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光輝くぼくらの未来  作者: 阿野真一
夏休み四日目
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23/27

夕方

 とうとう、ですよ。とうとう私はここまで来ることができました。


 永かった……。


 病弱で軟弱で貧弱な体に鞭を打ち、単独でここまで歩こうとしたこともありました。それは無謀なことだと悟り、自転車に乗る練習をしたこともありました。すぐにそれも無理だとわかり、今度は自動車に乗っていこうと思いました。


 完成品は大きすぎて地下室の機械では取り寄せることができなかったので、バラバラの状態で取り寄せてから、こちらで組み立てようと考えました。が、知識不足、技術不足、体力不足など諸般の事情により、それも断念せざるを得ませんでした。


 そして、自分一人の力では約束の地にたどり着くことは不可能だと悟った私は、協力者を探すことにしたのです。初めのうちは、主にインターネットの掲示板などを利用しました。何度も、いくつもの掲示板に協力者要請の書き込みをしたのですが、私の話をまともに聞いてくれた人はほとんどいませんでした。大抵は「おつ」と言われて終わりでした。


 まあ考えてみれば、そういった反応を返されるのは当然のことだったのかもしれません。なにしろ私の話の中に、きちんと確証のある事柄なんて一つとして無かったのですから。それに、ネットの掲示板を使ったことも悪手だったのかもしれません。他の書き込みを見ると、胡散臭いものばかりでしたし。もしかしてハローワークに求人を出していれば、とうの昔に全てが丸く収まっていたのでしょうか?


 そのような試行錯誤、紆余曲折を経て、私はお父さんにもらった私自身の力を使い、直に協力者を探し出す方法に思い当たったのです。そしてその結果が――、


「なんだよ! 結局、ついて来てんじゃねーかよ!」


「うっさいわねえ、別にいいでしょ? 減るもんじゃあるまいし。あたしだってねえ、町の外に出てみたかったのよ!」


「まあ別にいいじゃない。芽衣子さん、作戦に反対してるわけじゃないんだし」


「そりゃあ、まあ、そうかも知んないけどさあ……」


「それにね? あたし、ここからは本当に別行動だから。あんたたちの邪魔はしないから安心して。あのね、あたしにはね、ある崇高な目的があるのよ」


「……目的? 崇高な?」


「そうよ、聞きたい? どんな目的か。じゃあ、教えちゃおうかなー。あたしの目的はねえ……伝説の虎帯を手に入れることなのよ! あのね、大昔の高名な格闘家はね、みんな自分が倒した虎の皮を剥いで腰に巻いてたんだって。あたし、その虎帯を腰に巻くのが、ずっと昔からの夢だったのよ!」


 そこで腰に手を当て軽くポーズを決め、勝ち誇ったような笑みを浮かべる芽衣子さん。


「どう? 真っ白な柔道着に虎帯。あたしに超似合いそうだと思わない?」


「はいっ! 思います! 超似合うと思います! むしろ僕、柔道着は無しのほうが芽衣子さんにはお似合いだと思います!」


「「「「ええー」」」」


 ――その結果がこんな感じです。緊張感がなさ過ぎるというか、余裕があって頼もしいというか。まあ、ここまでたどり着けたのは彼らのおかげに依るところが大きいですからね。いや、でもなんとなく、思い通りにことが運んでいるとは思えないというか思いたくないというか。


「そういうわけで、あたし行くから。んじゃあね!」


 ビシッ! と音が聞こえてきそうな勢いで右手をあげてそう言うと、芽衣子さんは町から遠ざかる方向へ走り去っていきました。


「あ、咲紅ちゃん、永穂ぉー! 親父っさんに遭ったら、ちゃんと謝るのよー! 心配かけてごめんなさいってー!」


 ……行ってしまいましたね。


 なんというか、エネルギーに満ち溢れた人、ですね。善かれ、悪しかれ。


「親父っさんにあったら、か。普通は家に帰ったらって言うよな。なあ、咲紅」


「んー、まあね。でも、どっちも同じことだし」


「んー、まあそうなんだけどさ」


 ともあれ、これでやっと発電所の中に入ることができます。私はべつに芽衣子さんが一緒でもいいと思ったんですけど、蒼志君が言うには「芽衣子さんは気分屋だからな」だそうです。なんでも普段から、何の前触れもなく突然それまでの意見を翻すことが往々にしてあるのだと。なので芽衣子さんは極力連れて行かない方向で、と、さっき歩きながら一人一人全員に耳打ちしていました。


