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廃景ランデブー番外編。


彼女は廃景のただ中で、天井から溢れる陽光をその身一杯に浴びていた。


夏も間近のこの時期に厚手の長袖とガーゴパンツ、ハイキングブーツにつば付きキャップという姿。装飾も模様もない小型のリュックサックのサイドには、500ミリのペットボトルが2本。

額に浮かぶ玉の汗を袖口で拭うと、まとめられた黒髪がひと房、帽子からはみ出してその背に揺れる。


ここが散策をするような山の中ならば、或いは森の中ならば。俺は違和感を感じることもなかっただろう。

だが生憎と、今いるこの場所は、閑静な住宅街。その隅に厄介者のように放置されている、来月取り壊し予定のボロアパートの中だ。その最上階の部屋の中で、彼女は空を見上げ、俺は襖一枚隔てた廊下で彼女を見ている。


ここに来るまで、この静かな住宅街で、いつゴシップ好きの奥様方に不審者がいると通報されるかヒヤヒヤしていた。これもう不法侵入だよな?空き巣か何かに間違われて面倒な事になったらどうする?俺は早々にここを立ち去るべきじゃないのか?


そう頭の中で思っていたのに。

破れた襖の向こうに立つ彼女を見てから、俺の頭は働かなくなってしまった。


住人を失って朽ちゆく廃墟の中で、ペットボトルを片手にみずみずしく生気を放ちながら天を見上げる女。

そこに浮かぶ汗、スポーツドリンクを嚥下するのが見てとれる白い喉、上気した頬、風にそよぐ髪。そして、その瞳。


…その光景から、離れられない。


『死んだ』部屋に、『生きている』彼女。


それは、鮮明に、俺の瞳に焼き付いてしまったんだ。








-廃景ランコントル-












「シジマ、明日ヒマ?」


俺がファーストフード店の二階でチキン片手にコーヒーを飲みつつ、タブレットに打ち込んだ文章を確認していると、不意に後ろから声を掛けられた。


「実はサー、あ、うまそ」


俺が振り返るよりも早く、その馴れ馴れしい男(俺判定)安藤アンドウ 和也カズヤは断りもなく向かいの席に腰掛けた。そして躊躇うこともなくトレーに乗ったポテトへと手を伸ばす。


俺は咄嗟の事に良くもまあ、ろくに面識もない相手にここまで面の皮が厚い振る舞いが出来るものだと半ば感心してしまう。安藤とは同学年だが、講義が2、3被るくらいでそれほど面識もない。名前を知っている程度の他人。それは安藤だって同じだろうに。


そういえば、なんでコイツ俺がここにいるって知ってるんだ?

俺、午前中で大学抜けて真っ直ぐここに来たのに。

コイツも講義午前中だけだったのか?それで偶然ここに?

いや、そんなわけない。


目の前で次から次へと他人のポテトを頬張る他人を怪訝に眺める。しかしまあ、一向に手が止まらない。飢えてんのかコイツ。


……ていうか自分で買って食えよ。


俺は腹が立ち、安藤に嫌味の1つでも言ってやろうと口を開く。が、先に安藤が話し出したせいで俺の言葉は紡がれる事無く消える。


「やーうまいよねポテト。で、実はさー、合コンなんだけど、人数足りないんだよねー。マツタニが来れなくなっちゃって」


「断る。」


「んなこというなよー。俺わざわざここまでつけてきたのに」


つけてきたのかよ。わざわざ。


「気持ち悪いぞお前。てか俺、レポート仕上げたいからムリ。」


駄々をこねる安藤にタブレットを指差す俺。

安藤は画面を一瞥する。


「それ、倫理学だろ。提出ケッコー先じゃん」


「俺はこういうの後回しにするの嫌いなんだよ。」


「後回しっても、たかだか半日だって!頼むよー。相手コウジョの1年だぜ?最高じゃん!な!ぜってー楽しいし!」


食い下がる安藤は大袈裟に両の手を合わせて頭を下げる。コイツが言っても必死さはあまり伝わらない。だが。


コウジョ……。私立紅零女子学園。小学、中学、高校、そして大学と、今時珍しいエスカレーター式のお嬢様学校だ。美人が多い(俺判定)。そして金持ちばかり(客観的事実)。…紅女の大学1年。もしかしたら、いい金蔓になるかもしれない。


俺はたっぷり数分、わざとらしく黙考する。そして。


「…いいよ。」


仕方がないなあ、という様子で言葉を発する。


「マジ!?よっしゃあ!」


すぐさま安藤は両の手を打ち、犬がおやつを貰ったみたいにはしゃぐ。そして携帯を取り出し、


「じゃ、ID教えて?」


と、さも当然の様に聞いてきた。











俺がどのSNSにも登録していないと言うと、安藤は絶滅危惧種でも発見したように飛び上がって驚いた。そして、大概の人間に言われ慣れた一通りの言葉(なんで!?楽しいし便利だからやった方がいいって!不便だろ!?etc.)を投げ掛けてようやくアドレスを交換してくれた。とあるSNSの招待メールを送り付けるついでに。そして用は済んだとばかりにさっさと帰って行く。安藤は結局、昼飯時の飲食店で何一つ注文しなかった。


全く、何を考えているのか分からない奴だ。だが、ああいうお調子者だからか、あんまり怒る気にもならない。これが呆れなのか諦観なのかの判断はつかないが。


俺は気を取り直して昼食に集中しようと、タブレットを鞄にしまいトレーを引き寄せた。が、そこには空になったポテトの箱と、ベーグルサンドの包装紙のみが乱雑に散らばっているばかり。


…いつの間に。

前言撤回、アイツ覚えてろ。


ほの暗く沸いてくる怒りを堪えながらも、混雑してきた店内でもう一度注文するのが憚られた俺は、少々乱雑にトレーを片付けるとファーストフード店を後にした。







人、人、人の海。


俺はランチタイムで賑わう大通りの雑踏に流されながら駅へと向かう。学生に会社員に作業員に主婦と、多種多様な人々を避けながらビル群の建ち並ぶオフィス街を足早に進むが、なかなか思うように歩けず苛立ってきた俺は、喫茶店と雑貨店の間に身を滑らせて裏通りへと抜けた。


住宅地が並ぶ裏通りは、表通りの人混みがバカみたいに感じるほど人気がない。喧騒が背中から溢れているが、それが更に寂しさを助長している。この静けさにいつ来ても何となく居心地が悪く感じるのは、普段騒がしい場所に慣れ過ぎているからか。


それでも背に腹は代えられない。俺はレポートを書きたいんだ。最早強迫観念に近い気持ちを押さえて早足でソーラーパネルやら電気自動車用ガレージやらを設置してある家々を通り過ぎる。どこの家も競うように手入れされている庭には、ヒマワリやらアサガオやらが咲いていた。


「……?」


ふと、俺は立ち止まる。

何か今、場違いな格好をした人が、向こうの家の角を曲がったような。


早足を駆け足に変えて人影が消えた場所まで行く。すると。


「…………???」


女の後ろ姿が見えた。

だが違和感がある。


6月の中旬に、長袖、長ズボン、つば付きのキャップからは束ねられた長い髪がはみ出していて、その黒髪が背中のリュックに跳ねていた。大きく膨らんだリュックには柄もなく、実用性に長けた作りをしていてサイドには500ミリのスポーツドリンクが収まっている。


