野薔薇
二話で読みやめる人が多いです。あのルーパートのお馬鹿節が続くと思うと読む気がうせるんでしょうか。
ルーパート・トルーマン、幼いころからの顔見知りではあるが、それがどういう人間なのか考えたこともなかった。
親友のクラウディアのはれ上がった顔を見るまでは。
その顛末を聞いた時、サロンにいる全員の心は一つになった、最低な男と。
暴力をふるった相手に、毅然として言い返したクラウディアの雄姿に再び全員一致で、感動した。
クラウディアは、口先だけの女ではないのだと。
そのルーパートと結婚しろと言われた時、楽勝と思った。
この馬鹿はちょっと長髪すれば、暴力をふるう。もし両親の面前でそうさせることに成功すれば、サクサク追い返せる。
クラウディアの縁談を変に勘違いしているのを知って、天は私を愛していると思った。
わざと真実をトルーマン伯爵親子に伝えずどんどん鬱憤をため込ませた。
そしてクラウディアに事情を手紙で伝えて、手はずを整えた。
まったく、あの夜会で両親はエミリエンヌとルーパートの婚約発表もしてしまうつもりだった。ギリギリのところだった。
「あの人はいっそ女に生まれるべきだったわね、それならこの国で幸せになれたでしょう」
ルーパートのいかつい顔を思い出して、クロードはげんなりした顔になる。
「それで、どうしてこれが残っていたのか、それが不思議だ」
「見られちゃまずいものがあるからちょっと掃除を断っていたの」
小さく舌を出してエミリエンヌは見舞いの花にまぎれて、隠されていた手紙を取り出した。
くしゃくしゃになった手紙を大切そうに胸に抱く。
エミリエンヌへの教育がばれて、祖父からの贈り物は厳重に検閲されている。
花を包んでいた紙の内側に隠されていた手紙を受け取ったのは昨日のことだ。
「ええ、お爺さまのおっしゃるには、私がルーパート様と婚約していたことなど気にしないってあの方はおっしゃったのですって」
くすくすとエミリエンヌは笑う。祖父がエミリエンヌを教育していた真の理由。それは外交官として国外に出る若者の花嫁としてだ。
近年隣国との協定がこれからもっと密になるのではないかとささやかれている。ガートルード夫人を呼び寄せ、淑女たちの啓蒙を行っているのも外交官達の花嫁養成のためだった。国上層部としても、この国と隣国の女性の意識差が、外交や同盟の大きな障害となっているのは認めざるを得ない状況だった。
クラウディアの結婚が繰り上がったのも、アルバートの隣国への赴任が近いので、クラウディアを妻として連れていくためだ。
クラウディアとしても隣国に行けるなら損はないと決めたものらしい。
エミリエンヌも祖父の紹介で身分にもさして障害のない外交官と付き合っていた。ばれるのがもう少し遅ければ、ルーパートと婚約するはめにはならなかったのだが。
「クラウディアが先にあちらに行くけれど、私もすぐに合流できそうね」
エミリエンヌは将来を見据えて、キラキラと目を輝かせる。
「クラウディア嬢が前に言っていたよね、この国の女性に対する風潮、愚かな女ばかりを珍重する男達は馬鹿だって。心から賛同するよ」
「さすがお兄様、わかってらっしゃる」
たちの悪い賢い女は愚かな女の真似がうまいからと口には上らせず、クロードはエミリエンヌに笑いかけた。
ルーパートは領地の中心から外れた別荘に軟禁されていた。
領地にあるべったくまでは歩いて行ける距離ではなく。ここに馬車はおろか馬すら用意されていない。
別荘から出るのは自由だが、所持金をもつことも許されていないので、結局どこへも行けない。
適当に周囲を散策して、あとは使用人の用意した食事をとるそれだけの毎日だ。
エミリエンヌのことを思い出す。家族が強引に婚約破棄を決めてしまったけれど、彼女もきっと悲しんでいるだろう。寂しがっているに違いない。
ここに閉じ込められているのは三年間、きっと彼女も待っていてくれる。
まるで彼女のような花だと、ルーパートは白い野薔薇の茂みを見つめる。
花を摘もうとして茨に指先をつかれた。血をなめながらルーパートは思う。
まるで彼女のような花だと。
いわゆる歴史の転換期ですね、隣国との小競り合いと和平を繰り返していた時代から交通網の整備でもう少し遠い国も絡んできて隣国と協定を強化しようという時代。いろいろ変わってきていて、エミリエンヌやクラウディアはそれに嬉々として乗っかりルーパートはそんなものがあることにすら気づいていないみたいな裏設定があります。