「しっかし、すっげえデカいぜ。なんか、上からのしかかってくるような感じがするな。これ、いったいどれくらいの大きさがあるんだ?」


 と、目の前の発電所を見上げるあきら君。すでに日は暮れかけており、漆黒の巨大な建造物は夕日に照らされて、不気味に赤黒く染まっています。


「今朝、説明したじゃないですか。一辺が100メートルの立方体ですよ」


「え、そうだっけ? まあ、べつに何回聞いてもいいだろ。初めて聞く奴もいることだしさ。な、ミッチーどうよ、近くで発電所を見た感想は?」


「ん? ああ……」


 すると、ミッチーちゃんは建物に近づき、シャッター脇の壁を軽くなでて、


「ずいぶん硬そうだな……」


 ぽつりとつぶやきました。続けて翠君は千霞ちゃんに向かって、


「んじゃ、千霞はどう思う?」


「んー、黒いですね。正確に言うと赤黒い、ですか」


 それから咲紅ちゃんに、


「よし、最後にお嬢だぜ! 全員の意見をまとめて、さらに自分が思ったことを続けろ!」


「すごく大きくて、硬くて、赤黒い……ねえ、本当にこの中に入っちゃうの?」


「よし蒼志! ちゃんと録音したか!」


「ああ、バッチリだ。ふふん、これでまあ3千円くらいにはなるかな」


 うわあ、なんてくだらない!


 まったく、最低ですね。本来なら私も咲紅ちゃんの味方に付いて男の子たちを糾弾するべきなのでしょうが、今の私にはそんなことに関わっている余裕はありません。心苦しいのですが、ここは敢えて無視させていただきます。


 私は取っ組み合いにまで発展したみなさんのそばを離れ、シャッターの脇にあるカードリーダーに、お父さんから預かったカードキーをかざしました。すると、


「うん? これなんの音だ? ……あっ、シャッター! 咲紅ほら、喧嘩してる場合じゃない! 入り口が開いてるから! ほら入るぞ、発電所!」


「うっさい! いいから携帯、渡しなさい! 発電所に入るのは、さっきのデータを消してからよ!」


 三百年間、一度も開くことのなかったシャッターが、ギシギシと音をたてて開いていきます。錆び付いているわけでもないのにスムーズに動作しないのは、内部に砂や埃が入り込んでいるせいでしょうか。そうして次第に姿を現してきたのは、重たそうな金属製の扉です。あ、私の部屋の扉と同じものですね、これは。


 耳障りな音を数十秒ほどあたりに撒き散らしたあと、薄汚れた灰色のシャッターは途中で何度か引っかかりつつも、どうにか最後まで上がりきりました。


「なんだ、シャッター開いたのか、残念。あ、いや開いてよかった。本当に良かったな」


 ミッチーちゃんは拳を握りしめ、首をコキコキと回しています。まさか、パンチで壊すつもりだったのでしょうか? 駄目ですよ、発電所を壊しては。私たちが壊すのは柵だけですからね?


「んで未来、これからどうすんだ? 作戦の詳細を説明してくれよ」


 おや、蒼志君? いつの間にか咲紅ちゃんがおとなしくなっていますね。先ほどのもめ事はきちんと片が付いたのでしょうか?


