸奥は宙に停止し、全ての砲門を怪人に向け直した。
「怒りを食らうは我
許しを得るのは我
力を求めるのは我
与えよ
与えよ
与えよ
真理の先にある雷を与えよ
神々の怒りを込めよ
かの者を許すな
かの者を怒りと力で裁け
我、ここにあり」
魔術筒、もといセンカンジャーランチャーに込めるときと同じように、詠唱し、魔法を戦艦に込めていく。
脳裏に浮かぶのは、見知った顔が屍の山と化していた地獄の光景である。
金剛グリーンの言う、正義が何かははっきりとは分からない。
それでも、救うべき人々がいることは知っている。
失うことの悲しみを知っている。
失うことの怒りを知っている。
だから、今のありったけを撃つ。
陸奥ピンクが、これならば撃てると確信する。
そう、戦艦で魔法を撃つ。
戦艦と一体化するように、舵を握りしめる。
戦艦の感覚を自分の中に流し込んでいき、逆に自分の感覚を戦艦全てにまで広げていく。
ようやく、金剛グリーンの言う、船と一体化するということが分かってきた。
身体が自然と感じ取ったかのようだ。
指先を動かすように、砲門を動かして、ようやく狙いが定まった。
「発射!」
陸奥の全ての砲門から、一斉に雷をまとった光が発射される。
極太の光は互いに混ざり合い、怪人に到達する前に一本のさらに巨大な光の線となる。
何かを感じ取った怪人が、足を丸めて壁のようにしたが、無意味だった。
光は足ごと焼き払い、怪人の頭部を貫き、内部から稲妻を体中に落としていく。
金剛グリーンは、さらにだめ押しと言わんばかりに、全砲門をチャージして、一斉に撃ち抜いた。
こちらも一本の巨大な光となって、怪人の頭部を撃ち抜く。
「そ、そんな、ばか」
何か言いかけたとき、怪人の身体中から光と稲妻が漏れ出して、その光に包まれるように木っ端微塵に吹き飛んだ。
爆心地には巨大なクレーターが出来上がり、近くの小川から水が流れ込んでいく。
吹き飛んだ肉片は、光と炎に包まれながら、落ちていき、地上に着くまでに燃え尽きていった。
火の雨が漂い、降り注いでいく光景は、どこか幻想的で、どこか美しすぎる故の恐ろしさを感じさせる。
これが怪人の最後だった。