「……なんだ、あの女?」


まるで登山やハイキングに行く格好だが、ここには山も森も無い。賑やかな繁華街の後ろにあるただの住宅地だ。なのになぜあの女はあんな格好をしているんだ?泥棒か?いや、泥棒ならもっとマシな格好をするだろう。じゃあなんだ、この平地に探検するべき場所でもあるのか?…いや、まさか。コンクリートジャングルは伊達じゃない。森も山も洞窟も、この街からはとっくに消えている。


それでも迷い無く道を行く姿がどうにも気になって、何となくその後を追いかける。彼女は結構な荷物を背負っているように見えるのに、意外なほどの早足で住宅地の奥へと進んでゆく。気を抜くと見失いそうだ。


俺は降って湧いた好奇心に従って、知らない女(変な女?)の後を付けることにした。







15分程経っただろうか。女が古いアパートらしき建物の前で足を止めた。俺は何となく後ろめたくて生け垣の影に隠れる。…なにやってんだろう、ストーカーじゃあるまいし。


幸いにも?彼女は俺に気付かず、建物の中へと入っていった。その姿を目で追った俺は少しの落胆と羞恥心が迫り上がってくるのを感じた。


なんだ、彼女はただ、家に帰ってきただけだったのだ。あの格好はこれから何処かに向かうのではない、何処かから戻ってきたんだろう。たったそれだけの事だったんだ。


自己嫌悪に陥りそうになりながら、俺はアパートの前へと歩いてゆく。ここまで来たらとりあえず見て行こう、と思ってふと、立て掛けられた看板に気付いた。



『市営住宅・立ち入り禁止・7月1日より撤去作業開始』



「…………」


見ると4階建てアパートの入り口は錆びかけた鎖で閉鎖されている。簡易的なものなので簡単に突破できそうだ。


申し訳程度の鎖をくぐって敷地に足を踏み入れると、何処かから『ギィィィ、』と重い扉が開いた音が響いてきた。あの女だろう。


俺はひび割れの酷いコンクリートの階段を登り、上へと向かう。音の出所は大分上だった。恐らく4階だろう。どのくらい放置されていたのか知らないが、老朽化は進んでいたようだ。赤く錆びた手すりは所々欠けていて、もう人間の体重を支えられなくなっている。俺は階上にいる女を無駄に驚かせないようにゆっくりと一段一段登っていく。一階毎に向かい合っている鉄の扉の中央にはそれぞれ白く番号が書いてあった。一階は1番と2番、という具合に。


1階、2階、3階。


1階登る毎にベランダのような踊り場から見える風景が高くなっていく。1階は、アパートの敷地内しか見えなかった。2階は、周囲の家が見えた。3階は、家々の屋根が見渡せてさっき通ってきた道が見えた。どうやら他に、このアパートの様な建物は無いようだった。多分、ここいら一帯は市営住宅地だったのではないだろうか。そして恐らく、このアパートが最後に残ったのだろう。あとは取り壊され、ただの土地に還るだけ。







そうして、4階。

踊り場に向かう階段を見上げると、青空が視界一杯に広がった。心持ち早足で踊り場に辿り着いた俺は、錆びた手すりに手を掛けて階下を見下ろす。


「高っけー……」


見晴らしの良い踊り場から地上までは十数メートルはありそうだ。群れた住宅街の先に、始発点の繁華街が少しだけ見える。静かな住宅地をゆく数人の姿が小さく見えたが、彼らと今ここにいる俺とは随分と隔たりがあるように感じた。

閑静な住宅街。子供たちは学校、夫は会社、妻はテレビでも見ながら昼食を摂る、そんなテンプレの風景がありありと予想できる街。そこから今、除外されている俺。


「………………」


俯きかけた顔を上げて見た雲一つない空は、相変わらず晴れ渡っていて、綺麗だった。


暫くボーッと景色を眺めていた俺は、ハッとして我に返る。


そうだ、俺はあの女を追いかけてきたんだ。慌てて階上を振り仰ぐ。最上階では7番と8番の2枚の扉の内、右の方-つまり8番の扉-が開いている。階段を登り切って8番の扉の前に立つと、それが木製のドアストッパーで止められているのが分かった。彼女はこの中か。


恐る恐る玄関を覗き込むと、向かって左側に廊下が延びており、その先の穴の空いた襖から光が差し込んで空中に埃が漂っているのが見えた。その空気を吸う事に少し躊躇ったものの、手のひらで口許を覆う事で妥協し、意を決してコンクリートがむき出しの玄関へと足を踏み出す。慎重に。慎重に。






埃を被った廊下は体重を掛けると静かに軋んだ。足の裏に柔らかい木材が撓むのがよくわかる。もしかしたら、踏み抜いてしまうかもしれない不安に駆られつつ、短い廊下を進んでゆく。所々破けた襖は人1人通れるくらいに開いていた。俺は、そこから少しだけ顔を覗かせ、中を窺う。


--……いた。彼女だ。


襖の向こうは6畳くらいの居間だった。左手には木製のガラス戸の向こうに小さなベランダがあり、右手には破れた襖を挟んで台所があり、正面には寝室らしき4畳ほどの部屋がある。どこもかしこもがらんどうで、色褪せて日焼けした畳や襖、ひび割れて落ちた壁の残骸だけが見てとれた。


そして、その居間で、女は空を見上げていた。


4階の8号室の居間は大分老朽化が進んでいたのか、或いは人為的なものなのか、天井が抜け落ちて1メートル位の大きな穴が開いていた。女は、そこから青い蒼い空を見ているのだった。


……俺はきっと、その光景を、決して忘れないだろう。


埃がキラキラと舞う部屋の中で、天上の光を一杯に浴びて空を見上げる彼女は、とても、とても。


美しかった。









暫く、呆然とその姿を眺めていた俺は、彼女が500ミリペットボトルを飲み終えて鞄にしまい込んだ所でようやく、自分の不審さに言い訳が出来ない事に思い当たった。彼女に何と声を掛ければいいのだろう。……あなたの格好が気になって、暫く前からずっと後を付けていましたって?言えるわけがない。そもそも格好と後を付ける事は別物だ。可笑しな姿をしていたから延々と追いかけてきましたなどと言ったところで、俺が1人の女の後を付けてきた事実に変わりはない。そう考えると一気に自分がヤバイ立場に居る気がしてきた。俺、このまま立ち去るべきじゃないのか。


逡巡していると喉を潤した彼女が動き出し、俺の身体は微かに強張った。いや別に、何かするつもりもないのだけれども。


彼女は台所の方へと向かっていた。その事に安堵し、俺は立ち去る事に決めた。きっとお互いの為に(ほぼ俺の為に)、その方がいい。


踵を返して、またもや廊下を慎重に踏み締めながら戻る。いつの間にか忘れていた手の覆いをもう一度口許に当てて、珍しいものを見たものだ、と思う。少なくとも少しばかりの時間を無駄にする価値はあった。大分久し振りに、空の青さを素直に綺麗だと思えたのだから。