「蒼志君、さっきの音声データは消去したんですか?」


「アア、モチロンダヨ! 俺が咲紅をダシにして小銭稼ぎなんてするわけがないじゃん。最初から、ちょっとからかったら消すつもりだったさ。……いや、マジで本当さ!」


 ……ウソ……ですね。携帯の電波は届いていますからね。たぶん、即座にどこかのサーバーにアップして、それから端末のデータだけを消去して見せたのでしょう。やれやれ、ですね。あとでそのサーバーを突き止めて、こっそりと消去しておかないといけません。


「作戦の詳細なんてありませんよ? ここ――南西側の入り口から入って、直通のエレベーターで中央制御室まで行き、あとは私が端末を操作するのを見ていればいいだけですから」


「いやまあ、確かに簡単でいいんだけどさ。なんか、いまいち盛り上がりに欠けるんだよなあ。ただ行って見るだけじゃあ学校の社会科見学とかわんないじゃん? なんかないの? 例えば想定外の敵が出てくるとかさあ」


「ええ? そんなこといわれても……仕方ないじゃないですか。被害者の会はとっくの昔に消滅していますし、他に敵になりそうな人なんて……」


 私が答えに窮して言いよどんでいると蒼志君の隣から、


「いいじゃないですか、社会科見学でも。あの柵が無くなる瞬間に立ち会えるだけでも面白そうですよ? 社会科見学というより、むしろ観光気分で楽しんじゃいましょうよ」


 千霞ちゃん……べつに観光気分でもいいんですけど、その……芽衣子さんと別行動になったあたりから気になっていたんですけど……あんまり人前でイチャイチャ、ベタベタするのは感心しないというかなんというか。


 千霞ちゃんは蒼志君の右腕に、ジャングルの蔦系食物よろしく絡み付いています。まるで蒼志君から、なにかしらの栄養分を吸い取ろうとしているかのようです。


 ああ、咲紅ちゃんが不機嫌そうな顔をしている原因はこれかもしれませんね。これは私もちょっと……ねえ?


「まあまあ、蒼志。まあ、よいではないか。敵なんかいなくても。それ以外にも、なにかしらの障害があるかもしれないしな」


「はあ? なんだよ、敵以外の障害って。それにミッチー、よいではないかは正義のサムライが言うセリフじゃないぞ?」


 ミッチーちゃんは時代劇が大好きで、なかでも越前さんと鏑木の旦那の大ファンなのだそうです。


「この建物は三百年もまえに建てられたものなんだろう? だったら老朽化とかで、どこかが崩れていたりするかもしれないじゃないか。それで通路が塞がれていたり、扉の開閉を妨げていたり。そしたら蒼志、それを排除するのはわたしの役目だからな。フフッ……久しぶりに……思いっきり……フフッ……腕が鳴る」


 あわわわわ! ミッチーちゃんの目つきが、さっきまでとは別人のように鋭くなっています! お願いですから、お願いですから発電所は壊さないでください!


「なあ未来、とっとと入ろうぜ? こんなところで油売っててもしょうがないだろ」


 あ、それもそうですね。


 ミッチーちゃんを冷ややかに見つめる翠君にせかされ、私は手に持ったカードキーを取っ手の上にあるカードリーダーにかざしました。すると無愛想な電子音と、それに続いて無機質な金属音が聞こえてきて、


「うん? なんだ、あっさりと開いたじゃないか。あ、いや開いてよかったな。本当に」


 あのう、ミッチーちゃん……当然です。なにしろ、お父さんが作った機械ですからね。たかだか三百年くらいで老朽化とか、ありえません。ですからきっと中も、ミッチーちゃんが期待しているような状態にはなっていま「おし! 俺一番!」


