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01 怪人追跡

 現代日本。

 数年前から、人々の生活を脅かす存在が出現していた。

 それは、怪人。

 正体不明にして神出鬼没、しかしながら、圧倒的な戦闘力を持つ異形の存在である。

 そして、ここにも今、一体の怪人が現れた。


 場所は、街中である。

 ビルディングが建ち並び、ショッピングモールが広がり、車と歩行者の往来が絶えない街の中だった。そんな平和なワンシーンにその異物は突如として現れた。


「へっへっへっへ! 脆弱な人間どもめ!」


真っ黒な胴体に、首から上は水が渦を引いていて、さらにその渦の中には目や口が浮かんでいる。どう見ても人では無いが、着ぐるみと言った様子でも無い。再現できるとしたらCGなのだが、決してCG等では無く、実態として存在している。

 それは、突如として現れ、人々ににらみをきかせる。

 その声は、明瞭ながらどこか歪なものが含まれているように感じ取られた。

突如の出来事に、人々は歩みを止め、固唾を飲んでその異形の怪人を注視する。


「か、怪人だぁ!?」


 誰かが叫んだ。

 誰が叫んだのかも分からないが、その声を皮切りに、人々が悲鳴を上げながら一目散に逃げ出していく。


 仕事中の営業マンが、鞄を抱えながら走って行く。

 ハイヒールを履いた女性が、器用に素早く走って行く。

 子供連れの母親が、子供を抱きかかえながら走って行く。

 どこに走って行くのか、それはただ怪人から離れるためにバラバラだった。前を走って行く者の後を本能的に追いかける者もいた。

 ただ、ただ、恐怖と脅威から逃れるために、走って行く。

 そう、ただの人では逃げるしか手が無いのである。

 人々の誰しもが、その怪人の正体については知らないはずであるのだが、数年前から現れる怪人は天災のひとつとして共通認識されていた。


 怪人は、人々を襲う。

 何故襲うのかも明確になっていない。

 人々に恨みを抱いているとも、地球を支配下におくためとも、いずれも憶測の域を出ていない。

 しかしながら、連日ニュースが流れ、死傷者の名が読まれていく。社会における最大の懸念事項であり、最も恐るべき脅威であった。


「へっへっへっへっへ! ただ逃げるだけとはなぁ! このウズシオ様から逃げられると思うなぁ! この街ごと渦潮で飲み込んでくれるわ!」


 そう怪人が言い出すと、両手の平を天に向ける。何かが渦巻いているように見えたと思った瞬間には、一メートルほどの渦潮が現れていた。

 それを放り投げるとビルの入り口に渦潮は着地し、一気に巨大な渦潮となった。

 どういった仕組みになっているのか、渦潮に堅牢なはずのビルが徐々に飲み込まれ、傾いていく。


「そーれ! もっとだ!」


 次から次に、怪人ウズシオが渦潮を放っていき、次々に街と人々が渦潮に飲み込まれていく。

 明らかな絶望であった。

 人々は逃げることすらできずに、悲鳴を上げて渦潮に飲み込まれていく。

 圧倒的な絶望。

 このような絶望に立ち向かえる人間がいるはずもなく――いや、いた。

 怪人に立ち向かうことができる最後の希望がいた。


「まてぇ!」


 怪人ウズシオの前に、五人の若者が横一列に並んで現れた。

 待てと叫んだのは、真ん中にいる短髪の若者であるらしい。


「あんた、なんてことしてくれているんだ!」

「そうだ。何の罪も無い人々を――」


 大柄で筋肉質な男性と、華奢な優男も続けて言う。


「貴様を倒す」


 一人だけいる女性が、冷たい目で怪人を射貫く。


「お前さんのパーティーはそうそう幕引きだ」


 そして、トレンチコートと中折れ帽を被った男も続けて言う。


「ん? 貴様ら何者だ!?」


 ウズシオが、ひるむこと無く立ちふさがる五人に問いかけた。

 無謀なのか勇気なのかわらかないが、ただの人間が怪人に太刀打ちできるはずも無いというのに、何故立ち向かってきているのかが不思議であった。 

 五人の若者達は、応える代わりになにやら色とりどりのレシーバーのようなものを取り出した。チャンネルを合わせてそれを一斉に左胸に当てる。


「変身!」


 すると、どうしたことだろうか。

 五人の足下に銀色のリングが現れ、それが上へと移動していき、リングを通った箇所が様々な色の戦隊スーツに変化していく。

 五人は変身し終えると、腰のライフルを手にとって各々叫ぶ。


「大和レッド!」


 そう叫んだのは、短髪の青年だ。


「伊勢イエロー!」

「長門ブルー!」


 大柄で筋肉質な男と、続けて優男が叫ぶ。


「陸奥ピンク!」

「金剛グリーン!」


 最後に、女性とトレンチコートの男も変身を終えて名乗りを上げた。


「我ら、センカンジャー!」


 そう、最後の希望が彼らセンカンジャーである。

 様々な適性試験を乗り越えて、たった五人にまで絞られた精鋭達が、政府が長年秘密裏に研究していた技術を駆使し、世界最先端にして最強のセンカンジャーとなったのだ。

 怪人に対抗できる唯一の存在として、幾たびも怪人を撃破してきた実績のある特殊部隊である。


「ふん。ただ、服が変わっただけではないか」


 そう言いかけた怪人に向かって、五人がライフルを撃った。ライフルからは、光り輝く弾丸が飛んでいき、怪人や地面に当たると、散って火花を散らす。


「ぐわぁ!?」