そんなことを考えながら、玄関に辿り着いた時だった。


いきなり左から何かが飛び出してきたのは。


「っ!?!?」


それは玄関に立っていた俺の身体を弾き飛ばし、コンクリートの床へとしたたかに叩きつけた。咄嗟の事に腕で頭をかばった俺は、腕の間から正面に立っている人影を見て体当たりされたのだと気付く。


俺の目の前に仁王立ちしている彼女は、正面から見るとどこか幼げに見えた。多分、俺より年は下じゃないだろうか。端正な顔に苛立ちを含ませて、眼差し強くこちらを睨み付けている姿はかなり怖いけれど。


「…ちょ、ちょっと待てっ」


俺がどう切り出せば、彼女が俺に対して抱いている尤もな誤解を解くことができるか考えている最中にも彼女は追撃の手を緩めなかった。俺は固いハイキングブーツで強く腹部を蹴られ、鈍い痛みに顔を顰める。どうしたものか。今の所、話は通じそうにない。


彼女が落ち着いた隙を狙って、どうにか和解するしかないか。所詮は女の力だ、大怪我することも無いだろう。


とりあえず耐えることにして防御体勢を固めた俺はしかし、トドメを刺そうと彼女が振り上げた細長いそれを見て、息を呑む。


それ、特殊警棒じゃないか!?


それが過たずに俺の頭へと振り下ろされる。間一髪で避けた俺は右耳に風を切る音を聴いて血の気が引いた。おいそれ、首より上には使っちゃいけないんだぞ、とか思う間にも狙いが外れた彼女は舌打ちをして、第二撃を振り下ろす為体勢を整えている。冗談じゃない。殺傷能力が低く見られがちな特殊警棒だが、力一杯振り下ろされれば骨くらい容易く折ることが出来る代物だ。ましてや、それを頭に食らったら。


-最悪、死ぬ。






俺はその結論に至ると同時に、ほぼ反射的に彼女の足を下から蹴りあげてよろめかせた。その間に痛みによろめきながら起き上がった俺は、まだ敵意を剥き出しに襲い掛かってくる彼女に恐怖を感じ、その身体を蹴り飛ばしてしまった。柔らかな肉の感触を左足の裏に感じたと思ったら、その身が勢いよく玄関の方へと飛んでいき木の扉をぶち破る。そこで俺は玄関と台所が繋がっていた事に驚き、そこから襲われたのだと初めて気付いた。だがその視線の先で、扉の欠片と共に台所の床に倒れ込んでいる女の姿を見付けて一気に息が詰まりそうになる。


「おいっ!大丈夫か、」


慌てて駆け寄り外傷を確認する。大丈夫も何も俺の仕業なのだが、こういう時って他にどんな言葉をかけたらいいのだろう。


「……う゛っ…いったぁー……」


彼女の意識があるのを確認して、ほっと胸を撫で下ろす。どうやら外傷も無いようだった。朽ちかけた扉が脆かったおかげで、派手に倒れ込んだわりには怪我をしなかったらしい。俺は一応、その手に握り締めていた特殊警棒を手放させてから声を掛ける。


「…悪い、やりすぎた。どこか痛む所、無いか?」


自分でも驚くほど情けない声が出た。仕方ない。女を蹴り飛ばしたのなんて生まれて初めてなのだ。動揺くらいする。


彼女は苦い顔をして起き上がり、小さく悪態を吐くと服に付いた木材の欠片や埃を払い落とした。


「大丈夫、どこも異常ない。謝んないでいいよ。先にしかけたのアタシだし」


そういって立ち上がり、リュックの中身を確認し始めた。俺は床に転がっていたペットボトルを拾い上げ、少し考えて特殊警棒と共に彼女に差し出した。


「ありがと」


ペットボトルをサイドに滑り込ませ、手際よく警棒を折り畳んでリュックにしまった彼女はようやく俺を見る。


「で、アンタ誰?」







俺は何処から説明しようか迷ったが、結局住宅地から遡って説明する。その間彼女は、なにも言わず静かに話を聞いていた。


そして一通りの話が終わった後、


「つけてきてるってのは知ってたよ」


と言った。


「……え?」


目を丸くする俺に、彼女はため息を吐いて4階の踊り場に繋がる階段へと腰を下ろす。俺もその隣に座る。座ると共に柔らかな風が吹いて、前髪を揺らした。


「カーブミラーから見えてた」


「…マジか」


ということは随分前から気付かれていたわけだ。いたたまれなくなってきた。


「何でついてきてんのか分かんなかったけど、その内飽きるかと思って気にしなかったの。でもアンタここまで付いてきてるし。まさか部屋の中まで黙って付いてくると思わなかったから、これはいよいよヤバイ人かなって。それでぶん殴って逃げようと」


「……随分攻撃的だな…」


「過剰防衛だったのは認める。私の勘違いだった事も。ごめん。でもアンタもアンタよ。声くらい掛けてよ。廃墟探索って危険が多いんだから」


「廃墟探索?」


「廃墟を探索すること。私、好きなの、廃墟」


「…へえー」


一応、そういう趣味嗜好があるということは知っていたが(大学のサークルにも確かあった)、探索する人間を実際に目にするのは初めてだ。たしか、これまでにも何人か廃墟が好きだと言う人間はいたが、そのどれもが『写真を集めるのが』とか、『度胸試しで』『オカルトが好きだから』とかいった理由だったと思う。


「廃墟なんか見て面白いのか?」


てっきり、すぐに答えが返ってくるものだと思ったが、予想に反して彼女は口ごもった。


「……うーん。面白くは、無い…かも?」


「え。」


「いや、好きなんだけど、でもなんて言うの、動物園とか見る感覚じゃなくて、もっとこう、モノクロの無声映画見る感じっていうか…」


うまい言葉を見つけられずによくわからない例えを繰り出してくる彼女に、何となく、言いたいことが分かったような気がした俺は助け船を出す。


「兎に角、手を叩いて笑う様な面白さじゃないって事か?博物館とか、見に行く感じ?」


「そう!それ!そんな感じ!」


そして彼女は一拍程黙り、語る。


「……穴の空いた天井とか、抜けそうな床とか、放置された生活用品とか、森や林なんかの自然に取り込まれかけている建物とか。綺麗なんかじゃないんだよ。どっちかって言うと汚いし、寂しくなる。でも、その1つ1つを見ている内に、考えている内に、そういうのが凄く荘厳なものに見えてくるの。その風景が、雰囲気が、頭の中に焼き付いて離れないから、もっともっと見たいから、見に行くの」


少し早口でそう語りきり、彼女は立ち上がった。


「私、何急にクサイこと言ってんだろ恥ずかしい、忘れて」


慌ててさっきより早口で誤魔化そうとする姿が面白い。だけどここで笑ったらきっと、彼女は俺を許さないだろう。だから、俺はひび割れた階段に座ったまま、天を見つめて静かに言葉を発する。