「ふざけんな! 僕が一番だ!」


「あたしよ、あたし! あたしが先よ!」


「待て、みんな! どんな危険が待ち受けているかわからん、私の後にしろ!」


「蒼志さん! 蒼志さん! 二人でくぐる最初の扉ですよ!」


 み、みなさん、そんなに慌てなくても発電所は逃げたりしませんから。まあ、とても楽しそうにしていただけて、なによりですけど。


 押し合いへし合いのすえ、発電所へ一斉になだれ込むみなさんに続いて扉をくぐると、


「お、明るい。電気ついてんじゃん! なんだよ、三百年間電気つけっぱなしかよ!」


 およそ二十畳くらいのエレベーターホールです。凹凸の全くない乳白色の天井を見回すと、所々に照明が埋め込まれているのがわかります。


「大丈夫ですよ、蒼志君。ここの照明は全て省電力仕様です。この部屋だけだと――そうですね、だいたい年間20キロワットといったところでしょうか。三百年でも6000キロワット。当時の金額で十四万五千円くらいしかかかっていません。まあ、この発電所は町全体の消費電力に対して、かなり過剰な発電能力があるそうですから、省エネする必要があるのかどうかは些か疑問ですけどね」


「へぇー! いまいちピンとこないけど、つまりとにかく凄いってことだな? へぇー、すっげーなぁ!」


 光沢のある白い壁に囲まれたなにもない空間。たった今ワックスがけしたようなピカピカの黒い床には、私たちの姿が表情さえ見て取れるほどくっきり写り込んでいます。


 そして、私たち全員が向かう先にあるのは、この空間がそう呼ばれる所以であるエレベーターです。窓も飾り気も一切ない扉が鈍色の光を跳ね返しています。


「むう……見事になにもないな。埃すら全く積もっていないとは。なあ未来さん、本当にここは三百年間ずっと放置されていたのか?」


 ミッチーちゃんは私のことをさん付けで呼びます。私が年長者であることをきちんと理解してくれているようです。


「ええ、間違いありません。ときどき町の人――咲紅ちゃんのお父さんなんかが様子を見に来ますが、それ以外に人の出入りはありませんでした」


「そうか……」


 ミッチーちゃんはがっかりした顔でため息をつきます。第一印象では彼女が一番まとも――頼りになりそうだと感じましたが、実は一番の危険人物なのかもしれません。力を持て余しソワソワする様子がちょっと――いえ、かなり怖いです。


 それからミッチーちゃんは、蒼志君と話しをしている翠君に近づいていき……なにも言わずに彼の足を蹴飛ばしました!


「あいたっ! なにすんだよミッチー!」


 そしてミッチーちゃんはボソッと、


「ふう、仕方ないな。しばらくは翠で我慢するか」


 そうつぶやいたのです。なるほど、このお二人はそういう関係ですか。確かに打たれ強そうですからね、翠君は。サンドバック代わりにはもってこいの人材でしょう。


「なあ未来、このエレベーター、ボタンがないぞ? どうやって乗るんだよ」


 蒼志君がそう言いました。みなさんは今、エレベーターを囲んで半円を描くように並んでいます。私が立っているのはそこから少し後ろの位置です。


「ちょっと待ってくださいね?」


 そして私が一歩、二歩、三歩とみなさんに近づき、ちょうど彼らの真後ろまできたとき、ポンという軽い音がしてエレベーターのドアが開きました。


「おお、勝手に開いたぜ!」


「これは一定範囲内にカードキーを近づけると自動で開くようになっているんですよ」


「へえ、さすが博士が作ったエレベーターだな。ハイテクだぜ!」


 そう言いつつ翠君がエレベーターに乗り込んでいきます。そしてそのあとにミッチーちゃん、それから蒼志君と続きます。蒼志君の左腕には千霞ちゃんが、右腕には咲紅ちゃんが絡みついています。彼は表向き迷惑そうな顔をしていますが、内心ではニヤニヤと鼻の下を伸ばしているに違いありません。蒼志君はムッツリスケベですから。初めてお会いしたときにピンときました。


 そして最後に私が乗り込むと、一拍置いて自動的にドアが閉まりました。それから……、


「……緊急ボタンしかないから勝手に動き出すのかと思ったけど……どうなんだ?」


「ちょ、ちょっと待ってください」


 おかしいですね。蒼志君の言ったとおり、ドアが閉まるとすぐに上昇し始めるはずなんですけど……ぜんぜん動かないですね。


 そのまましばらく待っていると、さっきと同じポンという音がしてドアが開きました。その向こうは一階のエレベーターホールです。


「ねえ未来ちゃん、もしかして壊れてるんじゃないの?」


 いやいや! なにを言いますか、咲紅ちゃん! お父さんが作った物がそう簡単に壊れるはずないじゃないですか!


