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奈落のふちで笑う

 トルーマン邸では重苦しい空気が漂っていた。

 あの夜会の翌日、ダランソン家からエミリエンヌとの婚約破棄の手紙が届いた。

『娘を合わせる気はないし、そちらも娘に近づかないように』とかなり強い調子で書かれていた。

 ルーパートの評判は落ちるところまで落ち、トルーマン伯爵夫人は、あちらこちらでその悪評を聞くに及んで寝込んでしまった。

 せめてもの救いはアダムとユージェニーの婚約が保留になったことだけだろう。

「僕はみんなのために」

 そう言うルーパートに家族はおろか使用人まで冷たい視線を送る。

「下手をすればお前がすべてをぶち壊していたんだ」

 アダムはその言い訳を叩き潰した。もしルーパートの暴走のせいで、アルバートとクラウディアの婚約がつぶれていたら、確実にサマセット伯爵は、アダムとユージェニーの仲を引き裂いていただろう。

「ほとぼりが冷めるまで、領地で謹慎してもらうしかないな」

 トルーマン家の所領は広いが、首都からかなり離れた場所にある。

「せめてもの救いは、アダムの婚礼で、ルーパートとクラウディア嬢がひと悶着起こす可能性がなくなったことだな、ほとぼりが冷めるまで数年かかるだろうからな」

 トルーマン伯爵はそう締めくくった。


 なぜか、異様に早い時間に戻ってきた馬車にダランソン家の主夫妻は不思議そうな顔をして玄関に立った。

 よろけながら、扉の向こうの娘が歩いてくる。真っ赤に染まり歪にはれあがった頬が最初に目に入った。

「私、ルーパート様の不興を買ってしまったの」

 そう言ってぽろぽろと涙を流す。

「何があったの、それルーパートが」

 母親は怒りに震えている。

「お母様、冷やすものをちょうだい」

 か細い声でエミリエンヌは呟いた。


 クロード・ダランソンはある不幸が元の怪我で今もふせっている妹の寝室にいた。

 屑籠の中を一瞥する。

 それからベッドの中で頬に膏薬を貼ったまま読書にふけっていた妹に向き直る。

「どうやら元気そうだな」

「お兄様のおかげをもちまして」

 エミリエンヌはにっこりと笑う。

「ああ、いい知らせだ、ルーパート・トルーマンははるか遠くの地に旅立ったそうだぞ」

「まあ、いったいどちらに?」

「トルーマン家の領地だ、幸い、うちの領地とも離れているので顔を合わせる心配はないぞ、そのうえ数年は帰ってこないらしい」

「小父さまも思い切ったことをなさいましたこと」

「それくらいしなければ、収拾がつかない事態だ。何しろ、昨日聞いた話では、あの男は女を武芸鍛錬用の打撃棒だと思っているので殴らずにはいられない野蛮人だ、などという噂が立っているらしいからな」

 クロードは吐き捨てるように言う。

「余の令嬢方は、たとえ子爵家、男爵家、果ては準男爵家という家の娘すらトルーマン伯爵家の二男だけは嫌だと言いきっているらしい」

 爵位が下の家の娘に断られるのはよっぽどのことだ。

「まあいい、今日は聞きたいことがあってきた」

 エミリエンヌは寝台の上に座りなおした。

 褐色の髪を耳の後ろにかきあげ、身だしなみを整えた。

「どうしてあの誤解を解かなかったんだ。お前、クラウディア嬢と友達だろう」

 エミリエンヌは笑みを深くした。


奈落に落ちたルーパートをエミリエンヌが笑っております。

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