「…ここから見える空、綺麗だよな」


踊り場と屋根に挟まれて四角の中に収まっている空は、ただ、ただ、青い。


俺の視線の先を追った彼女も、静かに相槌を打った。


「……うん。」






そうしてしばらく後。


彼女は8号室に戻り、俺は踊り場で空を見上げていた。後ろの方で時折シャッター音がするから、あのリュックの中にはカメラも入っていたのだろう。一度あの中身を見てみたい。あの女探検家は、他に何を必要として用意しているのだろう。…何となく、見るのも怖いが。


そうやって、とりとめもないことをただ考えていると、


『----カシャッ』


「うわっ!」


カメラのシャッター音がすぐ横で聞こえて、俺は飛び上がった。


振り返ると、デジカメを手にしてケタケタ笑っている女の姿。俺は脱力して壁にもたれ掛かる。


「脅かすなよ…」


「あっはっは!ゴメンゴメン、まさかまだ居るなんて思ってなかったから」


「あー…何となく?」


別に待っていてと言われた訳ではないし、待っていたつもりも無いのだが、ドアストッパーを外してデジカメと共にリュックにしまった彼女が勢いよく階段を下るのに合わせて、俺もその後を追った。


一階まで降りてくると、空気が少しだけ涼しい。緩くぶら下がっている鎖の前で振り返って4階を見上げたが、ここからではあの踊り場も、ペンキの剥げた鉄の扉も、錆びきった手すりも見えない。空は相変わらず青かったが、あの踊り場で見ていた時よりも遠いものに見えた。俺はそれを確認し、建物に背を向け鎖を潜る。


彼女は立ち入り禁止の看板が立て掛けてある塀に背を預けて待っていた。500ミリのペットボトルに入ったスポーツドリンクを飲みながら。


俺は携帯を取り出し、時間を確認して驚く。


--3時26分。


随分と長い間、空を見ていたらしい。

全く気付かなかった。


驚いている俺を尻目に、ドリンクを飲み干した彼女は歩き出す。


「じゃ、さようなら」


あっさりそう言って、俺の脇をすたすた通り過ぎていく。


「…え、あ…」


呼び止めようと手を挙げかけた俺は、呼び止めた所でどうするんだ、と思い留まる。だがその間にも彼女は躊躇い無く歩いて行く。迷い無く、堂々と。結局、その姿は住宅街の路地の中に消え、あっけなく見えなくなってしまった。


狐につままれたような気持ちで携帯に視線を落とした俺は、安藤からのメールに気付いた。


「あ。レポート…」










『明日☆午後6時に!駅前の居酒屋^^鴉屋★集合!』


講堂であくびを噛み殺しながら携帯を弄っていた俺は、無意味な装飾記号で飾られた安藤からのメールにため息を吐く。結局、昨日はレポートを書き終えることが出来なかった。


教授が壇上で冗談を交えながら講義をしている。俺は後方の席で笑うふりをしながら、その要点だけをノートにまとめてゆく。


ふと、後ろからシャツを引っ張られた気がした俺は振り返る。


そこには、同学年の新堂 舞(シンドウ マイ)がいた。


「なに?」


俺は即座に笑みを貼り付けて聞く。新堂は綺麗に整えられた眉を顰めて、潜めた声に多少の苛つきを含ませた。


「シジマ君、合コン行くの?安藤くんが言ってたけど」


心中で『安藤のクソ野郎』と毒吐きながらもそんな雰囲気はおくびにも出さず、俺は爽やかに笑い流す。


「ただの数合わせだよ?どうしてもって頼まれてね」


「なんで?相手、紅女なんでしょ。シジマ君、お嬢様には興味ないって言ってたのに」


そんなこと言ったっけ。…記憶にないが、まあ、言った気もする。というか人の話をちゃんと聞いてくれ。


新堂は栗色の髪を指先でクルクル絡めながら、長い睫毛を伏せて口を結んでいる。完全に機嫌を損ねているときの態度だ。めんどくさい。だがやっぱり俺はそんなことおくびにも出さずに、新堂の頬を軽くつまむ。


「も~、や~め~へ~よ~」


新堂はくすぐったそうに抵抗する。そこで俺はその頬に顔を寄せた。


「遊びだよ。分かってるだろ?」


囁き、その耳を軽く撫でて、笑う。


顔を赤らめた新堂は、尚も不満げにしていたが「しょーがないなー」と言って折れた。俺は机に突っ伏したその頭を撫でてやる。またも「や~め~て~よ~」と言うが、まんざらでもなさそうだ。緩くカールした髪は柔らかく、ふわふわとしていて整髪料の良い匂いがする。


俺は面白がってそのまま新堂を構っていたが、同時に教授の講義をノートに綴ってゆく手も止めなかった。






新堂 舞は俺の恋人という立ち位置に居る。


だが俺は他に3人の女と付き合っている。


そして新堂は、それに薄々気付いている。


でも、新堂は何も言わないのだ。…何も。


講義が終わり、俺は新堂と別れて駅へと向かう。向かいながら、新堂 舞の柔らかな髪を思い出す。


新堂 舞は、可愛い。明るくて、気配りもでき、意外と真面目な女の子だ。それが俺の評価だし、恐らくは彼女を知る人々の総評でもあるだろう。男女問わず、万人に好かれそうなタイプの女子。

……そして、利用されやすいタイプの女子でもある。


あれは4月の中頃。


多目的ホールに通じる渡り廊下の真ん中で、新堂は俺のことが好きだと叫んだ。真っ赤な顔をした新堂と、ヤジを飛ばす観衆。俺は迷惑さに歪みそうになる顔を何とか取り繕って、その告白を受け入れた。


一段と騒ぐ観衆、泣き出す彼女、それを抱き締める俺。

青春の青臭い1ページ。


だがそれは、人気者の彼女を利用することによって得る利益を打算した結果に過ぎない。


新堂の事は、嫌いではない。むしろ、好きだ。

だが、そこに愛はない。たとえ『愛している』と囁くことが容易くても、きっと俺は新堂が邪魔になったらあっけなく別れるだろう。そしてそれきり思い出すこともない。


-俺は、人を愛することができない-

-人に、愛されたくもない-


でも、それを露に生きるのは、ひどく難しい。なのに、かりそめの愛や友情で生きるのは、ひどく容易いのだ。だから俺は後者を選んだ。たったそれだけの事。


「…………………………」


俺は絡み付く感傷を振り払った。時間に余裕のある今日は裏通りを使わずに目的地へと向かえる。出来るだけゆっくり、周りの人々に追い越されながら歩く。


人混みに紛れながら街中で見上げた夕暮れの空は、ひどくちっぽけに見えた。






駅前に並ぶ飲み屋の中でも、一際派手な電飾を纏ってその店はあった。2階建ての店の看板にはカラスを模した紫のネオンがチカチカと点滅しており、見ているだけで目がおかしくなりそうだ。メールの過剰装飾がキチンと店の雰囲気を伝えていたことに驚きながら(まあ、どちらもただ、安藤の趣味でしかないのかも知れないが)、2階へと続く階段を上る。


