初日は大人しく
私が初めてした接客業をしたのは高校一年生の春だった。
アルバイトとして入った場所は、うどん・そば・天麩羅を売りにする飲食店。
初日は忙しくて何かを習っている暇などなかった覚えがある。
初めにテーブルの番号と位置だけを教えてもらい、その後はとにかく出てきたオーダーを指定の場所まで持っていくという単純な作業だった。
右も左もわからない高校生を店長が即戦力として考えているなんてことはないのだから、当たり前の扱いと言える。
それでも自分は出来る奴だ、と思われたくて出来る限りきびきびと動いた。
分からなくても、恥じることではないのだ。
その代わり、分からないことをそのままにするのが恥なのだ。
「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」という言葉があるように、分からないことはなんでも聞けばいい。
なぜなら自分は初心者なのだから、誰かに質問するのは至極真っ当なことなのだ。
初日はとにかく誰かの横について観察を試みた。
お客と喋る言葉、それぞれの社員、バイトの立ち位置、自分が少し経てば出来そうな最低限の仕事、そして、何か仕事を与えられれば大きな声で「はい!」と返事をする。
初日はとにかくこれでいいのだ。
誰かが何かをする度にメモを取っていれば好感度だって上がる 。
「あいつはメモをしっかり取っている真面目なやつだ」と。
メモを取る、なんてこと当たり前のことじゃないか、と思う人もいるだろう。
その当たり前のことさえも何度注意してもしないアルバイトだっているのだ。
自主的にしてくれれば御の字である。
教える立場として苛々する中にメモをしない、というのがあげられると思う。
メモもしないのに、教えたことを何度も聞いてくることほど腹の立つものはない。
逆に、メモを一切取らないのに完璧に仕事をこなしているのなら必要はないと私は思う。
メモをとる時間が無駄だからだ。
教える側としては「覚えられるわけがないだろう」と思い、何度も説明するのが嫌だからこそメモを取ってほしいのだ。
「メモを取らなくてもおぼえられるので大丈夫です」とさえ宣言してしまえば問題ない。
言った通りにできれば、お互いに損はない。
ただ、宣言後に何度も聞きに行くと「それみたことか」と嘲笑されるので注意が必要だ。
そして、初日の合間に空いた時間は必ず
「何かすることはありませんか?」と聞く。
手が空けば必ず聞く。
仕事がないかを聞いて与えられるのは新人の頃だけなのだ。
「あの子はまだ入ったばかりだから、何もわからないものね」
仕方がない、で済ませられるのはその時だけなのだ。
だからこそ、その時に聞いておかねばいざ、バイト中に手持無沙汰になった時に何をすればいいのか分からず暇を持て余してしまう。
結果、「あいつは少し暇になるとサボる」と言われてしまうこともある。
そして、お客と接するときは必ず笑顔でいることだ。
疲れていても、何もわからなくても、理不尽に怒られたとしても、笑顔だけは忘れてはいけない。
初日は上記のことを徹底すればいいのだ。
難しくはない、笑顔でメモを取りながら仕事がないかを聞くだけだ。
これを店の流れを掴むまでは繰り返す。
一通りのことを習ったと思ったらメモをちらりと読み返して、分からないことを仕事中に聞けばいい。
わざわざ休憩中に聞く必要なんてない。
休憩中は休憩するべき時間なのだ、仕事のことは仕事中に聞けばいい。
私はそれを徹底してきた。
お陰でアルバイト初日に店長に
「お前、しっかりしてるな」と褒めてもらった。
後に、このうどん店長には嫌われることとなる。
どれだけ頑張ったって相性が悪ければどうしようもないこともあるのだ。
相性を見極めて距離を測るまではどうにか耐えて頑張ってほしい。