 怪人が、光の弾丸が当たった箇所を押さえ込む。見た目はさほどではないはずに思っていたら、着弾と同時にすさまじい衝撃が襲ってきていた。


「な、生意気な!」


 レッドが、ライフルの銃剣で斬りかかる、

 怪人は腕で受け止めると、そのまま腕の力だけでレッドを吹き飛ばす。

 しかし、レッドが飛んでいくのと同時に、ブルーとイエローが、左右から同時に長刀を振るかのように銃剣で斬りかかる。銃剣が怪人の体に当たり、火花が散る。

 正確には、光の弾丸同様に、強い衝撃がウズシオに襲いかかっている。


「まったく、こしゃく……何?」


 ウズシオが、殴りかかろうとした瞬間に、イエローとブルーが離れていく。そして、後方にいたピンクとグリーンが、ライフルを構えているのが見える。


「チャージショット!」


 二人同時に叫び、野球ボールサイズの光の弾丸を撃つと、二つともウズシオに命中し、大きく後ろへと吹き飛んでいき、背中から地面に落下する。ウズシオの頭部以外は高い硬度を誇っていて、重量もそれなりにあるからか、舗装が割れていた。


「このこのこのこのこのこの!」


 ウズシオが、怒り狂いながら立ち上がる。怒っているからなのか、頭部の渦潮が大きくなって激しく渦を巻いている。


「これをくらえ!」


 再び、両の手のひらから渦潮を作り出し、センカンジャーに投げつけていく。

 センカンジャーは、素早くその渦潮を避けていく。

 センカンジャーのスピードに、渦潮は全く追いついていけない。逆上したウズシオの判断ミスとしか思えない攻撃である。

 ピンクとグリーンが、ライフルで牽制射撃を仕掛け、再びブルーとイエローが同時に左右から仕掛ける。

 二本の銃剣がウズシオを切り裂いて、大きく体勢を崩す。そこに、レッドが高く飛んで斬りかかる。銃剣は、チャージモードによって、光り輝いていた。


「チャージブレイド!」


 必殺の光り輝く銃剣に切り裂かれ、ウズシオは吹き飛んでいった。

 ダメージが大きいのか、どこか頭部の渦潮が小さくなっている。


「こ、このウズシオさまが」


 怪人ウズシオが、倒れたまま、随分と悔しそうに体を押さえる。

 センカンジャーの見事な連係攻撃により、ダメージの蓄積は大きい。

 その所為か、あちこちにできあがっていた渦潮も消えていた。ただ、飲み込まれたものが戻ってくると言う都合の良いことは起きておらず、ただ、はじめから無かったように消えたままだった。


「このままで済むと思うな!」


 ウズシオが、起き上がって再び渦潮を作り出す。

 センカンジャーが身構える。

 怪人は、生命力を用いることで一時的に巨大化するという奥の手を持っていることを知っている。その巨大化を恐れてのことだが、行動は違った。

 足下に渦潮を落とすと、怪人は、その渦潮に飲まれて消えてしまった。


「な、逃げた!?」

「いや、逃がさない!」

「そうだ」


 とレッド、イエロー、ブルーの三人が先駆けて、躊躇いもせずに渦潮の中に飛び込んでいった。

 その様子を見ていたのは、ピンクとグリーンの二人だ。


「元気なのか、短慮なのか……迂闊すぎる。何があるかわからないのに」

「だが、まぁ、追いかけないという訳にもいかないだろう?」


 ピンクが深刻につぶやくが、ライフルを肩に担いだグリーンがやれやれといった様子で応える。

 見れば、渦潮が徐々にだが、小さくなっていく光景を見て、ピンクとグリーンは同時に駆けだして、先の三人同様に渦潮に飛び込んでいった。

 飛び込んだ瞬間、金剛グリーンの目に飛び込んできた光景は、ひたすらの闇だった。

 真っ暗で何も見えない。

 一緒に飛び込んだはずのピンクの姿すら見えないどころか、自分の体すら確認できないほどの暗闇だ。

 さらに、激流に身動きがとれず、上下左右さえ分からなくなるほどの勢いで流され、飲み込まれていく。

 やはり、迂闊だったかと思えた瞬間に、何時しかグリーンは意識を失った。




 青い空の下で、茶色の砂浜が続いている。

 遠くには高く険しい山脈が、雪化粧している姿が見える。

 浜辺には、ずぶ濡れのトレンチコート姿の男が倒れていた。

 頭の近くには、中折れ帽が落ちている。

 目を閉じて、意識を失っていたようだ。


「う、うぅ?」


 だが、小さく唸りながら目を開けた。

 体のあちこちが痛み、そして重く感じられる。それでも、強引に起き上がり当たりを見渡す。何度もその場で回りながら、見渡していくが、誰もいなかった。

 確か、怪人の作り出した渦潮に飛び込んだはずだが、一緒に飛び込んだ仲間の姿は見えないし、怪人の姿も見えない。

 金剛グリーンは、足下に落ちているずぶ濡れの中折れ帽を手にとって、濡れたまま被った。


「やれやれ、行き先不明のミステリーツアーねぇ。洒落ているじゃないか」


 彼はまだ、ここが地球ですら無いことを知らない。

 そう、ここは、異世界だということを、数時間後に知ることになる。


 異世界。

 それは、地球とは異なる次元に存在する異空間。

 この異世界は、地球で言うところの中世ヨーロッパに似ていた。

 だが、異なる点は、魔法が存在し、エルフやドワーフと言った亜人種が存在し、モンスターと呼ばれる人に徒なすものが存在する。

 そして、かつては魔王が存在していた。

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