自動ドアを抜けて、駆け寄ってきた店員に安藤の名前を出すと、「こちらです、」と笑顔で案内された。店員の後を追いながら見渡した店内は、外から受けた印象よりも広い。カウンターを除いたそれぞれのテーブルは高さのある仕切りで区切られていて、1つ1つが個室のような作りをしている。これで照明が青や紫でなければもっと落ち着けるのに、と、考えたところで店員の足が止まり席を示す。


そこは一番奥の8人掛けテーブルで、安藤を含む3人の男がもう既に席に着いていた。女子の姿はないから、お互いに待ち合わせ時刻をずらしているのだろう。俺に気付いた安藤が大袈裟に手を振り叫ぶ。


「おー!シジマー!」


うるさい。俺は案内してくれた店員に謝りながら礼を言い、唯一空いていた一番左側の席へ着く。


「え、シジマ?」


と、俺の隣で人工金髪青目チャラ男(俺判定)の村俣 孝介ムラマタ コウスケが言い、


「松谷じゃねえの?」


と、その隣で黒眼鏡モヤシ男(男判定)の仲島 佑樹(ナカジマ ユウキ)が安藤に小声で囁く。


「マツタニ来ねえって言うから、ピンチヒッターでシジマ呼んだんだよ。サンキューシジマ!」


安藤は仲島の囁きを無視し、俺へと話を振る。うるさい。


「安藤、お前煩いぞ。あと俺、ただの数合わせだから。終わったらすぐ帰る」


俺は安藤に釘を刺しつつ、他の2人に白旗を振ってやった。仲島とはゼミ仲間、村俣は対して接点もないのによく絡んでくるので知っている。ちなみに村俣がいると知っていれば来なかった位、俺はこいつが嫌いだ。


案の定、村俣が「キャッキャッキャ」と、耳障りな笑い声を発した。


「だーよーなー!シジマにはマイちゃんがいるんだもんなー!浮気はダメだよなー」


これまた耳障りな村俣の声が、嫌みったらしく俺に投げ掛けられる。俺は舌打ちしかけるも、どうにか平静を装って受け流そうと試みた。


「そうだな。浮気はしないよ」


「……けっ、」


無難に返したつもりだったのだが、村俣は機嫌が悪くなったようだ。苛つきが顔に出ている。俺は舌打ちをする代わりに携帯を取り出した。無視してゲームをやりだす。すると安藤が見かねて割って入ってきた。


「どーどーどー、ムラマター。雰囲気壊すなよー。あと舞ちゃんの話はナシ!今日は皆フリー設定!ホラ、シジマもスマホしまって!もうすぐ女の子来るんだから、楽しくやろうぜー」


言うや否や、さりげなく村俣と席を交換する安藤。村俣はまだ嫌な顔をしていたが、大人しく席を移動した。俺が澄ました顔をしながらも内心ほっとしながら携帯を鞄の中にしまうと、丁度、4人の女子がさっきの店員に案内されて歩いてきた所だった。







「……あ」


俺は席へとやって来た女達の1人に既視感を感じた。

かなり最近、見た事がある。最近、というか、厳密に言えば昨日。昨日と打って変わって髪を下ろして化粧を施し、水色のキャミソールに白のスキニーで細い身体を強調していたが、絶対にあの女だ。廃墟探索が好きな、やや攻撃的な、変わり者の女。


恐らく向こうも気付いている。その証拠に頑なに俺の顔を見ようとしていない。明らかに避けている。友達に知られたくないんだろうか。なら都合がいい。俺も知らない顔をしていよう。


思わぬ再会に驚くも視線を逸らすことでやり過ごした俺の耳に、甲高い声が響く。


「今日はよろしくお願いしますぅ~」


茶髪セミロングの女が1歩前に進み出て、ギリギリのあざとさで身体をくねらせながら挨拶する。


「ヨロシクー!ささ、座って座ってっ。自己紹介しよっ」


安藤が犬みたいにはしゃいで席を示す。

村俣と仲島も若干テンションを上げて挨拶を返す中、俺は曖昧に微笑んで誤魔化しながらも彼女に目を向けた。


驚いた事に、真っ先に席に着いたのはあの廃墟女だった。しかも俺の目の前。相変わらず目を合わせないが。


「……ひゅー」


隣で安藤が茶化す。心なしか左の方から舌打ちが聞こえた。村俣だろう。

他の女子は戸惑いつつも、程なくして席を決め、各々に座った。


「じゃ、自己紹介!男からねー。左からいこっか!」


安藤が村俣へと視線を向ける。村俣が右手を上げてスベリ気味な自己紹介をし、次に仲島が多少吃りながら無難な自己紹介をし、安藤が底抜けに明るく自己アピールして、俺の番。


「シジマ トオルです。よろしく」


笑みを絶さず、だが簡潔に済ませると、女達の品定めするような視線(1名を除く)が集中する。しかしすぐに、左端に座った茶髪セミロングの女が声を上げた。


「じゃあ、次アタシですね!スズキ ミキでーす。よろしくお願いしまぁす」


語尾にハートマークが付きそうな口調で自己紹介する茶髪セミロングのミキ。どうもこの娘は安藤と同じ匂いがする。一見ウザいが場を盛り上げるのは上手い。


「…スドウ アユミです。よろしくお願いします…」


次に、胸まである黒髪を緩く巻いた娘が小さな声で言い、


「ワタナベ リカですー。よろしくお願いしますー」


その隣のショートカットの娘が間延びした口調で続く。


そして。


「レイメイ マヤ。ヨロシク」


随分と棒読みで素っ気ない挨拶を繰り出す向かいの女。


マヤ、か。


俺は合コンの雰囲気を微妙に壊した本人を前に、にやけそうになる顔を必死で引き締める。彼女をよく知っているつもりもないが、実に「らしい」と思った。





「じゃ、じゃあ、なんか頼もう!ね!」


気まずい中、若干顔を引き攣らせながらミキがメニューを開く。


「俺、カシオレ!あと唐揚げ!すいませーん!」


安藤が真っ先に食いつき店員を呼ぶと、各々が注文を決めてゆく。


ハイボールにオレンジジュース、烏龍茶にシャーリーテンプル、アセロラジュースにサマークーラー。サラダにポテトにアスパラベーコン。どうにも若者の酒離れは激しいようだ。


隣で広げられた、居酒屋というより若年向けバーのような珍しいドリンク・メニューを覗き込む。店の方でもしっかりターゲットを絞っているらしく、ノンアルコールやソフトドリンクが一般的な居酒屋より多い。その代わり、焼酎や日本酒等は極端に少なかった。


「じゃあ、俺トム・コリンズ。あとナッツの盛り合わせ」


店員は注文を繰り返しながら電子伝票に打ち込み、確認し終えると去っていった。それを見計らったかのように質問し始めるテーブルで俺は適当に相槌を打つが、マヤは無表情でほとんど反応せず半ば無視していると言って良いくらいの態度でスマホを弄くっている。何でココに来たんだろう、コイツ。


