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13 新たな力

 マリアは、普段は教会に住んでいる。

 制裁者の仕事が無ければ、一般的な修道女と変わらない生活を営んでいた。

 あの教会では、週に一度、近隣の集落に出向いて教会の仕事をしている。


 マリアの担当は、今回襲撃された集落だった。

 さほど大きくも無い集落故に、住民全員と顔見知りであり名前も知っている。

 出かける度に、ささやかな礼金と季節の野菜や肉、魚などを土産に貰っていた。

 あの集落は、大きな問題も無く、年々住民も増えて、畑も順調に広がっている。少しずつだが、豊かになっていく普通の集落だった。もう何年、十何年すれば村と呼ばれるような規模に育っただろう。


 小さな子供に、ねだられて遠方の童謡を聴かせたこともある。

 村の女達に混じって、料理をしたこともある。

 狩人と一緒にモンスターを狩りに行ったこともあった。

 収穫を祝う祭りには必ず参加し、祈りの言葉を唱える役割を担っていた。

 同い年の女が結婚をし、その立会人を務めたこともある。

 赤子が生まれれば、祝福を与えたこともある。


 制裁者という過酷な役割を担いつつも、マリアにとって、あの集落は普通の幸せを感じ取ることのできる数少ない機会に恵まれていた。

 だが。

 その幸せは、最早失われた。

 目の前の異形の存在によって、奪われた。

 復讐しても、あの住人達は帰ってこない。

 それでも、制裁者の役割と住人達の無念を想えば、許すことができない。

 邪悪な存在を討ち払えるのならば、正義と力を背負うことができるのならば、このボロボロの身でさえ投げ捨ててもかまわない。

 憤りが覚悟を呼び覚ました。

金属のリングがマリアの足下に現れる。


「なんだと?」


 鮭の怪人が、思わぬ出来事に目を見張る。

 金属のリングが上がっていくと同時に、修道服がピンク色のセンカンジャースーツに変わっていき、最後にはフルフェイスのヘルメットが頭部に装着された。


「これは……」


 マリアが、突如の自らの変異に戸惑うが、すぐさまに立ち上がる。魔術筒を構える。どういうわけか、魔術筒も形状が若干変わっており、箱には今まで存在していなかったグリップと引き金がついていた。

 グリップを握り、腰の位置で魔術筒を構える。

 向けた先は、鮭の怪人。

 グリップを握った瞬間に、マリアは、この力を理解できた。

 これは、人間などとうてい及ばない領域の力だと言うことを。


発射(トリガー)


