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忍耐の限界

 忍耐だけの数日間だった。

 エミリエンヌはいっこうにそれらしい知らせを持ってこない。

「もともとクラウディアはそれほど社交界に顔を出す人じゃないのですもの」

 クラウディアがこの国の男性一般に好かれるタイプの女性ではない。そのため、クラウディアはパーティやお茶会などにほとんど顔を出さない。

 妹のそうした性格を心配したパスカルが、ルーパートにクラウディアの相手をするようにと頼んだのだが、きっちり裏目に出た。

 双方互いを不倶戴天の大敵認定。うかつに顔を合わせたが最後、血の雨が降りかねない。

 二人が顔を合わせねばならないルーパートの兄ダグラスとユージェニーの婚礼で、クラウディアとルーパートをどの席に座らせればいいかとトルーマン伯爵家の家令は苦悩していた。

 そして、エミリエンヌから決定的な話が出ないまま、ソリントン侯爵と、ユージェニーとクラウディアの両親、サマセット伯爵夫妻が、極めて親密なやり取りを始めたらしいという噂が入ってきた。

 婚約はもはや秒読み段階という噂もちらほらと入ってくる。

 このような事態になっても、兄も父も一向に手を打とうとしない。

 遂には、ついに婚約発表かという噂すら入ってくる。

 そしてとどめにクラウディアにあってしまった。

 隣国から来た女性達に知性をという馬鹿な団体を主宰する女と、その辛抱者である売国奴な女たち、その中にクラウディアはいた。

 そんな女たちを視界に入れるのもけがらわしいのか、エミリエンヌはルーパートの影に隠れて顔を伏せる。

 クラウディアもこちらに気づいたのか、ルーパートを見て露骨に顔をしかめる。

 クラウディアのみならず、周りにいた女達も一様に顔を見合わせ、ひそひそと何事か囁き合っている。

 軽蔑もあらわに、ルーパートは鼻を鳴らし、エミリエンヌを伴って、その場を立ち去った。

「あのう」

 か細い声でエミリエンヌが呟く。

「本人に聞くのが一番手っ取り早いと思うのですが」

「あの女と、口をききたくない」

 ルーパートは吐き捨てるように言うと、そのままさっさと歩きだす、小走りにエミリエンヌが後を追った。

 そして、サマセット伯爵家主催の夜会の招待状が届いた。

 トルーマン家の一家全員が招かれており、場合によっては誰か連れてきてもいいという添え書きまで。

 そして、両親はエミリエンヌを連れて来るようにと言われた。それはいい、だがどうしてのこのこサマセット伯爵家に足を向けることができるというのだろう。

 兄のアダムは平然とした顔で、夜会服の準備をさせている

「ずいぶんと楽しそうだな」

 婚約者が横から引っさらわれそうになっているのに、この兄はけろっとした顔をしている。

「なにしろ、おいしい話だからな」

 弾んだ声で兄はタイを選んでいる。

 ルーパートはその醜態を見ていたくなくなってその場を後にした。

 まずトルーマン邸にエミリエンヌはやってきた。

 褐色の髪をやや高めに結いあげて、エメラルドでまとめている。

 ドレスはやや薄い黄色を主体としそれに緑の布で襞がつけられ、ちらちらと色変わりするような印象だ。

 身につけている装身具も頭頂部のエメラルドをはじめ、ペリドットやジェダイド、クリソプレーズといった緑のグラデーションだ。

 申し分なく美しい婚約者。両親と兄は笑み崩れて、エミリエンヌを迎えた。

 相も変わらずつつましやかな婚約者を見てもルーパートの心は晴れない。

 それぞれの馬車でサマセット伯爵邸に向かう。


 サマセット伯爵邸の、化粧直しようの控室で、エミリエンヌは軽く白粉をはたき直していた。

 ルーパートがその場に入ってくる。

「エミリエンヌ、今日こそは決着をつけるつもりだ」

「そんな、ソリントン侯爵家を敵に回すおつもりですか」

「エミリエンヌ、情報が入り次第伝えると言っただろう、それを怠ったお前が悪い」

 エミリエンヌの顔が強張った。

「だってそんな情報は入らなかったんですもの」

「とにかくお前は役に立たなかった」

「待ってください、そんなことをしたら、貴方の身だって危ない」

 エミリエンヌがルーパートの腕に取りすがる。

「じゃまだ」

 ルーパートはエミリエンヌを引きはがすと、その顔を拳で殴りつけた。

 エミリエンヌがその場で倒れ、高く結いあげた髪が崩れた。

 うずくまるエミリエンヌを冷たく見降ろして、ルーパートはその場を後にした。


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