「シジマさんはー、どんな娘が好きなんですかー」


「え。」


不意に間延びした声に呼ばれ、場に引きずり出される俺。しめたとばかりに耳障りな笑い声が左から響く。


「シジマは可愛い娘が好きなんだよなー。ピンクが似合うような」

「ムラマター、邪魔すんなよ」


含みのある言い方に不穏なものを感じたのだろう、牽制する安藤。


「じゃあ、私、ピンク着て来れば良かったなー」


そんな男共など露知らず、リカは柔らかな口調で言い、自分のひだ付きの白いチュニックを摘まんで口を膨らませる。


「ピンク、似合うだろうね」


俺は横一列を完全無視して、全開のスマイルをリカへ向ける。「ほんとですかー」と、はにかむリカは隣のアユミと嬉しそうに騒ぐ。


左でまたも舌打ちが聞こえたが、もう気にしないことにして俺は積極的に会話に加わろうと居住まいを正す。こうなったら村俣が狙ってる娘を落として帰ってやる。


俺が腹を括ったその時、飲み物が運ばれてきた。


俺はグラスを銘々に配りながら、村俣の動向を探る。


……我ながら、嫌な奴。






30分位経っただろうか。


動向と会話内容で村俣がミカ狙いだとアタリを付けた俺は、静かに隙を窺っていた。村俣は自己アピールが強すぎてミカに引かれている。この調子なら楽勝。


ほとんど空気みたいになってる仲島は、恐らくアユミ狙い。さっきから話しかけるチャンスを窺っているものの、アユミが他の女子の会話に巻き込まれてゆくので何も出来ずにいる。


分からないのは安藤。

誰かを狙っているようにも見えないが、今一番女子受けしてるのはコイツだ。相変わらず1名を除いて。


そんな観察を繰り返している俺の視界で、人影が動く。レイメイ マヤだ。


「オテアライ」


と1言呟き、彼女は店の奥にスタスタと歩いていく。


「ねねね、マヤチャンっていっつもあんな感じ?」


安藤が身を乗り出してリカに聞く。リカは困ったように笑い、ミカへと目で助けを求める。村俣の会話から逃げる糸口を見つけたミカは、ほっとしたように安藤へと顔を向ける。


「ああ、マヤね。ちょっと、無理矢理連れて来ちゃったんだぁ」


ね、と同意を求めると、アユミが頷く。


「そうそう、あの娘あんまり人と関わんないから、良い機会にって、思ったんだけど」


その次をリカが繋ぐ。


「怒っちゃったかなー」


俺はあらかた納得すると同時に、妙な予感がして携帯を持ち上げる。


「俺、ちょっと家から電話来てた。ごめん、かけ直してくる」


そういうと、席を立って店の入り口に向かった。









俺はその姿を認めて、次にその行動を見て呆れる。


「テーブル12番、今来てる注文分の会計お願いします」


レイメイ マヤは淡々とした声で万札を財布から取り出し、レジの店員に差し出していた。


「え、は、はあ…」


店員が困惑しながらも札を受けとると、マヤはくるりと踵を返して店から出ていく。


「え、あっ、お客様!?」


「お釣りはテーブルの誰かに渡してくれれば良いから」


慌てる店員を一蹴して、その背は自動ドアの向こうに消える。困惑している店員の制止の声に、「俺、その12番テーブルの人だから!」と返し急いでその背を追いかける。


自動ドアが閉まる直前で、背後から混乱している店員の、


「…あ、ありがとうございましたー……」


を耳にした。








「あ。」


レイメイ マヤは意外にも、チカチカとネオンが反射する階段下で俺を待っていた。


「やほー。1日ぶりだね」


そして俺を確認すると、さっきとはまるで別人のような気軽さで話し掛けてきた。


「……忘れられたかと思った」


「あっはっは、ごめんごめん。でもまさかアンタがロリコンだと思わなかったから」


「は?」


なんのこっちゃ。


俺が階段の最後の一段を降りきると、マヤは軽やかに歩き出した。俺はその背を追う。その、自由奔放に跳ねる艶やかな黒髪が踊る背に、俺より頭ひとつ分ほど低いその背に。


「あれ、分かってて来たんじゃないの?」


「何を?」


「えー…本当に知らなかったんだ」


マヤは3歩ほど先で立ち止まり、くるっと身を翻した。マスカラで縁取られた黒い瞳が俺を捉える。


「私ら皆、高校生だ、って。因みに高1、16さーい」


「…………は?」


なんですと。

…なんですと。


「は!?」


『コウジョの1年だぜ?最高じゃん』

『ノンアルコールばかりの注文』

『やたら俺のフォローに回る安藤』


俺は安藤に騙されたのか?


「え。そっち皆知ってたのか!?」


「知ってた。声かけてきたのそっちの人らしいし。何、高校生じゃ不満?」


「不満も何も…対象外。ワザワザ未成年相手に危ない橋は渡りたくない。しかもお嬢様だし。下手に手、出して訴えられたら人生終わりじゃん」


「おカタイねー。今時、皆ヤってるって。それに……そんな面倒な事する親なんて滅多にいないわ。大抵揉み消すわよ」


「…いや揉み消されるのもこえーよ」






俺は取り出した携帯を、少し考えてポケットに戻す。

安藤に色々と問い質したかったが、今電話を掛けても恐らく俺の話など聞かないだろう。実際にマヤと2人でいる今、辻褄の合う言い訳を考えるのも面倒だ。明日でいいや。


「で、どこ行くの」


輝く夜の町を迷い無く進むマヤへと問うが、


「ま、ついてきなよ」


と返されるだけ。


特に会話という会話もなく、少しだけ距離を置いてその後を追う俺。


途中マヤは俺に「すぐ戻るから待ってて」と言うとコンビニへと入っていった。そして5分足らずで戻って来ると、レジ袋の中から缶コーヒーを取り出して俺に向けて放り投げる。俺がなんとかそれをキャッチすると、再びマヤは歩き出した。


繁華街を歩き続けると、やがて旧市街へと出る。俗に言うシャッター通り。人通りもまばらな商店街の中にはちらほら明かりの点いている店もあったが、営業はしていないようだった。昔は今ほど駅前に活気はなく、繁華街といえばこの旧市街だったらしいが、ほんの十数年足らずで世代は交代、残っているのは駅前に出せないような店ばかり。後はテナント募集の張り紙が虚しく目立つ。


空っぽのショーケース、シャッターの降りた商店、ガラス張りで丸見えの元喫茶店を通り過ぎ、営業しているのかいないのか分からないクリーニング屋の前で少女は立ち止まる。そしてこちらを振り返り、


「ちょっと狭いけど、ちゃんとついてきてよね」


と言うなりクリーニング屋と隣の3階建ての廃ビルの間に消えた。


「…え。」


覗き込むと身体を横にしてズリズリと進んでゆくマヤの姿。それほど奥まで続いていないようだが、道でも何でもない、建物と建物の間にあるただの隙間。


「…体格考えろよ」


呟くが、もちろんマヤの耳になど届いちゃいない。しばし黙考して、まあギリギリ詰まることはないか、と判断した俺は意を決して隙間に身体を捩じ込んだ。






恐ろしく窮屈なビルの隙間をカニ歩きで進む。

ずる、ずる、とパーカーが擦れる音がして、土埃やら蜘蛛の巣やらを拭っていく。さながら人間モップ。進むごとにダメージジーンズが汚いボロ切れへと変わってゆくのが見えるようだ。帰りの電車でどうか知り合いと出くわしませんように。