 魔術筒から、光の砲弾が飛び出して鮭の怪人にぶつかり、弾き飛ばしていった。


「無詠唱で、この威力とは……」

「本当に変身するとはね……ライフルが無くなり、その武器も形状が変わったか……。ただの変身ではないな」


 グリーンが力が抜けたように、膝をつく。ふと安心してしまって、全身から力が抜けていく。


「これが、貴方の使う力……」

「そういうことだ。この力を正義のために使うんだ。お前が新たな陸奥ピンクだ」


 そう言いながら、再び金剛グリーンは立ち上がる。


「奴を倒すために」


 そして、再び、銃口を倒れている怪人に向けた。

 光の弾丸が放たれていく、それを怪人は剣で振り払っていく。

 その隙に、マリアが精神統一して詠唱を始める。


「怒りを与えよ

 裁きを与えよ

 火炎を与えよ

 邪悪なる者を討ち払え

 浄化の炎よ現れよ」


 魔術筒、センカンジャーとなって変化したことから、センカンジャーランチャーとでも呼称されるだろうか。大きな砲口が光り出し、陸奥ピンクの魔力が注がれていく。

 マリアの感覚が、魔力が数倍にも増幅されていくことを感じ取る。何故、これほどまでのエネルギーとなるのか、理屈は分からないが、これならば行けるという確信に至る。

 自信を持って、力の責任を背負って、背負い続ける覚悟を決めて、最後の詠唱を唱える。


発射(トリガー)!」


 砲口から、渦巻いた火柱が怪人に向かって飛んでいく。


「なに!」


 予想外の破壊力に怪人が驚くが、次の瞬間には全身を炎に包まれて、燃えながら押し込まれ、飛んでいく。

 何度が床をリバウンドしながら転がって、止まった。

 転がりながら炎は消えたが、全身が黒く焦げている。

 先ほどまで、同じ魔法を込めて撃っていたが、炎の勢いも温度も格段に跳ね上がっていた。


「こ、こんな馬鹿、な!」

「グッドナイト」


 一瞬にして間合いを詰めてきた、金剛グリーンの両手のハンドガンからチャージショットが放たれて、怪人の頭の右半分を吹き飛ばされて、さらに怪人は床を転がっていく。


「こ、ごの!」


 それでもなお、怪人は立ち上がる。全身に深い火傷を負い、頭の右半分を欠損しても、なお立ち上がるとは恐るべき生命力である。


「お、覚えていろ!」


 そう言いながら、怪人は水路へと飛び込んだ。


「待て!」

「落ち着け、問題ない」

「え?」

「チャンネルをダイブモード切り替えろ」


 金剛グリーンが胸のレシーバーのチャンネルを切り替えると、金属のリングが足下に現れてスッと上がっていく。リングが上がり終わると、ぱっと見はあまり変化は無い。せいぜいが、足と腕の側面にヒレのようなものが生えただけである。

 だが、マリアもそれを見習ってチャンネルを切り替えて、足下にリングを出現させる。


「センカンジャーを名乗る以上、水中戦もこなせ」


 そう言って、金剛グリーンが水路へと飛び込んでいく。かかと部分にスクリューがついており、瞬時にして前方を泳ぐ怪人の前に回り込んだ。


「なんだと!? だが、水中戦で俺様に」


 言い終わる前には、すでに金剛グリーンの攻撃は始まっていた。

 水中だというのに、金剛グリーンは自由自在に動き回る。

 左右上下前後に縦横無尽に、高速で移動していき、移動しながらハンドガンを撃っていく。


 撃つ。

 撃つ。

 撃つ。

 弾ける。

 弾ける。

 弾ける。


 怪人は、身動きする余裕すら無く押し込まれていった。


「な、なめる」

発射(トリガー)


 水の底にいた陸奥ピンクのセンカンジャーランチャーから光の砲弾が放たれる。

 真正面から激突し、水面へと押し出されていった。

 荒々しく揺れる水面から、水柱が立ち上がる。

 鮭の怪人が、押し出されるように飛んできて、落下した。

 続いて、金剛グリーンと陸奥ピンクが水上に現れる。かかとのスクリューが回転し、水上に立っているかのようにたたずむ。


「終わらせるぞ」

「はい」


 そう二人が、それぞれの武器を構える。

 鮭の怪人は、なんとかといった様子で身体を起こすが、既に満身創痍である。


「こ、こんなところで! おわるか!」


 そう叫んで、怪人は琥珀色の瓶を取り出す。蓋を開けると針がついていた。簡易的な注射器のようなものに見える。


「き、貴様らなんぞ踏みつぶしてくれる! この巨大化薬で!」


 簡易的な注射器を腹部へと押しつける。中の液体が一気に注入されていく。


「まずい、こんな場所で巨大化は……」

「一体何が?」


 二人のセンカンジャーが身構える。

 鮭の怪人が、身体を震わせる。


「ふっふ、ふっふ! この力で、この力さえあれば」


 空になった瓶を捨て、口から泡を吹き出しながらにやつき出す。

 身体を震わせて、高笑いをする。

 その時だった。


「な……なんだ? まさか、奴め!?」

「!?」


 なにかに気がついた様子で、焦り始める。何かがおかしい。

 怪人の身体が光り出し、叫び声をあげる。断末魔をあげる。

 怪人の身体が木っ端微塵に吹き飛んだ。

 吹き飛んだ肉片が煙を上げ始めて、燃え始める。

 宙に浮かんだ剣がカランと甲高い音を立てながら床に落ちた。

 