 私は一旦エレベーターを降りて、もう一度乗り直しました。ポンと鳴ってドアが閉じ、そして――あれ!? やっぱり動きません!


「壊れてるんでしょ? 所詮は三百年も昔の骨董品、動かなくて当然ですよ。これの他にはないんですか? エレベーター」


 いやいや! ちょっと待ってください、千霞ちゃん! いま原因を確かめますから!


 私は翠君が背負ったリュックからUSBケーブルを取り出し、ドアの脇にある点検扉の中の端子に差し込みました。そしてもう一端を首の後ろのI/Oパネルに繋ぎ、そこに意識を集中すると――あれ? 駆動装置からの応答が全くありません。物理的な断線でしょうか? でも、おかしいですねえ。町の人が持っているカードキーでは、中央制御室に直結するこの南西側エレベーターに乗ることはできません。ですから、このエレベーターはずっと使われていなかったはずなんです。配線などの耐久テストはきちんとして――、


「おい未来、だいたいこういうのは叩けば直るんだよ。ってことで行けミッチー! おまえの持てる力を見せてやれ!」


 はい? 蒼志君、なんですか?


「ようし、まかせろ蒼志! むんっ!」


「キャアッ!」


 ちょっ! 突然なにするんですかミッチーちゃん! ガシャって! 私の背後から正拳突きで点検扉の上あたりに――ちょっと! 穴あいちゃってる、穴! しかも埋め込まれていた基盤がグチャグチャになってますよ!


「今から直そうと思ってたのにいっ! なんでえ!? なんでこんなことするんですかあ!? お父さんのエレベーター! こんなになっちゃった! これじゃあもう直せないじゃないですか! これじゃあもう……もう! ……うぐっ、ひーん……」


「未来、未来! ごめん、悪かった! いや、直りそうな気がしたんだよ」


「すっ、すまん! つい力を入れすぎてしまった! いや、本当にすまなかった!」


 こうして私は二人になだめられ、どうにか二十分後には泣き止むことができました。


 そのあと、ミッチーちゃんが手動でドアをこじ開けて全員無事に脱出し、今はエレベーターホールの中ほどにみんなで輪になって話し合いをしています。


「未来さん、すまなかったな。本当に反省している」


「まあ、済んでしまったことは仕方ありません。それに、もとから壊れていたみたいだし、私にそれが直せたとも限りませんし。でも、これからは無闇やたらに暴力を奮わないでくださいね?」


「ははっ! 怒られてやんの。なあミッチー、僕に暴力を奮うのも禁止だぜ?」


「いえ、翠君には奮ってもいいと思います」


「はあ!? ちょっと待て! ギャーーーッ!」


「そんなことより未来、これからどうすんだよ?」


 そんなこと!? 蒼志君あなた今、そんなことって言いましたか!? あなたのせいもあってお父さんのエレベーターが再起不能になったというのに……まあいいですよ、済んだことですからね。まあ、いいですよ。


「四つの角にそれぞれエレベーターがあって、ここ南西のもの以外を使えば屋上に上がることができます。そうして屋上を通って、この真上の非常階段を下れば中央制御室に入ることが可能です。ですからここからだと、北西と南東のものが近いですね」


「ふーん。じゃあ、その両方だな」


 両方? どういうことでしょう?


「翠、競争だ! 負けたほうが読書感想文でどうだ!」


「いててて、おう! その勝負、受けて立つぜ!」


 ……まあ、べつにいいんですけど。いいんですけど、なんだか嫌な予感しかしません。


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