俺は祈りながらも、なんとか隙間を抜けきった。見渡したそこは、高いフェンスに囲まれた駐車場。この廃ビルのものだろう。今はもう使われておらず、出入り口の扉は厳重に閉じられている。


後は裏口らしき扉と、非常階段があった。

そういえば、マヤの姿がない。


キョロキョロしていると、頭上から声が降ってきた。


「こっちこっちー」


見上げると、非常階段を上ったマヤが手を振っている。


「なにしてんの。危ないぞ」


「良いから、こっち来て」


そう言うと、カンカンカン、と小気味良い足音を立てて行ってしまった。ここまで来たらもう、乗り掛かった船だ。溜め息を吐き、俺は後に続く。


非常階段を3階まで上ると、マヤが非常口を背にして立っていた。暗くてよく見えないが、恐らくは俺と同じであちこち薄汚いんだろう。キャミソールやスキニーを手でぱちぱち叩いていた。


「お、来たね」


マヤは俺を見ると埃を払う手を止めて、非常口の扉に手をかけた。それはいとも簡単に開いて、俺を驚かせる。


「マジか。」


マヤは躊躇わずに中へと侵入し、俺もその後を追う。


非常階段の入口は廊下に直結していた。入口の右手には背の低い木製の下駄箱が置いてあり、スリッパが3足入っている。廊下にある窓から外の明かりが入り込んでいるお陰で、薄暗くはあるが全く何も見えないという訳ではない。


廊下は左に延びており、扉が3つ等間隔で並んでいる。マヤは鼻歌を歌いながら一番奥の、左端の扉に手をかけていた。自由すぎる。


俺は少々忍び足で廊下へと足を踏み出した。こちとら勝手知らないビルの中だ。とても居心地が悪い。これ不法侵入だし。


廊下を進んで一番はじめの部屋は、欠けた窓ガラスの隙間から覗き見るに給湯室。湯沸し器付きの流し台とガス台が、誰に使われる予定もなく沈黙していた。


給湯室の隣の扉は、手書きの室名札が掛けてあった。それによると、『休憩室』らしい。こちらのガラスは割れていなかった。ここの扉も、いとも簡単に開いてしまうのだろうか。


ふと、右手の窓に視線を移す。薄く埃を被った窓から外を見下ろすと、喫茶店の屋根とクリーニング屋の屋上が見える。クリーニング屋の屋上にはどんな用途に使われているのか、にわかには判断しがたい機械と洗濯機が2台、そして数本の物干し竿が並べられていた。営業しているのかいないのか、やっぱりよくわからない。


そして俺はようやく、一番端の扉の前に辿り着いた。ここにも室名札が掛けられており、『会議室』と書いてあった。その扉のノブに手を掛けて、くるりと回す。アルミ製の扉は軽く、アッサリと開いた。






縦に並べられた2枚の長机を囲むように、折り畳みのパイプ椅子が一周している。入って左側の壁には、ホワイトボードが2枚。それと天井から吊り下げられたロールスクリーンが下げられたままになっている。会議室の正面には2枚、右側には1枚の窓。その、右の窓の前にマヤは立っていた。


俺は静かにその隣へ並ぶ。マヤは静かにオレンジ色の街頭に照らされた街並みを見ていた。


「綺麗なもんでしょ、ここ。穴場なのよ」


俺の顔は見ずに、呟く。


「建造物侵入だ」


「そーね」


「違法行為だ」


「そーね」


「服が汚れた」


「そーね。でも、ここまでついて来たじゃない」


「……ついてこいって言った」


「流石に言われたからってだけでついてくるほどバカじゃないでしょ」


「………………男をこんな所に連れてきて、警戒心は無いのか」


「話をそらさなーい。しかも未成年のお嬢様には手、出さないんでしょ」


「…………………………」


マヤは返す言葉を無くした俺を一瞥すると、手前のパイプ椅子を引きギシッという音を立てて腰を下ろした。そして長机にコンビニ袋を乗せて、中から紙パックの紅茶を取り出すとストローを差し込んで飲み始める。


俺はさっき渡された缶コーヒーをポケットから引っ張り出し、マヤの隣に座った。パイプ椅子が先程よりも大きな音を立てる。






缶コーヒーを三口ほど飲んだ時だった。

マヤが、静かな声で語りだす。


「アタシのお爺ちゃんが若い頃、ここで働いてたんだって」


「……へえ。」


「何だったかな、何かの専門商社?だったらしいんだけど、お爺ちゃんが勤めてしばらくして、社長が夜逃げして倒産したんだってさ」


「…へえ。」


「で、行き場のない数人の社員を引き連れて、お爺ちゃんは新事業を開拓。1代でそこそこデカイ会社の社長になったわけ」


「それはすごいな」


「すごいでしょー。でもさ」


「うん?」


「…もしもお爺ちゃんがここに勤めなかったら、この会社の社長が夜逃げしなかったら、社員が誰もついてこなかったら。お爺ちゃん、社長になれなかったかもしれない」


「うん。」


「お爺ちゃんの息子は楽をして会社を継がなかったかもしれないし、もっと愛せる奥さんを見つけられたかも。そして引きこもりの孫も、不品行な孫も生まれなかったかもしれない」


「………………」


「……お爺ちゃんは3年前に死んだよ。肺癌で。その前の年に死んだお婆ちゃんを追いかけるみたいに」


「…へえ」


「それからずっと私達家族は、お爺ちゃんが汗水垂らして自分のために稼いだ財産の上で、胡座をかいて生きてるの」


どんな感情も込めず、淡々とマヤは語る。


「…………」


「ここに来ると思うんだ。もし、この会社がなかったらアタシはどんな人生になってたんだろうって。それは、何が欲しいかも解らないのに解らないまま、ただお金を与えられるんじゃない人生かなって」


「俺からすれば、無い物ねだりに聞こえる」


「…だよねえ。分かってる。私、恵まれてる」


「ああ。羨ましいくらいだ」


俺は居酒屋のレジで見た札束の詰まった財布を思い出す。欲しいもの、必要なものをすぐに手にできる人生の象徴。それを無駄使いできる脳味噌。俺には与えられず、マヤが生まれながらに手にしたもの。


「……うん。でも。でもさ、こうやってたまに考えないと忘れそうになるの。自分は不幸だって錯覚してさ。お金じゃ買えないものがあるだとか、そういう類いの綺麗事を鵜呑みにして」