「何?」


 巨大化などしなかった。

 ただ、身体の内側から破裂して燃えていってしまった。

 怪人が倒されて爆発するのとはまた違った終わり方である。


「巨大化しなかったですね……」

「あの薬か……」


 金剛グリーンが銃口を下げて、燃えかすを眺め下ろす。


「騒がしいと思って、来てみれば……ふん、今の薬は偽物です」

「貴様!?」


 一度はこの場から立ち去ったタコの怪人が、悠然とした様子で歩いてきた。


「巨大化薬は貴重でしてね。あんな馬鹿にやる余裕なんてありません」

「……仲間を」

「仲間? あんなに使えない脳タリンなど仲間などではありませんよ。ふん」


 タコの怪人が、冷淡に切り捨てる。そして、忌々しそうに床に落ちた剣を蹴った。蹴られた剣は、床を滑って壁に当たって止まる。


「まぁ、その妙な力を使える者が増えただけでしょう? いいでしょう、本当の恐怖を教えてあげましょう」


 タコの怪人が、頭部の足を操って針の付いた琥珀色の瓶を取り出し、それをタコの頭部に突き刺した。

 ゆっくりと、ゆっくりと、どろっとした液体が、流れ込んでいく。


「そなえろ……今度こそ、巨大化する」


 禍々しく光り輝きだしたタコの怪人を見て、金剛グリーンが警戒を呼びかける。


「巨大化と言いますが……」

「タイムラグがあるはずだ、クリスを回収するぞ」


 怪人を警戒しつつ、二人は飛んでいくかのような軽やかな速度で駆けていく。

 すぐさまにクリスを見つけ、陸奥ピンクが抱きかかえる。


「クリスさん!?」

「……マリアかい? あんたも変身したのかい」

「もう少し離れるぞ」


 マリアがクリスを抱きかかえる。怪人を見ると、輝きながら身体のあちこちが少しずつ大きくなっていく。全体に一律に大きくなるわけではないようで、アンバランスでより異様な外見となっている。

 金剛グリーンが、扉をハンドガンで撃ち抜き、吹き飛ばす。隣の檻が並ぶ部屋だ。しかし、ついさっき見たときとは違い、どの檻も空になっていた。怪人が何かをしたのだろうか。


「ガァァァァァァァァァァァァ!!!」


 背後から凄まじい雄叫びが響き渡る。

 地震のように震動で辺りが震え出す。

 天井から小さな石の欠片が落ちてきて、壁に亀裂が入り出す。


 さらに、ドアを吹き飛ばすと、今度は本だらけの部屋だ。進もうとした矢先に、次から次に重そうな分厚い本が落下してくる。

 警戒して、立ち止まっている間に、振動が止まった。そして、背後が明るくなる。

 振り返ると、天井と壁が崩れ去り空が姿を現していて、巨大な怪人の足が瓦礫に埋もれている。

 高さ二百メートルは超える巨大な怪人がそこに鎮座していた。


「これほどの巨大な!?」

「巨大化薬か……」


 金剛グリーンだけは、巨大な怪人の姿には見覚えがあった。かつて葬ってきた怪人達と同様に、巨大化している。

 本来なら、巨大化は怪人の最後の手段である。生命力の大半を消耗することは分かっている。巨大化した怪人に負けたことは無いが、恐らく、怪人は勝ったとしても生命力が尽き果てて死に至る可能性がある。

 

「これほどの相手にどうやって……」


 マリアが、絶望した様子で呟く。


「手段はある」

「え?」

「戦艦を呼ぶぞ。チャンネルを合わせろ」

「呼ぶとはなんです? 召喚術ですか?」

「いや、亜空間のドックにある戦艦を呼び出す。お前の戦艦は陸奥になる」

「ムツ? それが戦う船の名ですか? しかし、この陸地に呼び出して戦えるのですか?」

「戦える。説明は後だ。呼び出せ」


 金剛グリーンが、レシーバーのつまみを回す。船の形をしたマークのチャンネルに合わせた。


「金剛出動!」

「……陸奥出動!」


 金剛グリーンに続いて、陸奥ピンクが船を呼び出す。

 宙に二つの線が現れる。現れた線は、左右に分かれて亜空間に存在する戦艦のドックにつながる。


「何です!?」


 突如として現れた二艘の戦艦に、怪人が戸惑いを見せる。

 宙から緑色の戦艦とピンク色の戦艦が現れ、宙を航海し始めた。


「あれは……」

「乗り込め。クリスもそのまま乗せておくといい」


 二人が瓦礫を足場に飛んでいき、艦橋へと乗り込んでいった。

 第二ラウンドの開始である。

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