「…………………」


「それで、たまにどうでもよくなるの。自分が。例えば、殺されたり、強姦されたりしても、アタシは何も感じないんじゃないか、家族は気にしないんじゃないか、とか」


「…そんなのは、自分が被害者になってから言え」


本気なんかじゃない、子供の戯れ言。

『かまってほしい』『心配して欲しい』という甘え。

くだらない。


「………………………分かってる」


マヤは、俯いて、長机に突っ伏した。

そして、か細い声で呟いた。


「………分かってるよ……」




「で?お前は危ない目に合いたくて、俺をここまで連れてきたのか?」


俺が呆れを含んだ声を突っ伏したマヤの背に投げ掛けると、その背が小刻みに震えた。泣かせてしまっただろうか。


震えは徐々に大きくなり、長机を微かに揺らす。かと思えば、勢いよく上体を起こして俺へと顔を向けた。


意外なことに、その顔は破顔している。


「んなわけないじゃーん。アンタにそんなコト期待しないって」


なんか腹の立つ言い方だが、まあ、泣いていないならいいか。


「じゃあ、どんな期待してんだよ」


俺は机に肘を付いて、笑いこけているマヤを見る。

ツボがわからん。


「何も。ただ、連れて来たかっただけ。」


でも、と楽しそうに先を続けるマヤ。


「けっこう好きでしょう?こういう所」


「…え。」


「だって、アパートの時も、この廃ビルに入った時も楽しそうだよ。さっきの合コンの時より」


「…………そうか?」


「そうだよ。楽しそう。女の子見るよりしっかり観察しちゃってさ」


ああ、そうかもしれない。

あのアパートに居るときも、ここに居るときも。

俺は打算をせずに、ものを見ている。


「…そうだな」


ここにいると、誰かの言動に苛つくことも、自分の行動に苛つくことも、無い。表情を作ることもないから、俺の顔はずっと無表情だと思う。


でも、ずっと心は軽い。





「お前友達いないの?」

「いつも1人で廃墟行ってんの?」

「家族心配しねえの?」

「1人で怖くねえの?」

「結局何で合コン来たの?」

「自殺願望ある?」


「いるわよ…1人くらい」

「たまに友達が付き合ってくれるけど、大体は一人だよ」

「心配?しないよ。ママは昼ドラみたいな不倫に忙しいし、パパは出張旅行という名の逃避に忙しいし、お兄ちゃんは2次元の恋人しか見てないし。まあアタシも関心無いけど」

「1人じゃない方がよっぽど怖いわよ」

「直前まで知らなかったのよ。あいつら女子会とか言ってた」

「本気じゃないけどあるよ。珍しくもないでしょ。…ていうか何どさくさに紛れて聞いてんの!?」






やがて街灯の明かりが1つ2つ消えて。

僅かに聞こえていた雑踏も絶えて。


どちらともなく交わしていた会話も、途切れる。

何十年も前に倒産した会社の会議室の中で。

2人、ジュースを飲みながら、取り繕う事もなく無表情。


それなのに、居酒屋で合コンするより居心地が良い。





「……帰るか。」


1つ、あくびを噛み殺して俺は言う。


「うん。…ふぁ~~」


1つ、うつったあくびを吐き出してマヤは言う。


マヤが勢いよく椅子から立ち上がり、俺は椅子の強度を心配しながらゆっくり立ち上がる。


窓の下にはもう、人っ子一人いない。


来たときよりもゆっくりと歩くマヤの後ろをついていく。

アルミ製の扉を閉めて、廊下に出て、非常階段へ。

夜目に馴れた瞳のお陰で、大分足元が見易い。


そういえば。非常階段を下りながら気になっていたことを聞く。


「よく非常口が開いてるって知ってたな」


「へ。あぁ。だって、開けたのアタシだし」


「え。」


「初めて来た時あちこち探したんだけど、1階のトイレの窓しか開いてなかったの。そこから入ったんだけど、いちいちトイレから出入りするのも面倒じゃん?窓ちっさいし、何となくトイレ汚いし。それで非常口開けたの。3階なのは一応、荒らし防止って事で」


「……お前よく捕まんないな」


「あっはっは。時間の問題だけどねー…っよっ、と」


最後の3段を軽やかに飛び降りて、ポーズを決めるマヤ。

そしてその体が滑るように消えた所で、俺は思い出す。


マヤが消えて行った、建物の隙間を。


「…またココ通るのかよ…」







子供でも無いのに、今時の子供でさえありつけないような有り様となった俺達を白熱電灯が照らす。旧市街のオレンジ色の街頭ではさほど目立たなかった汚れが今、終電間近の駅で如実に浮いている。


俺はまだマシな方だった。結構と暗めの服だったから、無理に通ろうとして破いた袖口さえ隠せば問題ない。だが、マヤはひどい有り様だった。元々薄い色の服だったとはいえ、水色のキャミソールと白のスキニーは小汚い濃灰色に侵食されてしまっている。多分、いや絶対、ズカズカと迷い無く進むその性格のせいで、余計に汚れてしまった様だ。なにも知らない第三者が見れば、何か大事があったのかと心配され兼ねない。


……まあ、当の本人は堂々としたもので、『自分の出で立ちには何一つの不満もありはしない』という顔をしているから余程の世話焼きでもない限り話し掛けることは無いだろう。というより話し掛けても無視しそうだ。


「別に、ここまで来なくったって良かったのに」


マヤが茶化しを含みながら俺を見上げる。

繁華街を通る時に俺が受けた怪訝な視線の事だろうを暗に言っているのだろう。男が無惨に服を汚した女を連れていれば、何があったのかと気になるものだ。大分遅い時間帯で道行く人も少なかったが、だからこそ余計に視線が痛かった。だが、途中でマヤを放り出し帰るのも何となく寝覚めが悪く、ここまでついて来てしまった。例え本人が気にしなくても。


「真っ直ぐ帰れよ。豪邸に」


俺は茶化し返しその頭を軽く叩く。

こうして見るとやっぱり子供だ。

中身は大分すれていても。


「別に豪邸じゃないし。…歳上みたいな事言わないでよ、気持ち悪い」


「歳上だろうが」


「気付かなかったクセに」


「……でも実際歳上だ」


「えーらそー。腹立つ」


「勝手に立ててろ。ほら、電車来るぞ。早く帰れ」


「だー、分かってる!…もー………あ。」


構内へと踏み出したマヤは、思い出したように戻ってくる。


「はい。」


そして、空のペットボトルが入ったコンビニ袋をずいっと俺に突きつけた。


「え。」


訳も分からずとりあえず受けとると、マヤは「じゃ、さよなら」と言って今度こそ真っ直ぐ構内へ向かう。あれ、なんかデジャヴ。


「……なんなんだよ」


しばし呆然とその背中とコンビニ袋を交互に見つめた俺は、袋の中にごみ以外の物が入っているのに気付いた。何か、四角い紙のようなもの。中から取り出すと、それは写真だった。


「あ。」


あの、アパートの、踊り場だ。

写真の中央には、座って空を見上げる俺の背中。

その頭の先に広がる、雲一つ無い青空。


「……あいつ」


コンビニに寄った時、プリントしたのか。

そもそもプリントする為に、コンビニに寄ったのか。


何にせよ、写真の腕はいい。

とても、良く撮れている。


にやけながら写真を見ていると、何か走り書きがしてあるのに気付いた。裏返して見るとそこには、携帯番号と共に、


『黎明 摩耶』


と、なかなかの達筆で名前が書いてあった。


俺は少し考えたあと、携帯を取り出し、


『静寂 透』


とだけ打ったメールを送った。
















これがきっかけで俺、静寂 透は、

黎明 摩耶の廃墟探索に付き合わされる事となる。











---廃景ランコントル---




END









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